木走日記

場末の時事評論

お前だけは言うなと指摘したい産経社説〜日本アニメの厳しい現実

kibashiri2006-03-07




●産経社説〜日本アニメ 厳しい現実も直視しよう

 今日(7日)の産経社説は、不肖・木走の我が目を疑う内容でした。

■【主張】日本アニメ 厳しい現実も直視しよう

 映画界最高の栄誉、米アカデミー賞が決まった。宮崎駿監督の「ハウルの動く城」は長編アニメ部門の受賞を惜しくも逃したが、同賞を受賞した前作の「千と千尋の神隠し」に続くノミネートに、「やはり日本アニメは強い」との認識が広がりそうだ。

 「ジャパニメーション」「ジャパン・クール」などといった造語が生まれ、国際競争力を持った産業としての日本アニメが脚光を浴びている。

 政府は経済産業省を中心に日本のコンテンツ産業の切り札として振興策を打ち出し、商社や金融機関はファンドはじめ制作資金を調達する枠組みづくりを進めている。東京都など自治体の動きも活発だ。

 しかし、アニメを取り巻く環境は、楽観できるものではない。

 深刻なのは制作現場の厳しい労働条件だ。動画一枚数百円、一日十二時間働いて月収十万円以下という若手アニメーターも多い。「好きなことをしているから低賃金でもがまんできる」という情熱に支えられているのが実情だ。そのうえ、動画制作は、さらに労賃の安い中国や韓国に流れている。

 アニメ制作者育成をうたった大学も登場しているものの、現在活躍しているアニメ監督の多くが経験を積んだ制作現場が危うくなりつつあるのだ。コンテンツ産業全般にいえることだが、ビジネスとして有望というならば、その収益が制作会社にきちんと還元される仕組みを整えるのが急務である。

 同時に、日本アニメは本当に強いのかを見極めなければなるまい。映画に限ると、日本国内での興行収入は二百億円に迫った「ハウル」も、米国では約五億四千万円にとどまった。米国で一九九九年に公開されて大ヒットし、ブームのきっかけになった劇場版「ポケット・モンスター」第一作の後、これを超える作品はない。

 確かにアニメはブロードバンド時代の有望コンテンツだ。米国の優位、国策でアニメに力を入れる韓国の追い上げ、中国の存在など競争激化が予想される。映画賞での評価や国内での大ヒットによる「強いイメージ」に惑わされてはならない。

 問題点や実態を冷静に把握し、きめ細かな戦略を立てなければ、日本アニメの水脈はかれてしまいかねない。

平成18(2006)年3月7日[火] 産経新聞
http://www.sankei.co.jp/news/editoria.htm

 ほほう「アニメを取り巻く環境は、楽観できるものではない」ですか。

 「深刻なのは制作現場の厳しい労働条件」であり「その収益が制作会社にきちんと還元される仕組みを整えるのが急務」なのですか。

 社説の結語、

 問題点や実態を冷静に把握し、きめ細かな戦略を立てなければ、日本アニメの水脈はかれてしまいかねない。

 このままでは「日本アニメの水脈はかれてしまいかねない」ですか。

 いや、真摯な提言ありがとうございます。

 ・・・

 あのう、一言いいですか、産経社説サン。

 産経社説サン、あなたはアニメ業界のなにをどこまで知っているのですか。

 誰のせいでこんな低賃金業界になっちまっているのかご存知なのですか。

 ・・・

 ふう。

 うーん、どうして大新聞の社説ってやつは、こうも自分たちの不得意分野までも、偉そうな物言いで「正論」を振りかざすのでしょうか。

 ・・・



●JANJAN記事〜アニメ製作現場の過酷な労働環境は虫プロ以来の「伝統」

 まあ、産経社説の主張する内容自体は事実でありまして、この日本アニメの危機的状況は、その過酷な労働環境にあることは間違いありません。

 私も市民記者として登録させていただいているインターネット新聞JANJANでも、2月25日に大塚海晴記者による『アニメ製作現場の過酷な労働環境』というタイトルの記事が掲載されて話題になっています。

アニメ製作現場の過酷な労働環境 2006/02/25

 現在の日本のアニメーション産業は、世界一といっていいほど大きな成長を遂げ、高い技術と美しさとエンターテイメント性を誇り、世界市場の半分以上を占めている。「ジャパニメーション」と呼ばれ、日本を代表する文化の一つとなっているアニメーションであるが、そのアニメの制作現場は、深刻な問題に頭を抱えている。

 それは、業界全体の人材流出である。アニメ制作会社にせっかく新人が入ってきても、数日から数ヶ月で退社してしまう事が多い。これではよい人材は育つはずもない。なぜ、アニメ業界から人が消えてゆくのか。それは、劣悪といっても過言ではないこの業界の労働環境に大きな原因がある。

 アニメーションは、主にアニメーターと呼ばれる人々の手で作られる。具体的に言うと、原画(アニメ制作において、キャラクターの動きの要点を描いた画)制作者、動画(原画と原画の間をつなぐ、連続した画)制作者、作画監督、演出、制作進行、などを言う。

 (通常、「アニメーター」といえば原画・動画の描き手を意味するが、ここでは「アニメ制作に関わる人々」の総称として使われている)。

 2005年に日本芸能実演家団体協議会が調査したところによると、彼らの約65%は年間総収入が300万円未満である。そのうち、年収100万以上200万円未満の者は19.6%、200万円以上300万未満の者は18.6%。100万円未満の年収しか得ていない者は26.8%にものぼった。

 「初任給が3万円」というケースも、決して珍しくはない。1日の平均労働時間は10.8時間、月間労働時間は推計250時間にも及ぶ。当然、土曜日も休めず、週6日の勤務(時には週7日勤務)となる。社会保険もない。通勤のための交通費さえ出ない事も珍しくない。

 動画担当者は殊更に過酷である。彼らのほとんどが出来高制で仕事をしており、その単価は一枚あたり平均186.9円。経験や実力のある動画マンでも、月300〜500枚描くのがせいぜいである。近年は、低賃金で仕事を引き受けるアジア諸国のアニメスタジオが、日本から発注されるアニメの制作(主に作画)を担っており、日本国内の仕事そのものも減少傾向にある。そのため、動画マンの73.7%の年収が100万円未満である。

 なぜ、世界に誇るはずの日本のアニメを作る現場が、ここまで悲惨な状況に追いこまれてしまったのか。実はこのようなアニメ業界の状況は、何十年も前から続いている。テレビアニメ創成期には、アニメ制作はかなりの人手と手間と制作費を必要とする仕事だった。そこに現れたのが、低額で仕事を引き受け、かつクオリティの高い作品を作っていた手塚治虫だった。

 少ない予算でアニメ制作を行っていたのだから、当然その下で働くアニメーターの賃金は安かった。この時から、業界全体のアニメーターの給料額は、「虫プロ」(手塚治虫プロダクション)のそれが基準となった、という説がアニメ関係者の間ではまことしやかに語られている。21世紀になった現在でも、その「伝統」は変わっていない。

 また、アニメ制作会社に渡される制作費が少ない事も一因となっている。日本のテレビアニメ制作費は、欧米の5分の1程度の額である。スポンサーが出した制作費は、広告代理店やテレビ局などが中間に入るために、制作会社に渡る時点で半分以上が減っていると言われている。低予算と人材不足のため、アニメーターたちの労働環境はますます過酷なものになっている。 

 このままでは、日本のアニメはダメになる。世界的に認められるほどのクオリティの高さを誇る日本のアニメが、ダメになる。そんなことは、あってはならない……そんな思いから、わたしはこの記事を書いた。よい作品を作るにはまず、よい人材を確保しなければならない。人材を集めるには、不足のない労働環境を用意する事が必要だ。しかし、現状は……。

 世界一と言われる日本のアニメ産業が廃れれば、少なからず経済に影響を与える。決して看過できる事ではないはずだ。せめて、労働基準法くらいは守れないものか。この状況を改善するには、どこをどうすればよいのか。アニメを作ろうとする全ての人に、もう一度見つめなおして欲しい。「アニメ産業は過去半世紀の間、ずっと発展してきた。だからこれからも大丈夫」などという事は言えない。1日も早く、アニメに携わる人々の労働環境が改善されることを、願ってやまない。

(大塚海晴)

インターネット新聞JANJAN記事より
http://www.janjan.jp/culture/0602/0602249793/1.php

 この記事によれば、アニメ製作現場の過酷な労働環境は虫プロ以来の「伝統」だそうですが・・・。

 記事中の「「初任給が3万円」というケースも、決して珍しくはない。」との指摘も「土曜日も休めず、週6日の勤務(時には週7日勤務)となる。社会保険もない。通勤のための交通費さえ出ない事も珍しくない。」のも、事実でありましょう。

 我がIT業界も「デスマーチ(死の行軍)」が常態化している悲惨な労働環境にありますので決して人ごとではないのですが、このアニメ業界で表出している、お金の流れはIT業界とそっくりなのであります。

スポンサーが出した制作費
   ↓
広告代理店やテレビ局が中間搾取
   ↓
制作会社がさらに孫受け会社(海外含む)やアニメーターたちに二次発注
   ↓
アニメーターたちの過酷な低賃金・重労働

 「日本のテレビアニメ制作費は、欧米の5分の1程度の額である。スポンサーが出した制作費は、広告代理店やテレビ局などが中間に入るために、制作会社に渡る時点で半分以上が減っていると言われている。低予算と人材不足のため、アニメーターたちの労働環境はますます過酷なものになっている。」のは、まさにそのとおりなのです。



●良いこのみなさん、『練馬大根ブラザーズ』っていう深夜アニメ知ってますか?

 不肖・木走はアニメ業界にも知己が多いのでありますが、最近テレビ東京で深夜に放映されているTVアニメ練馬大根ブラザーズって、良いこのみなさん、知っていますか。

練馬大根ブラザーズ
http://www.ndbrothers.com/story/index.html

 我が練馬区民を馬鹿にしている(苦笑)としか思えない、オバカなアニメなのですが、ウリは「前人未踏の「おろしたてミュージカル」」ですって。

 もうタイトルバックからし練馬区役所なところとか、主役の声優が松崎しげるなところとか、放映時間が平日(火曜月曜)の深夜1:3025:30なところとか、かなりイッチャッテいるアニメーション作品なので、10時にはおふとんに入っているよいこのみなさんは知らないかも知れませんね。
グリニッジ標準時で活動しているあんとに庵さんは例外として(爆))

 で、この製作会社であるスタジオ雲雀(ひばり)」ですが、実は練馬区役所のそばにありまして、不肖・木走は、練馬の中小企業繋がりでよく存じておりまして、社長の光延氏とも面識あるのでございます。

スタジオ雲雀
http://www.st-hibari.co.jp/menu.html

 練馬は昔から漫画家が多く住んでいる土地柄なのですよ。

 ・・・

 とにかく、「スタジオ雲雀」の事務所の様子を見ていれば、どこのアニメ制作事務所も同様でしょうが、365日、24時間不夜城でございますよ。

 正月もお盆もクリスマスもあったもんじゃありません。

 こっち(不肖・木走の零細IT企業)も「デスマーチ」ばっかりなので、よくわかるのですが、まあ、アニメータさんたちの過酷な労働環境には本当に同情を禁じ得ませんです。



●産経社説よ、お前だけは言うなお前だけは!〜日本アニメの厳しい現実

 で、法律の保護もなく、韓国などで施されている国策も皆無で、まさに国際自由経済競争の極みにさらされているアニメ業界は、アニメータたちのものづくりに対する熱情・パッショだけに支えられている、資本的にはか弱い零細企業の集まりなのであります。

 この状態を放置してきた一因には、間違いなく世界に誇る日本アニメを健全な業界として育成するという、国家としての戦略が欠如してきたことがあげられましょう。

 つまり、すべてを「改革」の名の下に民間の自由競争に委ね、「規制解除」「構造改革」の美辞麗句のもとで進められてきた「小泉構造改革」のひとつの到達点が、さしたるセーフティネットも準備されず、国家戦略もなく放置され続けてきたアニメ業界の今の姿なのではないでしょうか。

 ・・・

 業界の深刻な状況は産経社説の言うとおりですが、おそらく業界内部の悲痛な状況をどこまで産経社説氏が認識しているのかはなはだ疑問ではありますが、小泉改革を一貫して支持してきた産経新聞が、いまさらこんな「正論」を振りかざすのは、どういうことなのでしょう。

 日本アニメの厳しい現実はその通りだと思います。

 産経社説の指摘通り、「深刻なのは制作現場の厳しい労働条件」であり「その収益が制作会社にきちんと還元される仕組みを整えるのが急務」なのでしょう。

 しかし産経社説よ、小泉改革を一貫して支持してきた、お前だけは言うなお前だけは、と指摘しておきましょう。



●追記

 コメント欄のご意見、すごい説得力あるので失礼して追記しておきます。
 フジサンケイ幹部の諸氏は謹んでこれらの意見を聞いて下さいな。

フジサンケイ系列と電通の搾取ぶりは業界では有名な話です。よくもこんな白々しい社説を打てるものです。こんな社説打つなら、フジ系列で抱えているアニメの予算をピンハネばっかりせんでもっと増やさんかい!!(元アニメーター氏)

、「放送免許で守られて電波を独占し、独占の力で制作費をピンハネしていて利益をむさぼっているフジサンケイグループが言うセリフか!」
小泉首相竹中総務相には、広告代理店業界とテレビ局業界を構造改革して、真の競争環境を導入して欲しいです。最低限、地上波テレビへの新規参入と電通への独占禁止法適用はやって欲しいですね。w(Baatarism氏)

(木走まさみず)