木走日記

場末の時事評論

東京10区徹底検証〜百合子降臨で興起玉砕

 「小泉劇場」の主舞台となった東京10区で何が起きたのか、私が選挙民として体験した現地情報も踏まえて冷静に検証してみたいと思います。

 以前もお話していましたが、不肖・木走は東京10区選挙民でありまして、実は実家もこの地区の商店街にあり、私の親が商店街理事をしている関係で小池百合子陣営、小林興起陣営、双方の動きとそして有権者の動向を、かなり早い段階から掴んでおりました。

 ちなみに、この商店街の人達の話は以前当ブログでもエントリーさせていただきましたし、JANJANでも記事として掲載したことがあります。

当ブログエントリー
●やさしき商店街の人たちと『やきにくのおばちゃん』
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050313/1110687906
インターネット新聞JANJANの記事
●『働くということ キヨさんの話』(2004/10/19)
http://www.janjan.jp/living/0410/0410189835/1.php

 おそらくこの10区で起きたことを冷静に検証すれば、なだれ的に全国で起こったのであろう自民圧勝の有権者の投票行動を分析するうえで参考になるのだと思います。



●“小泉劇場”主舞台「東京10区」 術中はまった小林氏

 まず、今朝の産経新聞から・・・

小泉劇場”主舞台「東京10区」 術中はまった小林氏

地元も分裂…区議「つらい」

 「小泉劇場」の主舞台となった東京10区で、八月八日の解散から一カ月余、取材を続けた。自民が二百九十六議席を得た歴史的圧勝から一夜明け、練馬区役所の正面にある小林興起氏(61)=新党日本=の後援会事務所に、警視庁の捜査員七人が入った。公選法違反(詐偽投票)容疑で私設秘書二人が逮捕されたことによる家宅捜索。なんとも象徴的なエピローグでもあった。

 衆院解散後から、小林氏は終始、小泉純一郎首相が“演出”する「劇場型政治」を批判してきた。「やってはならない選挙であり、踊らされていてはいけない」「有権者の方々も必ず目を覚ます」「こんなバカバカしい選挙がありますか」

 しかし、振り返ると、小林氏は自ら小泉劇場の舞台の中央に敵役として立ち続けた。郵政民営化法案の衆院採決では反対の青票を高々と掲げ、環境相小池百合子氏(53)が東京10区の対抗馬に決まると、長野県知事田中康夫氏(49)を代表にかついで新党を設立した。

 こうした動きが、旧来からの支持者を遠ざけた。選挙戦の最中、陣営の中でも意見は分かれていた。小林氏の実弟政策秘書の壮貴氏(57)は「無所属でいくか、新党を結成するか。個人的な気持ちとしては半々だった。ただ、無所属で出ることによってメディアに抹殺されることが怖かった」と語った。舞台から降りることへの恐怖感が消えず、演出家の術中にはまったようにみえた。劣勢に追い込まれた陣営の焦りが、選挙違反を呼んだのだろう。

 メディアの取材は絶えなかった。支持を訴える小林氏に握手を求める有権者が取り囲み続けた。小林氏も投開票当日の朝、「いままでにない手応えを感じる」と話していた。だが、得票は小池氏の半分に満たず、民主の鮫島宗明氏(61)にも届かなかった。支持者の一人は「冷静に考えると、小林さんの行動は相手を際立たせるだけだったんじゃないか」と振り返った。

 これまでは小林氏を支持してきたが、今回は小池氏に投票したという練馬区の主婦(64)は「小林さんは自民党だから投票してきたのだから、別の党に移ってもついていこうとは思わなかった」と話し、「私のような人が多かったのかもしれないけど、小池さんや自民党が、これほど大勝するとは思わなかった」と続けた。日本中で、同様の感想が聞かれた。

 十二日正午すぎ、家宅捜索を終えた捜査員が段ボール箱を手に事務所から出てきた。その一時間後、池袋駅西口にある小池氏の選挙事務所で支持者ら約百人を集め、当選報告会が行われた。小池氏は「東京10区の地に足をつけた形での当選となりました」と話し、大きな拍手を受けた。元法相で自民党豊島支部長の田沢智治氏(72)も「ほぼ予想通りの結果。都議や区議がしっかりと動き、小池氏も地元にとけ込むよう努力した結果」と満足そうな表情を浮かべた。

 しかし、中には複雑な表情を浮かべる都議や区議もいた。ある区議は「今回の選挙で、自分の後援会も分裂した。次は自分たちの選挙を考えないといけない。衆院選より、こっちの戦いの方がつらい。興味は全然持ってもらえないと思うけど」と話した。

 小泉劇場はすさまじいばかりの結果を生み出した。だが、地元や有権者はその結果にまだ、戸惑っている。大量得票がどう国の行方や個々の生活に結びつくのか。本当の評価はこれからだ。(豊吉広英)

平成17(2005)年9月13日[火] 産経新聞
http://www.sankei.co.jp/news/morning/13na1002.htm

 たしかに、秘書の不正行為による逮捕とは、選挙で小池百合子氏に惨敗した、小林興起氏にとり象徴的な惨めなエピローグであります。



小池百合子降臨にいきなり激震が走った地元商店街

 まず、この東京10区という選挙区ですが、場所としては豊島区全区と隣接する練馬区の東半分で構成されているエリアでありまして、東京都内では山の手に近い位置ではありながら、古くからの商店街があるどちらかといえば「下町的」雰囲気のある地域であります。

 で、2年前の前回の選挙では次のような投票結果でありました。

2003年総選挙

       得票 氏名    年齢   党派(前元新)
当  81,979 小林 興起  59  自民(前)
比当 77,417 鮫島 宗明  59  民主(前)
   19,338 山本 敏江  54  共産(新)
    2,706 志良以 栄  66  国民党(新)

投票率(%):56.27

 過去2回の選挙とも小林興起氏(自民)と鮫島宗明氏(民主)の一騎打ちの様相でありましたが、前回も御覧の数字通り、わずか4000票余りの僅差による接戦でありました。
 実は、小林興起氏(自民)と鮫島宗明氏(民主)は、共に東大卒元官僚出身であり同い年なのですが、かたや小林興起氏は長年党公認を貰えず地元密着で何回かの選挙戦を苦労して戦ってきたたたき上げであり、一方の鮫島宗明氏(民主)は、日本新党出身で環境テクノクラートを自認する民主党シャドーキャビネット環境相を担当しております。
 地元商店街の今までの投票動向は、自民党支持層(創価学会員で構成される公明党支持層含む)と民主党支持層に概ね等しく別れておりました。

 おそらく今回も二人の一騎打ちであろうと予想されていたのですが、そこに小池百合子現役環境相が「刺客第1号」として、突然「降臨」してきたわけです。

 私が驚きを隠せなかったのは、小池氏が10区に落下傘で出馬するとの情報がもたらされた直後の地元商店街の激しい動揺と劇的な変化であります。

 まず、自民党支持層が分裂していきます。区議や都議も含めて自民党東京都本部からの厳しい締め付けもあり、雪崩を打って小池氏支持を打ち出していきます。
 その勢いは小林興起氏が新党日本を立ち上げることにより、公明党支持者を巻き込み決定的になります。

 つまり選挙戦のかなり序盤で、小林興起氏には、一部熱烈支持者を除いて、協力する区議も地元後援会も事実上崩壊してしまったのです。

 さらに激震は続きます。

 小池氏が初めてこの商店街に足を踏み入れ、この商店街に事務所分室を立ち上げたとき、地元商店街の自民党支持層、公明党支持層だけでなく、民主党支持層からも、多くの小池支持表明者が現れだしたのです。

 余談ですが、今私の手元には私の母が受け取った小池氏の選挙用名刺があります。私の母も小池氏が事務所分室を開くときにすでに小池支持者となっています。

 地元商店街から熱狂的な歓迎を受けた小池氏は、選挙戦2日目に練馬区役所前で演説を行いました。

 その時の道路から溢れんばかりの聴衆の数とその熱狂ぶりを観て、私は小池氏圧勝を確信いたしました。

 当時、民主党鮫島氏陣営は、ともに日本新党出身で環境問題に詳しい立場である小池氏に保守票だけでなく自陣営の票も奪われるのではないかと警戒を強めてはいたのですが、その後起こったことは鮫島氏陣営の想定の範囲を超えるアツイ流れでありました。

 アツイ流れとは、無党派層の驚くべき動きでした。今までは、無党派層は選挙終盤になるまで選挙動向をはっきりさせないこと、過去数回の東京都の無党派層の動向は明らかに革新的政党(主として民主党)を最終的に支持する傾向がありました。

 それが今回に限り私が直接観て感じた範囲では、選挙戦序盤の段階ですでに多くの「無党派層」と思われる有権者が小池氏を「改革者」として受け入れ支持表明していたと思われるのです。

 つまり小池氏は、自民党支持層、公明党支持層だけでなく、早い段階から民主党支持層にまでかなり食い込み、さらに多くの無党派層からの支持も確保していたのです。

 私は選挙中盤で、小池陣営のある支援者と話をしていてとても印象的な言葉を聞けました。

 「今までこんな選挙を体験したことがないよ。小林氏の時は街の人も白け気味だったし、小さな集会を開いても聴衆を動員するのが大変だったが、今回は全くちがう。小池さんが街を歩くだけで、見ず知らずの人達まで集まって声援を送ってくれる。すごい風が吹いていると実感している」

 また、当時鮫島陣営を支援していた私の地元の友人は、電話で私に興味深い報告をしてくれています。

 「まったく選挙民の反応がちがうんだ。支持者以外は鮫島の演説を真剣に聞いてくれない。これはとんだ逆風が吹いているのかも知れない」

 期せずして両陣営から未体験の「風」が吹いているという表現が漏れていたのです。



●選挙結果の徹底分析〜戦慄のダブルスコア

 東京十区の今回の得票結果を分析してみましょう。

得票氏名年齢党派前元新
当 109,764 小池 百合子 53  自民(前)
   50,536 鮫島 宗明  61  民主(前)
   41,089 小林 興起   61  新党日本(前)
   17,929 山本 敏江  56  共産(新)

 なんと小池氏は2番手の鮫島氏にダブルスコアを付け、この東京10区で初めて10万票を突破して圧勝したのです。
 もう一度前回の選挙での各陣営の得票結果を見て下さい。

2003年総選挙

       得票 氏名    年齢   党派(前元新)
当  81,979 小林 興起  59  自民(前)
比当 77,417 鮫島 宗明  59  民主(前)
   19,338 山本 敏江  54  共産(新)
    2,706 志良以 栄  66  国民党(新)

投票率(%):56.27

 得票数字の単純比較からだけでも驚くべき選挙民の動きが分析できます。

 小池氏が獲得した109,764票がどこからもたらされたのか分析しましょう。

 まず、前回の得票総数181,440票に対し、今回の得票総数は219,318票であります。投票率のUPによるこの39,000票の新たな票がほとんど小池氏一人がさらっていったことがわかります。
 また、小林氏陣営からはなんと同氏支持層の5割近くの41,000票が小池氏に動いたのです。さらに民主党鮫島氏支持層からも27,000票が小池支持に、なんと共産党支持層からも1,000票余りの票が小池氏に動いていることがわかります。

 小池氏は膨大な「無党派層」もほぼ完全に取り込んだだけでなく、保守支持層だけでなくリベラル支持層にまで雪崩をうつように小池支持層を取り入れていたわけです。



●東京10区選挙総括〜今回は、自民党が「改革派」だと庶民は認知したのだ

 以上、東京10区の選挙結果を検証してきましたが、分析してきた結論としてはっきり明言できることは、つぎのことであります。

 やはり多くの有権者が現状に不満であり、何かしらの具体的改革を熱望していたということです。

 そして、小泉自民党は、今回の選挙そのものを郵政民営化選挙と図式を単純化する選挙戦術に徹したのです。そして、愚かな岡田民主党も、新党日本などの民営化反対グループも見事にその土俵に乗ってしまい、「民営化反対」グループとしての役割を演じてしまったのでしょう。

 東京10区では嵐のような「風」が吹き荒れました。

 その「風」を分析した結果は驚くべきことですが、今回は、自民党が「改革派」だと多くの庶民は認知したということなのです。

 ・・・

 以上、東京10区の選挙戦を地元からレポートしてみました。

 読者の皆様の今回の選挙戦結果に対する考察の参考になれば幸いです。



(木走まさみず)