木走日記

場末の時事評論

靖国参拝問題〜大局的見地に立って考える(2)

 前回のエントリーの続きです。

靖国参拝問題〜大局的見地に立って考える
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050521

●プチ偏向繰り返すマスメディア〜胡主席・与党幹事長会談の朝日・産経記事

 今日の朝日新聞から・・・

靖国参拝・歴史教科書「目にしたくない」 胡主席が批判

 中国訪問中の自民党武部勤公明党冬柴鉄三両幹事長は22日夕、北京の人民大会堂胡錦涛(フー・チンタオ)国家主席と約1時間会談した。胡主席日中関係改善を重視する立場を示したうえで、「目にしたくない動き」として、小泉首相靖国神社参拝、歴史教科書、台湾問題の3点を具体的に挙げ、日本政府の対応を批判した。

 両幹事長によると、胡主席は「日本の指導者がA級戦犯をまつっている靖国神社に参拝すること、侵略を美化する教科書の問題、日米の(安全保障の)共通戦略目標に台湾を書き込んでいること」について、「中国人民を含むアジアの人民の感情を傷つけ、長期安定的な日中関係の発展に悪影響を及ぼす」と指摘した。

 昨年11月のチリ・サンティアゴでの小泉首相との会談で、05年が戦後60年にあたることから、日中関係への配慮を求めたことにも言及。「日本側は約束を守っていない」と不満を表明した。また、「中日関係の発展は大きなビルの建設だ。れんがを一つひとつ積み上げないとできないが、そのビルは一瞬で壊すことが可能だ」とも述べた。

 一方、胡主席は会談の冒頭、「政権与党が対話と意思疎通を強化することが、中日関係を健全で安定した発展の方向に推し進めるうえでとても重要な意義を持つ」と両幹事長の訪中を歓迎。政党間の交流の重要性を強調した。

 武部氏は「首相から『胡主席と合意したことは着実に進めたい』というメッセージを受けてきた」と伝え、「日本は平和国家として歩み続けてきたことを自負している。胡主席の発言は、与党として真剣に受け止め、首相にもしっかりと伝えたい」と応じた。台湾問題については「『一つの中国』という立場に、いささかも変わりはない」と指摘。冬柴氏は「中国に侵略で多大な迷惑をかけた。この侵略の時代を日本国民は忘れてはならない」と伝えた。

 日本側の説明では、北朝鮮の核開発や日本の国連安保理常任理事国入りの問題は取り上げられなかったという。

2005年05月22日22時02分 朝日新聞
http://www.asahi.com/politics/update/0522/006.html?t

 同じ会談を今日の産経新聞から・・・

靖国参拝中止を要求 胡主席、与党幹事長に

 中国の胡錦涛国家主席は22日午後、北京の人民大会堂自民党武部勤公明党冬柴鉄三両幹事長と会談し、小泉純一郎首相の靖国神社参拝を取りやめるよう改めて要求した。胡主席歴史認識問題に関し「目にしたくない動きが日本にある」と指摘。具体的に(1)日本の指導者層の靖国神社参拝(2)歴史を美化した教科書(3)台湾に言及した日米両政府の共通戦略目標−を挙げ、批判した。

 その一方で、胡主席は「中日関係の友好発展は両国の根本的な利益にかなう」と述べ、両国の関係強化に努める意向を表明し、両幹事長も同様の考えを示した。

 武部氏は歴史問題について「過去の過ちを二度と繰り返してはならず、歴史を風化させてはならない」「戦後日本は平和国家の道を歩んだと自負している。評価してもらいたい」と強調。4月の日中首脳会談で胡主席が示した、日中共同宣言の順守や歴史の反省など日中友好に向けた5つの提案に「対応したい」との小泉首相のメッセージを伝えた。

 胡主席日中関係に触れる中で「ビルの建設は、れんがを一つ一つ積み上げないとできないが、そのビルは一瞬にして壊すことができる」「一部の人が中日関係の発展を阻害しようとしていることを憂慮する」と指摘。靖国参拝継続の意向を表明している小泉首相を強くけん制した。

 会談の冒頭、胡主席は「中日関係が困難に直面している時に、両国の政権与党が対話を強化することは中日関係を発展の方向に推し進める上で積極的な意味を持つ」と述べ、自民、公明両党と中国共産党の交流強化に期待感を表明した。

 胡主席は4月の小泉首相との会談でも靖国参拝問題に触れ「歴史問題での反省を実際の行動で示してほしい」と暗に参拝中止を求めている。(共同)

(05/22 22:24) 産経新聞
http://www.sankei.co.jp/news/050522/sei069.htm

 しかしどうなんでしょう、一昨日エントリーさせていただいた靖国参拝問題ですが、コメント欄での活発にみなさまに議論いただいている間にも目まぐるしく事態は推移しています。
 今回の当ブログの考察では、「靖国参拝問題」を「大局的見地に立って考える」のを目的としておりますから、あまり一つ一つの細かい動きをフォローするのもなんなんですが、最近の日本のマスメディアのプチ偏向報道振りには、一言言わざるを得ません。

 上記の朝日新聞の記事と産経新聞の記事ですが、同じ会談の内容を伝えているにしてもあまりに伝えられる発言内容が違っているのであります。

 特に日本側の発言内容は、読み比べてみると顕著です。

朝日:
武部氏は「首相から『胡主席と合意したことは着実に進めたい』というメッセージを受けてきた」と伝え、「日本は平和国家として歩み続けてきたことを自負している。胡主席の発言は、与党として真剣に受け止め、首相にもしっかりと伝えたい」と応じた。台湾問題については「『一つの中国』という立場に、いささかも変わりはない」と指摘。冬柴氏は「中国に侵略で多大な迷惑をかけた。この侵略の時代を日本国民は忘れてはならない」と伝えた。

産経:
 武部氏は歴史問題について「過去の過ちを二度と繰り返してはならず、歴史を風化させてはならない」「戦後日本は平和国家の道を歩んだと自負している。評価してもらいたい」と強調。4月の日中首脳会談で胡主席が示した、日中共同宣言の順守や歴史の反省など日中友好に向けた5つの提案に「対応したい」との小泉首相のメッセージを伝えた。

 まず朝日の引用ですが「日本は平和国家として歩み続けてきたことを自負している。」との発言に続いての「(中国側に)評価してもらいたい」という武部氏の発言は省略されています。これでは、一方的に中国の言い分を聞いているだけで日本から中国に何も注文を付けていないと読者は誤解してしまいます。

 一方の産経の引用もひどいものです。「与党として真剣に受け止め、首相にもしっかりと伝えたい」とした武部氏の発言は省略され、また冬柴氏の発言は完全に無視されています。これではこの記事だけ読んだ読者は、武部氏が中国主席の要望を預かり小泉首相に伝達することを明言した事実を知りえないわけです。

 このブログの読者のみなさまにはご理解いただけますでしょうが、私はメディア報道において事実の実証性は一番検証されなければいけないことだと考えております。その観点から、朝日、毎日、読売、産経、保守・リベラルに関係なくおかしな記事は批判してまいりました。

 重箱の隅をつついているようで申し訳ありませんが、首脳会談のような重要な発言内容を報道する記事にまで、読者の誤解を招くようなプチ偏向は断じて認めることはできません。

 メディアごとにオピニオンを持つことは認めます。すべてを中立的に報道・論説するなどは現実的には不可能です。しかし事実を隠蔽したりして主張を補強するような報道姿勢は最低であり、できうる限り正確に事実を伝えたうえで、自らの主張は主張として明らかにするべきです。

 脱線してしまいましたが、靖国参拝問題において日本の世論が二分されている遠因として各マスメディアの報道姿勢があるとするならば、朝日・産経だけではないのですが時事報道のメディア側の報道姿勢は、問われるべき問題だと思いました。



靖国神社参拝「賛成」48%、「反対」45%〜最新の読売世論調査 
 では肝心の日本の世論はこの問題をどう評価しているのでしょうか。一週間前の読売記事から・・・

中国のデモ対応「納得できない」9割…読売世論調査

 読売新聞社が14、15の両日に実施した全国世論調査(面接方式)で、中国各地で相次いだ「反日デモ」への中国側の対応に「納得できない」とする人が9割にも達する一方、小泉首相が今後、中国政府に謝罪と賠償を強く求めるべきだと考える人も8割を超えることがわかった。

 反日デモは現在、中国政府の抑え込みによって沈静化しているものの、日本の多くの国民は、中国側の対応に強い不満や不信感を抱いていることが浮き彫りになった。

 こうした中、2008年の北京五輪が混乱なく正常に開催されるかどうかを聞いたところ、計74%が「不安を感じる」と答えた。

 中国各地で4月に起きた反日デモでは、日本人や日本大使館などへの投石や暴力行為が相次いだが、中国側は「原因は日本の歴史認識にある」と繰り返し、中国政府の責任を公式には認めていない。こうした対応に「納得できない」とする人は計92%を占めた。「納得できる」はわずか計6%にとどまった。

 デモによる日本側の被害について、中国側は正式な謝罪と賠償に応じていないが、首相が中国政府に謝罪と賠償を強く求めていくべきか――では、「そう思う」が計85%に上った。

 尖閣諸島の領有権や東シナ海天然ガス田開発など、日中間で対立している問題について、首相がどう対応すべきか――では、「日本の立場をもっと明確に主張すべきだ」が77%に達した。「今の対応でよい」は13%で、「中国の主張にもっと配慮すべきだ」は4%にすぎなかった。

 一方、小泉首相が毎年行っている靖国神社参拝については、「賛成」は「どちらかといえば」を含めて48%で、「反対」45%を上回った。支持政党別にみると、「賛成」は自民支持層で65%に達したが、それ以外の政党支持層は「反対」が多かった。

(2005年5月17日21時39分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20050517it14.htm

 以前も話しましたがアンケート調査の数字はあくまで参考資料でありその結果にあまり振り回されてはならないのですが、以前(4月26日)に取り上げた朝日の結果と合わせて考えても、この数値はおおむね世論を反映していると考えてよさそうです。

小泉スピーチ〜日本に残された課題より 抜粋
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050426

中国主張「納得せず」71% 靖国参拝「中止を」48%

 中国での反日感情の高まりを受けて日中首脳会談が開かれた直後の24日、朝日新聞社は、緊急の全国世論調査(電話)を実施した。両首脳は日中関係改善へ向け対話を促進していくことで合意したが、今後の両国関係の修復に向けては「前進しない」(50%)と「前進する」(47%)とで受けとめ方が分かれた。日本の歴史認識について反省を行動で示すよう求めた中国側の主張には71%が「納得できない」としながらも、小泉首相靖国神社参拝については「やめた方がよい」が48%とほぼ半数に上った。

 小泉首相は会談で反日デモについて、中国側に適切な対応を取るように要請したものの、謝罪や補償には触れなかった。こうした首相の姿勢を56%が「評価しない」と答え、「評価する」(27%)を大きく上回った。

 中国の胡錦涛(フー・チンタオ)国家主席が、日本の歴史認識に関し「中国国民の感情を傷つけた」として、反省を行動に移すよう求めたことについて、「納得できる」は19%にとどまった。

 ただ、小泉首相靖国神社参拝については、「やめた方がよい」が「続けた方がよい」(36%)を上回り、中止を求める意見が多かった。昨年11月の日中首脳会談後の調査では、39%対38%と拮抗(きっこう)していた。

 今回は、すべての世代で「中止」が「継続」を上回った。中国側の主張に納得できない層でも、「中止」が「継続」と4割強でほぼ並んだ。一方、自民支持層では「継続」が51%を占めたが、「中止」も31%と、昨年11月(継続60%、中止24%)よりも接近した。

 反日感情が高まった背景に中国国内の歴史教育がどの程度影響していると思うかも聞いた。51%が「大いに影響している」とみており、「ある程度」を足すと8割以上が「影響している」と受けとめている。

 相次ぐデモなどを受け、3年後の北京五輪の開催について「不安を感じる」人は61%に達し、「平穏に行われる」(32%)の倍近かった。

 内閣支持率は43%で、不支持率は36%だった。調査方法が異なるため単純に比較できないが、前回調査(今月16、17の両日)の内閣支持率は42%で、今回の会談は支持率にはあまり影響しなかったといえる。

      ◇

 〈調査方法〉24日、全国の有権者を対象に朝日RDD方式で電話調査した。対象者の選び方は無作為3段抽出法。有効回答は808人、回答率は49%。


朝日新聞 2005年04月25日06時18分
http://www.asahi.com/special/050410/TKY200504240134.html

 中国の対応が「納得できない」とする人は計92%を占めた中で、小泉首相靖国参拝問題に関しては今もって世論を真二つに二分する状況なわけであります。



●マスメディアの報道からオーディエンス(読者)としてしっかりと読み取りたい

 今日の午後、こんなニュースも飛び込んできました。

小泉首相との会談中止 中国副首相「緊急の公務」

 細田博之官房長官は23日午前の記者会見で、同日夕に予定されていた小泉純一郎首相と呉儀中国副首相の会談が中国側の申し入れで急きょ中止になったと明らかにした。中国側は「副首相は本国の指示で、国内での緊急の公務が生じたため、午後に帰国せざるを得なくなった」と伝えてきたという。首脳レベルの会談が当日にキャンセルされるのは極めて異例だ。

 首相は、官邸で記者団に対し「わたしは(日中関係に)悪い影響を与えないようにしてきた。なぜ中止にしてきたのか分からない。会いたくないのを会う必要はない。会いたいと言えば会います」と指摘。中国側が靖国神社参拝をめぐる首相の言動に反発したとの見方に対しては「分からない」と述べた。

 細田氏は会見で、緊急公務の内容について「承知していない。これから説明があるかもしれない」と指摘。会談の中止は「残念だ」と述べたが、日中関係への影響はないとの認識を強調した。

 外務省筋は「中国側から詳しい説明はない。ただ、中国側に『靖国問題と関係があるか』と聞いたところ『ない』という返事だった」と明らかにした。

 首相との会談後に予定されていた民主党岡田克也代表との会談も、中国側の申し入れで中止された。呉副首相は愛知万博愛・地球博)参加などのため17日午後に来日、24日まで滞在の予定だった。小泉首相との会談は7日の日中外相会談で合意していた。(共同)

(05/23 13:15) 産経新聞
http://www.sankei.co.jp/news/050522/sei069.htm

 なんだかなあ、きわめて胡散臭いタイミングでの胡散臭い中国の動きなのです。

 さっそくネット上でも、この中国の非礼ともいえる突然の会談中止に関して、鋭い批判的意見が続出しているようですね。

 ただ、しっかりと冷静に考察したいのは会談中止にした中国側の意図であります。まず、小泉首相の「靖国参拝肯定発言」を受けての反応なのか、それとも別の事由によるものなのか見極めなければなりません。
 もし小泉首相の「靖国参拝肯定発言」を受けての反応であったとして、単に低レベルの外交的対抗措置として日本の面子をつぶすのが目的だったのかは、慎重に見極めたいところです。
 たとえば一部報道にも見られますが、今小泉首相と会談すれば靖国参拝問題中止に言及せざるを得ず、言及すれば小泉首相から過激な参拝継続発言が飛び出すかもしれない、そうした外交的リスクを中国としても避けたいがために苦肉の策として会談中止を申し入れたのかもしれないわけです。

 重要なことは、一部メディアの過剰報道に踊らされることがないようしっかりメディアをリテラシーして、冷静に起こっている事を見極めながら、考察していくことだと思います。

 本日は、前回のエントリーの続報として、「靖国参拝問題」を「大局的見地に立って考える」ために、最近の「靖国参拝問題」関連の動きをまとめてみました。

 みなさまのこの問題に対する考察の一助になれば幸いです。



(木走まさみず)



<関連テキスト>
靖国参拝問題〜大局的見地に立って考える
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050521
靖国参拝問題〜大局的見地に立って考える(3)
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050525
靖国参拝問題〜大局的見地に立って考える(4)
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050527
●小泉スピーチ〜日本に残された課題
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050426