木走日記

場末の時事評論

今回の「10万円一律給付」、政府の「君子豹変」「朝令暮改」の政策変換を評価する

安倍首相は16日夜、新型コロナウイルス感染症対策本部で「外出自粛をはじめ、様々な行動が制約されることとなる全国すべての国民を対象に、一律1人あたり10万円の給付を行う方向」だと語りました。

政府・与党は16日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、国民1人あたり10万円を給付する方針を決め、所得制限は設けず、5月中の給付開始を目指すとのことです。

毎日新聞は社説で「迷走の末の遅すぎた決断」だと批判します。

毎日新聞社説】「1人10万円」支給へ 迷走の末の遅すぎた決断
https://mainichi.jp/articles/20200417/ddm/005/070/074000c

毎日社説は冒頭から「迷走も甚だしい」と政府批判です。

 政府は、収入が大きく減った世帯に限って30万円を支給することを7日に決めたばかりだ。そのための予算案を提出する前に、いったん決めたことを覆し、新たな対策を盛り込むのは異例の対応だ。迷走も甚だしい。

毎日社説は結びでも「国会への提出は遅れる。迷走のツケは大きい。」と政府批判を繰り返しています。

 政府は今回、所得制限を設けない方向だ。スピードを重視した対応だろう。ただ、最初から決断していれば、支給までの期間を短縮できたはずだ。

 政府は、10万円案を盛り込むために補正予算案を組み替える方針だ。これにより、国会への提出は遅れる。迷走のツケは大きい。

また日経新聞も社説で「ドタバタ劇を演じている場合ではない」だろうと政府批判です。

日経新聞社説】ドタバタ劇を演じている場合ではない
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58145000W0A410C2SHF000/

日経社説は冒頭、「政府・与党の動きがドタバタになっているのではないか。そう懸念せざるを得ない場面が目立ってきた」と警鐘を鳴らします。

新型コロナウイルスの感染が拡大し続けるなか、政府・与党の動きがドタバタになっているのではないか。そう懸念せざるを得ない場面が目立ってきた。国の担い手への信頼が薄れると、最善の策まで国民が受け入れず、効果が発揮できなくなるかもしれない。

日経社説は「首相官邸と省庁の意思疎通の悪さや、国と都道府県との行き違いが指摘されてきた」と指摘、「政府・与党が右往左往している」と批判、「ドタバタ劇を演じている場合ではない」と結ばれています。

コロナ対策をめぐり、これまでも首相官邸と省庁の意思疎通の悪さや、国と都道府県との行き違いが指摘されてきた。前例なき危機のときに、すべてを完璧に進めるのは容易ではないが、政府・与党が右往左往している印象になっているのは残念だ。

ドタバタ劇を演じている場合ではない。いまこそ政治の真価を示すときだ。

たしかに「迷走の末の遅すぎた決断」(毎日新聞)であり、「政府・与党が右往左往している印象になっている」(日経新聞)との批判はそのとおりでありましょう。

だがしかし、遅きに失した感があることは否めませんが、この危機対応において、「君子豹変」「朝令暮改」、政策を変更することにためらう必要はありません。

日々目まぐるしく変化する状況に合わせて、政治指導者は時点時点で最善と思われる政策を柔軟に選択していくことは必要なことだと思われます。

さて、問題はスピード感です。

09年、全国民に一律で配った定額給付金は、行政側が受け取る人の住所や口座の事前確認に手間取り、給付までに約3か月かかりました。

その手続きをそのまま踏襲してしまえば、実際の給付は7月末から8月となってしまいます、話になりません。

そこで政府は、受け取りにあたっては市区町村に申請する形(自己申告制)を取る方式に、制度変更をいたします。

自己申告制にすれば、その都度、確認すれば済むため、「5月中には給付できる」(政府関係者)といいます。

このスピード感は重要です。

もうひとつ自己申告制のメリットは、一律給付は高額所得者も受け取ることができるわけですが、受け取りにあたっては市区町村に申請する形を取るため、申請しなければ辞退も可能なわけです。

金持ちは辞退すればよろしいのです。

政策が改善されるのならば、「君子豹変」「朝令暮改」大歓迎であります。
(しかしこんなこと繰り返していて安倍政権は持つのでしょうか?)



(木走まさみず)

嗚呼、マリーアントワネット的浮き世離れの所業の安倍首相〜首相の側近にはリスク管理ができる賢者はいないのか?

朝日新聞が「首相の発信 国民に届いているか」とのタイトルの社説を掲げています。

(社説)首相の発信 国民に届いているか
https://www.asahi.com/articles/DA3S14441758.html?iref=pc_rensai_long_16_article

社説は冒頭、「安倍首相が緊急事態を宣言してから1週間」、「首相から、心に届くメッセージがこの間あっただろうか」と問いかけます。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、安倍首相が緊急事態を宣言してから1週間。多くの人々が、これまで当たり前だった日常を失うなか、国民のいのちと暮らしに重い責任を負う首相から、心に届くメッセージがこの間あっただろうか。

「国民への発信を含め、担当の西村康稔経済再生相に丸投げしている」と批判します。

 首相は宣言当日こそ、記者会見を開き、テレビ番組にも出演して外出自粛の呼びかけなどを行った。しかし、その後は、国民への発信を含め、担当の西村康稔経済再生相に丸投げしているように見える。休業要請をめぐり、難航した東京都との調整が決着した際も「お互いに一致できたことは本当によかった」と感想を述べただけだ。

そして例のSNSの投稿に「何様のつもり」などと批判が集まったとし、「先の見えない生活への不安や自宅にこもるストレスを募らせている人の心情を想像できなかったのだろうか」と批判します。

 首相の国民感覚とのズレを如実に示したのが、ミュージシャンの星野源さんの楽曲「うちで踊ろう」とともにSNSに投稿した動画の内容だ。主に若者に向けて、外出自粛を訴えるという意図はわからぬでもない。だが、ソファで愛犬を抱いたり、飲み物を飲んだりしてくつろぐ姿に「何様のつもり」などと批判が集まった。先の見えない生活への不安や自宅にこもるストレスを募らせている人の心情を想像できなかったのだろうか。

さらに、「そのズレは目を覆うばかりだ」と「布マスクを2枚ずつ配るという施策」も痛罵いたします。

 全世帯に布マスクを2枚ずつ配るという施策も同様だ。効果をめぐりさまざまな議論のある布マスク。それも2枚だけ。予算はもっと有効に使ってほしい。それが自然な受け止めだろう。首相周辺の官僚が「国民の不安はパッと消えます」と提案したというのだから、そのズレは目を覆うばかりだ。

社説は「自粛の要請に強制力はない」のだから「成否のカギは政治指導者のことばが握っている」と結ばれています。

 特別措置法に基づく自粛の要請に強制力はない。効果をあげられるかどうかは、国民の自発的な協力にかかっている。人々の心に響き、納得して行動を変えてもらう。成否のカギは政治指導者のことばが握っている。

当ブログは朝日新聞社説には批判的に対峙するのが常ですが、今回は反論をあえて控えます。

まず、星野源さんの楽曲「うちで踊ろう」とともにSNSに投稿した動画、これはいけませんでした。

 首相の国民感覚とのズレを如実に示したのが、ミュージシャンの星野源さんの楽曲「うちで踊ろう」とともにSNSに投稿した動画の内容だ。主に若者に向けて、外出自粛を訴えるという意図はわからぬでもない。だが、ソファで愛犬を抱いたり、飲み物を飲んだりしてくつろぐ姿に「何様のつもり」などと批判が集まった。先の見えない生活への不安や自宅にこもるストレスを募らせている人の心情を想像できなかったのだろうか。

なんというか、「パンが無ければお菓子を食べればいいじゃない」というマリー・アントワネット状態であります。

こうなると布マスク2枚配布という施策も、間の抜けた香ばしさを漂わせるから不思議なものです。

 全世帯に布マスクを2枚ずつ配るという施策も同様だ。効果をめぐりさまざまな議論のある布マスク。それも2枚だけ。予算はもっと有効に使ってほしい。それが自然な受け止めだろう。首相周辺の官僚が「国民の不安はパッと消えます」と提案したというのだから、そのズレは目を覆うばかりだ。

首相周辺の官僚が「国民の不安はパッと消えます」と提案したといいます。

こうなると、SNS投稿動画にせよ布マスク2枚配布にせよ、マリーアントワネット的浮き世離れの所業、というレッテルがはられてしまいます。

SNS投稿動画にせよ側近のアドバイスであることは間違いありません、布マスクと同様です。

首相の側近にはリスク管理ができる賢者はいないのか?

ふう。



(木走まさみず)

なぜか理由はわからないが、東アジア諸国では感染者数の爆発が抑制されており、また人口あたりの死亡者も欧米ほど増えていない事実

14日のテレビ朝日のワイドショーで、玉川徹氏が「このままでは2週間後に東京はNYのようになってしまうかもしれない」と警鐘を鳴らしていました。

最近しばしば東京がNYのように感染者爆発してしまう、東京は半月前のNYに似ているとの発言を目にします。

当ブログでは11日に「少なくとも、感染者推移は、東京はNYと同じ道はたどってはいません。」とデータを元にこれらの主張を数学的に否定いたしました。

関連エントリー
「東京4日連続で最多更新」は事実なれど、東京の感染者推移はNYと同じ道はまったくたどっていない
https://kibashiri.hatenablog.com/entry/2020/04/11/203543

繰り返される「東京はNYのようになってしまうかもしれない」という科学的根拠の薄い主張について今回は、世界各国のデータを科学的に用いて分析してみたいと思います。

なお、分析には以下のサイトの公開データを情報ソースとして用います。

外務省海外安全ホームページ
https://www.anzen.mofa.go.jp/covid19/country_count.html
札幌医科大学医学部 附属フロンティア医学研究所 ゲノム医科学部門
https://web.sapmed.ac.jp/canmol/coronavirus/death.html

なおデータは今も刻一刻変化しておりますが、このエントリーのデータはすべて4月12日付け公開データを用いることをお断りいたします。

さて主要35ヶ国の感染者数を表にまとめました。

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※『木走日記』作成

色分けは左から青色の国が感染者数上位10ヵ国、橙色の国が11〜20位の国々、右の緑色の国が21〜35位の国々で、ご覧のとおり現在日本は、25位7255人であります。

感染者数の絶対値が違いすぎてひとつのグラフではこんな感じになります。

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※『木走日記』作成

現在、日本の感染者数は毎日のように過去最多ペースで増加していますので、今月中に1万人を突破し、第三グループ(緑色)から韓国などを抜いて第二グループ(橙色)に入ることは必至だと、当ブログではすでに4月7日付けで予測しています。

日本の感染者数は4月中に10000人を突破し韓国感染者数を抜くと予測(by 『木走日記』)
https://kibashiri.hatenablog.com/entry/2020/04/07/140453

では、日本がアメリカなどに追随して、第1グループ(青色)にどうすれば入るのかと考えますと、現在の日本の感染者数7255人が例えば10倍に激増して、7万人を突破し、人口13億の中国の感染者数8万人と肩を並べるような変化が必要です。

これは正直敷居が高いのです。

もっともこの感染者数という指標は、散々日本が国際比較で極端に少ないと批判されているPCR検査数にある程度依存しているのは自明ですから、今後日本の検査数が増加すれば日本の感染者数が増加していくのは予想されるところですが、さて現状から何倍ぐらい増えるのか、今後注目されるところです。

日本(東京)がアメリカ(NY)に追随することになるのか?

さて最後に、感染者数ではなく、死者数で分析しましょう。

死者数はその絶対数ですと人口の多い国が多くなりますので、より公正な指標として人口100万人あたりの死者数を表で確認します。

この表で着目いただきたいのは、欧米諸国と東アジア諸国の、明らかに認められる人口あたり死者数のその値分布の明暗であります。

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※『木走日記』作成

私は医療関係者ではなく、仕事柄データサイエンスに関わっているだけであり、この欧米諸国と東アジア諸国に見られる明らかに顕著な死亡率の差異を説明することができません。

欧米諸国では新型コロナウイルスにより感染者数が爆発しており、結果人口あたりの死亡者が増加しており、なぜか理由はわからないですが、東アジア諸国では感染者数の爆発が抑制されており、また人口あたりの死亡者が増えていないわけです。

この事実はもっと重視されていいと思います。

もし東アジアでは、欧米で起こっているような感染者爆発は起こりづらく結果死亡者の増加は欧米ほどではないとするならば、都市のロックダウンも必要ないのかもしれません、ならば今後の対策も、欧米とは異なる日本独自の策が有効になるかも知れません。



(木走まさみず)

この国の行政のあいかわらずのアナログな制度不良

私が教鞭をとっている学部の非常勤講師仲間のA氏が困った状態に陥ってしまいました。

そもそも非常勤講師という業態は要するに授業1コマ何円で請け負うアルバイトみたいなものであり学校がなければ無収入になってしまいます、今回の新型コロナウイルス惨禍による大学・短大授業の延期で多くの非常勤講師が収入ゼロに追い込まれています。

非常勤講師は経済的には不安定なので多くの場合、私のように副業を持っています、あるいは複数校を掛け持ちいたします。

A氏も複数の学校で講師を掛け持ちしていたのですが、今回はそれが裏目に出ました、掛け持ちしていた学校が全て休校になってしまいました。

40代独身都内マンションに一人住まいのA氏は、ネットで調べ公的機関に無利子で借り入れることを決断します、無利子で20万円借りることができる『新型コロナウイルス感染症の影響による休業等による 福祉資金 緊急小口資金(特例貸付)』に申し込むことにしたそうです。

例えば東京都では、その手続きのPDFファイルが公開されています。

f:id:kibashiri:20200413135344p:plain
https://www.neri-shakyo.com/application/files/3715/8504/5652/01.pdf

スピードが重視されており、「申請から交付まで1週間程度」と審査が通れば一週間ほどで振り込まれると、一応うたわれているわけです。

まずA氏が困惑したのが用意しなければならない書類の煩雑さであります。

■ お申込みに際して必要な書類等
(1)本人確認書類(健康保険証、運転免許証、パスポート、住基カード等)
(2)住民票の写し(世帯全員が記載された発行後 3 か月以内のもの)
(3)預金通帳(申込み当日までの記帳を行うこと)
新型コロナウイルス感染症の影響で減収したことが確認できる通帳
②税金・社会保険料・公共料金等の支払いが確認できる通帳
※通帳で減収や税金等の支払いの確認ができない場合は、③日常的に入出金を行っている通帳
及び④給与明細等の収入が確認できる書類が必要です。
(4)印鑑(銀行印)
(5)その他、東京都社会福祉協議会が指定する書類

これですねえ、今月の生活費に困窮しつつある世帯にすべて求める必要があるのでしょうか、チェックする側も相当な事務量だと思われます。

さて何とか書類一式用意したA氏は、先週申込先である居住地の区市町村社会福祉協議会に連絡したそうです。

やっと繋がった電話で、申込みしたいので至急来所したい旨を伝えたA氏に、担当者は「現在申し込みが大変混雑していますので、今日の申し込みで来所いただけるのは来月上旬(ゴールデンウィーク明け)のこの日になります」とのたまうのそうです。

A氏は絶句してしまったそうです。

今月の生活に困窮している人々を対象にしている貸付制度のはずなのに、なおかつ、スピードが重視されており、「申請から交付まで1週間程度」を謳い文句にしていた制度なのに、申し込む前に、書類チェック等の煩雑さからかマンパワーがそもそもたらないのか、来所する前に1ヶ月の待ち行列が出現しているのです。

担当者は「4月9日より、郵送での受付が可能となります。ご希望の方には申請書類をお送りいたします」と案内してきましたので、おそらくまだそちらが早いだろうと、A氏は住所氏名を伝え、郵送での受付を選択したそうです。

なんでしょう、これは。

東京都下、ある居住地の区市町村でA氏が経験した、すべて実話であります。

たとえばスイスは、個人貸付は事実上無審査で即日4時間で振り込まれています。

(関連記事)
中小の資金繰り支援、時間との闘い スイスは即日融資
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57894600Z00C20A4MM8000/

記事より抜粋。

「すぐに口座に資金が振り込まれて助かった」。ジュネーブで老舗レストランを経営する男性(46)は語る。3月中旬からの営業禁止で賃料や給与の支払いが行き詰まりかけたが、ギリギリで危機を乗り越えた。

50万スイスフラン(5600万円)まで100%政府が保証し、銀行が無利子・無審査で融資する。簡単な書類に必要事項を記入しメールで銀行に送れば原則数時間内に振り込まれる。3月26日の受け付け開始から10日間で8万件以上、計150億スイスフランを融資。4月3日には融資枠を200億スイスフラン追加すると発表した。新型コロナによる売り上げ急減の証明などが条件だが、課税ID(法人・個人番号)の整備で、大量の書類の提出などは不要だ。

もちろん制度の違いもあるのでしょうが、日本ではあまりにも無駄な書類の提出が多過ぎるし、しかもその書類のチェックがすべてアナログな人海戦術に頼っていますから、今回のように申込者が殺到すると事務作業がパンクしてしまうわけです。

まったく笑えない冗談のような、この国の行政のあいかわらずのアナログな制度不良を見せつけられた気持ちです。

いずれにしても多くの人々の生活がかかっています、早急に待ち行列の解消・改善をお願い致します。



(木走まさみず)

「東京4日連続で最多更新」は事実なれど、東京の感染者推移はNYと同じ道はまったくたどっていない

東京都の関係者によりますと11日、都内で新たに197人が新型コロナウイルスに感染していることが確認されたということです。

都内では、今月8日に144人、9日に178人、10日に189人と1日に感染が確認された人の数がそれまでで最も多くなっていて、11日で4日連続過去最多となりました。

これで都内で感染が確認された人は、合わせて1900人を超えました。

(関連記事)
東京都で新たに197人の感染確認 4日連続で最多更新
https://www.asahi.com/articles/ASN4C5QVHN4CUTIL00X.html

一部メディアでは、「4日連続で最多更新」など、東京で「感染者爆発」が始まったかのような報道ぶりですが、国民の不安をあおりたてるようなエモーショナルなタイトルに振り回されてはなりません。

過去17日間の東京の感染者数の推移を見てみましょう。

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※『木走日記』作成

ご確認いただけるように、過去17日間で実に11日が「過去最多」を記録しています。
今起きている変化が「感染者爆発」につながるのか、科学的に重視すべきは、「一次関数」的に一日の感染者発生の「数」に単純にこだわるのではなく、「指数関数」的に感染者の数がいったい何日で2倍になっているのか、その「割合」こそが重要です。

「何日で2倍になっているのか」その時間を「倍加時間」と呼びますが、グラフで確認します。

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※『木走日記』作成

過去東京では、①250人〜500人に倍加する、②500〜1000人に倍加する、のにそれぞれ5日間かかっていることが確認できます。
しかるに直近の③1000〜2000人に倍加するのに6日経過してもいまだ達していません。
指数関数的には増加する「割合」が落ちているのです。

当ブログでは4月6日付けで「東京の感染者数が次に倍増(2000人を突破)するのに要する日数に注目」せよとエントリーしていました。

2020-04-06
東京の感染者数が次に倍増(2000人を突破)するのに要する日数に注目〜4日以内で記録してしまえば、東京で「感染者爆発」が発生しうる非常に危険なシグナルだ
https://kibashiri.hatenablog.com/entry/2020/04/06/154046

もしそれが4日以内ならば「東京で「感染者爆発」が発生しうる非常に危険なシグナルだ」と警鐘を鳴らしたわけですが、実際には6日費やしても達していません。

つまり統計学的には、東京の感染者増加のペースは、アメリカやイタリアのような2日で倍になる「指数関数」的な感染者爆発には、至っていないことが分かります。

国際比較すると「指数関数」的な感染者爆発を招いてしまったアメリカやイタリアなどでは2日で倍増するペースを記録しているからです。

AFP記事によれば、イタリアの感染者が2日間で倍増したのは3月2日のことです。

イタリアの新型コロナ感染者、2日間で倍増 計1694人に
2020年3月2日 11:13
https://www.afpbb.com/articles/-/3271081

遅れて感染者が爆発したアメリカでは、3月19日には、2日で2.5倍を記録しています。

新型コロナ感染者、米でも1万人突破 2日で2.5倍に
2020/3/20 1:29 (2020/3/20 7:21更新)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57050020Q0A320C2000000/

感染者が2日で倍増してしまえば、結果的にですが海外事例では「感染者爆発」は避けられていません。

最近、東京は感染者爆発してしまったニューヨークとよく似ているとの報道が目立ちます。

(関連記事)
<新型コロナ>NYと同じ道、東京に警鐘 「爆発感染、あっという間」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/202004/CK2020040802000128.html

この記事で重要なポイントはここです。(文中太字は『木走日記』付記)

 同市では二十四時間の感染確定者数が三月十一日に百人、四日後に千人を超えるなど急増し、最も多かった同月三十日には四千三百人を記録。ここ二日間は増加が横ばいに転じ、ニューヨーク州のクオモ知事は六日の記者会見で「(人同士の間隔を一・八メートル以上保つ)社会的距離が功を奏している」と要因を挙げた。

「三月十一日に百人、四日後に千人を超えるなど急増」、つまりNYでは4日で10倍という割合で急増したわけです、これは1日で2.5倍の驚異的ペースだったのです。

1000人を突破した時点の東京とNYの感染者推移をグラフで重ねましょう。

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※『木走日記』作成

少なくとも、感染者推移は、東京はNYと同じ道はたどってはいません。

東京感染者が「4日連続で最多更新」との報道は事実ですが、どうか冷静に数値を受け止めてくださいませ。



(木走まさみず)

社会的距離感(ソーシャル・ディスタンシング)と大相撲

今回は社会的距離感(ソーシャル・ディスタンシング)と大相撲について取り上げたいのです。

最近、テレビの報道番組などで生放送の画面が変わりました。

出演者同士の間隔が以前よりも広がっているのです。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、「もし自分が無症状感染者だったら」と考え、周囲の人たちに感染させず、お互いを守るために、「社会的距離2メートルをとりましょう」という取り組みです。

報道番組は、自分たちも社会的距離(2メートル)を実践することで、「3密(密閉・密集・密接)を避けてください」と視聴者に注意を促します。

アメリ疾病対策センター(CDC)は、この社会的距離(ソーシャル・ディスタンシング)を「集団での集まりを避け、できるだけ人との距離(6フィート・およそ1.8メートル)を保つ」と定義しています。

海外のスーパーマーケットなどの行列を紹介した映像を見ると、人々が一定の距離を保って並んでいます。これが、感染予防のための社会的距離感なわけですね。

少し話がとびますが、岩手県鳥取県です。

4月10日現在、東京都で1500人を超える感染者数が累計で発生確認されているのに対し、47都道府県で岩手県鳥取県の2県がいまなお感染者数ゼロを維持しています。

この2県に共通するのは、そもそも他県に比較し「人」の密度が少なく、結果的に、社会的距離(ソーシャル・ディスタンシング)をキープしやすいことです。

鳥取県の人口は都道府県の中で最も少ない555,663人であり、岩手県の人口密度は北海道以外の46都府県の中で最も少ない80.29人/平方キロメートルなのであります。

2県とも大都市圏から離れており、県境を超えて出入りする人数の絶対数も少ないだろうことも幸いしているのかもしれませんね。

結局、新型コロナウイルスのキャリア(運び屋)は人間なのであり、さらにいえば人間と人間との関わりにより、キャリアからキャリアへとウイルスは伝播・拡散していくわけですから、そこを遮断できればウイルスの拡散は止まるわけです。

ウィルスのキャリア(運び屋)である人間を動かさない(stay home)、なおかつキャリアの距離を社会的距離(ソーシャル・ディスタンシング)に保つ、こういうことなんですね、理にはかなっています。

話を戻します。

さて、恐れていたことが起こってしまいました。

日本相撲協会は10日、力士1人の新型コロナウイルス感染を確認したと発表いたしました。

(関連記事)
力士1人が新型コロナ感染 大相撲初 夏場所開催可否に影響も
毎日新聞2020年4月10日 12時29分(最終更新 4月10日 12時29分)
https://mainichi.jp/articles/20200410/k00/00m/050/161000c

これで5月に開催を2週間延期して24日初日の予定だった大相撲夏場所の開催の可否は極めて厳しい判断が求められることになりそうです。

数日前のことですが、テレビのスポーツコーナーで大相撲のある部屋の朝稽古の様子が流れていました。

大きくない部屋の中で大勢の裸の男たちがぶつかり稽古をしているその様子を見て、私は不遜にも「大相撲の稽古って3密(密閉・密集・密接)そのものだなあ」「社会的距離感などすっとんでるな」と感じたのでありました。

私の目には、朝げいこがキャリア(運び屋)同士の濃厚接触に見えてしまったのです。

もちろんこれは力士たちに何の罪もない訳で、見ている私たちのほうが新型コロナウイルス惨禍のせいで、余計な「物差し」を身に付けてしまったからでしょう。

世の中が「3密」とか「社会的距離感」とかに執着する限り、相撲に限らずでしょうが、格闘技系のスポーツの興行は厳しい時代を迎えてしまったようです。



(木走まさみず)

新型コロナウイルスのPCR検査を今後日本は増やすべき

■指数関数的増加と倍加時間

最近、新型コロナウイルスの「感染者爆発」という言葉に関連して「指数関数的」や「倍加時間」といった専門的な言葉が報道で使われています。

まずは「指数関数的」増加と「倍加時間」について、わかりやすく説明いたします。

細菌の増殖を例に説明します。

細菌の増殖は速く、まな板を洗い流しても洗い方が悪いと数時間後にはその数は元に戻ってしまいます。

いったん細菌が培地に適応すると、数的な増加が指数関数的(exponential)に起こります。

理想条件下では1個のバクテリアでは7時間で 2,097,152個まで増殖することができます。

最初1個の細菌は20分で分裂して2個に増殖します。

この個数が倍増する時間(20分)を倍加時間と呼びます。

したがってバクテリアでは1時間(60分)に2×2×2=8個に増殖します。

f:id:kibashiri:20200409111637p:plain]
※『木走日記』作成

つまり数学的にはバクテリアは一時間に2の3乗倍増殖しますので、7時間では2の21乗倍(2,097,152個)にまで爆発的に増加するわけです。

グラフにすると以下のとおり。

f:id:kibashiri:20200409115019p:plain
※『木走日記』作成

したがって、ある現象が「指数関数的」に増加しているとすれば、その「倍加時間」を求めれば、今後の時間経過ともに増加する変化を予測することができるはずです。

ちなみに個数が倍になる時間は「倍加時間」ですが、逆に個数が指数関数的に減衰して半分に減少する時間半減期と呼びます。



■日本国内の感染者数の「倍加時間」を推定する

さて日本国内の感染者数が「指数関数的」な感染者爆発を招くのか、推定いたします。

NHKの速報では直近の8日、全国で503人の感染者が確認されています。

新たな感染確認 初の1日で500人超え 新型コロナウイルス
2020年4月8日 22時53分

各地の自治体や厚生労働省などによりますと、8日、これまでに全国で503人の感染が確認され、1日に確認された感染者の数が初めて500人を超えました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200408/k10012376481000.html

これで感染者の累計は4603人となりました。

グラフで確認します。

f:id:kibashiri:20200409120728p:plain
※『木走日記』作成

ここで国内感染者数のこのグラフの「倍加時間」を求めてみましょう。
①500〜1000人の倍加時間、②1000〜2000人の倍加時間、③2000〜4000人の倍加時間
をグラフで求めます。

f:id:kibashiri:20200409122852p:plain
※『木走日記』作成

国内感染者数の倍加時間は、①、②、では11日間でしたが、直近③では6日間と早まっていることが分かります。



新型コロナウイルスのPCR検査を今後日本は増やすべき

日本国内のPCR検査数が国際比較で極端に少ない段階で、国内感染者数のグラフを統計学的に分析するのは意味がないのではというご指摘もいただいております。

その指摘は数学的にはまったくもって正しいと思います。

上記で検証した倍加時間の変動(11日から6日に早まる)は、日本国内のPCR検査数が微増してきたことと無縁ではないでしょう。

日本国内のPCR検査数が増えれば増えるほど当然ながら感染者数も増えていくことでしょう。

さにありながら、社会学的には今表出している感染者数をもとにその総数を推定していくことは医療リソースがパンクしてしまう「医療崩壊」を回避するためにも意味はあるのでしょう。

さて、欧米などから日本のPCR検査数の少なさが批判を受けますが、彼らの批判をまともに受ける必要はありません。

どんなに件数を増やしたとしても、国民の全数検査を実現した国などありませんし、今後も不可能です。

つまりどこの国もPCR検査による感染者数はある精度の範囲で実数より必ず少ないので指標には成り得ません。

より正確に比較する指標は死者数でありましょう。

日本は現在102人ほどですが、アメリカでは13000人を超えています、

BBCによれば、日本が感染者数503人と過去最大を記録した同じ日(現地7日)に、一日だけで死者数が1800人を超えてしまっています。

米国の新型ウイルス死者、1日で1800人超 最大を更新
https://www.bbc.com/japanese/52213050

ただ今後ですが日本国内でPCR検査は強化していく必要があると考えます。

現在は軽い症状ではPCR検査はされていません(医療リソースを守るために必要な側面はありました)が、体制ができれば、本来軽い症状の人にもPCR検査を実施すべきでしょう。

また希望者にもできうる限りPCR検査を実施すべきなのです。

なぜなら、すでにいくつか発生例が出ていますが、無自覚な感染者が病院で無自覚に医療関係者に感染を広めてしまうケースは、貴重な医療リソースにピンポイントでダメージを与える脅威であります、これは自覚のない「テロ」行為と言えましょう。

今後、このような院内感染を避けるためにも、いわゆるサイレントキャリア(無症状感染者)の数的動向の把握も必要になってきます。

もちろんPCR検査を増やせばそうなれば間違いなく日本国内の感染者数は急速に増加しおそらく倍加時間ももっと短くなるのは必至でありましょう。

しかしPCR検査総数が増えればより正確な統計的分析も可能になることでしょう。

感染者数の増加ペースのアップを恐る必要はありません、繰り返しになりますが、感染者数の増大よりも、死者数の増大を抑えることこそが最も優先すべき事項であります。

日本は現状、欧米よりもはるかにうまくやっていると評価できましょう。

その事実のもとにですが、新型コロナウイルスのPCR検査を日本は今後増やすべきと考えます。



(木走まさみず)