木走日記

場末の時事評論

元旦早々その「角度」の付いた報道姿勢を見せつける朝日新聞社説

あけましておめでとうございます。

元旦の朝日新聞社説を取り上げたいです。

少し長くなります、お時間のある読者はお付き合いくださいませ。

国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」、この国際的かつユニバーサル(普遍的)な目標から、いかに日本の安倍政権を批判する論に展開するのか、その『アサヒロジック』の見事さを読者のみなさんと味わってみたいのです。

まずは「持続可能な開発目標(SDGs)」について、外務省の説明を公式サイトより抜粋。

持続可能な開発目標(SDGs)とは

持続可能な開発目標(SDGs)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標です。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っています。SDGs発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり,日本としても積極的に取り組んでいます。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html

外務省資料「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(PDF)によれば、17の目標は以下のとおり。

持続可能な開発目標

目標 1. あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
目標 2. 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
目標 3. あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
目標 4 . すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
目標 5. ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う
目標 6. すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
目標 7. すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する
目標 8 . 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
目標 9. 強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
目標 10. 各国内及び各国間の不平等を是正する
目標 11. 包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
目標 12. 持続可能な生産消費形態を確保する
目標 13. 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる※
目標 14. 持続可能な開発のために海洋・海洋資源保全し、持続可能な形で利用する
目標 15. 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
目標 16. 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
目標 17. 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

※国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が、気候変動への世界的対応について交渉を行う基本的な国際的、政府間対話の場であると認識している。

外務省資料「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(PDF) より
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/000101402.pdf

この少し硬い邦訳を外務省が「超訳」したのが以下です。

目標 1.貧困をなくそう
目標 2.飢餓をゼロに
目標 3.すべての人に健康と福祉を
目標 4.質の高い教育をみんなに
目標 5.ジェンダー平等を実現しよう
目標 6.安全な水とトイレをみんなに
目標 7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに
目標 8.働きがいも経済成長も
目標 9.産業と技術革新の基盤をつくろう
目標 10.人や国の不平等をなくそう
目標 11.住み続けられるまちづくりを
目標 12.つくる責任つかう責任
目標 13.気候変動に具体的な対策を
目標 14.海の豊かさを守ろう
目標 15.陸の豊かさも守ろう
目標 16.平和と公正をすべての人に
目標 17.パートナーシップで目標を達成しよう

すべての国、すべての人が対象であり、「地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)こと」つまり包摂的な目標であることが唱われています。

貧困・飢餓をなくし、福祉と教育を平等に提供し、気候変動に対策を講じつつ海や陸を守り、産業を振興し雇用を守り、結果、平和と公正をすべての人に提供しよう、という崇高な目標なのであります。

余談ですが、「持続可能な開発目標」は"SDGs"の直訳でありまして、"Sustainable Development Goals"の略称であり、発音は(エス・ディー・ジーズ〉(最後の"Gs"は"Goals"の略なのでジーエスと2音では発音しない)なそうであります。

10年で実現可能なのかなどの議論もありながらですが、まあこの国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」自体は、理想的な崇高な目標なのであり、言うまでもありませんが特定の政治色のないニュートラル(中立的)なものであります。

さあここから如何に日本の安倍政権批判に展開していくのか、その『アサヒロジック』の見事さを読者のみなさんと味わってみたいのです。

例年の恒例ですが元旦の朝日新聞社説は普段2本掲げる社説を一本に絞っての力作であります。

(社説)2020年代の世界 「人類普遍」を手放さずに
https://www.asahi.com/articles/DA3S14313780.html?iref=editorial_backnumber

社説は冒頭、「普遍」という言葉の定義から始まり、「持続可能な開発目標」(SDGs)が17の「普遍的な」目標を掲げていることを説明いたします。

「普遍」とは、時空を超えてあまねく当てはまることをいう。抽象的な言葉ではあるが、これを手がかりに新たな時代の世界を考えてみたい。

 国連の「持続可能な開発目標」(SDGs〈エスディージーズ〉)は、17の「普遍的な」目標を掲げている。

 たとえば、貧困や飢餓をなくす、質の高い教育を提供する、女性差別を撤廃する、不平等を正す、気候変動とその影響を軽減する、などだ。

 2030年までに「我々の世界を変革する」試みである。「誰も置き去りにしない」という精神が、目標の普遍性を端的にあらわす。

「人権、人間の尊厳、法の支配、民主主義」は、日本国憲法にも示されている「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」なのであり、「普遍的な理念」であると強調いたします。

 人権、人間の尊厳、法の支配、民主主義――。

 めざすべき世界像としてSDGsも掲げるこれらの言葉は、西洋近代が打ち立てた普遍的な理念として、今日に生きる。

 基本的人権の由来を記した日本国憲法の97条にならえば、「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」である。

さてここからが、『アサヒロジック』が全開になります。

なぜか移民対策に対するロシアのプーチン大統領の発言が取り上げられます。

 だが、21世紀も進み、流れがせき止められつつあるかに見える。「普遍離れ」とでもいうべき危うい傾向が、あちこちで観察される。

 ロシアのプーチン大統領は昨年6月、移民に厳しく対処するべきだとの立場から、こう述べた。「リベラルの理念は時代遅れになった。それは圧倒的な多数派の利益と対立している」

 リベラルという語は多義的だが、ここでは自由や人権、寛容、多様性を尊ぶ姿勢を指す。

ここでプーチンの指す「リベラル」は「自由や人権、寛容、多様性を尊ぶ姿勢」のことだと、朝日社説は、勝手に定義します。

ここでの詭弁性を指摘しておきます。

まず「持続可能な開発目標(SDGs)」とは直接は関係の無い、プーチンの移民政策に関する「リベラル」批判を取り上げ、「リベラル」を「自由や人権、寛容、多様性を尊ぶ姿勢」と勝手に再定義し、本来政治的にニュートラル(中立的)なはずの国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を、勝手にリベラル色に読者に印象付けています。

ここから、朝日は、「自由と民主主義が押し込まれている」とし、プーチンやトランプ、さらに欧州の排外的移民政策を批判、「排外的な右派ポピュリズムが衰えを見せない」と批判を展開します。

 自由と民主主義が押し込まれている。

 プーチン氏は強権的なナショナリズムを推し進め、米国のトランプ大統領も移民を敵視し、自国第一にこだわる。

 欧州では、排外的な右派ポピュリズムが衰えを見せない。

ここで、各国に「排外的な右派ポピュリズム」が勃興していることを指摘して巧妙に読者に、「持続可能な開発目標(SDGs)」が有する崇高な「リベラル」(と朝日が勝手に誤誘導しただけですが)が持つ「人類普遍」性が、「右派ポピュリズム」により「押し込まれている」と、思わせるわけです。

そしてここで論に日本を持ち出します。

プーチン、トランプ、香港デモと来て日本の安倍政権へと繋げるのです。

見事な『アサヒロジック』です。

「日本はどうか」と読者に問いかけ、強烈な安倍政権批判を展開します。

 日本はどうか。

 「民主主義を奉じ、法の支配を重んじて、人権と、自由を守る」。安倍政権は外交の場面で、言葉だけは普遍的な理念への敬意を示す。

 しかし、外向けと内向けでは大違いだ。

 国会での論戦を徹底して避け、権力分立の原理をないがしろにする。メディア批判を重ね、報道の自由表現の自由を威圧する。批判者や少数者に対する差別的、攻撃的な扱いをためらわない。

 戦前回帰的な歴史観や、排外主義的な外交論も、政権の内外で広く語られる。

批判が足らないからなのか、今では誰もほとんど話題にしない自民党改憲草案の批判まで飛び出します、「人類普遍の原理」という文言を、草案は前文から削除してしまったと指摘します。

 旧聞に属するとはいえ、自民党が野党時代の12年に作った改憲草案は象徴的である。

 現行憲法がよって立つところの「人類普遍の原理」という文言を、草案は前文から削除してしまった。

 代わりに「和を尊び」「美しい国土を守り」などの文言を盛り込んだ。日本の「固有の文化」や「良き伝統」へのこだわりが、前文を彩る。

 この草案にせよ、現政権のふるまい方にせよ、「普遍離れ」という点で、世界の憂うべき潮流と軌を一にしていることはまぎれもない。

ここまでいかがでしょうか。

ニュートラルなはずの国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を勝手にその主張を「リベラル」と染め上げ、世界各国の移民政策を「排外的な右派ポピュリズム」と、強引に「持続可能な開発目標(SDGs)」と対峙させ、批判展開します。

その延長で日本の安倍政権を、「批判者や少数者に対する差別的、攻撃的な扱いをためらわない」と一刀両断します。

社説の後半のロジックではもはや「持続可能な開発目標(SDGs)」との言葉は出現してしません、論の主題は間違いなく、安倍批判に移っているのであります。

社説は結論で唐突に「SDGsはうたう」と話を戻します、そして「高く掲げられる理念は、差し迫った眼前の危機を乗り越えるためにこそある」と結ばれています。

 近代社会を、そして戦後の世界を駆動してきた数々の理念。それを擁護し、ままならない現実を変えていくテコとして使い続けるのか。その値打ちと効き目を忘れ、うかつにも手放してしまうのか。予断を許さない綱引きが20年代を通じ、繰り広げられるだろう。

 SDGsはうたう。

 「我々は、貧困を終わらせることに成功する最初の世代になりうる。同様に、地球を救う機会を持つ最後の世代にもなるかも知れない」

 高く掲げられる理念は、差し迫った眼前の危機を乗り越えるためにこそある。

どうでしょう、この朝日社説は、崇高なSDGsの「高く掲げられる理念」を「それを擁護し、ままならない現実を変えていくテコとして使い続ける」リベラル派と、「その値打ちと効き目を忘れ、うかつにも手放してしまう」安倍政権に代表される「排外的な右派ポピュリズム」と対峙させることで、見事に本来は中立的な国連目標を、痛烈な安倍政権批判に結びつけているわけです。

安倍政権批判はいいのです。

しかしその目的のために、ニュートラルなはずの国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を勝手にその主張を「リベラル」と染め上げる詭弁性を用いて、安倍政権を「排外的な右派ポピュリズム」と印象づけ強引に批判展開するその論法はいかがなものか。

この社説自体の持つある「角度」を感じぜずを得ません、つまりはじめに『安倍政権批判』という目的があり、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」は単に論を展開し目的を達成するための「道具」にすぎないのです。

見事な『アサヒロジック』です。

国連の中立的な「持続可能な開発目標(SDGs)」から、かなり強引に安倍政権批判を導いたのでした。

元旦早々その「角度」の付いた報道姿勢を見せつける朝日新聞社説なのでした。

ふう。



(木走まさみず)

玉木さん、政権奪取したいなら共産党と組むのは致命的な戦略ミスです〜ゲーム理論で理論的な説明を試みる

21日付けの共産党機関紙『しんぶん赤旗』の記事に驚きました。

立憲主義格差是正、多様性――政権交代での協力を合意
共産・志位委員長、国民・玉木代表と会談
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2019-12-21/2019122101_01_1.html

日本共産党志位和夫委員長と国民民主党玉木雄一郎代表が党首会談を行い、安倍政治を転換するため、(1)憲法にもとづき、立憲主義、民主主義、平和主義を回復する(2)格差をただし、家計・くらし応援第一の政治に切り替える(3)多様性を尊重し、個人の尊厳を大切にする政治を築く――の3点の方向で、政権交代を図るために協力することで合意したというのです。

さらになんと今回の会談は玉木氏の呼びかけで行われたものなのだそうです。

共産党と協力合意ですか。玉木さん、そっちに行ってはダメでしょう。

ここへ来て日本の野党の左旋回が止まりません。

もし日本の野党が本気で自民党を打倒して政権をダッシュしたいのならば、戦略的にはただひとつです。

自民党政権を支える穏健保守票の奪取です。

現在の我が国の政党はこの11政党です。

■表1:我が国の政党一覧(2019年12月現在)

政党名 国会議席
自由民主党 397
立憲民主党 91
国民民主党 60
公明党 57
日本維新の会 27
日本共産党 25
社会民主党 4
NHKから国民を守る党 2
れいわ新選組 2
希望の党 2
沖縄社会大衆党 1
無所属 41

※『木走日記』作成

イデオロギー的に左右の立ち位置を確認いたしましょう。

議席以下の小党は割愛して7党の政策ポジションは、例えば憲法改憲論議で言えばこんな感じ。

■図1:主要政党の憲法改正に対する立ち位置
f:id:kibashiri:20191226081216p:plain
※『木走日記』作成

中よりの3党のポジションは少し迷いましたが、立憲民主はもう少し右寄りかもとも考えましたが、最近の党代表の改憲消極的発言でこの辺にまで左にシフトしました、まあ、当ブログの私見ではあります。

さて、国民民主はこの中よりの立ち位置から一気に最左翼の共産党にまで手をつなごうとしているわけです。

完全な戦略ミスです。

この国で野党が打倒自民を目指し政権を奪回しようとするならば、野党第一党は「保守回帰」すべきであり、間違っても共産党についてはダメだと、当ブログは考えます。

当ブログが野党の立場ならば、自民党に対抗するには、政権を奪取するためには、共産党と協力するのとは真逆のベクトルを取ります。

ズバリ、『保守回帰』であります。

今の選挙制度のもとでは、野党が自民党に代わり政権奪取するためには、唯一の戦略であります。

野党の『保守回帰』こそが政権奪取の唯一の戦略であること、その理由は、2大政党制を目指しこの国に小選挙区制を導入されたことを今一度よく考えて見れば自明なのであります。

限られた小さな選挙地区を2大政党で議席を競うとすると、選挙に勝つためには両党の主張は競うように中庸(ちゅうよう)に寄り合うことになるからです。
 
ゲーム理論で理論的な説明を試みます。

ゲーム理論を思いついた人はハンガリー出身の数学者で近代コンピュータの父祖とも言われるジョン・フォン・ノイマンであります。

それを発展させたのは、アメリカ出身の数学者ジョン・F・ナッシュでありました。

ビーチのアイスクリーム屋の話です、少しの間お付き合いください。

ある浜辺で商品も価格も同じアイスクリームを売ろうとしているAとBがいて、いま浜辺のどこに店を構えれば一番売り上げが伸びるかを考えています。

浜辺は直線で客は均等に存在しています、夏の炎天下の浜辺のことです、客はもっとも近い場所にあるアイスクリーム屋から買うことが想定されます。

さてA,Bはお店をどこに立地すれば相手より売り上げを上げることができるか思案します。

結論から言うとA,Bともに浜辺の中央、ど真ん中に並ぶように店を構えることになります。

最初Aは浜辺の左側4分の1ほどの位置に、逆にBは浜辺の右側4分の1ほどの位置に店を構えたとしましょう。

※『木走日記』作成
この状態では、浜辺の左半分にいる客たちはAの店に、右半分にいる客たちはBの店にいくことでしょう、客は均等に存在していますから売り上げも均等、AとBの店は仲良く棲み分けられます。

しかし、どちらか少し賢ければどうでしょう、必ず店を中央よりに移し始めるはずです。

たとえばBの店が中央に移り、Aの店が左4分の1の場所のままだったら、Bの店が浜辺の8分の5の客にとって最寄の店となり売り上げを伸ばすことでしょう。

※『木走日記』作成
こうしてこの条件では、A,B両方の店は浜辺の真ん中中央に並ぶようにくっついて店を立地することになります。

※『木走日記』作成
売り上げを重視しライバルに負けないためのこれしかない戦略です。

これがこのゲームにおける均衡点なのです、このような均衡点をナッシュ均衡と呼びます。

それぞれ左右のイデオロギーを有する2つの政党が、閉じた地域で1議席を争う場合、ライバルより1人でも多くの有権者を引き付けるために、最初は左右に分かれていたその主張が中庸(ちゅうよう)にシフトしていく、戦略上浜辺のど真ん中に店が並ぶように、ゲーム理論によれば議席獲得のために2つの政党は小選挙区制では似たような中庸の政策を掲げざるを得なくなるわけです。

議席獲得のためには最も多くの支持を得られる政策を取らざるを得ないわけで、2大政党の政策は似たもの同士にならざるを得ないのです。

さて現状ですが、護憲派リベラルの論客諸氏は自民党安倍政権を「極右」との現状評価をしていますが、この現状認識こそが根本的に誤りなのです。

自民党安倍政権の政策は、欧米の極右政党の主張と比べれば極めて「リベラル」なのであり、今回の安保法制にしても大きな「自衛権」のくくりの中での法制化にすぎません。

安倍政権は安全保障政策で支持を得ているわけではなく、「アベノミクス」などの経済政策などが中心に支持を集めているわけです、その何よりの証拠として安保法案が国会で可決されても政権の支持率は大きく落ち込むことはありませんでした。

日本に極右政党など存在しないのです、すなわち安倍政権は保守の範疇の中でも政策的には極めてリベラルよりであると言えるのです。

つまり、現状は保守自民党が多くの支持を得ている状況なのです。

浜辺でいえばこの感じです。

※『木走日記』作成

この状況を野党が挽回するには、自民党と見紛うばかりの政策の『保守回帰』しかありません。

※『木走日記』作成

自民党政権が最も恐れているのは、自民党と見紛うばかりの現実主義で対抗する責任野党の存在です。

これは机上の空論ではありません。

例えば大阪です。

大阪では賛否はありますが「都構想」などの現実的改革を唱える維新の伸長が著しいわけです。

維新のその主張は自民党のそれとかなり親和性を有しているのはご承知のとおりです。

自民党と見紛うばかりの現実主義で対抗する責任野党が登場した結果、大阪府議会、大阪市議会における政党別議席数の構成は劇的な変化を遂げました。

このとき維新は共産党に依らず独自の力で自民党を打倒し第一党の地位を勝ち取りました。

この国の選挙で「ヤマ」が動くとき、それは自民党を緩やかに支持している多数派である「穏健保守層」が投票行動を変化させるときなのです。

この国には自由民主党という保守政党があります。

その自民党支持層の中の多数派であろう穏健保守層の何割かの支持を獲得できれば、大阪のように、大きく「山」は動きます。

かつて民主党政権が誕生した理由も、別に共産党などとの共闘などありませんでした、そうではなく自民党政権の経済政策の行き詰まりを主な理由に、穏健保守層の何割かが自民から民主に支持を変えたことが最大の理由です。

繰り返しますが、自民党政権が最も恐れているのは、自民党と見紛うばかりの現実主義で対抗する責任野党の存在なのです。

玉木さん共産党と組むのは致命的な戦略ミスです、残念です。



(木走まさみず)

「お友達」関係をいくら攻めても安倍政権は安泰な件

今回は小ネタです。

「お友達」関係をいくら攻めても安倍政権は安泰な件について考えます。

まず、命題「安倍政権の支持層はネトウヨ嫌韓派・お友達である」の真偽を検証しましょう。

舛添要一氏が韓国大統領は5つの誤算をしていると指摘しています。

(関連記事)

舛添要一
2019年12月25日 07:37
文在寅大統領、5つの誤算
https://blogos.com/article/425691/

その中で興味深いのが「第四の誤解」であります、失礼してエントリーより引用。

 第四は、安倍晋三首相に対する誤算である。「安倍は極右で、嫌韓派に属しているが、対韓強硬政策を続けることの愚に気づけば、自らの信念で局面打開を図るだろう。そのためにも、韓国は強硬姿勢を貫いたほうがよい」と考えていたようだ。しかし、安倍は、自ら確固たる信念や政策を持つというのではなく、お友達や周囲の空気に支配される政治家である。「ネトウヨ」をはじめ、嫌韓派が安倍応援団である。お友達もそうである。そのような中で、韓国に対する妥協を少しでもするわけにはいかないのである。

うーん、ポイントはここでしょうか。

安倍は、自ら確固たる信念や政策を持つというのではなく、お友達や周囲の空気に支配される政治家である。「ネトウヨ」をはじめ、嫌韓派が安倍応援団である。お友達もそうである。

なるほど、安倍の応援団は、「ネトウヨ」はじめ嫌韓派やお友達であると。

興味深いです。

当ブログは、朝日新聞及び韓国政府への批判を繰り返しエントリーし、なおかつ、安倍政権の政策支持も繰り返し表明してきたので、ネットの一部参加者から「ネトウヨ」ブロガーとの「評価」をいただいておりますので、舛添要一氏の安倍晋三首相分析には、実は、文面的にはとても納得するのであります。

しかしです。

この「安倍の支持者はネトウヨ嫌韓派・お友達」というある意味単純化された分析は、安倍の最大支持層が抜け落ちている点で誤りであります。

安倍政権の最大支持層は、「ネトウヨ」でも「嫌韓派」でも「お友達」でもない、消極的支持層でありましょう。

安倍政権よりましな選択肢は見いだせないため、結果安倍政権を支持する穏健層こそが、実は安倍政権を支える最大支持層なのだと考えます。

一部の「ネトウヨ」「嫌韓派」「お友達」だけが支持層ならば、この憲政史上最長にならんとする長期政権が成り立つはずはありません。

おそらく安倍支持層のサイレントマジョリティーは消去法的選択肢で政権を消極的支持している穏健保守層や中間層だと推測いたします。

私はそう考えます。

だから安倍政権は大きく支持率を落とすことなく長期に渡り国民の支持を維持できてきたのです。

命題「安倍政権の支持層はネトウヨ嫌韓派・お友達である」

この命題の真偽は「偽」です。

安倍政権の最大支持層は消極的支持層なのだと、私は考えています。

だからこそ、「モリトモ」や「桜を見る会」など、問題が起こって国会で野党が騒いでも、安倍政権は安泰なのだと考えます、それでもほかの政権よりましだと消極的支持されるのです。

もちろん、一部に「ネトウヨ」「嫌韓派」「お友達」など、コアな支持層もいるのでしょう。

つまり、安倍政権の支持層は多層化しているのです。

結果、政権として「生命力」があるのです。

従って「お友達」関係をいくら攻めても安倍政権はびくともしない、安泰のです。

政権の多数支持者は「だから何?」と思うだけです。

与論調査では7割強が「桜を見る会」関連で安倍政権の対応を「十分ではない」と指摘しつつ、内閣支持率は若干の低迷にとどまっています。

(関連記事)

桜を見る会の首相説明「十分ではない」74% 世論調査
https://www.asahi.com/articles/ASMDR55DVMDRUZPS00B.html

繰り返します、安倍政権の支持層は多層化しているのです。

結果、政権として「生命力」があるのです。

「お友達」関係をいくら攻めても安倍政権はびくともしない、安泰のです。

政権の消極的支持者は「確かに問題だ、でもだから何?」と思うだけです、だって安倍政権にとって変わるライバルが皆無なのですから。

安倍政権よりましな選択肢は見いだせないため、結果安倍政権を支持する穏健層こそが、実は安倍政権を支える最大支持層なのだと考えます。

野党やアンチな評論家が安倍政権の支持層を、かなり「右より」と見間違っているのはこっけいですらあります。

ふう。



(木走まさみず)

安倍総理よ対韓外交には気をつけて~日本世論は対韓国で「堪忍袋の緒が切れた状態」

前回のエントリーでも取り上げましたが、内閣府20日、「外交に関する世論調査」を発表、韓国に「親しみを感じる」「どちらかというと親しみを感じる」と回答した人は前回2018年10月の調査に比べ12.7ポイント減り、26.7%となりました

調査を開始した1978年度以来、最低の数字でありました。

(関連記事)

韓国に「親しみを感じる」過去最低 内閣府調査
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53612530Q9A221C1EA3000/

また、日本経済新聞社テレビ東京による20~22日の世論調査で、日韓関係に関しては「日本が譲歩するぐらいなら関係改善を急ぐ必要はない」が70%、「関係改善のためには日本が譲歩することもやむを得ない」は20%でありました。

(関連記事)

内閣支持率横ばいの50% 日経世論調査]
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53674130S9A221C1MM8000/

つまり日本人の対韓国の認識は完全に冷え切っており、「親しみを感じない」が七割を超え過去最悪の数値が現出しており、さらには日経世論調査によれば、「日本が譲歩するぐらいなら関係改善を急ぐ必要はない」も七割です。

この二つの世論調査が意味していることは、日本人の約束を守らない韓国への怒りは絶頂を極めつつあり、さらに日本国民は、日本政府はこれ以上韓国には絶対譲歩するべきではないとの、強い意思が読み取れます。

そもそも世論調査の数値をどこまで信じるのか、また世論というものは移ろいやすいものであり対韓国との外交関係が改善すれば数値も改善するだろうとの見通しもあることでしょう。

しかし私は「韓国に親しみを感じない」「韓国に譲歩すべきでない」との回答がともに7割を超しているこの調査内容は、中長期的に重い意味を持っていると考えます。

私は今、日本の世論の韓国への意識が、大きく変化、不可逆的ともいえる勢いで急激に悪化してきていると感じています。

ここ数年の韓国の国際公約の約束破りやレーザー照射の嘘つき発言など、日本人としては理解に苦しむ数々の韓国の愚行に、「堪忍袋の緒が切れた状態」なのではないでしょうか。

この状態は「不可逆的」であり二度と元には戻らないのだと考えます。

例えれば、これは金属の圧力に対する耐性に似ています。板・棒状の金属製品は計算された圧力内では少ししなってもすぐに元に戻ります。

しかし限界計算を越えた強い圧力では、塑性変形(不可逆的な変形)を起こします、元には二度と戻らないのです。

この日本世論の対韓国で「堪忍袋の緒が切れた状態」であることを日本の政治家は強く意識しなければなりません。

さて、安倍晋三首相は23日午後、中国四川省成都で24日に開かれる日中韓3カ国首脳による日中韓サミットに出席するため訪中するのを前に、いわゆる徴用工訴訟問題について、官邸で記者団の取材に応じました。産経新聞記事より首相の発言は次の通り。

 日韓関係は依然として厳しい状況にありますが、現下の東アジアの安全保障環境を考えれば、日米韓、日韓の連携が重要であると認識しています。他方、国と国の約束は守ってもらわなければなりません。日韓請求権協定は、日韓国交正常化の前提であり、日韓関係の根本をなすものであります。

 今回、文在寅ムン・ジェイン)大統領と首脳会談が予定されておりますが、文在寅大統領に対して、朝鮮半島出身労働者の問題も含めて、日本の考え方をしっかりと伝えたいと考えています。

 そしてまた、(韓国の)文喜相(ムン・ヒサン)国会議長が提出をしている法案については他国の立法府の議論でございますので、コメントは差し控えたいと思いますが、いずれにせよ、日韓関係を健全なものにするためにですね、韓国側に行動を取ってもらいたい、きっかけを作ってもらいたいと、こう考えています。

首相、外遊出発前の発言全文 元徴用工問題「韓国がきっかけを」 より抜粋
https://www.sankei.com/politics/news/191223/plt1912230008-n1.html

おおよそ日本から妥協はしないというメッセージは伝わりました。

気になる点はここ。

そしてまた、(韓国の)文喜相(ムン・ヒサン)国会議長が提出をしている法案については他国の立法府の議論でございますので、コメントは差し控えたいと思います

ムン・ヒサン議長のこの法案は、日韓両国の企業や国民から寄付を募って財団をつくり、韓国での裁判の原告などに慰謝料を支払うとした内容で、日本側としては到底受け入れられるものではありません。

さらに彼は「責任の認定や公式な謝罪があってこそ、真の和解が成立する」と、この法案には日本の再度の「謝罪」が前提であると韓国側で説明しています。

(関連記事)

「徴用」韓国国会議長 ”法案は日本の謝罪が前提”
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191222/k10012224771000.html

当ブログは憲法改正を強く支持していますので、周知の通り基本的に安倍政権の政策を支持しております。

しかしながら僭越ながら安倍政権に警鐘を鳴らしておきます。

日本人の対韓国感情は史上最も悪化しております。

今までのように日本政府がすぐ妥協する、ぬるま湯のような対韓国外交政策は国民が許さないでしょう。

もし安倍政権が同じ轍を踏むとすれば、政権の鉄板支持層である、保守層および穏健保守層の支持を失う可能性があります。

もはや国民は韓国に対するこれ以上の妥協は我慢ならないのです。

韓国に安直に妥協した政治家はその支持を失う可能性が高いです。

安倍総理にはくれぐれも気を引き締めて妥協なく対韓国外交をこなしていただきたいです。



(木走まさみず)

閉塞感ただよう過去最悪の結果となった二つの世論調査について〜「韓国に親近感を持てない日本人」と「韓国を離れたい韓国人」

さて内閣府の調査によれば、日本人の韓国に対する親近感が過去最悪となりました。

内閣府は20日、「外交に関する世論調査」の結果を発表しました。それによると、日韓関係について「良好だ」、「まあ良好だ」と回答した人の割合が、昨年の前回調査の30.4%から7.5%に大幅下落し、1986年の調査開始以来、過去最低となりました。

韓国に「親しみを感じる」、「どちらかというと親しみを感じる」と答えた人の割合は26.7%で、同じ質問をしている78年以降、初めて2割台となりました。

(関連記事)

日韓「良好」、過去最低7.5% 関係悪化を反映―内閣府調査
2019年12月20日17時04分
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019122000962&g=pol

内閣府世論調査の結果は下記内閣府のサイトでCSV形式で公開されています。

内閣府
和元年度 外交に関する世論調査
https://survey.gov-online.go.jp/r01/r01-gaiko/2-1.html

さて韓国に対する親近感を世代別で見てみましょう。

■表1:韓国に対する親近感

世代 親しみを感じる 親しみを感じない
18~29歳 45.7 52.4
30~39歳 32.5 66.9
40~49歳 27.1 72.5
50~59歳 28.9 70.3
60~69歳 24.7 74.2
70歳以上 17.4 78.2
総数 26.7 71.5

■図1:韓国に対する親近感
f:id:kibashiri:20191222122305p:plain
出典)2019年内閣府『外交に関する世論調査
https://survey.gov-online.go.jp/r01/r01-gaiko/2-1.html
※出典より『木走日記』が図表作成

うむ、全世代で「親しみを感じない」の割合が多く占めていますが、興味深いのは世代が若いほど「親しみを感じる」の割合が多くなるのですね。
18~29歳では45.7%です、音楽などの韓流の影響なのかしら、よくわかりません。

参考までにアメリカに対する親近感も世代別で見てみましょう。

■表2:アメリカに対する親近感

世代 親しみを感じる 親しみを感じない
18~29歳 84.8 14
30~39歳 86.1 13.3
40~49歳 86.3 13.7
50~59歳 81 17.9
60~69歳 75.6 21.4
70歳以上 70 25.3
総数 78.7 19.1

■図2:アメリカに対する親近感
f:id:kibashiri:20191222124031p:plain
出典)2019年内閣府『外交に関する世論調査
https://survey.gov-online.go.jp/r01/r01-gaiko/2-1.html
※出典より『木走日記』が図表作成

うむ、「親しみを感じる」「感じない」の割合が韓国とは真逆なのがなんとも(苦笑)ですが、微妙ですがよく見るとやはり年齢が低いほうが「親しみを感じる」の割合が多くなる傾向にあるようです。

さて話を戻しますが、内閣府世論調査で過去最悪となりました日本人の韓国に対する親近感であります。

韓国に「親しみを感じない」のは日本人だけではないようです。

ここに興味深いハンギョレ記事があります。

若者の75%が「韓国を離れたい」
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/35243.html

記事によれば「19~34歳の若者10人のうち、8人は韓国社会を“ヘル(地獄)朝鮮”と評価し、7.5人は韓国を離れて暮らしたい」と解答しています。

19~34歳の若者10人のうち、8人は韓国社会を“ヘル(地獄)朝鮮”と評価し、7.5人は韓国を離れて暮らしたいと答えた。一方、35~59歳の既成世代では、韓国社会をヘル朝鮮と見る人は、10人中6.4人、韓国を離れたいと答えた人は6.5人だった。この研究は、19~59歳の国民5千人を調査して、世代・性別で分析した結果だ。

驚くのは「35~59歳の既成世代では、韓国社会をヘル朝鮮と見る人は、10人中6.4人、韓国を離れたいと答えた人は6.5人」であることです。

ほぼ全世代にわたって「韓国を離れたい」が過半数なのであります。

なんだろう、この閉塞感は・・・

日本と韓国で二つの世論調査が過去最悪の結果を示しています。

非常に象徴的に思えたのでご紹介いたしました。

読者のみなさん。

この結果、いかがお考えでしょうか。

ふう。



(木走まさみず)

ひどくアンフェアな朝日新聞社説〜伊藤氏によりそう「角度」を持って報道する一部メディアの偏向性について

2018年7月28日夜、「日本の秘められた恥」と題する伊藤詩織氏のドキュメンタリーをBBCが放送いたしました。

英国BBC公式サイトより。


https://www.bbc.co.uk/programmes/b0b8cfcj

このBBCの放送は世界中のネットで大きく取り上げられていました。


http://www.bbc.co.uk/programmes/articles/3z44Njyr5wzm3wbVMGZ7tFr/shiori-ito-japan-s-attitudes-to-allegations-of-sexual-violence-are-locked-in-the-past

そもそも本件は、刑事事件としては二度の不起訴処分となり、特に2017年9月21日(公表は22日)、市民からなる東京第六検察審査会が「慎重に審査したが、検察官がした不起訴処分の裁定を覆すに足りる事由がなかった」とし、不起訴相当と議決しています。

刑事事件として不起訴が確定したのを受けて、2017年9月28日、望まない性行為で精神的苦痛を受けたとして、伊藤氏が山口氏を相手に1100万円の損害賠償を求める民事訴訟を起こしました。

2017年12月5日、民事訴訟第一回口頭弁論が行われています。

当時は本件は訴訟中であり、また伊藤氏と山口氏の主張には大きな隔たりがある中で、このBBCの番組は、率直に言って公平性が担保されていない印象を強く持ちました。

当ブログは「ひどくアンフェアなBBCドキュメンタリー」と批判、当時の一部メディアの報道姿勢の偏向性をエントリーで取り上げています。

2018-07-02
ひどくアンフェアなBBCドキュメンタリー「Japan's Secret Shame(日本の秘められた恥)」〜本件は現在法廷で争われている最中、真実はいまだ確定していない
https://kibashiri.hatenablog.com/entry/20180702/1530514266

エントリーより抜粋。

 番組の構成は双方の主張を公平に取り上げてはいますが、一時間近くのそのドキュメンタリーの切り口は、あくまでも伊藤氏によりそうように密着して進行していきます。

 その映像は美しくかつときに涙する伊藤氏のその横顔は健気であり、視聴者は間違いなく伊藤氏の心情に同調してしまうような番組構成となっています。

 民事訴訟が現在進行中でいまだ結論が出ていない本件において、このようなドキュメンタリー番組が英国BBCで放映されたことは極めて遺憾です。

 BBCの影響力は無視しがたく、例えば英紙ガーディアンのレビューなど、「女性への暴力や構造的な不平等、差別といった大きな話題を、もっと小規模で個人的な物語に焦点を当てて描いている」と、本件ではすでに伊藤氏の言い分が正しい、女性への暴力があったとの前提で評されています。

 真実はどちらにあるのか。

 法的な決定がいまだ下されていない段階で一方的に片側に寄り添い密着してドキュメンタリー放映する・・・

 残念ながらこのBBCドキュメンタリーはひどくアンフェアであるといわざるを得ません。

 「Japan's Secret Shame(日本の秘められた恥)」タイトルからして理不尽な決め付けを含んでいます。

 繰り返しますが本件は現在法廷で争われている最中なのです。

 真実はいまだ確定していません。

さて、ジャーナリストの伊藤詩織氏が元TBS記者山口敬之氏を訴えた民事裁判で、東京地裁は「酒を飲んで意識を失った伊藤氏に対し、合意のないまま性行為に及んだ」と認め、330万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。

山口敬之氏は判決を不服として即時控訴を表明しています。

会見の山口氏の以下の発言が批判を呼んでいます。

「伊藤さんは性犯罪被害者ではありません」

「私の所にも性犯罪を受けたといってご連絡をくださる方が複数。お目にかかった方もおります」

「本当に性被害に遭った方は『伊藤さんが本当のことを言ってない。こういう記者会見の場で笑ったり上を見たり、テレビに出演して、あのような表情をすることは絶対ない』と証言して下さったんです」

「性被害に遭った方が『嘘つきだと言われる』といって出られなくなっているのだとすれば、非常に残念なことだと思います」

(関連記事)

女性自身
2019年12月19日 20:04
山口敬之氏の発言が偏見と物議「腹が立つ」「呆然とした」
https://blogos.com/article/424722/

伊藤氏勝訴を受けて朝日新聞は全国紙で唯一この「民事訴訟」を社説で取り上げます。そして「社会の病理も問われた」のだと畳み掛けます。

(社説)伊藤氏の勝訴 社会の病理も問われた
https://www.asahi.com/articles/DA3S14301062.html?iref=editorial_backnumber

朝日社説は「見過ごせない発言」「こうしたゆがんだ認識」と早速批判を展開しています。

 山口氏は控訴を表明したが、判決後の記者会見で見過ごせない発言があった。自らが話を聞いたとする「本当の(性犯罪)被害者は会見で笑ったりしない」という女性の声を紹介し、身の潔白を訴えたのだ。

 苦しみを抱え込み、下を向いて生きていくのが被害者の正しい姿だ、と言うに等しい。こうしたゆがんだ認識が、過酷な傷を負いながらも生きていこうとする人々を、追い詰めてきたのではないか。

朝日社説は「安倍首相を取材した著作のある山口氏」と安倍政権との関わりにふれ、「右派系雑誌には、伊藤氏の人格をおとしめる記事が掲載された」と指摘しています。

 この間(かん)、伊藤氏にはネット上などで異常な攻撃が加えられた。政権寄りの論者らが、安倍首相を取材した著作のある山口氏の応援にまわり、右派系雑誌には、伊藤氏の人格をおとしめる記事が掲載された。

社説は、「性犯罪に向けられる目は厳しさを増している」とし、「被害者の尊厳を守る。私たちの社会が背負う重要な課題」であると結ばれています。

 曲折を経ながらも性犯罪に向けられる目は厳しさを増している。罰則を強化する改正刑法がおととし成立し、さらなる見直しの議論が進む。相談・支援態勢も強化されてきている。この歩みをより確かなものにし、被害者の尊厳を守る。私たちの社会が背負う重要な課題である。

まるで本件で「性犯罪」が認められたかのようなこの朝日社説の結論は、偏向していると言わざるを得ません。

本件ではいまだ一度も法廷で「性犯罪」は認められてはいません。

そもそも朝日新聞は、東京地裁が2016年7月に嫌疑不十分で刑事不起訴にした際も、東京第6検察審査会が2017年9月、不起訴を覆すだけの理由がないとして「刑事不起訴相当」と議決したときも、社説では取り上げていません、沈黙しています。

「性犯罪」が否定された2つのトピック、2016年7月の伊藤氏の刑事敗訴、さらに2017年9月の伊藤氏が訴えた検察審査会でも刑事不起訴相当と刑事敗訴、この2回のタイミングでは一切沈黙していたのです。

しかしながら、伊藤氏が民事勝訴したこのタイミングで初めて社説に取りあげる、報道機関としてのその報道姿勢は明らかにある「角度」を持って報道している、偏向しているといわざるを得ません。

本件はいまだ決着を見ていません。

それなのに一部メディアの露骨な伊藤氏によりそう報道姿勢には、真実を伝えるメディアの持つ本来の使命に著しく抵触していると考えます、その報道姿勢に疑問を持たざるを得ません。



(木走まさみず)

「安倍政権は速やかに脱石炭へと方針を転換せよ」(朝日新聞社説)だと?~原発反対の朝日に反論する、この国が世界最悪の化石燃料比率に陥ったのはなぜだ?

COP25における日本の対応に風当たりが強いです。

国際NGOは「弱腰」と批判しています。

COP25「政府の対応、弱腰過ぎた」、国際NGOが批判
オルタナS編集部(若者の社会変革を応援)
https://blogos.com/outline/424022/

例によって朝日新聞社説が日本政府の対応を批判しています。

(前略)

 石炭火力に固執する日本への風当たりも強い。

 G7のなかで日本だけが石炭火力の新設にこだわっている。会場で演説した小泉環境相が脱石炭を表明しなかったため、温暖化対策に後ろ向きな国に環境NGOから贈られる「化石賞」を受賞したのは当然といえよう。梶山経産相の国内会見で出た石炭温存発言とあわせ、計2回の不名誉な受賞である。

 どんなに省エネや再エネの拡大に努めても、石炭火力を使い続ける限り、温暖化対策を真剣に考えていないとみられてしまう。それが世界の潮流であることを、小泉氏だけでなく安倍首相らも認識する必要がある。

 海外のシンクタンクの分析では、昨年、日本は世界で最も気象災害の影響が大きかったという。気候変動対策は日本にとっても待ったなしである。安倍政権は速やかに脱石炭へと方針を転換し、本気でCO2削減に踏み出さねばならない。

(社説)気候変動会議 これでは未来が危ない より抜粋
https://www.asahi.com/articles/DA3S14297072.html?iref=editorial_backnumber

この朝日新聞の社説の結語に注目してください、「安倍政権は速やかに脱石炭へと方針を転換し、本気でCO2削減に踏み出さねばならない」と高らかに唱えています。

なんたる偽善。

あれだけ原発再稼働に反対しておいて「速やかに脱石炭へと方針を転換」と綺麗ごとを具体策の例示もなく主張するとは、なんと無責任なことか、原発再稼働なくしてどうやって「本気でCO2削減」を実現できるというのでしょうか。

そもそも、原発の再稼働が長期にわたって進まない状況下では、石炭火力を使わざるを得ません。エネルギー源の多様性確保は、日本国民の暮らしに欠かせない要件であります。

また日本が輸出する石炭火力発電所は環境性能に優れた設備で、途上国では人が生きていくための電気を必要としています。日本の石炭火力技術は安価で安定した電力を供給する能力を備えているのです。

さらに、各国が提出する自主目標として日本は2030年度までにGHG排出の26%減(13年度比)を表明済みです。

今回その上積みをCOPで求められたが、小泉氏はスルーしました。

理由は明確で、世界に先駆けて省エネを進めてきた日本にとって減らせる余地は少なく、26%削減は非常に高い目標なのです。

感情論ではなく信頼できる統計数値をもとに科学的検証に耐えうる議論をいたしましょう。

まず、『EDMC/エネルギー・経済統計要覧2019年版』)より世界の二酸化炭素排出量を押さえておきます。

■表1:世界の二酸化炭素排出量(2016年)

順位 国名 排出量※ 割合(%)
1 中国 9,057 28.0
2 アメリ 4,833 15.0
3 インド 2,077 6.4
4 ロシア 1,439 4.5
5 日本 1,147 3.5
6 ドイツ 732 2.3
7 韓国 589 1.8
8 カナダ 541 1.7
9 インドネシア 455 1.4
10 メキシコ 446 1.4
11 ブラジル 417 1.3
12 オーストラリア 392 1.2
13 イギリス 371 1.0
14 イタリア 326 1.0
15 フランス 293 0.9
その他 9,199 28.5
各国の排出量の合計
(世界の排出量) 32,314 100.0

■図1:世界の二酸化炭素排出量(2016年)
f:id:kibashiri:20191216155120p:plain
※排出量の単位は[百万トン-エネルギー起源の二酸化炭素(CO2)]
出典)EDMC/エネルギー・経済統計要覧2019年版
https://www.jccca.org/chart/chart03_01.html
出典より『木走日記』が図表再作成

ご覧の通り、中国、アメリカ、インド、ロシアの上位4カ国で50%を超える排出量です。
日本も5位で3.5%ですが、例えば25%削減しても、日本のシェアでは0.875%の削減効果しかありません、上位4カ国が25%削減をなしえたならば13.475%の削減効果になります、日本の15.4倍の効果です。

そもそも論になりますが、GDP上位3カ国のアメリカ・中国・日本では、世界に先駆けて省エネを進めてきた日本の省エネ技術は突出しています。

では、人口1人当たりCO2排出量を確認しておきましょう。

一般社団法人海外電力調査会のデータ集では、人口1人当たりCO2排出量と発電量1kWh当たりCO2排出量が並列で検証できます。

■図2:人口1人当たりCO2排出量(2015年)
f:id:kibashiri:20191217074718p:plain
■図3:発電量1kWh当たりCO2排出量(2015年)
f:id:kibashiri:20191217075601p:plain
出典)一般社団法人海外電力調査会 データ集
https://www.jepic.or.jp/data/g08.html
出典より『木走日記』が図表再作成

一人当たりCO2排出量は、主要国では、米国、カナダ、韓国、ロシア、日本、ドイツと続いています、またインド、中国といった人口の過多の国は当然ながら低い数値となっております。
また発電量1kWh当たりCO2排出量ですが、これは如何に効率的に発電するかの目安でありますが、効率のいい3か国ですが、カナダ、スウェーデン水力発電、フランスは原子力発電が主流なのでCO2排出を抑えることが実現できているのです。

日本の一人当たりのCO2排出量がそれほど抑えられていないのは、もちろん原子力発電がほぼ止まっており、火力発電にたよっているからです。

では、主要国の発電電力量の電源構成を比較してみましょう。

■表2:主要国の発電電力量の電源構成(2015年)

国名 石油 石炭 ガス 原子力 水力 その他
カナダ 1.2 9.8 10 15.1 56.7 7.1
米国 0.9 34.2 31.9 19.3 5.8 7.8
フランス 0.4 2.2 3.5 77.6 9.7 6.7
ドイツ 1 44.3 9.8 14.3 3 27.7
イタリア 4.8 16.1 39.4 0 16.2 23.6
英国 0.6 22.8 29.7 20.9 1.9 24
スペイン 6.2 19 18.9 20.6 10.1 25.2
スウェーデン 0.2 0.8 0.3 34.8 46.5 17.5
ロシア 0.9 14.9 49.7 18.3 15.8 0.4
インド 1.7 75.3 4.9 2.7 10 5.4
中国 0.2 70.3 2.5 2.9 19.1 5
韓国 2.3 43.1 22.4 30 0.4 1.9
日本 9 33.2 39.6 0.9 8.2 8.2

■図4:主要国の発電電力量の電源構成(2015年)
f:id:kibashiri:20191217083923p:plain
出典)一般社団法人海外電力調査会 データ集
https://www.jepic.or.jp/data/g08.html
出典より『木走日記』が図表作成

表とグラフから、石炭・石油・ガスの化石燃料と、原子力・水力・その他の化石燃料以外に各国の電源構成をまとめ直してみましょう。

■表3:主要国の発電電力量の電源構成(化石燃料比重)(2015年)

国名 化石燃料 化石以外
カナダ 21 78.9
米国 67 32.9
フランス 6.1 94
ドイツ 55.1 45
イタリア 60.3 39.8
英国 53.1 46.8
スペイン 44.1 55.9
スウェーデン 1.3 98.8
ロシア 65.5 34.5
インド 81.9 18.1
中国 73 27
韓国 67.8 32.3
日本 81.8 17.3

■図5:主要国の発電電力量の電源構成(化石燃料比重)(2015年)
f:id:kibashiri:20191217094711p:plain
出典)一般社団法人海外電力調査会 データ集
https://www.jepic.or.jp/data/g08.html
出典より『木走日記』が図表作成

御覧ください、化石燃料の比重が80%を超えているのはインドと日本だけです、突出しているのです。

震災以来原子力発電がほぼ再稼働できずにいる日本は、エネルギー効率で最後進国といわれるインドと同程度まで現状は化石燃料に頼っています、インド81.9%、日本81.8%です。

そしていま一度、図3:発電量1kWh当たりCO2排出量(2015年)をご覧にいただければ日本(540)はインド(771)に比べて
30%も発電効率が高いことがわかります。

世界シェア3.5%の日本は、原発停止の中で、インドと同じ世界最悪の化石燃料比率80%水準を超えてしまっています。

しかしその最悪の電源構成ベースの中で、発電量1kWh当たりCO2排出量の効率化を懸命に図ってきたのです。

今一度朝日新聞社説より。

 どんなに省エネや再エネの拡大に努めても、石炭火力を使い続ける限り、温暖化対策を真剣に考えていないとみられてしまう。それが世界の潮流であることを、小泉氏だけでなく安倍首相らも認識する必要がある。

まとめます。

「石炭火力を使い続ける限り、温暖化対策を真剣に考えていないとみられてしまう」(朝日社説)と批判します。

ならば、朝日新聞に逆に問う。

原発再稼働なくしてどうやって化石燃料依存率を下げることができるのか。

あれだけ原発再稼働に反対しておいて「速やかに脱石炭へと方針を転換」と綺麗ごとを具体策の例示もなく主張するとは、なんと無責任なことか、原発再稼働なくしてどうやって「本気でCO2削減」を実現できるというのでしょうか。

CO2削減を求めるならば原発再稼働を認めるべきです。

原発再稼働を認めないならば、当面C02削減は二の次に考えるべきです。

感情論ではなく信頼できる数値をもとに科学的検証に耐えうる議論をしていただきたいです。


(木走まさみず)