木走日記

場末の時事評論

東京都の感染者数倍加時間10日の持つ意味

■指数関数的増加と倍加時間

最近、新型コロナウイルスの「感染者爆発」という言葉に関連して「指数関数的」や「倍加時間」といった専門的な言葉が報道で使われています。

再度「指数関数的」増加と「倍加時間」について、わかりやすく説明いたします。

細菌の増殖を例に説明します。

細菌の増殖は速く、まな板を洗い流しても洗い方が悪いと数時間後にはその数は元に戻ってしまいます。

いったん細菌が培地に適応すると、数的な増加が指数関数的(exponential)に起こります。

理想条件下では1個のバクテリアでは7時間で 2,097,152個まで増殖することができます。

最初1個の細菌は20分で分裂して2個に増殖します。

この個数が倍増する時間(20分)を倍加時間(doubling time)と呼びます。

したがってバクテリアでは1時間(60分)に2×2×2=8個に増殖します。

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※『木走日記』作成

つまり数学的にはバクテリアは一時間に2の3乗倍増殖しますので、7時間では2の21乗倍(2,097,152個)にまで爆発的に増加するわけです。

グラフにすると以下のとおり。

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※『木走日記』作成

したがって、ある現象が「指数関数的」に増加しているとすれば、その「倍加時間」を求めれば、今後の時間経過ともに増加する変化を予測することができるはずです。

ちなみに個数が倍になる時間は「倍加時間」ですが、逆に個数が指数関数的に減衰して半分に減少する時間半減期と呼びます。



■東京都内の感染者数の「倍加時間」を求める

さて東京都内の感染者数が「指数関数的」な感染者爆発を招くのか、その倍加時間を最新データより求めます。

まずは東京の現在までの感染者数を月別の表でまとめます。

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※『木走日記』作成

1月24日に最初の1人が確認されて以来、4月20日まで3186人の感染者が発生しています。

過去50日(3月1日〜4月20日)の日別発生数をグラフで確認します。

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※『木走日記』作成

過去50日(3月1日〜4月20日)の累計発生数をグラフで確認します。

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※『木走日記』作成

この累計発生数のグラフは日々の発生数の積み重ねですから、当然右肩上がりのグラフになりますし、日別発生数が増加傾向にあれば、指数関数的に増加していくことになります。

では東京都感染者数の最新の倍加時間を求めていきます。

求め方は簡単で直近の3186人(4月20日)を2で割った人数(1593人)が記録された日付にさかのぼり日数を数えます。最初の表で確認すれば、1593人を記録したのは、4月9日(1516人)〜4月10日(1704人)であることがわかります。
つまり感染者数はこの11日間で倍増したことがわかります。よって最新の東京都の倍加時間は11日なのであります。

このように倍加時間は毎日計算して求めることができます。

過去50日(3月1日〜4月20日)の東京都の感染者数の倍加時間の推移をグラフで確認します。

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※『木走日記』作成

この表で着目していただきたいのは、都内感染者数の倍加時間は3月25日〜4月8日あたりで、倍加時間4〜6日で底をうっていることです。

この倍加時間5日という値は、例えば、ひと月(5日×6=30日)で2×2×2×2×2×2=64倍に数値が増加してしまう危険な値であり、4月7日に安倍首相が「東京、このままなら1カ月後に8万人感染」と記者会見したわけです。

「東京、このままなら1カ月後に8万人感染」首相が会見
https://www.asahi.com/articles/ASN476FLZN47UTFK02V.html

いずれにしても、グラフから現在の東京都感染者数の倍加時間は11日まで抑えられております。



■東京都の感染者数倍加時間10日の持つ意味

新型コロナウィルスに対して、世界各国が自国の感染者数の倍加時間(doubling time)にこだわっているのは、自国の倍加時間、感染者が倍増する日数が10日、5日、4日、3日、2日とそのペースが拡大していくと、自国の「感染者爆発」が現実味を帯びるからです。

国際比較すると感染者10万人を超える「指数関数」的な感染者爆発を招いてしまったアメリカやイタリアなどでは、倍加時間が2日で倍増するペースを記録しているからです。

AFP記事によれば、イタリアの感染者が2日間で倍増したのは3月2日のことです。

イタリアの新型コロナ感染者、2日間で倍増 計1694人に
2020年3月2日 11:13
https://www.afpbb.com/articles/-/3271081

イタリアに遅れて感染者が爆発したアメリカでは、3月19日には、2日で2.5倍を記録しています。

新型コロナ感染者、米でも1万人突破 2日で2.5倍に
2020/3/20 1:29 (2020/3/20 7:21更新)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57050020Q0A320C2000000/

ここに来て日本も感染者数が1万人を超えましたが日本全体の倍加時間は10日です。

驚くべきことに、上記記事にあるとおり、アメリカが1万人突破したときの倍加時間は、2日で2.5倍ですから倍加時間1.6日という値だったのです。

感染者が2日で倍増してしまえば、結果的にですが海外事例では感染者数10万人を突破する「感染者爆発」は避けられていません。

・・・

最後に東京の「倍加時間10日」という値について考察します。

この値を維持するとすれば、最初の細菌の増殖の例と同様の爆発がやがて起こりましょう。

10日で2倍なら、1月(30日)では、2の三乗すなわち8倍になります。

現在3000人の東京の感染者は1月後に24000人になります。

東京の感染者は、2ヶ月後には24000人の8倍、192000人と現在のニューヨーク並みに感染者は増加する予測が成り立つのです。

指数関数的に増加している限り、倍加時間が2日であろうと10日であろうと、それは拡大のペース(日数)の違いだけであり、やがて「感染者爆発」が起きてしまう危険な状態であることには実は違いありません。

だがしかし、倍加時間をできうるかぎり遅延させることで、実は指数関数的爆発を避けることが可能です。

現実には、グラフでは計上していませんが、その間、完治する感染者の割合が増えていくわけですから、疫学的には重要な意味があります。

次の式の右辺をマイナスにすれば「爆発」は避けられるわけです。

新規に増える感染者数 = 発生する感染者数 ー 完治する感染者数

今の中国や韓国が、右辺がマイナス、すなわち、発生する感染者数より完治する感染者数の方が大きく、アクティブな感染者総数が減ってきているのだと推測されます。

今週、来週の2週間の感染者数推移を見守りたいと思います。



(木走まさみず)