木走日記

場末の時事評論

村上春樹的「ここだけ表現の自由」テクニックの構造〜村上春樹さんの大江健三郎化が止まらない!

 さて、村上春樹さんの大江健三郎化が止まりません。

 かつておそらく最も下衆で下品な村上春樹論であるとの多くの罵声と一部の称賛を浴びた当ブログの「村上春樹さんを熱く考察する」シリーズでありますが、ネット上で顰蹙(ひんしゅく)を買ってまいりました、未読の読者はご一読あれ。

関連エントリー

2015-04-23 村上春樹発言に見る見事なストラテジー&タクティクス
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20150423
2015-04-07 深遠なるテーマ「村上春樹大江健三郎化する理由」を熱く考察する
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20150407
2012-09-30 「利(益)は中国に有り」〜尖閣で日本政府批判をする無責任なアウトサイダーたち
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20120930

 で、村上氏の新作「騎士団長殺し」(新潮社)が思わぬ波紋を呼んでいるのであります。

 論議を呼んでいるのは第2部、謎に包まれた登場人物「免色(めんしき)」のセリフです。

 この免色は物語のキーとなるキャラクターで、白髪の54歳の独身男性であります。

 でこの男、ある人物の過去を語る中で〈南京虐殺〉に触れ、主人公の肖像画家に対し、日本軍が降伏した兵隊や市民の大方を殺害したなどと説明します。

 その上で、免色は、

 「おびただしい数の市民が戦闘の巻き添えになって殺されたことは、打ち消しがたい事実です。中国人死者の数を四十万人というものもいれば、十万人というものもいます」

 と語るのです。

 よ、四十万人、ですと?

 犠牲者数を過大に膨らませている中国の南京大虐殺紀念館でさえ「30万人」なのにそれを上回る「四十万人」なのであります。

 ネット上でも賛否両論起こりながら、さっそく中国・人民日報サイトも好意的に報道しておるようでありますね。

(関連記事)

2017.3.7 17:12
村上春樹さん新作、「南京事件」犠牲者「四十万人というものも」で波紋 中国・人民日報サイトも報道
http://www.sankei.com/life/news/170307/lif1703070034-n1.html

 ・・・

 これですねえ、「小説の中のキャラクターのセリフにすぎない」、そもそもファンタジー作品なのであり、「言論の自由」「表現の自由」で守られるべき創作作品の中のひとつの描写にすぎない、との「正論」があるわけです、「神聖なる芸術の領域に汚らわしい大人のイデオロギーを持ち込んで批判するな」との「正論」であります。

 それはそのとおりなのですけど、村上春樹さんのテクニカルなところは、実は小説の中の人物に「汚らわしい大人のイデオロギーや事実」で固めながら一部だけ神聖なる芸術の領域であるファンタジー的要素を組み込んでいるところなのであります。

 つまりです、図解すると、「かつて中国の南京で日本軍が降伏した中国人をたくさん殺害した。その数は四十万人とも言われている。」という発言骨子の構成は、「中国南京」という現実の地名と現実の戦闘があった史実のもとに、文中で「打ち消しがたい事実」と指摘した「日本軍が降伏した中国人をたくさん殺害」した「事実」を固めた上で、死者数は「40万人」とここだけファンタジー(ここだけ表現の自由)が適用されているわけです。

■(図解)村上春樹的「ここだけ表現の自由」テクニックの構造

 これはずるい、もとい高等なテクニックです。

 素晴らしいです。

 ノーベル賞獲得を目指して、村上春樹さんの大江健三郎化が止まりません。

 巨大なる市場でもある中国人民への迎合を、もはや隠さなくなった村上氏なのであります。



(木走まさみず)