木走日記

場末の時事評論

新聞コラムは結語がすべてだ!!〜朝日『天声人語』と産経『産経抄』をメディアリテラシーしてみる

 今回はメディアリテラシーの素材として2つの新聞コラムを取り上げてみましょう。

 まずは、我らが朝日新聞の11日付け『天声人語』から。

 あえて結語を空欄にしてご紹介。

 美談調や英雄視は、だれよりも本人が迷惑だろう。ただ、背負わされた責任とストレスはいかばかりだったかと思う。人間の創りだしたものが人間を呑(の)み込もうとする修羅場で陣頭指揮をとった。文字どおり「最後の砦(とりで)」だった▼おととい亡くなった福島第一原発の事故発生時の所長、吉田昌郎(まさお)さんに重なる故人がいる。28年前の夏に墜落した日航ジャンボ機の機長、高浜雅己さんである。背景も状況も異なるが、ともに制御不能となってのたうつ巨体と必死に格闘を続けた▼日航機は、垂直尾翼が壊れたという致命的な出来事を知り得ぬままだった。「これはだめかもわからんね」という機長の声をボイスレコーダーは拾っている。福島原発も内部の様子は分からない。「これで終わりか」と吉田さんは思った▼そういえばジャンボも、あの事故まで安全神話に包まれていた。まことしやかな神話が崩壊するたびに、文明の墓場のような光景が繰り広げられる。技術者として人間として、吉田さんにはもっと色々語ってほしかった▼本社命令に逆らって海水注入を続けなければ、結果はさらに悲惨だったかも知れない。「あの人だから団結できた」という現場の声も聞く。それでも福島の被害は、かくも甚大である▼折しも訃報(ふほう)の前日、電力4社は原発10基の再稼働を申請した。しかし緊急時の作業者の被曝(ひばく)限度などは、具体的な検討が進んでもいない。ご冥福を祈りつつ思う。(−−−A−−−)

http://digital.asahi.com/articles/TKY201307100621.html

 さて文末の(−−−A−−−)には結びの一文が入るのですが、新聞コラムのような字数の限られた小文では、落語の小話と同様で最後の一文が命なわけです、落語で言えば落ち(おち)であります

 時間が無いときは最後の一文を読むだけで実はその新聞コラムの著者が何を主張したいのかわかるわけです。

 この『天声人語』がいやらしいのは、冒頭で「美談調や英雄視は、だれよりも本人が迷惑だろう」と断りながら、死去した吉田昌郎(まさお)さんの生前の功績を28年前の日航機事故の薀蓄(うんちく)を紐解きながらふれつつ、自己の主張にさりげなく誘導しているところです。

 結びの一文Aの正解はこれです。

「身を挺(てい)しても」の気概頼みで原発を操ってはならない。

 天声人語』という意味は「民の声、庶民の声こそ天の声」らしいですが、もうその名前自体が朝日新聞の傲慢な上から目線体質を体現しているようで香ばしいわけですが、このコラムは、有名人の死を利用しつつ要は、電力4社原発10基の再稼働申請にいちゃもんを付けているわけです。

 『天声人語』だけでないのですが新聞コラムはときにしばしば、このように有名人の死を取り上げつつ自己主張に利用するというお下品な論の展開をするわけですが、11日付け『天声人語』はその典型といえましょう。

 で、次に取り上げたいのは孤高の右派メディア我らが産経新聞の10日付け『産経抄』から。

 やはり、あえて結語付近の一箇所を空欄にしてご紹介。

7月10日
2013.7.10 03:34 [産経抄

 梅雨の最中だった6月中旬、本紙に載った加地伸行さんのコラム「古典個展」にヒザを打った読者も多かったに違いない。テレビで梅雨を「うっとうしい」などと邪魔者扱いする。だがわが国にとって梅雨は大歓迎すべきものではないかという。

 ▼梅雨のおかげで田植えができ、稲作が可能になる。そうやって日本人は生きてきた。だが都会人が激増し、そんな日本列島と雨との関係を忘れてしまった。都会地の学校では、国と梅雨との関係を教える一方、感謝するという道徳を身につけさせるべきだと述べておられた。

 ▼同じようなことが毎年の暑さにも言えるかもしれない。米作りには雨とともに夏の高温も必要であるからだ。特に北日本では「冷夏」の方が大敵だった。東北の詩人、宮沢賢治は『雨ニモマケズ』で「サムサノナツハオロオロアルキ」とうたったのである。

 ▼しかも夏は勝負どきだった。倉嶋厚さんの『季節おもしろ事典』によれば、日本人が避暑に行きだしたのは、明治にお雇い外国人をまねてからだ。「夏は田の草取りの季節。だから暑さを避けて仕事を休むという発想は日本人からは生まれてこなかったのであろう」という。

 ▼むろん現代の都会の暑さは、当時とは比べものにならないのかもしれない。梅雨に降り過ぎれば、時に水害を招くように、あまりの暑さは熱中症の人を続出させる。今月に入り急な猛暑となった今年は、1週間に全国で2500人以上が運ばれる事態となった。

 ▼少しでも涼しくなる知恵を出し合い、猛暑を乗り切りたいものである。一方でこの暑さとともに生きてきたのが日本人の歴史だ。今の時間も、田畑の手入れに、救急患者の搬送に、(−−−B−−−)、多くの人が大汗をかいているのだ。

http://sankei.jp.msn.com/life/news/130710/trd13071003340000-n1.htm

 うむ、梅雨や夏の暑さは邪魔者扱いしてはいけない、実は稲作などで必要なものであると、論を展開しつつ、「今の時間も、田畑の手入れに、救急患者の搬送に、(−−−B−−−)、多くの人が大汗をかいているのだ」と結論に読者を誘導する産経抄子さんなのであります。

 で、空欄Bの正解がこれです。

 尖閣諸島の守りにと

 ・・・

 うーむ、さすが孤高の右派メディア我らが産経新聞です。

 ここで文脈をワープして突然の「尖閣諸島の守り」です、ほぼ無理筋な結語となってしまっています。

 産経抄子さんがいいたいことは良く理解できます、今この酷暑の中でも海上保安庁自衛隊の人達が一生懸命「尖閣諸島の守り」で「大汗をかいている」わけです。

 でもこの強引な結語は、プロの文章としては残念ながらいただけないでしょうね。

 私は個人的にこの強引さは産経抄らしく(苦笑)て嫌いではありません。

 ・・・

 今、検証したように、結びまでの誘導に成功しようが失敗しようがお構いないのです、つまり新聞コラムは結語がすべてなのであります。 



(木走まさみず)