木走日記

場末の時事評論

マスメディアはなぜ今回の石原都知事のヘイトスピーチを批判しないのか〜「『(この中で)帰化された人はいますか』『与党は帰化した子孫多い』

 18日付け朝日新聞記事から。

外国人参政権「先祖へ義理立てか」 石原知事が与党批判

2010年4月18日11時2分

 石原慎太郎東京都知事は17日、東京・大手町のホールであった永住外国人への地方参政権付与などに反対する集会で、親などが帰化した与党幹部が多いとした上で、「ご先祖への義理立てか知らないが、日本の運命を左右する法律をまかり通そうとしている」と発言した。

 石原知事は、出席した自民党の地方議員ら約450人に「帰化された人や、お父さんお母さんが帰化された、そのお子さんという議員はいますか」と質問。「与党を形成しているいくつかの政党の党首とか、大幹部は多い」と話した。

 石原知事はこれまでも、地方参政権付与反対を繰り返し発言しており、この日は「参院選では、まさに外国人に参政権を与えるか与えないかが問題になる」とも述べた。

http://www.asahi.com/politics/update/0418/TKY201004170390.html

 同じ石原都知事発言を扱った18日付け東京新聞記事から。

『与党は帰化した子孫多い』 石原知事 
2010年4月18日 07時06分
 民主党などで検討されている永住外国人への地方参政権付与をめぐり、東京都の石原慎太郎知事が十七日、都内の集会で「帰化された人、そのお子さんはいますか」と会場に呼び掛けたうえで、「与党を形成しているいくつかの政党の党首とか与党の大幹部は、調べてみると多いんですな」と発言をした。
 発言は、自民党を中心とした地方議員ら約五百人が参加して千代田区内で開かれた「全国地方議員緊急決起集会」の席上であった。「(帰化した人や子孫が)国会はずいぶん多い」といい、根拠を「インターネットの情報を見るとね。それぞれ検証しているんでしょうけれど」と人物は特定せずに説明し、与党にも言及した。
 石原知事は「それで決して差別はしませんよ」としながらも、続けて朝鮮半島の歴史に触れ、韓国政府が清国やロシアの属国になるのを恐れて「議会を通じて日本に帰属した」として一九一〇年の日韓併合を韓国側が選んだと話し、「彼らにとって屈辱かもしれないけども、そう悪い選択をしたわけではない」などと述べた。
 その上で、「ごく最近帰化された方々や子弟の人たちは、いろんな屈曲した心理があるでしょう。それはそれで否定はしません。その子弟たちが、ご先祖の心情感情を忖度(そんたく)してかどうか知らないが、とにかく、永住外国人は朝鮮系や中国系の人たちがほとんどでしょ、この人たちに参政権を与えるというのは、どういうことか」と批判した。
 石原知事は、平沼赳夫衆院議員らの新党「たちあがれ日本」を支援、反民主の保守政治回帰を訴えている。
東京新聞

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2010041890070655.html

 「帰化された人、そのお子さんはいますか」と会場に呼び掛けるという行為そのものが、典型的な人種、宗教、ジェンダーなどの要素に起因する差別化を促す悪質な発言であり、これはヘイトスピーチと捉えられても仕方がないでしょう、政治家としてあまりにも無神経な暴言であります。

 また帰化した人が「与党を形成しているいくつかの政党の党首とか、大幹部は多い」というこの発言も、根拠は「インターネットの情報」(東京新聞)とは、個人を特定してはいないもののあまりにも無責任な発言であります。

 私は現時点での永住外国人への地方参政権付与問題では反対の立場ですが、この石原都知事の話す狭量な国粋主義レイシズム発言は冷静な議論を放棄し低レベルなナショナリズムを扇動している点で嫌悪いたします。

 ・・・

 今回の石原氏の醜い発言から、私はかつて石原氏陣営がしでかした「黒シール事件」を想起します。

黒シール事件
出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

 黒シール事件とは、第37回衆議院議員総選挙の選挙活動期間中に、立候補者新井将敬のポスターに対して石原慎太郎の公設秘書がシールを貼付した公職選挙法違反事件である。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%92%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%AB%E4%BA%8B%E4%BB%B6

 1983年の衆議院議員総選挙に東京2区からは自民党は、石原慎太郎氏と初出馬の新井将敬氏の二人が立候補します。

 結果的には石原氏がトップ当選、新井氏は落選するのですが、この選挙で、何者かが新井の出自を「元北朝鮮人」とする流言を新井の選挙ポスターに貼り付ける黒シール事件が起こります、シールには「帰化人は立候補するな」とか「新井は北朝鮮のスパイ」と指弾する内容が書かれていました。

 石原氏は当初「我は関知せず」と開き直っていましたが、調査の結果、石原陣営の公設秘書が指揮していたことが判明すると、、「秘書が勝手にやった」ことと変節、さらに民族的出自を誹謗したことに関しては「選挙民は立候補した人のパーソナルヒストリーを知る権利がある」と釈明しました。

 この石原氏の弁明は2重に間違っています。 いかなる理由でも選挙ポスターにシールを貼る違法行為は正当化できないし、さらに石原氏のいう「パーソナルヒストリー」そのものがひどい捏造だったのです。

 新井将敬氏は、確かに16歳の時「朝鮮籍」から日本に帰化していますが、この「朝鮮籍」とは北朝鮮籍のことではまったくありません、「旧朝鮮戸籍登載者及びその子孫(日本国籍を有する者を除く)のうち、外国人登録上の国籍表示を未だ『大韓民国』に変更していない者」というに過ぎず、法的には北朝鮮と何らかの関わりがあるわけではなく、石原陣営の張った違法シールにある「新井は北朝鮮のスパイ」は全く根拠のないガセネタであることは言うまでもありません。

 本件では石原氏の公設秘書が送検されますが、石原氏自身は何の責任もとらず今日に至っています。

 1998年自殺いたしてしまいますが故新井将敬氏は、石原陣営が批判するような「北朝鮮のスパイ」ではもちろんなく、自民党の将来をになう若手保守政治家として、この国のことを本当に真摯に考えていた人物でした。

 選挙で対立候補を貶めるためには、変えられない出自のことを捏造してまで責める、この卑劣な行為は当時、保守陣営からも大顰蹙(ひんしゅく)を買ったものでした。

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 石原氏の本音は「黒シール事件」のときから変わっていないのでしょう、「帰化人は立候補するな」というレイシズム的主張が核心でしょう。

 同じ日本人として個人的にひじょうに不快です。

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 しかし、マスメディアはなぜ今回の石原都知事ヘイトスピーチを批判しないのか。

 一部(朝日・東京)は客観報道に留め、大半は発言自体を取り上げていないのはなぜか。

 このような発言を批判できずに「社会の公器」を自称することは許されません。



(木走まさみず)