木走日記

場末の時事評論

鳩山政権はフィリピン・アキノ政権の蹉跌を思い出せ

 外交というものは原理原則を重んじつつも国益を守るためには、私は政治家というものは、ときにはしたたかに現実主義者として妥協したり譲歩したり振る舞うべきだと考えますが、暗礁に乗り上げてしまっている普天間基地問題に代表される日米同盟関係における鳩山政権が掲げている「対等な日米同盟関係」なるモノは具体的には一体何を指すのか今ひとつ理解できないのであります。

 ご存知のように憲法九条の制約を持つ日本と大国アメリカが結ぶ安全保障条約は、有事の際は一方的にアメリカだけが日本を守る義務を有する非対称条約であり、ために平時には日本が米軍駐留費用を応分負担するというものであります。

 現状は善し悪しはともかく少なくとも軍事的には「対等」でも「平等」でもあるはずはなく、では何をもって「対等」となすべきなのか、鳩山政権は具体的な策を示してはいません。

 ひとつは有事の際「対等」に他国を防衛する義務を日本も持つことです、これはアメリカが戦争状態になると同盟国日本も自動的に戦時となるわけですが、この場合明らかに憲法改定の必要があります。

 もうひとつは、逆に有事の際、「対等」に防衛義務は生じない、これはもはや軍事条約ではないに等しいですが、アメリカの核の傘からの離脱を計る結果となります。

 どちらの対等関係も、結果日本は今よりも莫大な軍事費を掛けて自主防衛力を高める必要が出てきそうです、現在の5兆弱の防衛予算はすぐに欧米並に2倍、3倍必要となるでしょう。

 この不況時に民主党政権にそれができるのか。

 私は日米軍事同盟べったりであったこれまでの日本政府の方針から、大きく東アジアに軸足を移す民主党政権の方針そのものは、マクロ的には評価しています、いつまでも大国とはいえないだろうアメリカだけを頼るのではなく、多国間主義に日本が緩やかにシフトすべきなのは時代の趨勢を捉えているとも思います。

 これからの21世紀の日本はマルチラテラリズムを標榜すべきだと思うからです。

 過去の当ブログエントリーよりその当たりの論説を抜粋してご紹介。

集団的自衛権」問題〜ユニラテラリズムマルチラテラリズムの狭間

(前略)

 ・・・

 日本は有史以来、いわゆる多国間主義・マルチラテラリズムを政策として持ったことは現在まで一度もないのであります。

 孤立主義か1対1同盟の経験しかほとんどないこの国で、マルチラテラルな政策がはたして国民の理解を得ることができるのか、安直にそのような政策を口にすると、ともすると反米主義、媚中主義と誤解を受けやすいのであります。

 しかし、ドイツの例を見ても、実際には多国間主義・マルチラテラリズムとは、自国の自主的な判断がしっかりと担保される点で「売国」的な同盟関係とはまったく異なるのであります。

 逆に力の差がある2国間同盟において「集団的自衛権」を明文化した場合のほうが、

自国の自主的な判断がヘタをすると担保されない可能性があるのです。

 もちろん私は現在の日米同盟を戦後日本にとりその安全保障上の政策としては他に選択肢はまったくなかったという点で肯定的に評価しています。

 そして今現在もヨーロッパほどには成熟していないこの東アジアにおいては、今現在、日本はその日米同盟重視政策を転換する必要性はないとも考えています。

 ただただ、現段階での日本の同盟国がアメリカだけである事実をまえに日本の「集団的自衛権」の議論はくれぐれも慎重にしてほしい、そう願っているのであります。

 戦後日本の62年にわたる平和的な歩みと曲がりなりにも世界第二位の経済大国として豊かになった日本は、この21世紀には、マルチラテラリズム・多国間主義の国家を目指すべきだと考えているからです。

http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070427

 マルチラテラリズム・多国間主義の国家を目指すのはいいです、しかし、鳩山政権が掲げている「対等な日米同盟関係」なる方針はあまりにも段取りが悪く、普天間基地問題一つ取り上げてもいまの時間延ばしは失礼ながら稚拙な幼稚な愚策であると思えてなりません。

 アメリカの軍事力をとことん利用しつつ現実的な対応をするべきです。

 ここに20年前、政権交代を機にアメリカとの軍事関係がこじれてアメリカ軍撤収により、一部領土を中国にあっというまに占拠された失敗事例を有する国フィリピンがあります。

 電子化されていないようですが、16日付けの日経新聞紙面一面記事より。

(前略)

 フィリピンでは1986年に親米マルコス政権を倒して就任したアキノ大統領のもとで対米関係が悪化。相互防衛条約は空洞化した。米西戦争統治権を得てから通算すると1世紀近く駐留してきた米軍は91年に撤収を決めた(完了は94年)。
 ルソン島クラーク空軍基地とスーピック海軍基地は米軍にとって国外最大の軍事施設だった。国防総省はアジア太平洋における安保戦略上、不可欠な存在と主張。だが当時のホワイトハウスは、火山噴火で損傷した施設の再建費も考慮し、南シナ海の防衛線をグアムまで後退させた。
 軍事力の空白を突いたのが中国だ。帰属が不明確な南沙、西沙などの島々に次々に部隊を送って実行支配。慌てたフィリピンは米軍呼び戻しに動いたが、米側は「いまさら」と応じなかった。かろうじて2000年に共同軍事演習が復活した。

(後略)

揺れる日米安保 ▲下 『縮小論、米にくすぶる』〜日本経済新聞12月16日

 米軍事同盟を破棄し一部領土を中国に占拠されたフィリピン政権の蹉跌を忘れるべきではありません。

 鳩山政権は本気で対等な日米関係を求めているのならば、アメリカを立てながら、したたかにしかし軍事的空白を生じることなく確実にじっくり安定した外交策を選択すべきです。

 方針転換の結果を求めるのが、外交分野で急ぎすぎのようです。



(木走まさみず)