木走日記

場末の時事評論

「超」現実主義者ドナルドトランプ新大統領誕生!〜おそらく彼は同盟国との信頼関係を重視しないだろう理由

 トランプ氏がアメリカの新しい大統領になることが決まったここ数日のことなのですが、当ブログへのアクセスにちょっとした興味深い動きがありました。

 当ブログが提携している産経新聞運営のウェブサイト"iRONNA"がありますが、そこに昨年8月に掲載いただいた私の下記の論説からの当ブログへのアクセス数が急増したのであります。

中国メディア「日本には実験なしで核兵器開発できる能力がある」は本当か
木走正水
http://ironna.jp/article/2808

 この記事はタイトル通り、中国メディアが日本の核兵器開発能力に警鐘を鳴らす報道をしたことを受けて、その内容をできうる限り冷静に検証したものです、関心ある未読の読者はぜひご一読あれ。

 この記事の中で私は日本にその意思があるならば「日本の核武装は早期に実現可能」と結論づけています。

 国民が核を持つ意思をしめし、憲法が改定され、同盟国の同意を得て、特にアメリカが技術的に協力してくれる、というおそらく有り得ないだろう仮定で考えてまいりましたが、「日本には「実験なし」で核兵器開発できる能力がある!」という中国発の論説ですが、ある程度当っていると当ブログは考えましたが、はたしてどうでしょうか?

 いずれにしても日本の有する技術力をもってすれば、核爆弾を持つという国民の総意・意思が固まれば、それは早期に実現可能であろうと思われます。

 昨年8月のエントリーですが、この記事は地味にネット上で話題をいただきました。

 それはともかく、トランプ新大統領の誕生と共に、日本の核開発能力はあると説いた上記エントリーに対して、保守メディア本流の産経新聞サイトからのアクセスが急増するという点が興味深かったのであります。

 言うまでもなく、このアクセス急増は一部日本の保守層がトランプ新大統領誕生で日本の自主防衛を強く意識したことによるものと推察可能でしょう。

 トランプ氏が乱暴にも「日本は日米安保にタダ乗りしているじゃないか」「米軍駐留費を全額負担しなければ米軍は日本撤退だ」「日本は核兵器を自前で開発・保有すればいいじゃないか」等の発言を、選挙序盤戦にて吠えまくったからであります。

 ネット上においても、トランプ大統領の誕生は、日本の「対米自立」「自主防衛」の新時代の幕開けとして積極的にとらえるべきとの論説も見られます。

(参考エントリー)

古谷経衡
トランプ政権誕生へ〜戦後日本「対米自立」「自主防衛」の新時代に〜
http://blogos.com/article/197351/

 失礼してエントリーの結びの部分を引用、ご紹介。

もう北朝鮮のミサイル発射にも、中国の海洋進出にも、あらゆる外交課題について日本はアメリカに頼ることはできない、と考えて臨むよりほかない。日本の後ろにもうアメリカは無いのだと覚悟するよりない。もう与野党で馬鹿な議論、誹謗合戦をしている暇はない。日米同盟を経済的な損得で考えることも難しくなった。挙国一致でアメリカを頼らない「自主防衛」の構築を、たとえ防衛費の負担が多かろうと、急がなければならない。

しかしこれは、当たり前のことなのだ。自分の国のことを他国に憚らず自分で決め、自分で守るのは、トランプ(大統領)に言われることなく、自明の理屈なのである。

アメリカに頼って、アメリカに守られながら生きる日本の時代、つまり「戦後」は、2016年11月9日のきょう、終わったのである。

 このような論説に対し、自民党石破茂氏は、保守政治家として、「自主防衛とか核保有などという荒唐無稽な議論に巻き込まれてはな」らないと、ネットで提起された過激な論を諌めています。

(参考エントリー)

石破茂
米大統領選など
http://blogos.com/article/197661/

 失礼してエントリーの当該部分を引用、ご紹介。

 いずれにせよ、我が国は、政治経験も軍隊経験も全くない初めての大統領と向き合うことになります。米国から言われたからもっと負担を増やすとか、今でも十分に負担しているのでもうこれ以上は払えない、などという態度で臨むのではなく、アジア・太平洋の安全保障環境と米軍の展開能力や自衛隊の能力を正確に把握した上で、日米同盟そのものをより発展的に見直すということまでを視野に入れて能動的に当たるべきです。
 自主防衛とか核保有などという荒唐無稽な議論に巻き込まれてはなりません。トランプ大統領誕生に右往左往することなく、問われているのはまさしく我が国そのものなのだという自覚が必要であり、私自身、心していかねばならないと思っています。

 なるほど、「自主防衛とか核保有などという荒唐無稽な議論に巻き込まれてはなりません。」、「トランプ大統領誕生に右往左往することなく、問われているのはまさしく我が国そのものなのだ」とは、さすがに責任ある政権与党の保守政治家の言ではあります。

 ・・・

 トランプ新大統領は「超」が付く現実主義者なのでありましょう。

 その大統領選勝利宣言ではそれまでの攻撃的な論調は全く影を潜め、あれほど批判してきたオバマ大統領との会談でも、勝利宣言時と同様の抑えたトーンで、オバマ大統領をとても尊敬していると言い切りました。

 会談は10分を予定していましたが、約1時間半に及びます。

 トランプ氏はさらに、「大統領とはこれからもっと話し合いの場を持ち、ぜひアドバイスももらいたい。大統領は、直面する困難や順調に進んでいる事項、とても素晴らしい成果などについて話してくれた」と語り、オバマ大統領に対して「今日はお話できて光栄でした。今後、何度もこのような場を設けてもらいたいと思います」とまで述べます。

 トランプ氏のこの変容に世界の市場は安心します、日経平均は前日の暴落を上回る1000円超の暴騰とあいなりました。

 彼のこの「豹変」ぶりはしかし十分に予想されたものです。

 彼は特定のイデオロギーに教条的に拘泥するタイプでは断じてないだろうし、経営者として現実に即して経営戦略を立案しそして目の前の現実の変化に対応しその方針を絶えず修正、ときにそれまでの方針を撤回、180度変更することにも躊躇はしなかったことでしょう。

 日本ではなぜかメディアにあまり取り上げられないのですが、トランプ氏が実は2009年までは民主党員であったことを、当ブログは重視しています。

 半年前のエントリーで、トランプ氏がおそらく「超」現実主義者であることとともに、この事実を指摘しました。

(参考エントリー)

2016-03-10 米大統領選で主要候補者たちに伝播している対日批判は一過性のものか
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20160310

 トランプ氏は若い頃民主党党員であり後年になり(2009年までは民主党員)政治的に転向しているのであります。

 トランプ氏は、おそらく掲げる政策に拘泥することなく、現実主義的に対処しうる柔軟性を有していると感じます、ポリシーが軟弱といいますか、いい表現をあえて使えば現実に即して対応する適応力に秀でていると思われます。

 特に、長年企業経営者として「不動産王」の地位まで成功させた手腕は、教条的な固い頭では不可能なのであり、「超」がつく現実主義的経営手法をとってきたはずです。

 ですから当選後の彼のこの「豹変」ぶりは十分に納得できるのです。

 彼は選挙戦を通じて過激な言動を繰り返し共和党本流の保守派まで敵に回して「やんちゃなトランプ」を演じてきました。

 おそらくそれが政治経験ゼロで泡沫候補に過ぎなかった彼にとって、共和党予備選に勝ち残り本選でクリントン民主党候補に競り勝つための唯一無二の「現実」的選挙戦術だったのでしょう。

 実際得票率ではクリントン候補が上回っています、トランプ陣営にとっては、いっぱいいっぱいの薄氷を踏む思いの勝利だったことでしょう。

 現実主義の彼の戦術はこうしてギリギリの成功を収めました。

 しかし副作用も残します、敵を作りすぎたのです。

 過激な彼の発言は、マイノリティの反感を買いまくり、ポリティカルコレクトネスにこだわるアメリカのマスメディアをほぼすべて敵に回すことになり、ついには同じ共和党主流派の反発・離反まで引き起こしてしまったわけです。

 選挙戦術として敵を作り過ぎてしまった彼は、来年一月までは、「超」現実主義者として、徹底的にそれまでの発言を軌道修正してくることでしょう。

 繰り返しますが彼は教条的にイデオロギーに固守するような政治家ではありません、政治家として公約を守らなければならない、という類のこだわりはほとんど希薄でありましょう。

 ただしです。

 彼自身は「超」がつく現実主義者だとしても、今回彼を熱烈に支持した有権者たちは当然ながら彼とは気質が異なります。

 彼が現実主義者としてこだわりなくそれまでの主張を軌道修正したとして、やがて度が過ぎれば彼の支持者たちの猛烈な批判が巻き起こることでしょう。

 現実主義者の彼が、そのような事態を自ら招いてしまうようなことは、少なくとも最初の2年間は徹底的に避けることでしょう、おそらく彼は歴代大統領の中で最もその「支持率」に忠実に振舞う大統領になるのではないでしょうか。

 だとすれば、ときに彼は選挙戦のときに彼が敵に回した中国やメキシコなどの諸国、日本や韓国などの同盟国、そしてイスラム教徒やその他マイノリティにとって、不利益な政策を先祖返りするように唐突に打ち出すことも十分に考えられましょう。

 「温厚」になったはずのトランプ大統領が突然「やんちゃ」に戻り、世界を振り回す可能性は十分にあります。

 おそらく彼は同盟国との信頼関係よりも、自身の「支持率」にこそ忠誠を尽くすはずです。

 その意味で日本は彼との距離感は十分に確保したスタンスが必要です。

 トランプ政権とは、日本としてアメリカの忠実な同盟国として意思の疎通をしっかりはかりながら、しかし決してトランプ政権のすべてには無条件に従わない、国家としての自主的な判断が今以上に日本に求めらることになるでしょう。

 トランプ氏、同盟国にとって、これまでにない扱いづらい大統領になると予想します。



(木走まさみず)