木走日記

場末の時事評論

尖閣で日本が先に命を賭けなければ日米安保条約は発動しない

 前回のエントリーで当ブログでは、共産党機関紙「しんぶん赤旗」の記事を引用するなどして、「尖閣では日米安保条約は発動せず」ことを前提に日本政府は冷静に対処していくことが必要ではないかと、問題提起しました。

尖閣では日米安保条約は発動せず」との前提で日本政府は冷静に対処していくことが必要
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20120918

 安保条約が発動するかしないか、このことは島国である日本の今後の島嶼防衛全体に関わる重大なテーマでもあります、そこで今回はこの核心的テーマである「尖閣日米安保条約は発動するのかしないのか」について、読者のみなさまと一緒にもう少し深く考察してみたいと思います。

 先に来日したパネッタ氏ですが、尖閣諸島への日米安保条約の適用については「我々は条約上の義務を守る」としたうえで、「主権に関する対立では特定の立場をとらない」と尖閣については中立である立場も合わせて表明しています。

 これに対して共産党機関紙『しんぶん赤旗』が17日付けでスクープ記事を起こしています。

米、「尖閣」は中立
“安保適用”と解釈 解禁文書に明記

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-09-17/2012091702_01_1.html

 記事によれば、米国務省が72年3月に作成した公式文書が米情報公開法に基づいて公開され、そこに「米国はあくまでも中立」としたうえで、米軍は尖閣諸島を「防衛」するという「解釈」を日本側に与えるとの立場としています。

 米国務省が72年3月に作成した「報道手引」(注)は「(日中間の)尖閣諸島の領有権争いについて中立であるという米国の基本的な立場に変更はない」との立場を示した上で、安保条約が適用されるかどうか問われた際「安保条約の条項は“日本施政下”に適用される、それゆえ尖閣諸島にも適用されると解釈できるようにこたえるべきである」と明記しています。

 米軍は尖閣諸島を「防衛」するという「解釈」を日本側に与えるとの立場です。

 米国務省は現在もこの立場を踏襲しているように思われます。

 このあいまいな「米軍は尖閣諸島を『防衛』するという『解釈』を日本側に与えるとの立場」との表現をどう解釈するかで、当ブログとしては前回「米軍基地がある日本本土や沖縄本島への攻撃に関してはアメリカは参戦するが、無人島である尖閣が攻撃された場合、実際には米軍は動かない可能性のほうが高い」と結論付けました。

 今回はこの部分をもう少し掘り下げて検証いたしましょう。

 ここに今年の3月22日に防衛省が東京で主催した「日米同盟」シンポジウム、「米新国防戦略指針と在沖米海兵隊の意義」の詳細な内容がネットでPDFファイルで公開されています。

「日米同盟」シンポジウム
米新国防戦略指針と在沖米海兵隊の意義
普天間飛行場移設問題の展望〜
2012 年3 月22 日
http://www.mod.go.jp/j/approach/anpo/symposium/report.pdf

 この中で元外務省国際情報局長で元防衛大学校教授である孫崎享氏がこう発言しています。

次に、尖閣の問題を考えてみましょう。安保条約第5 条に「日本国施政下への武力攻撃には自国の憲法に従い行動する」とあり、2005 年2+2 では、「島の防衛は日本側の責任」となっています。仮に尖閣が取られたとしても、自動的に安保条約を発動してアメリカ軍が介入するという問題ではないというモンデール氏の発言が報道されました。尖閣の領有権の問題について、米国は中立です。中国が攻撃する、自衛隊が守りきれない場合、中国が押さえ続けたら管轄権は中国にいきます。「日本が自ら守らなければ(日本の施政下でなくなり)我々も尖閣を守ることは出来なくなるのですよ。」(『日米同盟VS.中国・北朝鮮』)
私はこのアーミテージ元国務副長官の発言は極めてロジカルだと思っています。

 つまり2005年の日米の防衛取り決めで「島の防衛は日本側の責任」が決定されており、「仮に尖閣が取られたとしても、自動的に安保条約を発動してアメリカ軍が介入するという問題ではない」というモンデール発言を紹介しています。

 さらに「日本が自ら守らなければ(日本の施政下でなくなり)我々も尖閣を守ることは出来なくなる」とのアーミテージ元国務副長官の発言を「極めてロジカル」と評価しています。

 このシンポジウムにはウォレス・チップ・グレグソン元米国防次官補とパトリック・クローニン前米国防大学戦略研究所所長の二人の米軍事専門家が参加していますが、上記の孫崎氏の発言内容にその後異論はでていません。

 さらにパトリック・クローニン前米国防大学戦略研究所所長は「質問者:日本は安保条約があるから、アメリカが日本を見捨てないと信じているようだが、アメリカにはこの考えは共有されていないのではないか」という核心的質問にこう答えています。

 It is the responsibility of Japan and the United States to rescue each other. One of the challenges here is for Japan to move toward Article 6, stability and security in the Far East. The United States commitment to the defense of Japan is rock solid. China would love to find a grey area where is ambiguity like the Senkakus. The United States recognized the Senkakus as part of the mutual security treaty territories after the reversion of Okinawa to Japan. So the United States would indeed back up Japan if there were conflict over the Senkakus. But it gets into a grey area when you get into the maritime waters more than 12 nautical miles offside of the Senkakus. That is where we need to make sure there is no gap between Japan and the United States. That means Japan and the
United States need to talk about rules of engagement. There is no substitute for the prosperity and peace of Japan and the United States than the Japan-U.S. Alliance and we have to go well beyond Futenma and get to the fundamental core issues.
【仮訳】日米はお互いに共助関係にある。問題は、日本が日米安保条約第6条に述べられている極東の安定の維持に踏み出せるかどうかである。アメリカは日本の防衛にコミットしており、これは揺るがない。中国は尖閣諸島のような未解決のグレーエリアを是非見つけたいと考えている。米国は、沖縄復帰時に尖閣を安保条約の一部として認識しており、もし尖閣で紛争が起これば米国は日本をバックアップするが、尖閣から12 海里以上の海域となるとグレーエリアとなる。こうした地域では、日米間で空白が生じないよう確実にする必要があり、自衛隊と米軍が交戦規定について論議する必要がある。
日米の平和と繁栄のためには、日米同盟に代わるものはなく、普天間問題を超えて、中核となる問題に取り組んでいくべきである。

 "So the United States would indeed back up Japan if there were conflict over the Senkakus."(もし尖閣で紛争が起これば米国は日本をバックアップする)、このような表現を用いています。

 軍事的表現において"back up"は文字通り「後押し」です、素直な解釈としては「あくまでも尖閣の紛争では日本が前面に立つこと」をアメリカとしては条約発動の前提としていることを強く示唆している表現だと言えます。

 ・・・

 20日付けの産経新聞では米国議会での尖閣に触れる議論について紹介されています。

 ワシントン駐在編集特別委員・古森義久
2012.9.20 03:11
 ■尖閣危機 日本より切迫感
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120920/amr12092003120000-n1.htm

 大変興味深い内容ですが、記事から米議会議員の発言をいくつか取り上げましょう。

「中国は海洋紛争の関係諸国に対し好戦的な暴漢のようにふるまい、とくに日本に向かって官営メディアやブログが国内の反日感情をあおり、各都市で反日暴動まで起こしているが、米国はあくまで同盟国としての日本を支援します」(イリアナ・ロスレイティネン議員)

南シナ海などでの今回の緊迫は中国側が一方的に火をつけました。中国の領有権主張はいつも膨張的で根拠が不明確なのに、いままたさらに攻撃的、挑発的となった。オバマ政権は中国のアジア海域での覇権の拡張を許さないでしょう」(ハワード・バーマン議員)

「中国の独裁政権反日をあおるために、インターネットの検索でも『拷問』というと、戦時の日本軍の残虐行動の事例だけが山のように出るようにしています。古い出来事を昨日のことのように提示し、自分たちの現在の拷問はすべて隠す。日本はこうした動きに真剣な懸念を抱くべきです」(クリス・スミス議員)

「中国の西太平洋までもの覇権の追求のために海洋での軍事衝突の可能性が確実に高まってきました」(ロスレイティネン委員長)

 「米国はあくまで同盟国としての日本を支援」と全体的に中国への警戒心が強くなっており同盟国日本の地政学的重要性を再認識する発言が多いのですが、ここで注目すべきなのは証人として発言したトシ・ヨシハラ米海軍大学教授の以下の発言でしょう。

尖閣防衛の主責任は当然、日本にあり、万が一の中国の尖閣攻撃には日本が最初に自力で対処して、反撃しなければ、日米共同防衛も機能しないでしょう」

 ・・・

 アメリカは日米安全保障条約に基きアメリカ軍を動かし日本を軍事支援するためには、言うまでもなく議会の承認が必要です。

 米議会の承認を得るためには、「まず日本が主体となって防衛する。その上で米軍がバックアップする」ことが最低かつ絶対の前提条件であると、多くの発言は示唆しているのではないでしょうか。

 前回のエントリーで「尖閣では日米安保条約は発動せず」と結論付けましたが、今回の検証の結果、次のように表現をなおします。

 今の日本の尖閣諸島の防衛体制のままならば、このままでは「尖閣では日米安保条約は発動しない」可能性が極めて高い。

 警察、あるいは海保、必要ならば自衛隊施設を島に常設する等、まず尖閣を日本自身が断固防衛する体制を取らなければ、日米安保尖閣では発動しない可能性が高いと言えないでしょうか。

 条約により「アメリカの若者達の命を賭けて同盟国の土地を守る義務」を履行するアメリカの最低の条件は、「アメリカのバックアップの前に、日本国・日本人自身が命を賭けて自らの土地を守る」という当たり前のことなのではないでしょうか。



(木走まさみず)