いじめ自殺問題。日本の教育行政のことなかれ主義〜いじめに安直な「成果主義」など導入するな
●いじめ:「教育委員会は役立たず」中学校長が本音語る
昨日の毎日新聞記事から・・・
いじめ:「教育委員会は役立たず」中学校長が本音語る
学校現場はいじめになぜ向き合わないのか。東京都内の現職の公立中学校長が、多数の都道府県に広がりつつある「成果主義」に近い人事考課制度も原因になっていると本音を語った。人事評価でバツがつくのを恐れる「事なかれ校長」がおり、そんな校長から評価される教員たちも委縮する−−との指摘だ。文部科学省の統計で「いじめ自殺ゼロ」が続いてきたが、いじめを報告し難い背景が浮かび上がった。【井上英介】いじめ報道を受けて取材に応じた東京都内の公立中学校長は、「親に対し、いじめがあったとはなるべく認めたくない。教育委員会にもできれば報告したくない。報告しても問題の解決には役立たない」と本音を打ち明けた。
親に認めたくない理由は、いじめる側もいじめられる側も教え子で、一方の言い分を重視するともう一方の親から激しいクレームを受けることがあるため。自ら生徒指導の怠慢を認めることにも等しく、訴訟となった際に不利になることも懸念されるという。
一方、教委に報告したくない理由は、いじめを報告すれば、生徒の学校生活の状況や指導方法などについて膨大な調査が学校に課され、肝心の生徒指導がおろそかになるからだ。また、人事評価への悪影響を心配し、報告を嫌がる校長や教頭も多いという。
都教委や都内市区町村教委は95年度、都の管理職に適用された人事考課制度をそのまま教育管理職(校長、教頭)にまで広げ、評価によって給与に差をつける制度を初めて導入した。一部を除く大半の道府県教委が採用する。
都教委の現行ルールは校長、教頭をA〜Fの6段階で相対評価し、定期昇給額について、評価A(上位10%の校長ら)では50%アップさせ、D〜F(下位20%)は昇給を25〜100%カットする。
校長は「いじめや不登校の件数を多く報告すれば『学校経営能力』にバツが付き、相対評価が下がると言われている。考課制度は教委の顔色をうかがって現場に教委の方針を伝える『ヒラメ校長』を増やすだけ。教育現場にこれほどなじまないものはない」と嘆く。
一方、考課制度について都教委は「年度当初に決める目標の達成度を測るもので、教委の一方的評価ではない。『いじめ解消』を掲げて実現できなければ考課に反映される。だが、例えば前年までいじめゼロだった学校が真摯(しんし)な調査で多数のいじめを報告したとしても、それで評価が下がるというのは誤解だ」(職員課)としている。
毎日新聞 2006年11月15日 3時00分
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20061115k0000m040157000c.html
東京都内の公立中学校長が「親に対し、いじめがあったとはなるべく認めたくない。教育委員会にもできれば報告したくない。報告しても問題の解決には役立たない」と本音を打ち明けたそうでありますが、「いじめや不登校の件数を多く報告すれば『学校経営能力』にバツが付き、相対評価が下がると言われている。」とは、いじめられている子供やその親からすれば無責任にもほどがある呆れた「本音」なのであります。
しかしながら事態が深刻なのは、そもそもこのような事なかれ主義の教育行政は何も東京都に限ったことではないし、この中学校長から「役立たず」と名指しされている「教育委員会」も、事なかれ主義そのものであり自分たちの評価が落ちないように「臭いモノには蓋をする」体質なのであります。
●発生当日にいじめ把握 滝川小6自殺で道教委
本日の東京新聞記事から・・・
発生当日にいじめ把握 滝川小6自殺で道教委
北海道滝川市の小学校6年生の女児=当時(12)=が昨年9月、いじめを苦に自殺した問題で、北海道教育委員会が女児が自殺した当日に、いじめをうかがわせる遺書の内容を把握していたことが16日、分かった。道教委は当初、把握した時期をことし6月と説明し、その後、昨年10月には知っていたと訂正。さらに自殺当日に報告を受けていたことを担当者が16日認めた。発生当初から把握しながら適切な対応をとらず、市教委がいじめを認めるまで1年以上かかる結果を招いた。
道空知教育局などによると、女児が自殺を図った昨年9月9日に、通学していた小学校の校長から空知教育局の職員が遺書の内容を聞き、道教委に伝えた。母親、学校、6年生あての遺書に「いやなことを言われてつらかった」と書いてあったことが報告された。
学級でトラブルがあったことや、修学旅行の班割りでもめたことも報告したという。
道教育庁生涯学習部学校安全・健康課の菅原行彦主幹は「当時から滝川市教委には早急に調査結果をまとめるよう指示した」としながら「初日にこれだけのものがあったのだから、もっと強い指導をしていれば、こんなに長引かずに済んだと反省している」としている。
発生当日にいじめを把握していながら「道教委は当初、把握した時期をことし6月と説明し、その後、昨年10月には知っていたと訂正。さらに自殺当日に報告を受けていたことを担当者が16日認めた。」とありますが、いじめを認めるまでに1年以上を有するとはいかなる理由にせよ、教育行政の現場監督責任機関としてはまったく機能していない体たらくといってよいでしょう。
最初の毎日記事で、考課制度について都教委は「年度当初に決める目標の達成度を測るもので、教委の一方的評価ではない。『いじめ解消』を掲げて実現できなければ考課に反映される。だが、例えば前年までいじめゼロだった学校が真摯(しんし)な調査で多数のいじめを報告したとしても、それで評価が下がるというのは誤解だ」(職員課)と言い訳しているようですが、そもそも教育委員会自体が上記道教委の体たらくひとつをみてもことなかれ主義に毒されているのですから処置無しであります。
だいたい『いじめ解消』を掲げて目指すことそのものを否定するモノではありませんが、いじめの件数を「年度当初に決める目標の達成度を測るもの」として数値で考課制度に目標値を掲げることに、どのような意義があるというのでしょうか。
いじめ件数0と年度当初目標に掲げれば実際にいじめがなくなるとでも思っているのでしょうか。
各校にいじめ件数の数値目標を競わせるなど、まったく教育現場にこれほどなじまないものはないでしょう。
なぜこのような愚かな行政がおこなわれてしまったのでしょうか。
●「いじめを五年間で半減を目指す」〜競うように各現場にいじめ件数の数値目標が年次報告され考査対象となっていった
10月20日の衆議院の文部科学委員会において共産党の石井郁子議員との質疑において、教育行政の最高責任者たる文部科学大臣自身が、この教育委員会や学校側の隠蔽体質、ことなかれ主義を認める発言をしています。
衆議院議事録から
○伊吹国務大臣 いじめの問題の調査の際に私が痛感をいたしましたことは、先ほど民主党の藤村先生から御質問があったことなんですが、文部科学省というのはどこまで個別の小学校に関与できるかということです。
文部科学省、都道府県教育委員会、市町村教育委員会、学校という流れの中で、どこかで物事を隠すというのか、外へ出したくないという流れがあって、最終的に文科省へ上がってくるときは、いじめによる自殺がゼロと。自殺の原因は確かに非常に多重的ですから、原因の認定というのは非常に難しかったんだと思いますが、先生が御指摘のように、現在の実態を見ると、余りにも実態離れしている。
この衆議院の文部科学委員会の質疑の中で、石井郁子議員が取り上げている資料のひとつに、平成十五年、三年前の中央教育審議会、中教審の答申「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」があります。
○石井(郁)委員 私も目標一般を否定するつもりはありませんが、事はいじめ、あるいは不登校、しかも子供たちが命をかけて訴えている、こういう深刻な問題なんですよね。この問題の性格からして、一年間ことしはもうゼロにしますと言ったところでできるわけがないということがあるじゃないですか。だから、主観的なそういう希望はわかります、そうしたいという。それは皆さんもそうだと思うんです。そのことと、このことを数値化してやるということとはやはり別問題だというふうに思うんですね。
それで、もう一つですが、なぜこういうことが今現実に起こったのかということなんですよ。大臣、その点ではいかがですか。教育界に一般的にそういう問題があるという話もされましたけれども、今あちこちで、ある面で、進んでいるわけですね。こういう、数値化して何年に何割削減とかいう形のことが行われているんですけれども、実は、この背景となっているのに、平成十五年、三年前の中央教育審議会、中教審の答申がどうもあるんですよ。
中教審の答申「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」という中にありまして、今後の審議において計画に盛り込むことが考えられる具体的な政策目標の例として、いじめ、校内暴力の五年間で半減を目指すというのがきちんと書いてあります、これはもう当然大臣は御存じと思いますけれども。それで、安心して勉強できる学習環境づくりを推進すると。だから、いじめも不登校も大幅な減少を目指すということがここに掲げられているんですよ。まさにこれと同じことがある面で現場に一斉におりていっている、そういうことではないのかと思いますが、大臣、いかがでしょう。
答申自体は以下で公開されていますが、確かにこの中で具体的な政策目標の例として、いじめ、校内暴力の五年間で半減を目指すと明記されています。
新しい時代にふさわしい
教育基本法と教育振興基本計画の在り方について
(答 申)
平成15年3月20日
中央教育審議会
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/030301.htm
「いじめを五年間で半減を目指す」この大目標のもと、文部科学省、都道府県教育委員会、市町村教育委員会、学校という中央集権ピラミッドの上意下達体制の中、競うように各現場にいじめ件数の数値目標が年次報告され考査対象となっていったのです。
●いじめに安直な「成果主義」など導入するな
その結果はどうでしょう、文部科学省の公式統計では過去6年間も学校におけるいじめによる自殺は0件という実体とかけ離れた虚偽の数字が表出したのであります。
自殺件数だけではありません、いじめの件数総数自体もはなはだ疑わしい数値であると言わざるを得ません。
文科省の平成16年度の公式資料よりいじめに関する統計情報をみてみましょう。
生徒指導上の諸問題の現状について(概要)
2. いじめ 公立の小・中・高等学校及び特殊教育諸学校におけるいじめの発生件数は,21,671件〔前年度23,351件〕(小学校5,551件〔前年度6,051件〕,中学校13,915件〔前年度15,159件〕,高等学校2,121件〔前年度2,070件〕,特殊教育諸学校84件〔前年度71件〕)であり,8年ぶりに増加した前年度より減少に転じた。
いじめが発生した学校数は,7,599校(小学校2,671校,中学校3,774校,高等学校1,115校,特殊教育諸学校39校)であり,全学校数に占める割合は,19.7パーセント(小学校11.5パーセント,中学校36.6パーセント,高等学校27.2パーセント,特殊教育諸学校4.2パーセント)である。 いじめの発生件数を学年別にみると,小学校から学年が進むにつれて多くなり,中学1年生が6,587件で最も多く,全発生件数の30.4パーセントを占めている。
学校がいじめをどのように知ったかについては,小学校では「保護者からの訴え」,中学校・高等学校では「いじめられた児童生徒からの訴え」,特殊教育諸学校では「担任の教師が発見」及び「保護者からの訴え」がそれぞれ最も多い。
いじめの態様については,小・中・高等学校では「冷やかし・からかい」,特殊教育諸学校では「言葉での脅し」がそれぞれ最も多い。
平成16年度に発生したいじめのうち,89.1パーセントが年度内に解消している(小学校88.4パーセント,中学校88.4パーセント,高等学校95.3パーセント,特殊教育諸学校92.9パーセント)。
いじめの問題に対する対応については,いずれの校種においても,「職員会議等を通して共通理解を図った」,「学校全体として児童・生徒会活動や学級活動などにおいて指導した」,「教育相談の体制を整備した」が多い。
いじめの問題により,就学校の指定変更等を受けた児童生徒は,小学校で99人,中学校で248人,特殊教育諸学校で0人である。(注) いじめについては,「自分より弱い者に対して一方的に,身体的・心理的な攻撃を継続的に加え,相手が深刻な苦痛を感じているもの。なお,起こった場所は学校の内外を問わない。」ものとして件数を把握した。
文科省の資料によれば、平成16年度では小学校が23420校、中学校が11102校、高等学校が5422校、合計39944校です。
この分母に対していじめの発生件数は上記資料を見る限り,21,671件〔前年度23,351件〕(小学校5,551件〔前年度6,051件〕,中学校13,915件〔前年度15,159件〕,高等学校2,121件〔前年度2,070件〕,特殊教育諸学校84件〔前年度71件〕)となっており、この数値を単純に分母で割れば、1校あたりのいじめ発生件数は0.54件となり、統計上は各校のいじめ発生件数は、0件か1件かに集中していることになります。
文科省資料に基づけば平成16年度において2校に1校はいじめ件数がゼロであると報告されているわけです。
この数値自体いかに実体にそくしていないあてにできない数値であることかは各種自治体個別のいじめアンケートひとつとってもすぐに実証できるわけですが、問題なのは1校あたりのいじめ発生件数が0.54件であるとすれば、多くの学校の本年度いじめ件数の報告が0件か1件なのですから、ほとんどの学校が次年度目標を0件に掲げているであろうことです。
なんのための数値目標なのか、ほとんどの学校が機械的にいじめ0と書くだけの目標値では、これではまったく意味がないといえましょう。
・・・
文部科学省、都道府県教育委員会、市町村教育委員会、学校という中央集権的ピラミッドの中で、このような愚かな行政が行われている限り、学校、教育委員会の隠蔽体質、事なかれ主義はなくならないのではないでしょうか。
各校にいじめ件数の数値目標を競わせるなど、まったく教育現場にこれほどなじまないものはないでしょう。
いじめに安直な「成果主義」など導入するなと言いたいです。
深化するいじめ自殺問題、日本の教育行政の責任はあまりにも重いのであります。
(木走まさみず)
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http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20061115/1163554246