木走日記

場末の時事評論

赤っ恥をかかされた中国・習近平指導部〜首都北京の政治中枢でのウイグル族自爆テロの衝撃

 29日付け朝日新聞電子版記事から。

天安門突入、ウイグル出身者の犯行か 当局通知で名指し
2013年10月29日11時31分

 【北京=林望】中国・北京市天安門に小型四輪駆動車が突っ込み炎上した事故で、市公安当局は新疆ウイグル自治区出身者による犯行との見方を強めている模様だ。当局は少数民族とみられる男2人を容疑者として名指しする通知を市内のホテルなどに配布。当局はメディアには情報統制を敷き、動揺の拡大を抑え込む姿勢だ。

 複数の宿泊施設によると、同市公安局治安管理総隊は28日から29日にかけて、「28日、市内で重大な事件が発生した」などとする複数の通知を出した。

 そのうちの一部は、容疑者として新疆ウイグル自治区出身の男2人の実名と身分証ナンバー、本籍を示し、「違法な容疑車両」として4台の小型四輪駆動車のナンバーを列記している。

 容疑者の名前はウイグル族など西域の少数民族に多いもので、4台の車はいずれも新疆ナンバーだ。宿泊施設に対し、10月1日以降の宿泊者や車両を調べ、容疑者の手がかりが見つかればすぐに報告するよう求めている。

http://www.asahi.com/articles/TKY201310290060.html

 うむ、「容疑者の名前はウイグル族など西域の少数民族に多いもので、4台の車はいずれも新疆ナンバー」とあり、今回爆発したのは1台だけですから、当然公安当局は連続テロの可能性を危惧しているものと思われます、「宿泊施設に対し、10月1日以降の宿泊者や車両を調べ、容疑者の手がかりが見つかればすぐに報告する」ように求めています。

 朝日記事にも「当局はメディアには情報統制を敷き、動揺の拡大を抑え込む姿勢」とありますが、当然ながら中国国内メディアはどれも当局が用意した「天安門で交通死亡事故」という地味な事実報道に徹底、一方、事実を押さえ込むために、NHK国際放送の視聴を制限、長安街を封鎖、AFP記者ら一時拘束、ネット投稿次々削除と、徹底した報道管制が取られています。

 29日付け産経新聞電子版記事。

中国当局、NHK国際放送の視聴を制限 突然真っ黒に
http://sankei.jp.msn.com/world/news/131029/chn13102913060007-n1.htm
警察、長安街を封鎖、AFP記者ら一時拘束、ネット投稿次々削除
http://sankei.jp.msn.com/world/news/131029/chn13102910430004-n1.htm

 ・・・

 ウイグル族による自爆テロだとの可能性が高まったわけですが、もしそうならばこの一ヶ月で中国当局が特殊警察部隊を投入して中国新疆ウイグル自治区ウイグル族15人を射殺するという弾圧を行ったことに対する「報復行為」という推測も可能かもしれません。

 25日付け共同通信記事。

中国当局、新疆で15人射殺 特殊警察部隊投入、約100人逮捕
2013.10.25 13:22 [中国]

 米政府系放送局ラジオ自由アジアが25日までに伝えたところによると、中国新疆ウイグル自治区カシュガル地区で、特殊警察部隊が9月26日からの約1カ月間で少なくともウイグル族15人を射殺、約100人を逮捕した。

 射殺、逮捕されたのは新疆独立を主張するグループとみられ、10月の国慶節(建国記念日)の連休期間中に、爆弾を使って公安施設などを攻撃しようと計画していたという。

 カシュガル地区では8月にも、公安当局がテロを計画しているなどとしてウイグル族を射殺する事件が相次いで発生、情勢が緊迫している。(共同)

http://sankei.jp.msn.com/world/news/131025/chn13102513240005-n1.htm

 ・・・

 中国共産党政府の中枢中の中枢、首都北京の全国人民代表大会(国会に相当)などの議場として用いられる人民大会堂の真ん前にある天安門広場、その毛沢東の写真にめがけて「自爆テロ」が炸裂したわけです。
 共産党指導部は大きな衝撃を受けていることでしょう。

 経済格差の拡大やチベットウイグルにおける少数民族の抑圧問題などで、中国各地では年間数万件という暴動やデモが頻発して治安が悪化してきたのですが、これまでは地方都市がおもで警戒の厳しい首都北京では発生していませんでした。

 その点でも今回の首都北京の政治中枢でのウイグル族自爆テロが発生したことは、強い衝撃を共産党指導部に与えたことでしょう。

 当局は徹底した報道管制とウイグル独立派組織への弾圧を強化するものと思われます。

 天安門でのテロ発生、赤っ恥をかかされた中国・習近平指導部の動向に注目です。



(木走まさみず)

ポークスープスキャンダル〜「われわれは蛇口をひねるだけでポークスープが飲める」(上海市民)

●「水道局の取水口は川底に近いところにあるから大丈夫」(中国当局

 ことの発端は、上海紙「新民晩報」の公式サイト“新民網(ネット)”の3月9日付記事であった。

 上海市を流れる黄浦江の上流域で大量に漂っている豚の死骸が発見されたと報じたのである。この記事の内容は国営通信社「新華社」や国際通信社「ロイター」によって全世界に配信され、大気汚染のPM2.5に続く、中国の新たな環境汚染として世界中を驚かせることになる。

 「新民晩報」記事によれば、大量の豚の死骸が見つかった現場は、上海市の南西部に位置する“松江区”を流れる“横潦芤(おうろうけい)”と呼ばれる流域であり、松江区の関係部門が同区内の黄浦江流域でローラー作戦を展開して豚の死骸を探索し、3月9日までに929頭の豚の死骸を回収する。

 この段階で、上海市は関係部門による緊急会議を招集して対策を検討中とし、また、豚の死骸については、松江区が人員を配備し、全力を挙げて引き上げ作業を行っており、回収された死骸は市内の“奉賢区”にある「上海動物無害化処理センター」へ移送して処理していると説明する。

 しかし、横潦芤流域で最初に漂っている豚の死骸が発見された3月5日には回収された豚の死骸は45頭であったが、それが9日には累計で929頭にまで増大、翌10日には1200頭を超え、11日3323頭、12日5916頭、13日6601頭、14日7545頭、15日8354頭、16日8965頭、17日9460頭、あっという間に1万3千頭の死骸が引き上げられてることになる。

 メディアのインタビューに答えた上海市市“市容緑化局(市外観緑化局)環境衛生水上管理処”の“処長(部長)”である“朱錦則”は、「黄浦江に豚の死骸が漂うのは偶然の事ではない。過去10年来ずっと途絶えることなく、毎年春と夏、夏と秋の境目には決まって死骸の数量が増大する」と発言、庶民の大反発を買うことになる。

 この段階での中国行政府の対応や見解は、まるで火に油を注ぐような市民の不安心理をかえって動揺させてしまう。

 この事件をめぐり市民の間に様々な憶測が飛び交いくすぶり続けることになる。


 ブタの死骸が浮んでいた水源の水質は本当に問題ないのか、問われた上海市衛生局は、「それは、プールに落ちた数匹の蝿のようなものだ。気持ちが悪いのは確かだが、水質には大きな影響を与えない」と発言したことを証券時報が伝える。

 京華時報によれば、上海市政府は、これまでの厳しい検査の結果により、水質は基本的に正常であると発表している。

 3月10日以降、上海市水道管理当局は毎日、関連する水道局の水質を徹底して検査し、併せて、その結果を公開している。

原水(取水口から取る水)と水道水(水道局から出る水)の水質を検査し、確認した上で、一般市民に水道水を供給している。

上海市水務局の瀋依雲副局長は「水道局から出た水をそのまま飲んで平気だ」と述べた。

 問題水域の水質が「ほぼ正常である」のはなぜか。上海市水務局によると、上海市では国家標準に従って、9項目の水質一般検査(汚濁度、色度、臭気・味、肉眼可視物など)を行ったほか、今回の事件を意識し、ブタサーコウィルスなどの微生物指標を新たに検査し、更にはブタ連鎖球菌サルモネラ菌大腸菌0157、耐熱性大腸菌なども検査した。その結果、9項目の一般検査は国家標準の基準をクリア、大腸菌や耐熱大腸菌は検出されなかった、という。

 上海水務当局の責任者は「ブタ死骸や水草、漂流物は水面に浮かぶか、あるいは土手に乗り上げ、しかも、多くの細菌は生存できる期間があり、生きた動物から離れるとすぐ死ぬものもある。水道局の取水口は、ほとんどが川の中心部、または川底に近いところに設置しており、流れが急であるため表層水より、水質は良好だ」と述べた。

 つまり「豚の死骸は腐乱して水面にプカプカ浮かんでいるが水道局の取水口は川底に近いところにあるから大丈夫」という理屈である。

 疫学的衛生学的により重大な関心を呼ぶ事実は、豚の死骸をサンプル検査した「上海市動植物疫病予防コントロールセンター」によれば、多くのサンプルから“猪圓環病(豚サーコウイルス病、略称:PCVD)”のウイルスが検出されたことである。

 つまり発見された死骸の多くがウイルス性感染症つまり伝染病に冒されていたのである。

 これについて“上海市農業委員会”は、豚サーコウイルス病は「豚サーコウイルス2型(PCV2)」の感染によって引き起こされる豚の伝染病で、近年中国でも比較的多く発生しているが、人間には感染しないと述べている。

 ここから考えられるのは豚がPCVDに感染して大量に死亡し、その処理に困った農民が豚の死骸を黄浦江に捨てた可能性である。

 ・・・


●「寒さに対する抵抗力が弱い子豚の死亡率が高まった」(嘉興市政府)

 19日付けの人民日報(電子版)は「『豚の死体数は捏造』と浙江省嘉興市の船乗り=すでに数万頭が埋められた」と題した記事を報じている。

 当該記事によれば、上海市政府が回収した死体はすでに1万3000頭を越え、上海市だけではなく上流の自治体でも多数の死体が回収、養豚業が盛んで、漂流する死体の発生源と目されているのが上海南部の浙江省嘉興市だが、同市政府は「この1週間で3601頭の死体を回収した」と発表した、という。

 しかし、現地の船乗りは「発表は明らかに捏造」と証言、養豚農家が多い新豊鎮などの地域では川に豚の死体や糞便を廃棄する行為が以前から常態化、河川は汚染され魚が消え、魚ではなく豚の死体を回収することを仕事とする漁師も多い、政府は川辺に大きな穴を掘り死体を集めているが、その数は数万頭に達するはずだと話していると報じている。

 嘉興市政府は緊急の記者会見を開催し、副市長である“趙樹梅”が以下の内容を報告している。

 ・過去1週間、15日までに投棄されていた3601頭の豚の死骸を回収、そのうちの80%は子豚であった。

 ・豚が死んだ原因と考えられる1番目の理由は、嘉興の養豚規模が非常に大きく、死亡する豚の絶対数が多いこと、2番目の理由は、死亡した豚に占める子豚の割合が極めて大きいこと、昨年の冬から今年の春にかけて嘉興市の気温は低かったので、寒さに対する抵抗力が弱い子豚の死亡率が高まったことによるものである。

 ・3番目の理由は、嘉興市には豚の死骸を自由気ままに捨てる悪習を改めることができない養豚農家が一部存在することである。近頃の気温上昇に伴い、河川の底に沈んでいた豚の死骸が次々と浮かび上がっているが、回収された豚の死骸から見て、死亡時期は半月あるいはそれ以前であり、時間的な間隔から考えて、死骸の投棄は一時期に集中して行われたものではない。

 この副市長の説明によれば、死骸に子豚が多いのは、「昨年の冬から今年の春にかけて嘉興市の気温は低かったので、寒さに対する抵抗力が弱い子豚の死亡率が高まったこと」からであり、今回絶対数が多いのは「近頃の気温上昇に伴い、河川の底に沈んでいた豚の死骸が次々と浮かび上がっている」からだというのである。

 こうして黄浦江の上流域で回収された豚の死骸は、規則を守れない不心得な養豚農家が周辺の河川に不法投棄したものであること、その一部は嘉興市を根源としていることが明確になったのである。

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●「こうして育ったブタの体中は毒だらけ」(米中の共同研究チーム)

 今回の大量豚死骸投棄事件であるが、ここでおぞましい憶測に触れておく必要がある。

 今回の大量豚死骸投棄に昨年来中国当局が上海郊外で展開した病死豚肉違法販売業者摘発強化が影響しているのではないか、という根強い憶測である。

 中国報道によれば、中国浙江省の温陵市人民法院(裁判所)で13日、2012年に摘発された病死した豚の肉の違法販売事件をめぐる裁判が行われ、被告46人に最も重いもので禁固6年6月、罰金80万元(約1230万円)の刑が言い渡されている。

 これら病死した豚肉の違法販売業者摘発により、行き場の無くなった死骸が今回大量に川に投棄されたという憶測である。

 そもそも中国の養豚は国際的に比較しても死亡率が高い、それはなぜか。

 中国国内養豚業ではブタに抗生物質発がん性物質を濫用しているとの調査結果が出ており、「毒だらけのブタだ」と指摘されているのである。

 中国「財経ネット」は11日、米中の共同研究チームによる国内養豚場への調査結果を報じている、同チームは北京、福建省莆田地区、浙江省嘉興地区(今回のブタ死骸の投棄場所)にある3つの1万頭以上の大型養豚場を調べた結果、計149種類の薬剤耐性遺伝子が検出された。その内の63種類の濃度は原生林の土壌の耐性遺伝子含有量の100倍〜3万倍に達する。

 薬剤耐性遺伝子が大量に発生する原因について、同研究チームは、ブタへの抗生物質の濫用だと指摘した。「病気のないブタにも抗生物質を、病気のブタにはさらに多種の抗生物質を投与することが原因」とある。

 耐性遺伝子は遺伝子が突然変異を起こし進化したものである。大量かつ長期にわたって抗生物質を摂取すれば、その突然変異が加速化する。

 養豚場から大量の薬剤耐性菌がブタのし尿を介して外部に拡散すれば、人体に健康危害をもたらす多剤耐性菌を生み出す恐れがあると専門家は危惧している。
 
 さらに、ブタの色艶をよくするため、毒性の強いヒ素を投与する養豚業者も少なくないと、同研究チームは報告している。

 「こうして育ったブタの体中は毒だらけ」と指摘する専門家。ブタの感染症が非常に蔓延しやすい状況が作られ、今回のブタ大量死は、大規模なブタ感染症による結果ではないかと示唆されているのだ。

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●「過剰な抗生物質や成長促進剤を投与し、孵化(ふか)して45日程度で成長させて大量に出荷」(KFC中国店舗)

 最近の中国では「速成鶏」という造語がある。

 昨年のことだが、ファストフード大手のケンタッキー・フライド・チキン(KFC)の中国の店舗で、過度に成長を早めた「速成鶏」が使われていたと地元メディアが報じている。KFCの運営を手がける米ヤム・ブランズ社の中国事業部は10日、「問題を外部に迅速に知らせなかった」などとして消費者に謝罪する文書を発表した。

 問題の鶏肉は、山東省の業者が出荷した。中国メディアによると、養鶏場でえさをより多く食べさせるため24時間照明を点灯。過剰な抗生物質や成長促進剤を投与し、孵化(ふか)して45日程度で成長させて大量に出荷していたとみられている。上海市の食品安全当局などによると、KFC側は2010〜11年に検査機関に依頼して調べた鶏肉から基準を超える抗生物質が検出されたにもかかわらず、当局への報告や公表をしていなかった。また、12年夏まで同じ業者から鶏肉を調達することをやめなかった。

 KFC側は、問題が表沙汰になっても、「自主的な検査の結果を当局に報告したり公表したりする法的義務はない」と反論していたが、今回、批判の高まりを受け、全面謝罪する姿勢に転じている。

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●「われわれは蛇口をひねるだけでポークスープが飲める」(上海市民)

 現代中国では所得が増加して食生活も欧米化・「肉食化」し豚肉・鶏肉の消費量が急速に増加している。

 その消費を賄うために、大都市近傍では大量の抗生物質を投与したかなり無理のある養豚・養鶏が行われている。

 この大量の抗生物質の投与に誘引された高い死亡率と、中国行政府の無策により、病死豚肉の違法販売業者の跋扈があり、それを摘発したことにより、今回の大量の豚の死骸の投棄のに至ったと推測できる。

 中国のネットではこの事件を自虐的に「豚江」という言葉が使われているそうだ。

 また、15日付けのWSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)誌社説は、"What's in China's Water?"(中国の水に何が居るの?)と題して、今回の騒動を「ポークスープスキャンダル」(「豚汁騒動」)と呼んでいる。

 中国で起こっている事態の深刻さを考えるとスキャンダルという表現ではいかにも軽すぎるが、「ポークスープスキャンダル」とは上手い表現ではある。

 中国のネットで流行っているジョークより。

 ある北京市民が言った。「窓を開けるとただでタバコが吸えるのだから、われわれは最も幸運な市民だ」。すると、ある上海市民が反論した。「だからなんだよ。われわれは蛇口をひねるだけでポークスープが飲めるんだぞ」

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(木走まさみず)



<参考記事>
■豚の死骸漂う川の水質...専門家、「プールの蝿と同じ。広いし問題ない」―中国・上海市
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130320-00000026-xinhua-cn
■漂流する豚の死体数、政府発表は“嘘っぱち”=「実は数万頭」と漁師らが証言―中国
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=70488
■1万頭もの豚の死骸が漂った上海の黄浦江
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20130320/245309/?ST=world&rt=nocnt
■ブタ死骸が7550頭に 専門家「毒だらけ」
http://www.epochtimes.jp/jp/2013/03/html/d60939.html
■中国KFCで「速成鶏」 抗生剤・成長剤を過剰投与
http://digital.asahi.com/articles/TKY201301110367.html?ref=comkiji_txt_end_kjid_TKY201301110367
KFCマクドナルド向け中国サプライヤー、鶏に成長促進剤 ハエも死ぬほどの劇薬?
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121128-00000016-xinhua-cn
■アングル:上海の豚大量死は氷山の一角、業界のずさんさ露呈
http://www.asahi.com/international/reuters/RTR201303180025.html
■【社説】根深い中国の環境汚染
http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887323893104578361591896272094.html
■結局は教育の問題?中国で発生する”トン”でもない事件。
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2013&d=0319&f=column_0319_012.shtml

地域経済格差が拡大し続ける中国〜行政地域別所得分布徹底検証

1.はじめに

 昨年12月に当ブログで中国のジニ係数が0.61という異常値であることに関するエントリーは、ネット上大きく取り上げられました。

2012-12-11 中国のジニ係数がとんでもない異常値な件
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20121211

 ジニ係数は0から1の範囲の値を取ります、0に近いほど平等で1に近いほど不平等、所得格差が顕著であることを示します、ちなみにOECD諸国では、日本が0.329、ドイツが0.295、アメリカが0.378などとなっております。 

 一般に社会騒乱多発の警戒ラインは、0.4と言われておりますが中国の0.61という値は警戒ラインをはるかに越えており、普通の国であれば社会騒乱必至の「異常値」であります。

 経済発展著しい中国の所得格差がなぜここまで深刻化してしまったのか、今回は「中国の地域経済格差」に絞り検証していきます。

※本エントリーの情報ソースは以下の参考資料・サイトより得ています。
 図表はすべて当ブログが情報ソースを元にオリジナルに作成したものであります。
http://kccn.konan-u.ac.jp/keizai/china/10/frame.html
http://ritsumeikeizai.koj.jp/koj_pdfs/59632.pdf
http://www.allchinainfo.com/profile/city/china_whitemap.html
http://www.okasan.co.jp/commodity/stocks/pdf/asianews_110701_1.pdf
http://rnk.uub.jp/prnk.cgi?T=p
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kenmin/files/contents/pdf/gaiyou2_1.pdf
http://rio.andrew.ac.jp/taketosi/pdf/lijinglan/chap2.pdf

2.31の中国の行政地域をまとめる

 中国の行政地域ですが「華北」「華東」「華中」「華南」「東北」「西北」「西南」の7つの広域行政地域のもと、4つの直轄市、22の省、5つの自治区、合計33の行政地域に分かれます。
香港特別行政区マカオ特別行政区は除外します)
■表1−1:中国の直轄市の人口と面積(4市)

■表1−2:中国の省の人口と面積(22省)

■表1−1:中国の自治区の人口と面積(5自治区

 7つの広域行政地域と各直轄市・省・自治区の位置は以下の通りです。
■図1−1:中国の広域行政地域(7)

■図1−2:中国の広域行政地域(7)と省・直轄市自治区

 各行政地域を広域行政地域ごとにまとめておきます。
■表2−1:中国の広域行政地域別の人口と面積(華北

■表2−2:中国の広域行政地域別の人口と面積(華東)

■表2−3:中国の広域行政地域別の人口と面積(華中)

■表2−4:中国の広域行政地域別の人口と面積(華南)

■表2−5:中国の広域行政地域別の人口と面積(東北)

■表2−6:中国の広域行政地域別の人口と面積(西北)

■表2−7:中国の広域行政地域別の人口と面積(西南)

 ここから中国の現在の人口密度分布を示します。
■図2:中国の人口密度分布

 ご覧のとおり沿海部に人口が集中していることがわかります。



3:中国に於ける行政地域別の所得分布をまとめる

 次に行政地域別に、2010年の名目GDP、2010年の1人当りGDPをまとめます。
■表3−1:中国の広域行政地域別の人口と面積と所得(華北

■表3−2:中国の広域行政地域別の人口と面積と所得(華東)

■表3−3:中国の広域行政地域別の人口と面積と所得(華中)

■表3−4:中国の広域行政地域別の人口と面積と所得(華南)

■表3−5:中国の広域行政地域別の人口と面積と所得(東北)

■表3−6:中国の広域行政地域別の人口と面積と所得(西北)

■表3−7:中国の広域行政地域別の人口と面積と所得(西南)

 ご覧のとおり最高所得の「上海市」と最低所得の「貴州」では、73298元と13222元、60000万元以上の格差がついています、5.54倍です。

 これらのデータから中国の所得分布を示します。
■図3:中国の所得分布

 ご覧のとおりやはり沿海部の行政地域に高所得分布が集中していることが分かります。

 一見して先ほどの人口密度分布と類似性が認められると視認できますので、縦軸を所得、横軸を人口密度で相関を取ってみました。
■図4:中国に於ける人口密度と所得の相関

 上海と内モンゴル自地区は特異点として相関関係からはみ出ていますが、後の行政地域は概ね緩やかな相関関係が認められる位置にあります。

 それにしても相関関係の傾きがかなり急な右肩上がりなのは、やはり所得格差が大きいことを示しています。



4.まとめと参考

 検証したとおり、2010年において最高所得の沿海部の「上海市」と最低所得の内陸部の「貴州」では、73298元と13222元、60000万元以上の格差がついています、5.54倍です。

 深刻なのはその所得の差が近年一貫して広がっていることです。
■図5:上海と貴州との格差の推移

 参考までに日本における都道府県単位の人口密度分布と所得分布、人口密度と所得の相関を示しましょう。
■図6:日本の人口密度分布

 実は島国日本ですが、中国と比較しても都市部への人口集中が顕著であることが見て取れます。

 次に一人当たり県民所得の分布を示します。
■図7:日本の所得分布

 これは内閣府が公開している平成21年度の県民所得をもとに作成しましたが、最高所得の東京で390万7千円、最低所得の高知県で201万7千円、差額は189万円、1.94倍であります。

 日本に於ける人口密度と所得の相関を取ってみます、縦軸が所得、横軸が人口密度です。
■図8:日本に於ける人口密度と所得の相関

 ほとんどの道府県がグラフ左中央に集中していますが、あえて相関関係(赤い楕円)を一応描いてみました。

 中国のグラフと比較して相関関係の傾きの角度が小さい、すなわちなだらかであることが見て取れます、もしこの角度がゼロになれば、日本においては人口密度と所得とは、もはや相関関係にないということになります。

 ・・・

 中国において5倍以上の地域経済格差があり、なおその格差が拡大傾向にあることの要因のひとつは、中国の悪名高い「戸籍制度」にあると考えます。

 一般にひとつの国で経済格差が発生した場合、所得の高い地域に労働力が移動します。

 所得の高い地域では労働力が飽和して賃金が下がり始め、結果高かった平均所得が減じます。

 一方所得の低い地域は労働者不足となり賃金が上がり始め、結果低かった平均所得が増加しだします。

 しかし中国では「戸籍制度」があるために、都市部に移動した労働者が高い賃金を獲得することが制度上できません。

 推計1億5000万人以上いるこれら農村出身の労働者は「農民工」と呼ばれていますが、彼らは都市部で「戸籍」を取得できませんから、単純労働以外の高収入の職業に就くことはできません、それだけでなく、都市出身の住民に与えられている健康保健や教育、年金などの社会福祉サービスが、1億5000万人以上いる農民工には与えられていないのです。

 結果、農民工は所得の多くを医療費や老後資金のために割く必要が生じ、食料品の値上がり(物価上昇率は約5%)と住宅の値上がり(2010年12月の上昇率は年率換算6.4%)も、農民工の生活困窮につながっているのです。

 農民工のわずかばかりの所得は「戸籍制度」上、都市部には組み込まれていません。

 彼らの戸籍は貧しいままの出身省にあるのです。

 この戸籍制度を改正しないかぎり、中国の地域経済格差は拡がる一方でしょう。

 しかし真の問題はその先にあると考えます。

 戸籍制度を改正すれば、水平方向のすなわち地域間の格差の是正には効果があることでしょう。

 しかし中国の真の格差問題は垂直方向、すなわち共産党幹部や政府関係者やその親族などで構成される富裕層と一般庶民との間に顕著に現れます。

 この垂直方向の格差を是正することは一党独裁体制を揺るがしかねないほどの困難を伴います、既得権益者の反発は必至であります、これは至難の業でしょう。

 ジニ係数0.61を示す格差社会中国において、今回取り上げた地域格差中国経済の数ある格差の氷山の一角に過ぎません。

 しかし地域格差すらも手を打てず格差拡大を止められないとしたら中国政府は格差抑制にやるきはないという指標にはなることでしょう。

 本丸の垂直方向の階級格差を是正するよりも、地域経済という水平方向の格差是正のほうがはるかに処置しやすいからです。



(木走まさみず)

かざしも日本の憂鬱(ゆううつ)〜かざかみ中国の大気汚染が過去最悪レベル

 14日付けNHKニュースWEB記事から。

北京 大気汚染の警報が最高レベルに
1月14日 6時55分

深刻な大気汚染が続く中国の北京では、汚染の原因物質の濃度が高まり、気象台は13日、大気汚染に関する警報を初めて最高レベルに引き上げ、外出や車の利用を控えるよう呼びかけています。

中国では今月10日以降、東部や内陸部を中心に、車の排気ガスなどに含まれ大気汚染の原因物質とされる「PM2.5」という極めて小さな粒子の濃度が高い状態が続いています。
13日の北京市内は、多くの車が昼間でもライトをつけて走行し、高層ビルが白くかすんで、よく見えないほどで、中国のメディアによりますと、各地の病院では呼吸器系の疾患を訴える患者が増えているということです。
このため、北京の気象台は、視界が2キロ以下に制限されるほど大気汚染が深刻になっているとして、汚染に関する警報を初めて最高レベルに引き上げました。
北京市の環境当局は、建設工事の中止や公用車の利用を減らすなどの緊急措置を取っています。
気象台は「あすからあさってまでは、大気が拡散しにくく、広い範囲で見通しの悪い状態が続く」として、健康への影響を減らすため、できるだけ外出を控え、外出する際にはマスクを着用すること、そして車の利用を控えることなどを呼びかけています。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130114/k10014780531000.html

 うむ、中国の大気汚染が過去最高レベルにまで汚染物質の濃度が高まり北京では市民に外出を控えることを呼び掛けているもようです。

 記事によれば、「13日の北京市内は、多くの車が昼間でもライトをつけて走行し、高層ビルが白くかすんで、よく見えないほどで、中国のメディアによりますと、各地の病院では呼吸器系の疾患を訴える患者が増えているという」という深刻な事態になっているそうですが、対策としては「北京市の環境当局は、建設工事の中止や公用車の利用を減らすなどの緊急措置を取って」いるそうですが、気象台は「あすからあさってまでは、大気が拡散しにくく、広い範囲で見通しの悪い状態が続く」としています。

 大気汚染の進行を止めるための根本的な対策が取れず、「建設工事の中止や公用車の利用を減らすなどの緊急措置」で対処療法を施し、あとは風任せ「大気が拡散しにくく、広い範囲で見通しの悪い状態」を強い風が吹いて拡散するときを待つしかないわけです。

 14日付け日経新聞記事から。

北京五輪期間中の水準が目標 大気汚染深刻化で市の環境当局者
2013/1/14 22:04

 【北京=共同】中国で大気汚染が深刻化している問題で、北京市の環境当局者は14日、記者会見し、2008年の北京五輪開催期間中の大気の質が「今後の努力目標」だと述べた。中国メディアが伝えた。

 五輪開催中は、交通規制や工場の操業停止などの対策を実施し、北京市の大気の質が大幅に改善。市民らからは期間中の大気の良さを懐かしむ声が出ている。

 市当局者は汚染の原因として自動車や工場からの有害物質の排出量が増えていることや、風が弱く汚染物質が拡散しないことなどを挙げている。

 中国各地では14日も学校の屋外活動を中止したり、高速道路を通行止めにしたりする緊急対策が講じられた。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1402A_U3A110C1CR8000/

 うむ確かに5年前の2008年の北京五輪開催期間中には、「交通規制や工場の操業停止などの対策を実施し、北京市の大気の質が大幅に改善」していました、少なくとも北京市内でマラソンは可能でした。

 14日付け産経新聞記事によれば死者も出た模様です。

北京で死者も…中国覆う大気汚染が悪化
2013.1.14 19:58
http://sankei.jp.msn.com/world/news/130114/chn13011420030005-n1.htm

 専門家は「新しい現象ではない」と冷静を装うが、北京大学環境保護団体グリーンピースの調査によると、北京、上海、広州、西安の4都市では昨年、PM2・5が原因で約8600人が死亡している。今回も各地の病院で呼吸器の不調を訴える患者が急増。北京ではぜんそくの持病を持つ60代の女性が外出後、発作を起こし急死した。

 また、各地で高速道路が封鎖され、空の便でも欠航や遅延といった影響が出ている。同大などの調査では昨年、PM2・5がもたらした経済的損失は10億ドル(約890億円)に上る。

 産経新聞記事によれば、中国外務省の洪磊報道官は14日の定例記者会見で、「中国政府は環境保護を重視しており、積極的にさらなる大気汚染防止策を展開していく」と述べたそうです。

 しかし同記事も指摘するとおり、抜本的に大気汚染を食い止めるには、交通規制や工場の操業停止などの場当たり的対策ではなく、中国政府も国際的な汚染基準を採用して車の排ガス規制や工場の排煙規制を強化するしかないでしょう。

 EICネット環境用語集によれば、中国で問題になっている「PM2・5」は、直径が2.5μm以下の超微粒子のことで、代表的なディーゼル排気微粒子は、発ガン性や気管支ぜんそくなどの健康影響との関連が懸念されている物質だそうです。

PM2.5

 直径が2.5μm以下の超微粒子。微小粒子状物質という呼び方もある。大気汚染の原因物質とされている浮遊粒子状物質(SPM)は、環境基準として「大気中に浮遊する粒子状物質であってその粒径が 10μm以下のものをいう」と定められているが、それよりもはるかに小さい粒子。
PM2.5ぜんそくや気管支炎を引き起こす。それは大きな粒子より小さな粒子の方が気管を通過しやすく、肺胞など気道より奥に付着するため、人体への影響が大きいと考えられている。
代表的な微小粒子状物質であるディーゼル排気微粒子は、大部分が粒径0.1〜0.3μmの範囲内にあり、発ガン性や気管支ぜんそく、花粉症などの健康影響との関連が懸念されている。

http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=2234

 ・・・

 直径が2.5μm以下の超微粒子であるPM2.5ですが、偏西風では風上・中国の風下である日本としては日本への飛来が気になるところです。

 中国から偏西風に乗って日本などに飛来する黄砂ですがその大きさが発生後3,4 日経って到達する日本では 4 μm 前後という、環境省による調査結果があります。

黄砂実態解明調査
http://www.env.go.jp/air/dss/torikumi/chosa/index.html 

 で、黄砂に乗って中国の大気汚染物質も運ばれて来ているという鳥取大の調査結果もあります。

 すでにリンクは切れていますが5年前の毎日新聞記事から。

鳥取大調査>黄砂でぜんそく悪化も 環境汚染物質含み
2008年6月17日4時24分配信 毎日新聞

 中国大陸から飛来する黄砂により、日本のぜんそく患者の症状が悪化している可能性のあることが、鳥取大の調査で分かった。中国から黄砂に乗って飛来する環境汚染物質による日本での健康被害が懸念される中、具体的な調査事例として注目される。神戸市で開かれている日本呼吸器学会で17日に発表する。
 調査は、同大付属病院(鳥取県米子市)を受診した20歳以上のぜんそく患者117人を対象に行った。07年3〜5月に黄砂で同市内の視界が10キロ以下になった計9日間について、翌日以降に電話で聞き取り調査した。
 その結果、3月と4月では27人(約23%)で、せきや痰(たん)が多くなるなどぜんそく症状の悪化がみられた。別の8人(約7%)は、ぜんそくの悪化はなかったが、鼻水が出るなどの症状が出た。
 スギ花粉の影響を除外するため行った5月の調査でも、16人がぜんそく症状の悪化を訴えたという。

 ・・・

 風上中国の大気汚染が過去最悪レベルで深刻な事態になっています。

 環境汚染に国境はないところに、風下日本の憂鬱があるのであります。

 両国には尖閣諸島などいろいろな問題がありますが、大気汚染を防ぐこの分野では工場の排煙抑制技術や車の排ガス抑制技術などで、日本企業に先駆的ノウハウが蓄積されています。

 環境汚染に国境はない、仕方ありますまい、中国政府はこの問題で日本政府及び民間の協力を仰ぐべきでしょう。

 

(木走まさみず)

尖閣問題スクープ新事実をもみ消す中国大使館の理屈〜外交資料館に誤った立場を補強しようとする資料を収蔵していただと!?


 読者のみなさん、謹賀新年です。本年もよろしくお願い致します。

 元旦そうそうですが尖閣諸島について取り上げたいと思います。

 ・・・

 外務省公式サイトによれば、そもそも「尖閣諸島が日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らかであり,現に我が国はこれを有効に支配している。尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題はそもそも存在しない」のであります。

日中関係
尖閣諸島をめぐる情勢)

尖閣諸島について

尖閣諸島が日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らかであり,現に我が国はこれを有効に支配している。尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題はそもそも存在しない。
1968年に周辺海域に石油資源が埋蔵されている可能性が指摘された後,1971年から中国政府及び台湾当局が同諸島の領有権を公に主張。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/senkaku/index.html

 中国は「1968年に周辺海域に石油資源が埋蔵されている可能性が指摘された後,1971年から中国政府及び台湾当局が同諸島の領有権を公に主張」し始めたわけで、それまでは一度も中国も台湾も主張していなかった経緯があります。

 例えば上記外務省サイトが画像も公開していますが、1953年1月8日付中国共産党機関紙人民日報の記事では尖閣諸島が日本領土であることが明記されています。

■1953年1月8日付人民日報記事

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/senkaku/index.html

 さらに同サイトでは1960年4月出版の中国の世界地図」において尖閣諸島が日本領土として描かれていることも公開されています。

■世界地図集(中国:地図出版社,1960年4月出版)

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/senkaku/index.html

 また、外務省文化局「尖閣諸島について」-尖閣諸島の領有権問題のサイトでは、1970年の台湾の中学地理教科書にやはり尖閣諸島が日本領土として描かれています。

中華民国59年1月初版国民中学地理教科書(1970年)

http://senkakujapan.nobody.jp/page065.html

 ・・・

 これらの明確な事実があるにも関わらず中国は、「尖閣諸島は古来より台湾の付属島しょ」との主張を繰り返しています。

 地図も台湾の教科書も公式文章ではないと事実上無視しているのです、中国共産党機関紙である人民日報の記事ですら「公式文書」ではないと主張しているわけです。

 ・・・

 昨年の暮れに時事通信尖閣に関わるスクープ記事を飛ばします。

 12月27日付け時事通信記事から。

中国外交文書に「尖閣諸島」=日本名明記、「琉球の一部」と認識−初めて発見

 【北京時事】沖縄県尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐり中国政府が1950年、「尖閣諸島」という日本名を明記した上で、琉球(沖縄)に含まれるとの認識を示す外交文書を作成していたことが27日分かった。時事通信が文書原文のコピーを入手した。中国共産党・政府が当時、尖閣諸島を中国の領土と主張せず、「琉球の一部」と認識していたことを示す中国政府の文書が発見されたのは初めて。
 尖閣諸島を「台湾の一部」と一貫して主張してきたとする中国政府の立場と矛盾することになる。日本政府の尖閣国有化で緊張が高まる日中間の対立に一石を投じるのは確実だ。
 この外交文書は「対日和約(対日講和条約)における領土部分の問題と主張に関する要綱草案」(領土草案、計10ページ)。中華人民共和国成立の翌年に当たる50年5月15日に作成され、北京の中国外務省档案館(外交史料館)に収蔵されている。
 領土草案の「琉球の返還問題」の項目には、戦前から日本側の文書で尖閣諸島とほぼ同義に使われてきた「尖頭諸嶼」という日本名が登場。「琉球は北中南の三つに分かれ、中部は沖縄諸島、南部は宮古諸島八重山諸島(尖頭諸嶼)」と説明し、尖閣諸島琉球の一部として論じている。中国が尖閣諸島を呼ぶ際に古くから用いてきたとする「釣魚島」の名称は一切使われていなかった。
 続いて「琉球の境界画定問題」の項目で「尖閣諸島」という言葉を明記し、「尖閣諸島を台湾に組み込むべきかどうか検討の必要がある」と記している。これは中国政府が、尖閣は「台湾の一部」という主張をまだ展開せず、少なくとも50年の段階で琉球の一部と考えていた証拠と言える。
 東京大学大学院の松田康博教授(東アジア国際政治)は「当時の中華人民共和国政府が『尖閣諸島琉球の一部である』と当然のように認識していたことを証明している。『釣魚島』が台湾の一部であるという中華人民共和国の長年の主張の論理は完全に崩れた」と解説している。
 中国政府は当時、第2次世界大戦後の対日講和条約に関する国際会議参加を検討しており、中国外務省は50年5月、対日問題での立場・主張を議論する内部討論会を開催した。領土草案はそのたたき台として提示されたとみられる。
 中国政府が初めて尖閣諸島の領有権を公式に主張したのは71年12月。それ以降、中国政府は尖閣諸島が「古来より台湾の付属島しょ」であり、日本の敗戦を受けて中国に返還すべき領土に含まれるとの主張を繰り返している。
 領土草案の文書は現在非公開扱い。中国側の主張と矛盾しているためとの見方が強い。 (2012/12/27-14:37)

http://www.jiji.com/jc/zc?k=201212/2012122700471&g=pol

 これはスクープですね、「沖縄県尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐり中国政府が1950年、「尖閣諸島」という日本名を明記した上で、琉球(沖縄)に含まれるとの認識を示す外交文書を作成していた」、つまり62年前のことではありますが、尖閣諸島を日本領土と認めている中国政府の作成した文書が存在している事実が判明したわけです。

 記事によれば「中華人民共和国成立の翌年に当たる50年5月15日に作成され、北京の中国外務省档案館(外交史料館)に収蔵されている」と明記されていますし、写真も掲載されていますのでこれは事実とすれば、現在の中国政府の「尖閣諸島は古来より台湾の付属島しょ」との主張と大きく矛盾します。

 このスクープでポイントなのはこの文書が北京の中国外務省档案館(外交史料館)に収蔵されている事実です。

 中国政府自身が外交史料館に保存していたことは政府が作成した文書であることを否定できないわけです。


 ・・・

 なんと、しかしです。

 31日付け朝日新聞記事から。

在日中国大使館「署名ない」と反論 尖閣外交文書

 【北京=林望】中国政府が1950年当時、尖閣諸島琉球(沖縄)の一部だと認識していたことを示す外交文書が見つかったと報じられたことについて、在日中国大使館は「署名のない参考資料を使って、誤った立場を補強しようとする企てだ」と反論した。文書の存在そのものは認めた格好だ。
 反論は、大使館のホームページに29日掲載した。「(文書は)署名のない参考資料だ」とし、これを根拠に中国の主張を覆そうとするのは「(日本の)自信の欠如の表れだ」とした。
 その上で、「日本が釣魚島(尖閣諸島の中国名)を合法的に領有したことがないのは、カイロ宣言をはじめとする国際法資料や日本の外交文書で明らか」と指摘。尖閣諸島を「古来、中国の固有の領土」とする従来の主張を繰り返した。
 問題となった文書は、50年5月に中国政府が作成した「対日和約(対日講和条約)における領土部分の問題と主張に関する要綱草案」。文書のコピーとともに時事通信が12月27日に報じた。尖閣諸島について、中国名の釣魚島という言葉を使わず、琉球の一部だとして記述している。
 中国では、一部ニュースサイトをのぞき、主要メディアはこの問題を報じていない。中国外務省も華春瑩副報道局長が27日の記者会見で「よく承知していない」と述べるにとどめている。

http://digital.asahi.com/articles/TKY201212310339.html?ref=comkiji_txt_end_kjid_TKY201212310339

 うーん、この文書は中国政府公式のものではなく「署名のない参考資料を使って、誤った立場を補強しようとする企てだ」というのです。

 これは伊達政宗を彷彿とさせる中国外交無敵のテクなのか?

 その昔、大崎一揆煽動の疑惑で豊臣秀吉に呼び出され、白の死装束に金箔を塗った磔柱(十字架)を背負った姿で秀吉の前に出頭した政宗は、証拠の文書を突きつけられた際は、証拠文書の鶺鴒の花押に針の穴がない事を理由に言い逃れを行ない、それまで送られた他の文書との比較で証拠文書のみに穴がなかったため、やり過ごす事が出来たそうですが。

 ・・・

 外交資料館に誤った立場を補強しようとする資料を収蔵していたと主張する中国大使館なのです。

 この尖閣問題スクープ新事実をもみ消す中国大使館の理屈は国際的に見てどうなんでしょうか。

 なんだかなあ、これはやはり国際裁判で決着を付けたほうがよいのかもです。

 ふう。




(木走まさみず)

色々な意味でオカシイ中国人民日報社説〜「日本が歴史問題でずる賢く立ち回ることこそ本当の「自虐」」

 なんだかなあという28日付けの「人民網日本語版」記事です。

日本が歴史問題でずる賢く立ち回ることこそ本当の「自虐」
人民網日本語版」2012年12月28日
http://j.people.com.cn/94474/8074030.html

 安倍さんが歴史問題においてずる賢く立ち回っていることこそ本当の「自虐」なのだそうです。

 一読の価値ありですのでこの中国人民日報の論説に関心のお有りの読者はリンク先をお読みください。

 呼んでいて思わず苦笑した箇所を抜粋しておくに留めておきます。

 まず記事の冒頭。

 その国の歴史教科書に書かれた通りに、その国の国民は歴史を認識する。

 さすが中国共産党機関紙です、自分達の偏向した教科書による反日教育を賛美しているように取れますね。

 ここは重要な点なので再度論説の後半に顕われます(苦笑)。

 周知のように、その国の歴史教科書に書かれた通りに、その国の国民は歴史を認識する。歴史問題においてずる賢く立ち回ることこそが、本当の「自虐」だ。日本が誤った歴史観を固守したまま「普通の国」の列に加わり、アジア諸国の寛大な許しと尊重を得ることは永遠に不可能だ。

 しかしなあ、「アジア諸国の寛大な許しと尊重を得ることは永遠に不可能」っていつまでもどこまでも上から目線なんですよね。

 ふう。

 で、論説は最後にこう結ばれています。

 日本の近代史を振り返り、日本が失敗を重ねて原爆まで投下された原因を分析すると、自分が思い上がって、他者の知能指数と実力を見くびったことが運の尽きだった。こうした小賢しさはどこから来るのか?日本の政治屋達自身が最もよくわかっている。注意を促しておきたいのは、過去の侵略の歴史について徹底的な反省をしなければ、日本が根本的是非に関わる問題で小賢しく立ち回る悪習を捨てることはあり得ないということだ。

 策士策に溺れる。この古訓に含まれる道理が時代後れになることは永遠にない。(編集NA)

 「日本が失敗を重ねて原爆まで投下された原因を分析すると、自分が思い上がって、他者の知能指数と実力を見くびったことが運の尽き」とはすごい分析ですが、日本の敗因はもちろん経済大国「米国」の軍事力・生産力を見くびった点にありますが、「中国」に負けたわけではないのですが。

 全編を通じて、安倍政権が教育改革を通じて子どもたちに「歴史と文化を尊重する姿勢」を身につけさせる点を異常に警戒しているのが分かります。

 行き過ぎた事実を曲げた反日愛国教育の効果のお陰で反日デモの暴徒化をコントロールするのに手を焼いてる、つまり愛国教育の効果をやりすぎたぐらい良く知っている中国共産党機関紙らしい社説であります。

 「自分達と同じことは日本はするな」、私にはこの論説はこのように主張しているように思えてなりません。

 ほんと色々な意味でオカシイですよね。

 ふう。



(木走まさみず)

中国のジニ係数がとんでもない異常値な件

 社会の所得格差、不平等さを測る指標・インデックスとしてジニ係数が有名であります。

ジニ係数

ジニ係数(ジニけいすう、Gini coefficient, Gini's coefficient)とは、主に社会における所得分配の不平等さを測る指標。ローレンツ曲線をもとに、1936年、イタリアの統計学者コッラド・ジニによって考案された。所得分配の不平等さ以外にも、富の偏在性やエネルギー消費における不平等さなどに応用される。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%8B%E4%BF%82%E6%95%B0

 ジニ係数は0から1の範囲の値を取ります、0に近いほど平等で1に近いほど不平等、所得格差が顕著であることを示します。

 ちなみにOECD諸国では、日本が0.329、ドイツが0.295、アメリカが0.378などとなっております。 

社会実情データ図録 所得格差の国際比較(OECD諸国)
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4652.html

 ジニ係数にはカラクリがあります、日本のジニ係数0.329ですがこれは「直接税、社会保障給付金、現物支給」の再分配を考慮した所得のジニ係数でありまして、当初所得ジニ係数は当然ながら0.4を超えているのです。

■図1:ジニ係数の推移と社会保障と税による改善

・赤線は「直接税、社会保障給付金、現物支給」の再分配を考慮した所得のジニ係数
・青線は「社会保障給付金、現物支給」の再分配を考慮した所得のジニ係数
・緑線は当初所得ジニ係数
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Jpgini.png

 一般に社会騒乱多発の警戒ラインは、0.4と言われております。

 日本も社会保障と税による再分配で改善されていなければ社会騒乱レベルにあるわけです、所得格差の固定化が問題となりつつあるアメリカでは改善後のジニ係数が0.378ですので、0.4越えも時間の問題のレッドゾーンにあるわけです。

 ・・・

 さてここからはジニ係数の計算方法に踏み込みます。

 難しい数式は登場しませんのでご安心ください。

 以下にジニ係数の計算式とジニ係数の計算例(その1)を示します。

■図2:ジニ係数の計算式とジニ係数の計算例(その1)

 ご覧のとおり、150万、200万、300万の例ではジニ係数は0.23であります、最小所得と最大所得は2倍の差が有りますがこの例ではジニ係数OECD諸国平均より低いですね。

 では、300万の所得の人を3000万として格差を拡大したジニ係数の計算例(その2)を示します。

■図3:ジニ係数の計算例(その2)

 ご覧のとおり、150万、200万、3000万の例ではジニ係数は0.85に跳ね上がります、もちろん現実にこんな高い値の国はないでしょうが、この例のような国があれば間違いなく社会騒乱が頻発し下手をすれば革命が起こりかねないことでしょう。

 ・・・

 さて社会保障と税による改善後のジニ係数が0.6という格差の意味について数式でしっかり検証しておきます。

 最終ジニ係数が0.6という異常値はおそらくごく一握りの人に富が偏在している状態のはずです。

 そこで標本数10人で各所得が9人は100万、一人だけがX万として、Xがいくらならばジニ係数が0.6という異常値を示すのか計算していきます。

 まず平均差ですが、これは次式でもとまります。

 平均差=(X−100)*18/90=(X−100)/5 ・・・式(1)

 次に平均値は次式となります。

 平均値=(X+900)/10 ・・・式(2)

 式(1)、式(2)より、ジニ係数は以下の式になります。

 ジニ係数=平均差/(平均値*2)=((X−100)/5)/((X+900)/10*2)・・・式(3)

 式(3)で示されるジニ係数が0.6に等しいですので次式が成立します。

 0.6=((X−100)/5)/((X+900)/10*2)・・・式(4)

 式(4)を解けばXが求まります。

 X = 1600

 最終ジニ係数が0.6という異常値は、10人の標本で9人が100万の所得のケースでなら最後の一人に1600万の所得が集中していることになります。

 すごい所得格差、不平等な社会なのです。

 ・・・

 11日付け日経新聞の地味な記事から。

 中国の所得格差、危険域 暴動頻発の背景に
ジニ係数、世界平均を大きく上回る
2012/12/11 2:18

 中国の西南財経大学(四川省)の調査によると、中国の所得格差が深刻になっている実態が明らかになった。1に近いほど所得格差が大きい「ジニ係数」は2010年で0.61となり、警戒ラインとされる0.4だけでなく、社会不安につながる危険ラインとされる0.6も突破。中国各地で地元政府に対する暴動が頻発する状況を裏付けた格好だ。

(後略)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM10079_Q2A211C1FF1000/

 これですね、ネットではまだあまり話題になっていませんがすごい内容の記事です。

 中国の西南財経大学(四川省)の調査によると、中国の最終ジニ係数が0.61となったという報道です。

 最終ジニ係数0.61ということは、所得不平等が顕著で一部の人に富が極端に集中しているわけです、でなければこのような数値は出てきません。

 普通の国ならばもうこれは社会騒乱必至の数値です。

 異常値といっていいでしょう。

 実は中国では改革解放直後の1980年代初めは0.2程度だったのが2000年には0.41まで上昇してしまい、その後は中国政府はジニ係数を発表しなくなってしまい、「格差を隠している」との批判を受けていたのであります。

 うむ、この異常なジニ係数では発表したくても出来なかったのでしょうね、どの資本主義国よりも格差拡大しているとんだ「共産主義国」なのであります。

 いやはやしかし、かなり危険な数字です。

 いよいよ中国から目が離せなくなってきました。



(木走まさみず)