北方領土交渉:「2島返還」では日本はあまりにも多くのモノを失う
北方領土4島はすべて日本の領土であります。
まず163年前の日露和親条約を振り返りましょう、全てはここからなのです。
安政2年12月21日(1855年2月7日)に日露和親条約が日本とロシア帝国の間で締結されました。
本条約によって択捉島と得撫(ウルップ)島の間に国境線が引かれました。
全く平和的、友好的な形で調印されたこの条約は、択捉島までは日本人がすでに統治を確立していました、当時自然に成立していた国境を友好的に再確認したものでした。
以来、択捉、国後、歯舞、色丹の北方領土4島は、外国に帰属したことは一度もありませんでした。
しかし、第二次大戦末期の1945年8月9日、ソ連は、当時まだ有効であった日ソ中立条約に違反して対日参戦し、日本がポツダム宣言を受諾した後の同年8月28日から9月5日までの間に北方四島のすべてを占領しました。
当時四島にはソ連人は一人もおらず、日本人は四島全体で約1万7千人が住んでいましたが、ソ連は1946年に四島を一方的に自国領に「編入」し、1948年までにすべての日本人を強制退去させました。
1956年の日ソ共同宣言は、約65万人ものシベリアに不当に抑留されていた日本人の帰還の問題や、ソ連の指示でソ連及び東欧諸国が不支持だった敗戦国日本の国連への加盟の問題、日本漁船の拿捕が続発していた太平洋の北西部やオホーツク海における北洋の漁業問題の解決、これらの課題を抱えていた日本が、いわば、窮余の策として妥協して二島返還としたもので、それでも領土交渉の継続を約束させた上での署名でした。
この日ソ共同宣言により、シベリヤ抑留者の帰還や日本の国連加盟などが実現したわけで、この戦後11年で交わした共同宣言は、戦勝国ソ連に多くの「人質」を取られていた敗戦国日本にとり、条件を交渉する余地のほとんどない宣言でありました。
ゆえに日本政府は日ソ共同宣言以降も、四島一括返還を主張し続けてきたわけです。
1993年10月、細川総理とエリツィン大統領により、東京宣言が署名されました。
東京宣言では、その第二項で「択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題」を「法と正義の原則を基礎として解決する」ことが明記されています。
2 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、両国関係における困難な過去の遺産は克服されなければならないとの認識に共有し、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題について真剣な交渉を行った。双方は、この問題を歴史的・法的事実に立脚し、両国の間で合意の上作成された諸文書及び法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結するよう交渉を継続し、もって両国間の関係を完全に正常化すべきことに合意する。
2001年3月、森総理とプーチン大統領により、イルクーツク声明が署名されました。
この声明では、1956年の共同宣言が交渉プロセスの出発点であることが確認されます。
−1956年の日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との共同宣言が、両国間の外交関係の回復後の平和条約締結に関する交渉プロセスの出発点を設定した基本的な法的文書であることを確認した。
さらに重要なことは、1993年の東京宣言に基づき「択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題を解決する」と明記されているのです。
−その上で、1993年の日露関係に関する東京宣言に基づき、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題を解決することにより、平和条約を締結し、もって両国間の関係を完全に正常化するため、今後の交渉を促進することで合意した。
つまりプーチン自身が、2001年のイルクーツク声明で、両国の間に北方四島の「帰属に関する問題」が存在すること、それを「法と正義の原則を基礎として解決する」(東京宣言)ことを、認めて署名しているのであります。
・・・
さて16日付けの各紙社説はいっせいに、日露首脳の領土交渉を取り上げています。
【朝日社説】日ロ条約交渉 拙速な転換は禍根残す
https://www.asahi.com/articles/DA3S13770660.html?ref=editorial_backnumber
【読売社説】北方領土問題 国益にかなう決着を目指せ
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20181115-OYT1T50145.html
【毎日社説】日露首脳の領土交渉 共同活動が行き詰まった
https://mainichi.jp/articles/20181116/ddm/005/070/028000c
【産経社説】北方領土交渉 「56年宣言」基礎は危うい
https://www.sankei.com/politics/news/181116/plt1811160003-n1.html?cx_fixedtopics=false&cx_wid=d5ac4456c4d5baa6a785782ef4e98f6eb01bb384#cxrecs_s
【日経社説】北方領土交渉に向けて議論を深めよ
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO37827830W8A111C1EA1000/
各紙とも「安倍首相が「2島返還」を軸にした交渉に舵(かじ)を切った」との見方を強めています。
【産経社説】より抜粋。
日ソ共同宣言には、平和条約の締結後に、北方四島のうち色丹(しこたん)島と歯舞(はぼまい)群島を引き渡すと記されている。このため、安倍首相が「2島返還」を軸にした交渉に舵(かじ)を切ったとの見方が出ている。
よもやとは思いますが、安倍首相がこのタイミングで「2島返還」を軸としたとすれば、くれぐれも日本が本件で守ってきた外交原則を尊重されるように、願っております。
考えてみてください。
現在2島には約3千人、4島で約1万7千人のロシア住民が住んでおります。
おそらくプーチンは2島返還さえ簡単には絶対認めることはないでしょう。
(参考記事)
歯舞と色丹の2島 日本に返還しても日本の領土にならない可能性を示唆
http://news.livedoor.com/article/detail/15601245/
交渉ごとになるのでしょうが、周辺海域の漁業権や資源の配分、米軍の配備を認めるか否かなどの問題、さらには返還に伴う資金コスト負担の問題、これらに対してプーチンは大幅に日本の譲歩・援助を求めてくるのは自明です。
日本としては「2島返還」が交渉のスタートのつもりでも、ロシアとしてはそれは交渉のゴールなのでありそれでさえ安易な妥協は絶対にしないことでしょう。
当たり前ですが、世界中の領土問題では実質的に占領・統治している側が圧倒的に有利なわけです。
そんななかで安倍首相が現実的に「2島返還」から交渉を始めたいという気持ちは理解します。
しかしそれでも交渉は楽観できませんし、おそらく日本側はかなりの理不尽な譲歩を求められることでしょう。
そしてたとえ苦労して「2島返還」を勝ち取ったとしても、日本はあまりにも多くのモノを失うことになります。
それは、北方四島はロシアが第2次世界大戦の成果として正当に獲得したものだというロシアの誤った主張を、北方四島の93%を放棄することによって、日本として初めて国際的に認めることになるわけです。
そうなると、日本のこの北方領土に対する屈辱的妥協は、不当に竹島領有を主張する韓国や尖閣を狙っている中国に対して、将来にわたって外交上マイナスの影響は計り知れません。
安倍晋三首相には北方領土交渉ではくれぐれも結論を急がず、国益を守っての慎重な外交を望みます。
(木走まさみず)
「戦犯国日本が防弾少年団を利用してイメージロンダリングしている」(パク団長)だと?〜もし日本でこのように政治的に偏向する団体を政府の公金が支えていたとしたら大問題だ
VANK(Voluntary Agency Network of Korea)の公式サイトはこちらです。
VANKは韓国ボランティアネットワークを自称し、インターネットを通じて韓国を愛する韓国人や外国人と有意義な友情を共有することを目的としているとしていますが、その実態は韓国政府から公金が支出されている反日情報宣伝工作活動の拠点であります。
VANKと言えば、ディスカウントジャパン運動 が有名です。
国際社会における日本の価値や評判を下げて、日本の地位失墜をめざす運動のことで、2005年にVANKKが宣言して以降、様々な運動が実施されています。
VANKが推進するディスカウントジャパン運動が、ただの反日運動よりもたちが悪いのは、この運動は「日本を貶める、卑しめる」ことそのものを目的とし、日本が誠実な対応をしてもしなくても日本そのものが攻撃対象のために終わりがないことです。
(参考サイト)
過去のVANKのディスカウントジャパン運動では、日本でのオリンピック招致妨害工作(「放射能がいっぱいで、危ない国・日本」のキャンペーン)、慰安婦の碑、慰安婦像の世界各地での建立運動、アングレーム国際漫画祭での慰安婦関連作品の展示、ユネスコ世界遺産への登録妨害、旭日旗を「戦犯旗」と呼称して非難、とあらゆる機会を利用して日本を世界から孤立させる「過去の歴史包囲網(과거사 포위망)」を構築する」作戦を展開中であります。
ディスカウントジャパン運動を展開しているこのような反日団体VANKに、なんと韓国政府が予算配分して支援しているのでありますからあきれてしまいます。
・・・
・・・
さて VANKのパク・ギテ団長は13日、戦犯国日本が防弾少年団を利用してイメージロンダリングしているとお怒りです。
14日付け韓国中央日報記事より。
韓国市民団体VANK団長、「日本は防弾少年団通じ戦争被害者イメージをロンダリング」
2018年11月14日12時37分
https://japanese.joins.com/article/109/247109.html?servcode=A00§code=A10
記事よりパク・ギテ団長の発言を抜粋。
「日本の右翼勢力と日本メディアがSWCの声明内容を悪意的に広報に利用し、ナチスと同じ日本の第二次世界大戦の戦争加害国ではなくユダヤ人団体のような被害者としてイメージをロンダリングしている。実際の戦争被害者であるユダヤ人人権団体と戦争加害者である日本は全く性格が異なるにもかかわらず、SWCの防弾少年団非難声明内容が全世界に知られるほど、第二次世界大戦で加害者であり戦犯国だった日本のイメージよりむしろ被害者としてのイメージが全世界に広報されるという事実」
「これに対しVANKは帝国主義という大きな脈絡の中でホロコーストとナチズム、そして日本の戦争犯罪をひとつにまとめ、全人類にさらに積極的に知らせる活動を進めたいと思う」
しかし頓珍漢なことをいいますね。
なんでしょう? イメージロンダリングって・・・
日本は戦争加害国のくせに「ユダヤ人団体のような被害者としてイメージをロンダリングしている」って、考えすぎもいいところでしょう。
そもそもユダヤ人団体の抗議がなければ事務所の謝罪もなかったのは明白であり、日本の原爆だけだったら無視を続けていたことでしょう。
つまりユダヤ人団体に謝罪するのにしかたなく日本の原爆被害者にも謝罪しただけで、それは韓国側の情けない事情がそうさせただけなのであって、つまり日本のイメージをロンダリングしているとすれば、それは日本じゃなくて韓国自身の情けない対応が招いたことでしょう。
話がおかしいですって。
はあ。
・・・
それにしてもディスカウントジャパン運動のVANKであります。
もし日本でこのように政治的に偏向する団体を政府の公金が支えていたとしたら大問題でありましょう。
読者の皆さん、どう思われますか。
ふう。
(木走まさみず)
デタラメな韓国徴用工裁判で河野太郎外相が仕掛けた大規模かつ強硬な対韓国外交戦を強く支持する
日本政府が、元徴用工をめぐる韓国最高裁判決の国際法上の不当性について対外発信を本格化させたことを、8日付け産経新聞が報じています。
徴用工裁判の不当性、対外発信を本格化
2018.11.8 20:11
https://www.sankei.com/politics/news/181108/plt1811080023-n1.html
記事によれば、「一部の日本大使館がホームページ(HP)などで周知を始めた」ほか、「各国駐在大使らが現地の有力紙に寄稿するなど海外メディアを通じた活動も展開」する予定だそうです。
判決が「国際秩序への挑戦だ」(河野太郎外相)との理解を広め、判決後も対応が鈍い韓国政府に国際的圧力をかけていくのが狙いです。
米英両国やフランスなど一部の日本大使館は、判決が国際法違反だと説明する10月30日付の河野外相談話の英語版をHPや大使のSNS(会員制交流サイト)を通じて掲載しています。
産経の見立てでは、韓国の文(ムン)在寅(ジェイン)大統領が10月、欧州歴訪の際に北朝鮮への国連制裁の緩和を説いたことに対し欧州首脳は同調せず、逆に欧州を中心に韓国政府への「警戒感」や「違和感」が広まったことから、韓国の対応の不当性を主張しやすい環境にあるとの読みであります。
おそらくこの迅速な対外発信は、河野太郎外相のリーダーシップによるところが大きいのでしょう。
連日の河野外相による対韓国強烈批判発言は、韓国政府に十分に心理的ダメージを与えています、韓国政府のレスポンスを報じる中央日報記事。
韓国外交部「日本の指導者、国民感情を刺激するような発言は遺憾…法判断の尊重を」
https://japanese.joins.com/article/853/246853.html?servcode=A00§code=A10&cloc=jp|article|related
記事より。
「日本の責任ある指導者が問題の根源は度外視したまま、我々国民感情を刺激する発言をしていることに対して非常に懸念している」
「日本の責任ある指導者」が河野太郎外相を指す事は明らかですが、さて、その河野太郎外相が今度は各国日本大使館などを動員して大規模な対外発信を本格化させたわけです。
この過去にない日本政府の強硬姿勢に、韓国メディアも敏感に報じます。
日本、強制徴用判決の不当性を主張…海外メディアに寄稿
日本政府が韓国最高裁の強制徴用賠償判決に関連し、在外公館の自国大使に現地有力メディアへの寄稿などで日本の主張を知らせるよう指示したと、産経新聞が9日報じた。
同紙は河野太郎外相が領事館を含む在外公館に対し、現地メディアに(判決関連)情報を知らせるよう指示したとし、大使の寄稿がこうした活動の中心だと説明した。同紙は「判決が『国際秩序に対する挑戦』(河野外相の発言)との理解を広め、韓国政府に国際的圧力をかけていく狙い」と伝えた。
河野外相は5日、米ブルームバーグ通信のインタビューで「国際法に基づき韓国政府と締結した協定を韓国最高裁が望み通りにいつでも覆すことができるのなら、どの国も韓国政府とはやりづらくなることを韓国も理解すべきだ」と韓国政府を批判した。
一方、韓国外交部は「最近、日本の責任のある指導者が最高裁の判決に関連し、問題の根源を度外視したまま、我々の国民感情を刺激する発言を続けていることについて深く懸念している」と対抗した。
https://japanese.joins.com/article/957/246957.html?servcode=A00§code=A10&cloc=jp|main|top_news
・・・
韓国のすることとは関わらない、無視が一番との意見もあります。
残念ながら、韓国に対して安易に妥協したり無視したりすると、多くの事態は日本にとって最悪の展開を見てきました。
日本はこの異常で非常識な韓国最高裁判決に対し、安直に妥協したり無視したりすべきではありません。
強く抗議し必要な対抗措置を速やかに準備・実施すべきです。
その意味で河野太郎外相が今回仕掛けた(あるいはこれから仕掛ける)大規模な対外発信は、今までの日本政府の安直な妥協や対応と対比して、韓国側も厳しいと感じているほどのものです。
これは日韓外交戦の様相を成し始めていますが、当ブログとして強く支持します。
ここで韓国側と妥協するなど「大人の対応」を決してしてはなりません。
我々は、従軍慰安婦における対韓国外交無策が招いた惨憺たる展開を忘れてはなりません。
デタラメな韓国徴用工裁判に関して、河野太郎外相が今回仕掛けた大規模かつ強硬な対韓国外交戦を、強く支持いたします。
日本政府よ。
よもや、今後またしてもの尻切れとんぼのなし崩し対応でごまかすのは勘弁してくださいませね。
日本政府は「覚悟」を示すべきです。
悪いことは悪いのです。
ふう。
(木走まさみず)
「日本の反人道的不法行為に対する慰謝料請求は韓日協定外である」〜韓国ハンギョレ新聞社説からデタラメな韓国側の論理を読み解く
韓国側の論理を整理しておきましょう。
ここに韓国左派メディアの代表格であるハンギョレ新聞の社説があります。
[社説]あまりに遅かった13年目の強制徴用判決
http://japan.hani.co.kr/arti/opinion/31989.html
今回の韓国最高裁の「有り得ない判決」なのですが、彼らはどのような判断と論理で持ってこの判決を裏付けているのでしょうか。
ハンギョレ社説のサブタイトルによれば、「反人道的不法行為は韓日協定外」 というわけです。
その異様な筋立てはこうです、社説より抜粋しましょう。
まず、「原告の損害賠償請求権が1965年に韓日政府が結んだ請求権協定の適用対象に含まれない」のは、「反人道的不法行為」に対する「慰謝料請求権」だからだと言い切ります。
最高裁の合議体はこの日、原告の損害賠償請求権が1965年に韓日政府が結んだ請求権協定の適用対象に含まれないと判断した。
「日本政府の不法な植民支配および侵略戦争の実行に直結した日本企業の反人道的不法行為」によってもたらされた慰謝料請求権という理由からだ。
まず請求権協定分にはまったく日本の植民支配の不法性に言及していないと。
請求権協定文や付属書のどこにも日本の植民支配の不法性に言及する内容がなく、韓日間交渉の過程でも日本政府が植民支配の不法性を認めないまま強制動員被害の法的賠償を基本的に否認した
だとすれば、未払い賃金とかは協定対象だけど、日本の不法行為に対する慰謝料は対象外であると。
以上、不法行為に対する被害は韓日協定対象ではない
さらに12億2千万ドルを要求したのに3億ドル(無償分)ぽっちでは強制動員の慰謝料まで含まれているはずはないと。
交渉の過程で12億2千万ドルを要求したのに3億ドル(無償分)しか受けられず、強制動員の慰謝料まで含まれたと見るのは難しいという判断も付け加えた。日帝の植民支配と強制動員自体を不法に見る韓国の憲法の価値体系に照らしてみれば当然の判決だ。
・・・
整理します。
請求権協定には日本の植民支配の不法性が記述されていない。
今回の原告の請求は、未払い給料ではなくて、日本の不法行為に対する慰謝料だから請求権協定の対象外だ。
要求した12億ドルが3億ドルに減じたので慰謝料までは含まれていない。
このデタラメな論理で「反人道的不法行為は韓日協定外」との判断が導かれています。
これは異様な屁理屈です。
協定締結後、53年経って国際協定違反「ちゃぶ台返し」判決の韓国最高裁なのです。
日本の反人道的不法行為に対する慰謝料請求は韓日協定外である。
これでは韓国がそう判断したならば日本の「反人道行為」は未来永劫、韓国から訴えられてしまいます。
デタラメもいいところです、とても一国の最高裁の判断とは思えません。
読者のみなさん、そうは思いませんか?
ふう。
(木走まさみず)
日韓基本条約により『個人の請求権』は「消滅」ではなく「移行」しただけだ
これは非常に重要なポイントだと思うので整理してみたいのです。
BLOGOS上の著名な弁護士お二人が『日韓基本条約』及び付帯する『請求権並びに経済協定』では、個人の請求権は消滅しないと主張しています。
猪野 亨
2018年11月01日 09:34
韓国徴用工訴訟最高裁判決を考える 日本の右翼層が蒔いた種こそが原因 日本政府は本気で解決に向け対応するべきだ
https://blogos.com/article/335678/
橋下徹
2018年10月31日 22:06
無邪気な韓国批判の大合唱だけど、日本の弱点を知らないんだろう - 10月31日のツイート
https://blogos.com/article/335611/
失礼して猪野氏の主張を抜粋。
日本側は、日韓の1965年の請求権協定を根拠に請求権は放棄されているという主張のようですが、とはいえ、個人の請求権まで放棄できるのかは別次元の問題です。国家間の約束であろうと、勝手に国民の財産権(損害賠償請求権も立派な財産権です)を制約できるのかという問題でもあります。しかもこの場合の損害賠償請求権は、自らの人格を踏みにじられてたことによって発生したものです。
失礼して橋下氏の主張を抜粋。
?韓国の徴用工判決。日本側は、政治家もメディアもインテリも無邪気な韓国批判の大合唱だけど、日本の弱点を知らないんだろう。外務省は正直に政治家に説明をするべきだ。過去、日本人の戦後補償を否定するために、平和条約などでは個人の請求権は消滅しないと理屈をこねていたことを。
?日本の最高裁も、個人の実体的請求権の完全消滅までは言い切っていない。外務省は外交保護権の消滅。最高裁は訴権の消滅。さらに世界では宗主国が旧植民地に対して悪しき効果が残存している場合には責任を負う流れにもなっている。この辺を踏まえて、国際裁判所で勝つ方法を考えなければならない。
・・・
ここで反論しておきます。
今一度、『請求権並びに経済協定』の第二条を確認いたしましょう。
第二条では、これにおいて「両国は請求権問題の完全かつ最終的な解決を認める」と明記されています。
第二条 両国は請求権問題の完全かつ最終的な解決を認める
両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。(以下省略)
データベース「世界と日本」(代表:田中明彦) より
http://worldjpn.grips.ac.jp/documents/texts/JPKR/19650622.T9J.html
この第二条は極めて重要です。
これにより国家対国家としては「その国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題」がすべて「完全かつ最終的に解決された」わけです。
これの意味するところは、「個人の実体的請求権の完全消滅」ではなくて、請求権の行為の対象が日本政府から韓国政府に移行した、ということでしょう。
これにより韓国人徴用工などへの補償は韓国政府が行うことになったのです。
この考えは日本政府だけでなく韓国政府も共有しているものです。
まとめます。
確かに日韓基本条約によって『個人の請求権』が消滅したわけではありません。
請求権行為対象者が韓国政府に移行しただけです。
非常に重要なポイントだと思うので整理してみました。
本件で読者の皆さんはいかがお考えでしょうか。
(木走まさみず)
韓国最高裁よ、お前はどこの闇金なのか?〜日本企業が無視していると年利20%で4年ごとに倍増する恐ろしいカラクリ
日本メディアがあまり報じてないので、ちょっと今回の賠償金のカラクリをご紹介。
韓国中央日報記事によれば、韓国政府に問い合わせが殺到しているそうです。
「うちの祖父も徴用、訴訟を起こせばよいのか」…韓国政府に問い合わせ殺到
https://japanese.joins.com/article/660/246660.html?servcode=A00§code=A10&cloc=jp|article|ichioshi
記事より抜粋。
この日、強制徴用被害者を支援する行政安全部過去関連業務支援団には問い合わせの電話が続いた。「うちの祖父も被害者だが、いま訴訟を起こせば勝てるのか」というような問い合わせが多かった。裁判所の判決とは別に政府も強制徴用者を把握し、慰労金として遺族に2000万ウォン(約200万円)、負傷者には300万−2000万ウォンを支払った。現在まで政府慰労金の支払いが決定した事例は7万2000件。
つまりです、22万6千人(韓国側の数値)の徴用工のうち7万2千人はすでに政府慰労金(約200万円)対象なのですが、今回の判決で一人当たり一億ウォン(1000万円)の高額な賠償金額が命ぜられたのですから、問い合わせが殺到するのも無理はありません。
さらにです、韓国最高裁の判決には驚くべきカラクリが仕組まれていたのであります。
なんと控訴審弁論終結日の2013年6月19日から計算して年20%の利率に相当する金額を追加で支払うべきという付属決定がついているのであります。
この利子を含めると日本企業が負担すべきよう命じられた金額はすでになんと一人当たり二億ウォン(2000万円)なのであります。
さらにです、年20%の利子だとこのまま日本企業が払わないままだと、1年後1.2倍、2年後1.44倍、3年後1.728倍、4年後2.0736倍と雪ダルマ式に賠償額が膨らんでいくのでございます。
4年で二倍であります。
当該箇所を記事より抜粋。
今回の最高裁は新日鉄住金に対して原告に1億ウォンずつ慰謝料の支払いを命じる判決を下したが、実際の賠償金額はさらに多い。被害者が請求した1億ウォンのほか、控訴審弁論終結日の2013年6月19日から計算して年20%の利率に相当する金額を追加で支払うべきという付属決定をしたからだ。結果的に被害者は新日鉄住金に対して2億ウォンほどの賠償金の債権を持つことになった。新日鉄住金が賠償しなければ利子はさらに増える。
そもそも一人当たりの賠償金額1000万円の根拠は何なのでしょうか。
裁判所の説明は「いくつかの事情を勘案」となんともあいまいです。
裁判所は「日本企業の違法行為加担程度、被害者に対する抑圧水準、韓国の物価と国民所得上昇分などいくつかの事情を勘案し、慰謝料の金額を定めた」と説明した。
それもそのはず、新日鉄住金は金額以前の段階で争ってきて、請求金額などまった争点にしなかったからです。
この裁判で1億ウォンの請求金額が適正かどうかは争点にならなかった。新日鉄住金が賠償責任自体を認めなかった理由が大きい。
根拠薄弱な一人1億ウォンの賠償金が、日本企業が無視していると年利20%で4年ごとに倍増するのです。
そりゃ韓国政府に問い合わせが殺到するはずです。
何万人もが殺到するこの世の地獄絵・・・
恐ろしいことです。
やれやれです。
ふう。
(木走まさみず)
この局面で日本の責任を追及する朝日新聞の異常な社説
今回は主要紙の社説をメディアリテラシー的にプチ分析してみましょう。
さて31日の主要5紙の社説は前日の韓国の異常な徴用工裁判を取り上げています、全紙そろい踏みであります。
【朝日社説】徴用工裁判 蓄積を無にせぬ対応を
https://www.asahi.com/articles/DA3S13747548.html?ref=editorial_backnumber
【読売社説】判決 日韓協定に反する賠償命令だ
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20181030-OYT1T50161.html
【毎日社説】韓国最高裁の徴用工判決 条約の一方的な解釈変更
https://mainichi.jp/articles/20181031/ddm/005/070/128000c
【産経社説】「徴用工」賠償命令 抗議だけでは済まされぬ
https://www.sankei.com/column/news/181031/clm1810310002-n1.html
【日経社説】日韓関係の根幹を揺るがす元徴用工判決
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO37149270Q8A031C1EA1000/
さて社説のような小論では結語のインパクトは重要です。
落語で言えば落ちのようなものであります。
そして社説ではしばしば「誰々は何々すべきである」と、言い切り方の結論を持ってきます。
では、結語を並べて分析してみましょう。
まずは【読売社説】の結び。
韓国の文在寅大統領は、「未来志向の日韓関係構築」を目指すのであれば、事態の収拾に全力を尽くさねばならない。
主語は「韓国の大統領」、すべきは「事態の収拾に全力を尽くさねばならない」と結ばれています。
次は【毎日社説】の結び。
日本も感情的な対立を招かないよう自制が必要だ。しかし、主体的に問題解決を図るべきは韓国政府だということを自覚してほしい。
日本にも自制を求めつつ、結びは「韓国政府」が「主体的に問題解決を図るべき」と自覚しろとまとめられています。
次は【産経社説】の結び。
国同士の約束を破り国際的信用を失うのは韓国である。韓国への投資なども冷え込もう。政府間の交渉も信頼して行えない。
もちろん主語は「韓国」、「韓国」は「国同士の約束を破り国際的信用を失う」、「韓国」「への投資なども冷え込もう」、「韓国」との「政府間の交渉も信頼して行えない」というわけです。
次は【日経社説】の結び。
主語は「文在寅政権」で、「冷静に対応してもらいたい」とまとめられています。
今分析したとおり、日本の主要紙社説の結びでは、「冷静に対応してもらいたい」(日経)「主体的に問題解決を図るべき」(毎日)「事態の収拾に全力を尽くさねばならない」(読売)の要求先はすべて韓国政府にむけられています。
産経社説の結びにいたっては、要求すらしていません、「国同士の約束を破り国際的信用を失う」、「投資なども冷え込もう」、「政府間の交渉も信頼して行えない」と、韓国政府批判と最後の最後は「交渉も信頼して行えない」と韓国拒絶表現で結ばれています。
日本メディアの社説が韓国政府を痛烈に批判するのも当然です。
53年前に日本政府は国家対国家として韓国政府に巨額なお金を援助し、それをもって「請求権問題の完全かつ最終的な解決」をしています。
請求権問題で、徴用工に個別対応する責任は韓国政府にこそあります。
今回のは国際条約違反の有り得ない判決なのです。
(参考エントリー)
2018-10-30 韓国最高裁が『日韓基本条約』協定違反の異常で非常識な判決〜日本政府は韓国政府に強く抗議すると共にあらゆる対抗手段を検討すべき
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20181030/1540880015
さてです。
最後に朝日新聞の社説の結びを分析しましょう。
負の歴史に由来する試練をどう乗り切り、未来志向の流れをつくりだすか。政治の力量が問われている。
「政治の力量が問われている」と結ばれていますが、あれあれ主語がありません。(主語を消す、これはブンヤの意図的なテクニックです)
この場合、結びの手前の文が鍵を握ってきます。
日本政府は小泉純一郎政権のとき、元徴用工らに「耐え難い苦しみと悲しみを与えた」と認め、その後も引き継がれた。
政府が協定をめぐる見解を維持するのは当然としても、多くの人々に暴力的な動員や過酷な労働を強いた史実を認めることに及び腰であってはならない。
なんのことはない「日本政府」でした。
朝日社説は結びで「日本政府」に「多くの人々に暴力的な動員や過酷な労働を強いた史実を認めることに及び腰であってはならない」と要求し、最後に「日本政府」の「力量が問われている」と、本件は日本政府側の問題であると暗示して結ばれているのです。
・・・
今回は主要紙の社説をメディアリテラシー的にプチ分析してまいりました。
ご参考になりましたでしょうか。
社説のような小論では結語のインパクトは重要です。
落語で言えば落ちのようなものであります。
そこにはその新聞社が訴えたい主張がしばしば凝縮しているものです。
日本の全国紙の中で唯一「韓国政府」ではなく「日本政府」の責任を追及して論を結んでいる朝日新聞社説なのでありました。
この局面で韓国より日本への注文を出す、まさに異常な新聞と申せましょう。
ふう。
(木走まさみず)