木走日記

場末の時事評論

韓国の日韓軍事協定破棄により文在寅大統領の異質性があらためて国際的に認識された

22日午後、韓国政府は日韓の「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」を延長しないことを決め、発表しました。

米国のポンペオ国務長官は22日(現地時間)、「韓国が情報共有合意に対し下した決定を見て失望している」と明かしました。

国務省はさらに論評で「文在寅政府がGSOMIAを延長しなかったことに対し、強い憂慮と失望を表明する」とし、「この決定が米国と同盟の安保利益に否定的な影響を与え、我々が直面した深刻な安保的な挑戦に関し、文在寅政府の深刻な誤解を表明しているものと何度も明らかにしてきた」と韓国政府を名指しで批判しました。

アメリカ政府が同盟国を名指しで批判することは極めて異例なことだと言えます。

(関連記事)

国務長官、韓国の日韓軍事協定破棄に「失望した」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48899020T20C19A8000000/

さて、破棄は回避されるとの見方が広がっていた中での決定で、日韓両国でも驚きが広がっています。

懸念されるのが、相次いでミサイルを発射している北朝鮮に対応するための日韓米の連携への影響です。韓国メディアでは、「朝中東」として知られる大手保守系3紙(朝鮮日報中央日報東亜日報)が韓国政府の対応を疑問視する一方で、それ以外の左派系は「協定の終了は日本の自業自得」(ハンギョレ新聞)などと韓国政府に理解を示す論調も目立ちます。

(関連記事)

韓国大手紙、GSOMIA破棄に「自傷行為」 一方で「日本の自業自得」指摘メディアも
https://www.j-cast.com/2019/08/23365658.html?p=all

私は、このタイミングでの韓国の日韓軍事協定破棄ですが、日本にとって逆にメリットがあったと判断します。

韓国文在寅大統領の西側陣営の国家元首としてのその異質性(対北への親和性や反日・反米政策)が、あらためて米国やその他各国に国際的に認識されたことです。

韓国政府による日韓軍事協定破棄強行は、アメリカが引き止めていた中でそれを無視したという点で象徴的な意味を持っていると思います。

アメリカに対しても「NO」と意思表示した今回の韓国政権なのですが、政権およびそれを支持する「進歩派」と呼ばれる人たちの意見を見てみましょう。


ウル大学日本研究所の南基正(ナム・ギジョン)教授は「歴史問題と日韓関係再構築の信号弾だ。漸進的かつ長期的な変化が始まった」と本質的な意味に言及します。

「これは、今回の一連の動きの始まりとなった18年10月の徴用工判決が内包する日韓の「65年体制」問題を指すものだ。植民地支配の違法性を認めるのか否かという歴史認識問題を直視した上で解決し、新たな日韓関係を築けるのかという問いかけだ。」

「日本政府による『ホワイト国除外』が2004年以前に戻るだけと言うのなら、GSOMIAの破棄は2016年以前に戻っただけだ」

また、韓国政府と近い聖公会大学の梁起豪(ヤン・ギホ)教授は「GSOMIAは日韓の間でそれほど意味があるものではない。そもそも韓国に対し安全保障上の問題を持ち出してくるのなら、日本政府が先に破棄するのが正しいのでは」と持論を述べています。

また「米国が譲歩せよといっても、それに無条件したがう訳ではないということ」との解釈を示す一方で、「日韓の相互不信は深まるだろう。関係が冷え込むしかない」と見通しです。

(関連記事)
韓国「GSOMIA終了」の論理と、その余波
https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20190823-00139589/

この両者はいずれも進歩派に分類される学者でありますが、米国にはっきり「NO」を突きつけた点に特徴があります。

「米国が譲歩せよといっても、それに無条件したがう訳ではない」(南基正教授)という進歩派の主張が全面に出ることで、韓国現政権支持層の主張の米韓軍事同盟軽視という異常性、そして韓国文在寅大統領の西側陣営の国家元首としてのその異質性が国際的に顕著に示されるのは、日本にとって悪いことではないでしょう。

韓国文在寅政権が日本にだけでなくアメリカに対してもその異質性を現し出したということだと思います。



(木走まさみず)