木走日記

場末の時事評論

「電力自由化は日本の国会では無理」(民主党関係者)発言に脱力

 日本の電力料金が高止まりしている最大の要因は地域独占の電力会社間にまったく競争がないからです。

 競争を促すカギは現在地域電力会社10社の所有物である、送配電網を多くの事業者が使いやすくすること、電力会社の発電部門と送配電部門を分ける発送電分離であります。

 発電は切り離して自由化しますが、送電網は逆に統合し公社化、英国など同様、政府の監視を前提に独占的企業とします。

 つまり発電は自由化、送電は公社化することで、電力の健全な自由市場の形成と、電力の公共性・安定性を維持することが可能になります。

 これはイギリスやドイツなどが進めた実績のある電力自由化への常道と申せましょう。

 英国はサッチャー政権が1990年に、国営電力を3つの発電会社と1つの送電会社に分割・民営化し発電を自由化し、小売りでは12の配電局を民営にし新規参入も認めました。

 当時の英国においても国営電力の民営化・電力自由化既得権益擁護グループのものすごい反発を受けていたことが、「サッチャー回顧録」に描かれています、そこには「鉄の女」と呼ばれたがサッチャー氏ならではの迫力で、国営電力を追い詰めていくシーンが描写されています。

 日本でも10年ほど前、発送電分離が国会で議論されましたが、電力会社の猛反対で断念した経緯があります。

 世界の先例を見ても、発送電分離既得権益を有するものが猛反対するのが常ですから、サッチャーのような強烈なリーダーシップを有する政治家でなければなかなか強行できません。

 日本では政治家のリーダーシップを求めても残念ながら期待できませんから、福島原発事故で電力会社の政治力が弱体化している今が法律を改正する数少ない、いやもしかすると最後のチャンスなのだと私は思います。

 電気代の半分を占める発電部門で競争が進めば、コスト削減の効果は極めて大きいです。

 また政府監視の下で送配電網の利用を促し、小売りも完全に自由化して、新規事業者が伸びれば、電気の値上げをさらに抑えやすくなります。

 そして風力・太陽光発電などの再生可能エネルギーも、送配電網を安く使えるようになれば利用しやすくなるのは自明です。

 競争原理の働く市場を作るほうが、はるかに確実に効率化は進むのは当然です。

 ですから、まず昭和40(1965)年に施行された古い法律、電力会社の地域独占体制を認めた電気事業法、この法律の全面的見直し、地域独占の廃止をし、発送電分離をし、発電の自由化と送電の公社化、これを早急に検討すべきです。

 ・・・

 しかし日本の場合、この電力自由化発送電分離に対して、そうすれば電力料金抑制で最も利益を得ることが予想される大企業側がまったく保守的で、例えば5月に菅総理発送電分離は検討課題と国会で発言したとき経団連からは批判の声しか出ませんでした。

 国家の利益より私企業にすぎない電力会社の肩を持つ経団連から、楽天三木谷浩史社長は「電力コストが高いと国際競争力に影響する。新しい流れが必要だ」と、脱会いたしました。

 財界だけではありません、先日旧知の民主党国会議員政策秘書氏と会食した際、大変落胆させられる内部情報を得ました。

 私が持論である電力自由化に関して、民主党政権はもっと積極的に問題提起してほしいと発言したところ、秘書氏は「残念ながら民主党政権では電力自由化は不可能」とあきらめきった表情で嘆くのでした。

 聞けば菅総理発送電分離は検討課題と国会で発言したとき、民主党の支持団体からクレームが入ったというのです。

 民主党の最大の支持団体である連合に加盟している電力総連(全国電力関連産業労働組合総連合)関係者からのクレームであります。

 電力総連は電力会社などで構成される組合で構成員20万余りの規模としては中堅組合ですが、連合内での発言力は非常に大きく、第四代会長の笹森清を輩出しているほどです。

 電力総連にしてみれば所属する会社が分離してしまう案に反対なのは道理です、理解できます。

 秘書氏によれば、電力総連の自由化反対の動きに、連合内で原発容認派の有力組合である自動車総連電機連合が同調しているようです。

 その圧力のためか知りませんが、最近民主党幹部から発送電分離に関する提起がまったくなくなりました。

 秘書氏によれば、電力会社は長期にわたって政権党である自民党献金や利権などで食い込み電力族を養成してきました、また、膨大な広告費を通じてマスメディア対策もしてきました。

 一方で電力総連を通じて民主党にも食い込んでいたわけです。

 秘書氏の言葉を借りれば「日本の国会では無理だよ。自民党政権になったって電力自由化などできやしない」そうですが、必ずしも負け惜しみと言い切れないと思いました、と同時に脱力してしまいました。

 民主党にも自民党にも電力自由化に猛烈に反発する勢力がいることを考えると、実現への道のりは険しいといわざるを得ません。

 しかし逆に今こそ電力自由化はひとつの争点になるわけで、国民に信を問うのは意義があると考えます。

 菅首相は「脱原発解散総選挙を狙っているとの予測がありますが、電力業界の息のかかっていない良識ある政治家もいるはずです、電力自由化を政策に掲げる政治グループが出てきてほしいものです。



(木走まさみず)