木走日記

場末の時事評論

自由貿易協定(FTA)から完全に出遅れた日本〜通商戦略のない国家は産業空洞化する


 8日付け日経新聞記事から。

パナソニック、家電の海外生産拡大 液晶TV・マレーシアで倍増

 パナソニックは家電の海外生産を拡大する。液晶テレビでは2010年にマレーシアでの組み立て生産を09年に比べ倍増し、200万台にする。中国やメキシコなどでも増産し、プラズマテレビを含む10年度の薄型テレビ世界販売は09年度見込みに比べ500万台超上積みし、2100万台前後に引き上げる見通しだ。冷蔵庫やエアコンなど白物家電では欧州とインドに新工場を12年度までに建設する方針を決めた。 
 マレーシアで液晶テレビを増産するシャアラム工場(セランゴール州)は東南アジア各国や豪州などへの輸出拠点にする。東南アジア諸国連合ASEAN)が豪州などと自由貿易協定(FTA)を相次ぎ締結。家電製品関税の段階的引き下げをにらみ、為替変動に即応できる供給体制を築く。 (07:00)

http://www.nikkei.co.jp/news/main/20100108AT1D0708407012010.html

 パナソニックが生産拠点を大きく海外にシフトする方針を決めたようです。

 12年までに、マレーシア、中国、メキシコ、そして欧州とインドに生産拠点を設け、そこを輸出拠点として各エリアに供給体制を敷くという戦略です。

 この動きの背景には、記事にもありますが「東南アジア諸国連合ASEAN)が豪州などと自由貿易協定(FTA)を相次ぎ締結」という大きな世界的規模の新市場形成のうねりがあるわけです。

 例えば豪州とFTAを締結していない日本から豪州に輸出しても、製品に高い関税がかかるので日本製品に競争力はなくなります、これからはマレーシアに生産拠点を移しそこから豪州に輸出すれば関税が掛からないというわけです。

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 今年に入りアジア自由貿易圏は32億人市場に拡大しようとしています。

 1日付け日経新聞から。 

アジア自由貿易圏へ弾み 32億人市場、一体化進む

 【シンガポール=牛山隆一】アジア域内の巨大な自由貿易圏に向けた動きが1日、一挙に加速する。インドと東南アジア諸国連合ASEAN)の自由貿易協定(FTA)、インドと韓国の経済連携協定(EPA)がともに同日付で発効。中国と韓国はASEANとの間で大半の品目の関税を相互に撤廃する。日本もASEANとEPAを発効済みで、ASEANを軸に約32億人の巨大市場の一体化が進む。域内での貿易・投資競争に弾みがつくのは確実で、日本企業のアジア戦略にも大きく影響しそうだ。
 インドは1日、シンガポール、マレーシアなどASEANの一部の国とFTAを発効。国内手続きが遅れている他の加盟国との協定も順次発効する。双方はテレビやプラスチック製品など貿易品目の8割について、関税を2016年末までに段階的に撤廃する。(01日 00:02)
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20100102AT2M3000N31122009.html

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 日本はなぜ豪州とFTAを結べていないのか、言うまでもなく国内の農業従事者からの猛烈な反対があるからです。

 しかしながら自由貿易協定(FTA)の動きは特にアジアに置いて加速度的に各国が取り組み始めています。

 お隣の韓国では、すでに米国とEUとの間でFTA締結済みであり、対EUに関しては本年上期で実効される予定となっています。

 そうするとヨーロッパ市場で韓国商品は関税が無くなるので、FTAを結べていない日本商品に対し圧倒的に価格有利となることが予想されます。

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 経済学では、ゲーム理論を用いて、経済主体の社会的行動の戦略的相互依存関係を分析ことが多いですが、FTAに関してもネットワーク形成のゲームとしての分析が進んでいます。

 自由貿易協定(FTA)は2国のみで合意すれば締結することができるので、1つの国が多くのFTAを同時に結ぶことができます。

 そこで多くの国とFTAを結べばその国は自由貿易の通商上ハブ(中心)となり、多くのスポーク(枝葉)を従えることになります。

 FTAをネットワーク形成ゲームとみれば、理論的にはスポークに甘んじるよりもハブになった方が有利なのは自明です。

 ハブとしての成功事例をメキシコに見ることができます。

 日本はFTAには消極的でしたが2002年にシンガポールと結んだのはシンガポールが農業輸出国ではなかったことが大きな要因でしたが、二番目に結んだメキシコとは完全にメキシコのハブ戦略が成功したからでした。

 メキシコのFTA締結国は、日本との協定発効により43カ国になり、他方、日本にとって、メキシコとのFTAは、シンガポールに続く2番目のものでありました。

 メキシコのFTA拡大戦略は、結果的に同国の交渉力を高めています。

 日本がメキシコと締結した背景には、北米自由貿易協定(NAFTA)に加え、メキシコと欧州連合(EU)のFTA発効により、欧米企業と比べて日系企業がメキシコ市場において関税や政府調達などの面で著しく不利な状況に置かれたことが理由です。

 そうした状況で日本の製造業界は政府にFTAの締結を強く求めます。

 他方で、日本の農家は、豚肉などの安い農産物が日本に大量流入するのを恐れ強く反対しましたが、結果的に前者が優勢となりメキシコとのFTAに日本は踏み込んだのです。

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 残念ながら日本は、FTAにおいても韓国や中国やインドに先行を許しています、アジアのハブ(中心)としては機能していません。

 豪州に対してもアメリカ、ヨーロッパに対してもFTAが結べてはいません。

 例えば豪州とのFTAは農業関係者の反対で交渉開始にも至っていません。

 日本はほとんどの主要国とのFTAが結べていません。

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 先のパナソニックの海外生産拠点拡大の記事にもあるとおり、自由貿易協定(FTA)から完全に出遅れた国の輸出企業は、サバイバルのために、競争力と生産を維持するために生産拠点をFTA圏内に移設することになります。

 残念ながら自由貿易協定(FTA)から完全に出遅れた日本なのであります。

 そして通商戦略のない国家は産業空洞化する宿命にあるわけです。



(木走まさみず)