このままでは民主党というブランドは有権者の右脳には「共鳴」しない
私はいくつかの企業の経営コンサルをさせていただいておりますが、いろいろな業種の経営コンサルティングをしながらですが、この不況のおり、企業イメージ戦略や商品イメージ戦略の重要性はますます増していると日々感じています。
今回は「ブランド化」と「コモディティ化」の話からはじめましょう。
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米国マーケティング協会によれば、ブランドとは「ある売り手の製品及びサービスを識別し、競合他社のものと差別化することを意図した名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはその組み合わせ」のことであります。
1980年代に米国で「ブランド・エクイティ」という概念が生み出され、ブランド価値に関する研究は大きく発展したのであります。
それを企業の立場から捉えるか、顧客の立場から捉えるかによって、ブランド価値に対する見方は大きく二分されています。
カリフォルニア大学のデービット・アーカー名誉教授はブランドを企業の立場から捉え、ブランド・エクイティを「ブランドの名前やシンボルと結びついたブランドの資産(または負債)の集合であり、製品やサービスの価値を増大(または減少)させるもの」と定義いたしました。
彼はブランドを企業が持ち得る最大の無形資産と考え、その価値を「製品やサービスそのものの価値」と「ブランド固有の価値であるブランド・エクイティ」に分解したのです。
またブランド・エクイティの要素として、彼はブランド認知、ブランド連想、知覚品質、ブランド・ロイヤリティを考えました。
ブランドを無形資産とするアーカー名誉教授の考え方は、その後盛んになった会計学や経営法務の研究などにも大きな影響を与えたのです。
一方、ダートマス大学のケビン・ケラー教授は顧客の立場からブランド・エクイティを捉え、「あるブランドのマーケティングに対応して生じる消費者の反応に、ブランド知識が及ぼす効果の違い」と定義しました。
ブランド価値が生まれる顧客の心理プロセスに着目する、消費心理学者であるケラー教授のモデルでは、ブランド知識(ブランドに関して顧客が持つ知識)こそが重要な概念となります。
消費心理学の研究によってブランド知識の概念は精緻化され、ブランド価値への理解はいっそう高まったのです。
ケラー教授は、顧客から見たブランドの価値構造をピラミッドで表しました。
■■「共鳴」■■
↑
■■■「判断」・・・「情緒」■■■
(左脳系連想)← ↑ ↑ →(右脳系連想)
■■■■「機能」・・・・・「イメージ」■■■■
↑
■■■■■ブランド認知(「再認」・「再生」)■■■■■
土台はブランド認知で、そもそも顧客がブランドの存在を知っているかどうかがブランド知識の出発点になります。
ブランド認知は「再認」と「再生」に分かれ、再認はブランドを提示された際に認識できるかという指標であり、再生はあるカテゴリーからそのブランドを想起できるかという指標であります。
その上層にはブランドの「機能」と「イメージ」が、さらに上層には「判断」と「情緒」が、そして頂点には「共鳴」が位置しています。
「機能」は製品の機能・性能やスタイル、デザイン、顧客サービス力などに対する理解を、「判断」は「機能」に基づく品質や利便性、信頼性などに関する顧客の評価・判断を示しており、ともに思考にかかわる左脳系の連想であります。
一方、「イメージ」はブランドの誠実さや洗練度、個性などに関する印象を、「情緒」は明朗感やポシティブ感、満足感といった顧客の感覚を指しており、ともに感性・感情にかかわる右脳系の連想であります。
また、ブランドへの好意や自分との適合感、ロイヤリティ、関心などに反映され、顧客が深く価値観の部分でブランドに共感・同一化している状態を表すのが「共鳴」であります。
このように、ブランド知識とは認識や理解だけでなく、感覚や感情、価値観なども包摂する概念で、顧客とブランドの関係は認知から始まって、共鳴にまで深まる可能性を持っているわけです。
企業は自社ブランドが持つ属性やビジョンなどと摺り合わせながら、顧客とどのような関係性を築き上げられるかを考え、最適なブランド・アイデンティティーを作成することになります。
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一方ある業界分野において、競争商品間の差別化特性が失われ、各商品が没個性化されることを「コモディティ化」と表現することがあります。
一般にコモディティ化が起こりやすいのは、機能や品質が向上してどの製品・サービスでも顧客要求を満たす(オーバーシュート)ようになり、さまざまな面で参入障壁が低く、さらに安定した売上が期待できる市場においてであります。
このようなコモディティ化は絶えずいろいろな市場で見られ、私の属するITなどハイテク産業でも、技術の普遍化・汎用化が指摘されているわけです。
現在の半導体市場がよい例ですがいったん「コモディティ化」が起こると、競争激化によって価格が下落し、企業収益が悪化します。
「ブランド化」していた市場が「コモディティ化」してしまうと、顧客が個別商品に「共鳴」することはなくなり単なる価格競争原理だけが市場を支配してしまうのです。
これに対して企業はさまざまな努力を行うわけですが、その1つが「ブランド化」への回帰であります。
コモディティ化していた市場から、ブランド化に回帰した成功例としたは、かつてコモディティであったコメに、「ささにしき」「こしひかり」「秋田小町」などのブランド米が登場した例などが挙げられます。
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さて今の政界の話。
「企業」と「顧客」をそのまま「政党」と「有権者」に置き換えて、「ブランド化」と「コモディティ化」について、民主党の取るべき戦略について考察して見ましょう。
各メディアの世論調査で見る限り有権者の8割近くが「今の政治は信頼できない」と判断しています。
また有権者の7割近くが「小沢代表は辞任すべき」という意思を示しています。
一方民主党支持率が減少する中で低迷する麻生政権の支持率がその受け皿になっているわけでもありません。
支持政党なし層が増えているのであります。
金権腐敗や政管癒着などの負のイメージが政界全体に広がっているといっていいでしょう。
日本の政治などどの政党がやっても同じだ、期待できない、悪しき「コモディティ化」が有権者に広がりつつあります。
顧客が商品を選択する購買行為を、有権者が政党を選択する投票行為に置き換えれば、ダートマス大学のケビン・ケラー教授が指摘するとおり、有権者は必ずしも冷静な評価・判断(左脳系の連想)だけではなく、極めて情緒的な感性・感情(右脳系の連想)も総合的に合わせてあるブランドに対して最終的に「共鳴」するまでに深めるか決定していきます。
多くの有権者は、一連の小沢氏秘書逮捕や二階氏疑惑報道に、旧田中派由来の古い「土建政治」「金権政治」体質を情緒的な感性・感情(右脳系の連想)でもって、強く感じております。
それに対し、民主党支持者の一部にある小沢擁護論は、国策捜査などの陰謀論はともかく、有権者の立場からの議論ではなく、組織としての民主党を守る論理的な戦略論に終始しているように見受けられます。
このタイミングでの小沢擁護論は、せっかく政権奪取に成功しそうだった民主党というブランドが、このままでは自民となんら変わらないじゃないかという「金権腐敗」という悪しきコモディティ化が有権者の心理の中で起ころうとしている、民主のブランド力の致命的劣化が起こっていることを軽視しているように思えてなりません。
悪しき「コモディティ化」が支配した市場から抜けだすには、「ブランド化」への回帰することが重要です。
民主党が自民党と何を「差別化」することが、有権者の心の中で民主党のブランド力を取り戻すことができるのか、冷静に考えるべきです。
旧田中派由来の古い「土建政治」「金権政治」体質との決別を明確にシンボリックに有権者に示さなければ、民主党というブランドは、有権者の右脳には「共鳴」することはないのです。
(木走まさみず)
<参考記事>
■消費者心理とブランド戦略(一橋大学准教授阿久津聡)
日本経済新聞(3月18日〜25日(8回連載))
■@IT情報マネジメント
コモディティ化
commoditization / commoditizing
http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/commoditize.html