木走日記

場末の時事評論

訓練場所の不足(需要と供給のミスマッチ)を呼んでいる『中小企業緊急雇用安定助成金』制度

 読者のみなさん、ご無沙汰してました。

 新年度になってリアルな実業のほうが超多忙を極め、ブログの更新がままならなくなってしまいました。

 とりあえず少し落ち着いたので久しぶりのエントリーです。

 で、なんでこの4月になって不肖・木走が超多忙になったしまったかといいますと、中小企業緊急雇用安定助成金という不況対策の緊急制度に関係しているのであります。

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 不肖・木走はIT零細業を営みながら経営コンサルやシステム開発を本業としていますが、副業として週に1回工学系の学校でIT関連の授業を受けもち、年に数回不定期に商工会や自治体などの経営者セミナーなどで講師をさせていただいています。

 で、今回のこの不況です。

 私がコンサルしているクライアント中小企業の多くも厳しい経営を強いられており、売上も急減、このままでは雇用を維持できない会社が続出であります。

 非常に厳しい状況の中で、政府の掲げた不況対策の一環なのでありますが、厚生労働省ハローワークを通じて『中小企業緊急雇用安定助成金』制度というやつを、この2月6日より大幅に内容を見直して、中小企業雇用対策の柱のひとつと位置づけたのであります。

 この助成金、赤字か売上が5%以上急減している中小企業を対象に、一言で言えば、社員を解雇しないで、一定期間、休業させて、あるいはその期間に職業訓練すれば、国が給与の4/5を助成、その上もし休業だけでなく訓練を施すならば訓練費用(1日当たり一人6000円)も加算しましょう、という、不況で苦しむ中小企業にとって、たいへんありがたい制度なのであります。

 で、私も厚生労働省の担当部局などに問い合わせたり、近くのハローワークに何度も足を運び、この制度が私のクライアントの多くの企業が活用できることが確認できましたので、各クライアントにご案内しこの助成を活用するよう薦めたのであります。

 事業主さん達は地獄に仏とばかり大喜びであります、で、従業員との休業協定を結んだり、休業計画表を提出したり経理諸表を提出したりと、まあお役所仕事の弊害ですが、申請手続きの書類を24〜25種類も提出しなければならないのは辟易されていたようですが、みなさん、大急ぎでハローワークで手続きをされたようです。

 この制度の優れた点はただの休業助成だけでなく、希望あればその期間に職業訓練を実施し、その訓練費用も助成するという選択ができるところです。

 多くの事業主さんは当然ながら社員のモチベーションを維持するためにも会社の今後を考えても、この訓練コースを希望します。

 私のクライアント達もほぼ全社そうでありました。

 ところがです。

 さて、ここで職業訓練の場所がないという問題が浮上しました。

 職業訓練のやり方は、ビジネススクールなど外部に委託する方法と自社内で行う方法に大別できます。

 自社内で行うには通常の本業とは別の場所を確保しなければならないことや専門の講師を確保しなければならないなど、なかなかハードルが高いのです。

 多くの中小企業の場合、そのような場所が確保できないし、講師も用意できません。

 ましてや講師代ってバカにできませんからようやく講師を用意できても高い講師代を払っては何のために国から助成金をもらうのか意味がなくなります。

 で、大半の会社はビジネススクールなど外部に委託する方法を選択しようとするのですが、ここにも大きなハードルがあるのです。

 政府が急に用意した「緊急対策」でありますから時間的にやむをえない面もあるのでしょうが、この制度に適した訓練コースを用意しているスクールがほとんどないのです。

 社会人教育コースを用意している学校の大半は、夜間コースや土日コースなど、働きながら学習するようなコースしかほとんど用意できていません。

 今回の助成制度による職業訓練では、昼間のしかも平日は連日、2ヶ月とか3ヶ月とか各企業の事情によりフレキシブルに期間設定でき、しかも繰り返し利用できるような多岐に渡る選択できうるような、そんな社会人コースが必要なのですが、これが見当たらないのです。

 また予算の面でも実は選択の余地がほとんどない、短期のコースを組み合わせるにしても一部のIT技能習得コースでは5日間で25万とか高価な受講料が設定されていたりしますので、今回の助成制度の一日当たり6000円の訓練費用では割が合わなくなるのであります。

 クライアントの困窮に、私は厚生労働省の担当部局に、政府系機関で今回の助成制度に適応した職業訓練を受け入れる体制を早急に用意すべきだと直訴しましたが、政府として本件での訓練施設等に関しては関知しない、紹介や斡旋もしない、という杓子定規な回答を繰り返すのみです。

 助成申請の直接の窓口であるハーローワークにも相談にいきましたが、ただの休業だけでも給与の4/5が助成されるから、訓練が難しい事業主さんは休業だけの申請をみなさんしていますよ、と回答になっていない説明でおわりです。

 それはそうです、訓練したいのは当然でも、それよりも雇用維持のほうが重要ですから多くの事業主さんは訓練にこだわって申請が受理されないくらいなら、一月でも早く休業助成だけでも申請するでしょう。

 しかしこれでは、せっかくの職業訓練まで選択できるこの制度がほとんどの企業が利用できないのです。

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 私は、長年IT系の講師経験がありましたし、ハーローワーク系の職業訓練にも関わってきました。

 他に手段を思いつかず、私のクライアントの窮状を見かね、私は、私の会社で職業訓練委託場所として、各社の社員の職業訓練を受け入れることを決心しました。

 この4月から狭い事務所のヒトシマを訓練の場所としてまず7人のクライアントの社員を受け入れ、IT講習を始めたのであります。

 そうしたら、受け入れを始めたらはじめたで、口コミで聞いてきた知らない会社の社長さんなどからも連絡がありウチも委託したい、という話を複数受けてしまい、来月からはもうヒトシマ計16名を受け入れることとあいなったのであります。

 本業をある程度犠牲にして受け入れる覚悟はしてましたが、弊社の狭い事務所ではもともとの社員達の仕事もありますし、これ以上受け入れる物理的余裕はありません。

 しかたなく以後の他の会社からの依頼は断わらずを得ません。

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 百年に一度の不況が日本政府をして『中小企業緊急雇用安定助成金』制度を用意させました。

 この制度自体は多くの中小企業の雇用を維持するためにとてもすばらしいありがたい制度であります。

 しかしながら、この急ごしらえの制度が訓練場所の不足(需要と供給のミスマッチ)を呼んでせっかくの職業訓練助成制度が活用できていません。

 政府系の無策はあきらめ、この後で地元の自治体の中小企業担当部局にこの窮状を相談にいこうと思っています。



(木走まさみず)