木走日記

場末の時事評論

経営者達から現実みを帯びて懸念されはじめたデフレスパイラル〜与野党はくだらない政局を作っている暇などないはずだ

 6日の日経新聞の紙面記事『資源安の波紋(下)』は興味深かったです。

 ネットでは公開されていないようですので、一部抜粋してご照会。

(前略)

 資源価格の下落は、素材価格の下げ圧力を強めるだけではない。もっと深刻なのは、値下がりを期待する顧客が買い控えの姿勢を強め、景気低迷と相まって需要減退を増幅させることだ。「資源安で企業のコスト負担が軽くなっても、売上高は加速度的に減る」(大和総研の渡辺浩志エコノミスト)恐れがある。
 原料のニッケル価格急落を受け、昨年夏から四割近く値下がりしたステンレス鋼版。メーカーが値下げしたのにもかかわらず、建設用や自動車用の需要は鈍く、輸出商談はほとんど成立しない。「底値感が出ない限り、売り手が値下げしてもだれも買わない」と、日新製鋼の服部良ステンレス販売部長は嘆く。

(後略)

6日付け日経新聞 投資・財務欄記事『資源安の波紋(下)』底値見えず買い控え より抜粋

 金融危機実体経済に波及し、価格下落と需要減退が同時進行する「負の連鎖」が現実味を帯びてきました。

 最近私は私の顧客を通じて同様の生々しい話を聞いたばかりでしたので、この記事には考えさせられました。

 ・・・

 ・・・

 半導体工場ライン関係などを手掛けているある外資系会社の社長と久しぶりにお会いしました。

 その社長はまじめな顔で私に「今回の不況はどうも様子がおかしい。過去の経験側での将来予測がまったく成り立たない」と語りました。

 「最悪これから1年間半導体工場ラインの売上がゼロであることを覚悟して生き残り戦略を練っているところだ」

 確かに半導体市場は今回の不況により世界規模で低迷しており、日本でも主要メーカーが半導体工場の生産ラインの一部を停止するなど減産体制を強化しつつあり、それら半導体メーカーが顧客であるこの会社の危機感はよく理解できますが、それにしても「1年間半導体工場ラインの売上がゼロであることを覚悟」とは、経営者は最悪のケースを想定してリスクをマネジメントするものでありながら、ちょっと真剣な顔で話されていただけに少なからずショッキングな言い回しで驚かされました。

 これまで会社を支えてきた主力商品が今後新規導入だけでなく納品済みラインのメンテナンス作業も含めほとんど売れる見込みがたたないというのです。

 関連記事。

東芝半導体減産 2工場、ライン7年ぶり停止−−年末年始
http://mainichi.jp/select/biz/news/20081206ddm001020014000c.html

 その社長の話によれば現在の半導体メーカーは、1Gメモリチップ1枚を生産するのに2$前後の原価を掛けているのにもかかわらず1$ぐらいの値でしか需要家に売れない、完全に逆ザヤであり、日本の半導体メーカーの大半は部門赤字を累積しながらラインを動かしているのが現状なのだそうです。

 この社長が当面の「売上がゼロ」と覚悟するのも、このようなユーザーの惨状を知り尽くしている立場からは当然なのかも知れません。

 ・・・

 上記の社長の話は半導体工場ラインというかなり特殊な分野であり今回の不況の極端な悪影響を受けているわけで、この話でもって全てを語ることは避けなければなりませんが、私のクライアントのもう一社の社長もまったく業界は異なりますが、同じような不安を口にしています。

 その社長の会社は家畜飼料の輸入を主に扱っている中堅貿易商社でありますが、ここのところの原料暴落が彼の会社の収益を急速に悪化させているというのです。

 穀物原油などの資源価格が下がれば、コスト安から企業の生産活動が活発化し、製品値下げを通じて消費が盛り上がり、景気回復に転じる、数カ月前までなら普通に語られていた、こんな予測が今は成り立っていないと言うのです。

 「スパイラルが逆転した」というのです。

 とうもろこしなどを原料とした輸入飼料の価格が上がり続けていた数ヶ月前までは、輸入飼料価格高が、そのまま製品価格値上げになり、農協や農家などの需要家は先高感から先行発注に走り、それが結果として需要拡大となり、輸入量が増大、それがまたさらなる輸入飼料価格高を導くといった、値上げスパイラルが起こっていたのだそうです。

 それが現在は、180度完全に向きが逆転してしまったのです。

 輸入飼料価格安が、そのまま製品価格値下げになり、農家などの需要家は先安感から発注量を抑制、それが結果として需要縮小となり、輸入量が減少、それがまたさらなる輸入飼料価格安を導くといった、値下げスパイラルになってしまったというのです。

 日本は資源小国でありますから、本来ならば原油、食料、金属等ほとんどの資源を外国に頼る資源輸入国日本にとっては資源価格下落はプラスに働くはずなのに、現在は完全にそれすら需要縮小要因として働いてるようです。

 いわゆるデフレスパイラルというやつですね。

 ・・・

 ある社長は「今回の不況はどうも様子がおかしい。過去の経験側での将来予測がまったく成り立た」なくなっていると覚悟しています。

 ある社長は「スパイラルが逆転した」と指摘しています。

 『構造相転移』という物理学の用語があります。

構造相転移

出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』
構造相転移(こうぞうそうてんい、Structural phase transition)は、物質の持つ構造(その構造の状態:相)が、外的条件によって他の構造へ相転移すること。気相、液相、固相間の相転移や、結晶が対称性の異なる構造に変わる現象を構造相転移と呼ぶ。

構造相転移を引き起こす外的条件としては、温度、圧力、磁場、電場などが考えられる。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A7%8B%E9%80%A0%E7%9B%B8%E8%BB%A2%E7%A7%BB

 液体である水を零度以下に冷やすと急激に固体の氷に構造相転移し、性質や構造がまったく異なる相になります。

 現下の世界経済において上記のようなスパイラルの逆転は、物理学でいうところの『構造相転移』のような劇的変化が起きているのかもしれません。 

 そして日本経済はデフレスパイラルという悪循環が現実みを帯びて懸念される状況にあるのかもしれません。

 ・・・

 ・・・

 日本は、依然として技術力、労働力の質など世界に誇る水準をキープしています。

 しかしこれ以上消費者マインドを冷やせば、さらなる需要縮小を招き、本格的なデフレスパイラルを現実のものとしかねません。

 いかにして消費者マインドを暖めていくのか、今こそ具体的かつ即効性のある有効な経済政策が求められています。

 あらゆる財政・金融手段を講じデフレスパイラル突入だけは避けなければなりません、政策を立案する与野党の責任はきわめて大きいといえましょう。

 くだらない政局を作っている暇などないのです。



(木走まさみず)