木走日記

場末の時事評論

むきだしの市場原理が病院や弱小企業を痛めている〜この国の政策はほぼ脳死状態

●5病院で9回、収容断られ82歳女性死亡 福島・郡山

 朝日新聞記事から。

5病院で9回、収容断られ82歳女性死亡 福島・郡山
2008年11月14日10時3分

 福島県郡山市で今年2月、救急搬送された市内在住の女性(当時82)が市内にある救急指定の5病院から計9回受け入れを断られ、死亡していたことが14日わかった。郡山地方広域消防組合によると、各病院からは「ベットが満床」「処理が困難」と言われたという。女性は結局、市内から30分以上かかる福島市内の大学病院に運ばれたが、途中で意識がなくなり同病院で死亡が確認されたという。

 同組合総務課によると、2月5日午後11時21分に女性宅から「吐き気とけいれんの症状が出ている」と119番通報があり、4分後に救急車が到着した。救急車は受け入れ先の病院が近くにある、市中心部の同組合の前でいったん待機していた。

 だが、女性を受け入れてくれる病院が市内では見つからず、福島市福島県立医科大学付属病院に連絡、受け入れを承諾された。同病院に着いたのは、通報から1時間45分後の翌6日午前1時9分だった。同組合は「市内で収容できなかった例は、最近では聞いたことがない」としている。

http://www.asahi.com/national/update/1114/TKY200811140053.html

 繰り返される救急搬送患者の収容拒否ですが、事態は深刻です。

 自治体、政府には、病院に責任の転嫁をするような議論が見受けられますが、ここでもそんな表層的責任論で今日の事態を招いた政府・行政側の無策に対する反省はありません。

 今日の事態を招いたのは、医療機関にも市場競争原理を導入しようと日本政府の取ってきた一連の施策の結果でもあるのにです。

 小泉政権が目指した「アメリカ型医療制度」の一つ、医療分野への市場原理の導入は、緊急対応の医師不足というゆがんだ形で、病院が本来あるべき社会保障の姿から遠いものにしてしまったのです。

 そもそも医療機関に弱肉強食の市場競争原理を導入するならば、緊急対応の病院には補助を厚くするとか、弱者を守るセイフティネットの構築は行政側の責任で用意すべき不可欠の施策のはずです。

 弱者に対して、あまりにもこの国の政治は無頓着であったのであり、いろいろな分野でセイフティネットの構築ができていないのであります。

 医療機関だけでなく、この国の経済を底辺で支えている中小企業に対しても、現在のその危機的な苦境を正しく認識している政治家は何人いるというのでしょうか、はなはだ疑問です。

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●クライアントの一社がついに倒産手続きを取る事態

 私は仕事で複数の会社の経営コンサルをさせていただいていますが、昨日、たいへん遺憾なことでありますが私のクライアントの一社がついに倒産手続きを取る事態となってしまいました。

 経営者ご夫妻は自己破産手続きを取り、わずかに残っている自己資産を全て、解雇扱いになる従業員への手当と、銀行への返済の足しにまわすことにするそうです。

 まだ中学生と小学生のお子さまがいらっしゃいますが、ローンが残っている自宅は売却、近所のアパートに引っ越して再起をはかろうかと考えられています。

 気の毒にも中学生のうえのお子さんは通っていた塾もやめることになりました。

 コンサルタントとしてご支援させていただいてきた者として、深く深く力不足を猛省するとともに、他に策は取れなかったのか、このような事態に陥り誠に無念、誠に慚愧であります。

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 当ブログでは、今回の不況が主に中小企業を中心にいかに実体経済までに急速に深刻な悪影響を及ぼしているか、何回かエントリーをしてまいりました。

 中でも非正規社員の雇用状況は今後深刻な事態になると予測した11月3日のエントリーは、ネットでも多くの人に関心をもっていただいたようです。

[経済]「筋肉質」になった企業が大量の非正社員からクビを切る地獄絵が始まる
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20081103/1225680962

 しかしながら、このエントリーでのブクマ等の反応の中には、「何をこの人は不安心理を煽っているのだろう」といったネガティブなご批判も少なからず頂戴いたしました。

 私は改めて主張いたしたい。

 いたずらに不安心理を煽っているのではなく、すべて私が日々目撃している現実なのであります。

 むきだしの市場原理が弱小企業を追い込んでいるのであります。

 これは上述の救急搬送患者の収容拒否問題と、近年の政治の無策という点で通底している深刻な問題だと私は思っています。

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●中小企業の倒産が増え、不良債権処理損失が拡大〜日経新聞

 日経新聞記事から。

みずほFGの9月中間、純利益71%減 倒産増で処理損拡大

 みずほフィナンシャルグループ(FG)が13日発表した2008年9月中間決算は、連結純利益が前年同期比71%減の945億円だった。中小企業の倒産が増え、不良債権処理損失が拡大した。09年3月期通期の純利益は前期比2割減の2500億円にとどまる見通しで、期初予想の5600億円の半分以下に急減する。3大銀の業績悪化が鮮明になってきた。

 9月中間期の本業のもうけを示す連結業務純益は、前年同期比23%減の3174億円。法人や海外部門などの収益が低迷し、経費も増加した。収益の内訳をみると、貸出金が海外で伸びたものの、国内ではほぼ横ばいとなった。中小企業の経営課題について助言する問題解決型ビジネスなどで得られる手数料も、傘下銀行合計で前年同期から2割減った。(13日 20:22)
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20081114AT2C1301X13112008.html

 みずほフィナンシャルグループ(FG)が連結純利益が前年同期比71%減となったそうでありますが、記事によれば主因として「中小企業の倒産が増え、不良債権処理損失が拡大した」ことが指摘されています。

 公的統計数値がいずれ発表されますでしょうが、多くの中小企業の財務状況は、私が知る限り過去最悪な状況にあり、コンサルしている私自身未体験なほど厳しい状況にあると思います。

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●鉄くず巨大な山、鋼材不況で輸出止まり

 具体例を、読売新聞社会面トップ記事から。

鉄くず巨大な山、鋼材不況で輸出止まり

 急激な円高と韓国・中国の建設鋼材の需要の落ち込みが、鉄くずの回収業や輸出業を直撃している。

 北海道、山形、千葉……。各地を訪ねると、行き場のない鉄のスクラップが巨大な山を築いていた。

 北海道釧路町。回収会社の敷地には、鉄くずが7メートルもの高さに積み重なり、そのそばで、1人の作業員が回収した配電盤などを手作業で分解していた。

 「することがないんですよ」。経営者の村上祐二さん(35)が「ほかの社員には、工場の壁を修理させている」と話した。

 昨年まで、1トン3、4万円で卸していた鉄スクラップは今年7月に7万円近い値をつけた。それが8月になると、輸出先の韓国で建設会社の経営破綻(はたん)が相次ぎ、中国でも北京五輪の建設ラッシュが下火になったことで鋼材の需要が落ち込み、1万円を割り込んだ。

 さらに9月からの急激な円高・ウォン安で、輸出相手との価格交渉が折り合わず契約が成立しなくなった。

 その結果、村上さんの会社は8月、鉄くずの販売で1000万円もの赤字を出し、今月、16人いる社員に土曜の出勤を月1回に減らすよう命じて給料カットに踏み切った。「時間ができるから家族旅行にでも行っておいでよ」。明るく話してみたが、顔が引きつっていたのが自分でわかった。

 町内の別の回収会社はもっと深刻だった。

 経営者の男性(60)は「こんな暴落は30年で初めて」と顔をゆがませた。4人の社員に払っていた月25万円前後の給与は今月から半額にした。暮れのボーナス15万円も払えそうにない。

 「将来どころか明日のことが心配。鉄の価格が持ち直すなら我慢できるが、そんな保証はない。いつまで耐えればいいのか」。8歳と2歳の娘がいるという社員の男性(32)もそうつぶやいた。

 山形県酒田市の鉄スクラップ加工会社は輸出の激減で数千トンの在庫を抱えたままだ。従業員10人の仕事もなくなり、役員の男性(61)は「これまでは社員の給料は下げなかったが、もう限界」と嘆いた。

 千葉県船橋市。鉄スクラップの輸出を手掛ける商社の保管所には15メートル以上の高さの山がそびえていた。総重量は2万5000トンに上る。最近、少し買い手がついたが、先月までの3か月は輸出がほぼストップし、先月の売り上げは前年の5分の1だった。

 日本の昨年の鉄くずの輸出量は645万トンで世界有数の「輸出大国」。それが今は輸出の落ち込みで価格も暴落し、これまでとは逆に「お金をもらわないと、回収業者から鉄くずは引き取れない」と考える大手の買い取り会社もある。

 「そうなったら商売にならない。何とか生き抜くことを考えるしかない」。東京・荒川区で40年以上、個人で回収業を営む慶徳正昭さん(63)は、逆風を肌で感じている。

(2008年11月14日03時07分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20081114-OYT1T00135.htm

 「お金をもらわないと、回収業者から鉄くずは引き取れない」と、「商品」から「産業廃棄物」扱いとなってしまった鉄くずなのですが、重要なことは、たかだか数ヶ月で、鉄スクラップは7万円近い値から1万円を割り込んだ事実です、「こんな暴落は30年で初めて」と顔をゆがませた経営者の発言を出すまでもなく、今回の不況のただならぬ異常さが、鉄くず業のような産業基盤の弱い分野から実体経済の萎縮として、出現し始めているのです。

 いかなる経営努力をしようとも取り扱う商品の価格がわずか4ヶ月で7分の1にまで暴落しては、商売になるはずもありません。

 日本の昨年の鉄くずの輸出量は645万トンで世界有数の「輸出大国」だったわけですが、記事にもあるように先月までの3か月は輸出がほぼストップという、異常な事態に陥っているのです。

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●むきだしの市場原理が弱小企業を痛めている

 このような異常な事態では、1民間会社で打てる手だては極めて限られています。

 「給与半額」など経費削減につとめても、ビジネスとして成り立たない以上限界は見えています、自己努力とか自己責任を論じる正常な段階ではないのです。

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 むきだしの市場原理が弱小企業を痛めているにもかかわらず、この国の政府の対応はあまりにも遅く、後手を踏んでいるとしか思えません。

 かつて不良債権処理のために何十兆円も税金を投入して大銀行を救ったときと比べると中小企業対策はあまりにも非情であります。

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 日経新聞記事から。

定額給付金「受け取りも辞退も自由」 与謝野経財相

 与謝野馨経済財政担当相は14日の閣議後の記者会見で、政府が追加経済対策で目玉とする定額給付金について「全員に配布し、受け取りも辞退も自由だ」と述べ、一律給付が原則との考えを示した。その上で「所得制限をしたい地方自治体はそれぞれの責任でやってもらう。自治体の意思を尊重したという意味で、制度としての進歩だ」と語った。

 与党内には定額給付金をクーポン券で配った方がいいとの意見もある。これに対し鳩山邦夫総務相閣議後の記者会見で「今回は生活支援や景気対策の面から配る。現金支給という形は変更しない」と述べ、銀行振込か直接交付で住民に配る方式に変わりはないと強調した。(10:40)

http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20081114AT3S1400M14112008.html

 「自治体の意思を尊重したという意味で、制度としての進歩だ」と自画自賛しているようですが、国民の6割が疑問を呈するこの定額給付金ですが、このような愚策がこの国の政府の貴重な税金を投入する「生活支援や景気対策」の「目玉」とは、悲しくなります。

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 国家を人に例えれば政府は頭脳にあたりましょう。

 私に言わせれば、この国の政策はほぼ脳死状態のように思われます。



(木走まさみず)