木走日記

場末の時事評論

円独歩高のぜんまいばねと化した円キャリートレード〜誰がぜんまいを巻いたのか?

ぜんまいばね

出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

ぜんまいばね(発条)は、弾性の高い素材を渦巻状に巻いた機械要素で、巻かれた渦巻きが、元に戻ろうとする力を機械装置の動力源として利用する。山菜のゼンマイに形が似ていることからこの名がついた。ばねを省略し、単にぜんまいと呼ぶこともある。

  渦巻状の一方向巻き板バネのみを指してスルメと言う場合があるが、  これは他の方式の発条バネが存在した事と、イカを焼いたときにまるまる事からきている。   また、時計などに用いられるS字に巻かれた発条は、弾性破断を防ぐために用いられている。


エネルギーを貯めておき、徐々に開放することができる。時計やおもちゃなどの動力として使われている。江戸時代には、くじらのひげを使ったぜんまいが、からくり人形で使われていた。近年、エコロジーやサバイバルの面からも見直されている。

ぜんまいばねは板状の金属などその面方向に巻き込んだもので、その中心軸を巻き込むことで面に対する横方向の変化を与える。力を出すときはこれが伸びる方向に変形するから、軸を回転させることができる。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%9C%E3%82%93%E3%81%BE%E3%81%84%E3%81%B0%E3%81%AD

 昨日は、株価大底の今は実は株購入の絶好の好機じゃないかと、少し脳天気に聞こえるエントリーをしました。

■[経済]今こそ「100年に一度」の好機とは言えないか!?http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20081027

 それにしても今回の世界同時株安ですが、実は日本の株安は円独歩高による影響もあり、欧米市場の株安よりも値下げ幅が大きくなっています。

 欧米経済に比し比較的健全であるはずの日本なのに、株式市場は欧米以上に激しく動揺しているように見えるのは、簡単に図式化するとこんな感じでしょうか。

 つまり流れとしては、まずは、

 ・アメリカの株暴落
    ↓
 ・ヨーロッパや日本や新興国の株暴落

 という世界同時株価暴落が起こっているのは事実として、さらに日本の場合、

 ・アメリカの株暴落
    ↓
 ・円対ドル高騰

 ・ヨーロッパや新興国の株暴落
    ↓
 ・円対ユーロ対その他通貨高騰

  その結果、円独歩高に嫌気して、

 ・日本の株の下げ圧力強化

 となっているようです。

 現在の円高圧力は、ドル・ユーロ・円の国際主要通貨の中で、経済実態の傷が一番浅い日本の通貨がリスク回避の消去法で買われていると言った見方がある一方、今回の円高圧力のすさまじいエネルギーは、そのような消極的なリスク回避策だけではなく、円キャリートレードメルトダウンによるものであると指摘したいです。

 長らく世界の株式市場の好況をもたらし、副作用として円安基調をももたらしきた円キャリートレードが、今回の世界同時株安によりついにメルトダウン・破綻してしまった、そして、完全に資金の逆流が始まり、株高・円安から株安・円高へと一気にエネルギーが放出され始めたと推測されます。

 例えれば、長い時間掛けて、ぜんまいばねを限界まで巻きに巻いてきた上で、手を離した瞬間にも似ています。

 貯めに貯め込んだエネルギーが一気に開放されてしまうのです。

 ・・・

 円キャリートレードがいつの日かメルトダウンが始まってしまうという警告は、実は1年前にも当ブログで取り上げてきました。

 昨年11月13日のエントリー。

■[経済]世界同時株安が円高を招く理屈を『円キャリートレード』のからくりから学ぶ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20071113

 円キャリートレードとは、一言で言えば低金利の日本円で資金を借り入れ、それを高金利の通貨に変えて、株・為替・商品・債券など様々な金融商品で運用して利益を得る取引のことであります。

 円キャリートレードを利用しているのは主に海外のヘッジファンドなどでありますが、、彼らは日本の超低金利と海外の高金利の差分を利用して利益を得てきました。

 具体的には、海外投資家やヘッジファンドはまず、運用するためのお金を日本の短期金融市場などから調達します、もちろんその方が金利の高い外国で調達するよりも安くつくからです、

 彼らは手にした円を即座に全額外為市場で外貨に換え、そして海外の株・債券・商品などで運用して利益を得てきました。

 そして彼らは手にした利益から少しずつ低金利の日本の金融市場に円に換金して返済していくわけです。

 副作用として、円キャリートレードが流行ると大量の円が売られるから一時的に「円安」基調になります。

 そして「円安」になるとますます為替差益が出るから円キャリートレードによる利ざやが増えるという循環が生まれました。

 こうして世界全体で数千億ドルともいわれる規模にまで、円キャリートレードは拡大・拡散していったのです。

 いつかは円買いして返済しなければならない円キャリートレードなのですが、まるでぜんまいばねを卷けるだけ巻くように世界中に拡散していきました。

 ・・・

 ところが今回アメリカで株価暴落がおこって、この『円キャリートレード』の旨味が吹き飛んだ、メルトダウンが一気に始まったのです。

 ぜんまいばねのエネルギーが解放されはじめたのです。

 資金の逆流がはじまってしまったのです。

 円キャリートレードで株を買っていたファンド達は、これ以上の損失を避けるために、株を売ってその資金で円を買い出したのです。

 日本金融市場の返済に当てるためにです。

 この動きが活発になると大量に円が買われるために「円高」基調に変わるのです。

 そして、一端円高になってくるとますます為替差損が生じるから円キャリートレード解消の動きが加速度的に促進されます。

 世界中の市場で同時株安が起こりますます円高になる裏の要因のひとつがこの『円キャリートレード』解消の動きであると分析されているわけです。

 ・・・

 誰がこの恐怖のぜんまいを巻いたのか?

 もちろん、実際に円キャリートレードで株を買っていたのは国内や海外のファンド達でありますが、海外に比べて日本が超低金利政策を長らく取ってきたことが円キャリートレードをここまで拡散・拡大させてしまった主因であることは否定しようがないでしょう。

 その意味で、多くの批判を受けながらも不必要なほど長期に渡り超低金利政策を守り続けた、政府・日銀もこの恐怖のぜんまいを巻くことに加担してきたと言えるかも知れません。

 だとすれば今回の円独歩高は、政府・日銀にとり自業自得の面もあるのかも知れません。



(木走まさみず)