木走日記

場末の時事評論

理解に苦しむ「中国公安省は非常に前向き」福田首相発言

 人は社会性動物であります。

 社会性とは、簡単にいえば誰一人として群(むれ)をなさなければ生きていけない、人間とは群れる動物なのであります。

 群(むれ)るということは、そこには必然的に序列が発生し、権限・責任、保護・被保護の関係が生じます。

 猿の群(むれ)を観察すれば、力の強く群れのサルたちに支持されたモノがボスとなり、権力を握り、群を統率していくのであります。

 もちろん、彼の力が衰えれば、そこに世代交代の争いが起こり、若い新しいリーダーが誕生していきます。

 群れのリーダーはそのグループを守る責任を有するのでありますし、その資質が厳しく問われるのであります。

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 人はそれぞれ守るべきものを有します。

 扶養者を有する人間は家族を守ることを使命としますし、商店主ならば店と店員を守る義務があります。

 私のような零細企業経営者ならば、会社を守らなければならないし、村長は村を守り、市長は市を守り、知事は県を守らなければなりません。

 では、日本国総理大臣が守るべきものは何でしょうか。

 当たり前ですが、この国の利益・国民の利益総体であると、私は考えます。

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 昨日(28日)の毎日新聞記事から。

中国製ギョーザ:「毒物混入の証拠なし」中国公安省発表

 【北京・大塚卓也】中国製冷凍ギョーザの中毒事件で、中国公安省刑事偵査局の余新民・副局長らが28日、北京で記者会見。有機リン系殺虫剤「メタミドホス」が冷凍ギョーザの包装袋にしみ込むことが実験で確認されたとし、「中国国内で混入した可能性は極めて低い」との見解を改めて示した。日本の警察庁は、密閉された袋の内側からメタミドホスが検出されたことなどから、「日本国内で混入した可能性は少ない」とみている。両国捜査当局の見解が大きく食い違ったことで、事件解決には時間がかかる可能性が強まった。

 公安省が今回の中毒事件で公式な見解を示したのは初めて。捜査は原料の生産地や運送段階を含めて実施。製造元の「天洋食品」(河北省石家荘市)の従業員ら、包装工程や製品保管などにかかわった55人を対象にメタミドホス接触した可能性などを調べたが、余副局長は「疑わしい人物は見つからなかった」と語った。

 また、マイナス18度の条件下で、60%、30%、10%、1%の4種類の濃度のメタミドホス水溶液を完全密封した包装袋の外側に付着させる実験を実施したところ、62枚の包装袋のうち87%で袋の内側からメタミドホスが検出されたという。メタミドホスが冷凍ギョーザの包装袋にしみ込むことが確認されたとし、「密封された製品内からメタミドホスが検出されたことで、中国国内での混入を裏付けることにはならない」と主張した。

 これとは別に、日本の業者が中国側に提供した冷凍ギョーザの袋を調べたところ、袋の両面からメタミドホスが検出されたことを明らかにした。王桂強・公安省物証鑑定センター副主任は「袋の内側より外側の方がメタミドホスの量が多く、外側からしみ込んだ可能性がある」と語った。

 さらに、同省が派遣した訪日団が日本の警察当局に物証や鑑定結果を見たいと要求したところ、拒否されたとして、「深い遺憾の意」を表明した。

 今後の見通しについて、余副局長は「真相がまだはっきりしないので、両国の当局は捜査を終えるべきではない。さらに協力を強めるべきだ」と強調した。

毎日新聞 2008年2月28日 11時24分 (最終更新時間 2月28日 13時50分)
http://mainichi.jp/select/world/asia/news/20080228k0000e030033000c.html

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 「中国国内で混入した可能性は極めて低い」のだそうです。

 実に遺憾な一方的な会見なのであり、その実験結果も数値データ一つ公表していない不親切なもので、日本国民として到底納得できるものではありません。

 この突然の一方的会見により、毎日記事が指摘するとおり「両国捜査当局の見解が大きく食い違ったことで、事件解決には時間がかかる可能性が強まった」ことは否めません。
 まことに残念であります。

 中国公安省が昨日発表した「毒は中国国内で混入した可能性は極めて低い」という一方的な決めつけ会見は、被害者たる日本国民には到底受け入れることのできない一方的な非科学的断定としか映らないわけですが、まあオリンピックを控え中国政府がこの問題をなあなあに打ち切ろうとすることは当初から危惧されてきたわけです。

 まことに穿った言い方ですが、この中国政府の乱暴な「決着」は、オリンピックを控えこの問題を引きずりたくないかの国にしてみれば、まことにかの国の国益にあった短絡的な振る舞いであるといえましょう。
(もちろんこのような短絡行動は最終的には国の信頼を損なうわけでその意味では国益にまったくあっていないという指摘はできましょうが)

 日本国としては納得できるわけではありません。

 片側の解明を閉ざされては、これではこの国の食の安全は守ることができません。

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 この会見を「非常に前向き」と評価する日本の政治家がいるとは思いませんでした。

 我が日本国総理大臣福田康夫首相は、28日夜、中国製ギョーザの中毒事件で、中国公安省が中国国内での毒物混入に否定的な見方を示したことについて「(中国の)捜査当局の発表は日本と共同して、しっかり調査したいということを言っていたんじゃないですかね。非常に前向きですね。中国も原因を調査し、その責任をはっきりさせたいという気持ちは十分に持っていると思う」と発言したのであります。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/080228/plc0802282105011-n1.htm

 中国公安省のあの会見のどこを見て「非常に前向き」と考えたのか、理解しがたいのです。

 彼らは彼らの国益を考え乱暴な断定に走ったわけです。

 ここは日本国総理大臣として日本の国益と民の安全を第一にふまえ、断固とした日本の主張をかかげ、反論すべきだと、私などは思うのですが、日本国総理大臣として「非常に前向き」と中国を評価するのはいかがな判断なのか。

 日本の食の安全よりも日中友好のほうが大事であるとでもおっしゃりたいのか。

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 私は媚中派でも嫌中派でもないと自認しておるわけですが、もし福田さんが「日中友好」を第一に考えるほうがこの国の国益にかなうとお考えならば、一歩譲ってそれも総論としてなら理解できます。

 私はネット上の一部で見られるような感情的な中国批判を支持するものでは断固ありません。

 しかしながら、あの中国公安省の解決に後ろ向き(少なくても私にはそう思えました)の会見を「非常に前向き」と表現するのはいかがなものでしょうか。

 国民の8割が中国産食品を敬遠している世論調査結果も出ている中で、総理大臣が民意を代弁できずに、いったい誰がこの国の食の安全を守ることが出来るのか。

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 中国公安省昨日会見のどこが「非常に前向き」なのか、日本国総理大臣の発言に、1人のこの国の民としてまことに理解に苦しむのであります。



(木走まさみず)