木走日記

場末の時事評論

不明年金問題:問われるシステム開発主幹会社NTTデータの責任

社会保険業務センター三鷹庁舎の所在地はNTTデータ三鷹ビル三階

 東京の吉祥寺駅からバス10分ほどのところ、閑静な住宅街の中に、四階建てのNTTDATA三鷹ビルがあります。

 四階建てのビル内にはNTTデータのコンピューターが並んでいます。

 今から13年前、94年私はある大手石油販社のシステム開発に携わっており、その受注元が当時のNTTデータ通信(現NTTデータ)でありまして、私は雇われSEの一員としてこのNTTDATA三鷹ビルで作業をしておりました。

 たしか納期が4月末だったと記憶しておりますが、最後の2週間は徹夜・徹夜の日々が続き、朝の7時半から検収なんてこともしばしばでどうしようもなく眠いときは駐車場の車の中で眠ったりしておりました。

 そのシステムは、NTTデータ通信とコンピュータメーカーI社の共同受注だったので、PM以下技術者の中枢はI社の社員が固めておりましたが、進捗会議にだけはデータ通信の人も参加していて、会議の席上、工程が遅れている状況をデータ通信の偉い人がI社の技術者に対し怒鳴りつけていたことを思い出します。

 そのときの仕事ぶりを評価いただき、それから数年、いくつかのシステム開発をお手伝いすることになりました。

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 さて、現在の話です。

 東京都三鷹市にある社会保険業務センター三鷹庁舎には、年金情報が集積しています。
 全国三百十二カ所にある社会保険事務所や百六十五万の企業、被保険者約六千万人のデータ、氏名や基礎年金番号などが全てここに集中しています。

 同庁舎は実はNTTデータ三鷹ビルの三階に間借りする形で存在しているのです。

 表に看板が出ているわけではありません。

 ほとんど窓がないビルには「三鷹庁舎」の看板はなく、ロビーの「NTTデータご案内」表示板に小さく掲げられているだけです。

 社会保険業務センター三鷹庁舎は、NTTデータ三鷹ビルの三階の一区画を無料で間借りしています。

 もちろんNTTデータお得意の長期の「随意契約」の中で賃料無料が含まれているのでしょう(苦笑)

 NTTデータは、80年つまりまだ日本電信電話公社の時代から、全国の社会保険事務所を結ぶネットワークシステムを開発・運用してまいりました。

 そして今日に至るまで、社保庁の基幹システムの開発及びメンテナンスの作業場所の中心は、この社会保険業務センター三鷹庁舎も間借りしている、NTTデータ三鷹ビルだったのであります。

 社保庁とNTTデータの密接な関係を示す一例であります。

 97年の基礎年金番号統合のときにももちろんNTTデータが社保庁システム開発の主幹会社でありました。

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システム開発主幹会社NTTデータの責任

 前回のエントリーで私はこのNTTデータのシステム開発・運用の責任について言及いたしました。

■[社会]社会保険庁とNTTデータとの「特別の事情」

(前略)

 中でも基幹中の基幹である「記録管理システム」(正式名:社会保険(記録管理)オンラインシステム)は年間予算で650億円前後で推移しているわけで、年間1000億超の年金関係IT諸経費の大半を占めるわけであります。

 延べ1兆3000億以上の巨費を投じてきたにもかかわらず、システムがうまく機能せず、5000万件の宙に浮いた名寄せ失敗データが10年に渡り放置されてきたわけで、さらに初めての土日に開いた年金記録を照会するコンピューターシステムがいきなりダウンするという体たらくなわけであります。

 基幹システムに長年携わり巨額予算を受注している、NTTデータさんの責任は極めて重大なのであります。

http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070611/1181541308

 結果として、「5000万件の宙に浮いた名寄せ失敗データが10年に渡り放置されてきた」事実、そして「初めての土日に開いた年金記録を照会するコンピューターシステムがいきなりダウンするという体たらく」は、その年間数百億という「長年携わり巨額予算を受注」してきたこととあわせれば、「NTTデータさんの責任は極めて重大」であると指摘いたしました。

 また次のような指摘もしました。

 で、5000万件も「宙に浮いた」データを発生させてしまったシステムの張本人のNTTデータさんが、10年間も放置してきた「宙に浮いた」データを、たった一年間で「完了」させるというのであります。

「NTTデータは、対象者が不明な約5000万件の照合に関して、姓名や生年月日などを一致させる作業に4―5カ月、似た姓名の名寄せを含めた作業も1年以内で完了すると説明した」

 5000万件のデータを照合するシステム自体を作成し実行することは、確かに一年以内に可能でしょう。

 しかしそのようなシステムを実行した結果、それでも名寄せできないデータが何割になるのかは誰もわかりませんが、それらのデータは原簿と照合するという人海戦術に頼らなければなりません。

 そしてその肝心の手書き原簿は、特に国民年金原簿は実に284もの自治体で完全に破棄されてしまっているのです。

 これでどうやって照合を「完了」させることができるのでしょうか。

 照合の「完了」など一年どころか永遠に不可能なのです。

 この部分は、「5000万件も「宙に浮いた」データを発生させてしまったシステムの張本人のNTTデータさんが、10年間も放置してきた「宙に浮いた」データを、たった一年間で「完了」させるという」ことが大変興味深いとした部分であります。

 この点に関してコメント欄より真摯なご批判をいただきました。

どんな優れたシステムも、入力されたデータが正しくなければ正しい動作はしないことはシステム屋として容易に想像がつくでしょうが、その点どうなんでしょう。
公平な視点を欠いておられるように見受けられます。

 このご指摘はごもっともであります。

 私は今回の一連の年金不明問題に関するエントリーで再三、この問題は社会保険庁による「人災」であると主張してきました。

 その主張は今も変わることはなく、第一にすべての管理責任は社会保険庁自身にあると考えております。

 データの不備にまでNTTデータの開発したシステムに由来を求めて批判することは不条理でありましょう。

 また、次のようなご指摘もいただきました。

NTTデータに責任があるとすることに、事実の裏づけはあるのでしょうか。
憶測で指摘して良い内容を超えているものと思われます。

 これも「5000万件も「宙に浮いた」データを発生させてしまったシステムの張本人のNTTデータさん」という表記は憶測で指摘して良い内容を超えているのではないのかというご批判であります。

 私は私なりの情報収集で記述しており単なる「憶測」で記しているつもりはありませんでしたが、「張本人」という単語は誤解の招くつたない表現だったことをここにお詫びいたします。

 あらためて私が前回指摘したかったことをまとめておきますと、今回の年金不明問題は、第一義的には、社会保険庁による「人災」であり、すべての管理責任は社会保険庁自身にあると考えております。

 そのうえで、システム開発主幹会社NTTデータの責任は当然あると考えております。

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●年金システム障害発生問題についてNTTデータが不具合認める

【続々報】年金システム障害の原因はミドルウエアのバグ、6年を経て顕在化
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070612/274564/?ST=bcp

 社会保険庁は6月12日、年金システムで先週日曜日に障害が発生した問題について、原因はオンライン・システムを制御するミドルウエアの不具合だったと発表しました。

 障害が発生したのはNTTデータ三鷹ビル内3階にある社会保険業務センター三鷹庁舎の年金オンライン・システムが稼働する9台のメインフレームのうち3台でした。

 今回、3台のメインフレームでは、金曜日に延長稼働させ土日も連続運転させるというオンラインの最長連続稼働と、処理する事業所数が他の6台より多かったことが重なり、テーブル領域が不足しました。

 その結果、ミドルウエアの不具合が顕在化し、ミドルウエアが立ち上がらなかったため、オンライン・システムを利用できなくなったのです。

 NTTデータは、「国民の皆様と関係者の皆様にご迷惑をおかけして大変申し訳ございません。再発防止に全力を尽くします」と自らのシステムの不具合であることを認め謝罪しました。

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社会保険庁には、SE、システムエンジニアが一人もいない

 公的年金の管理責任は社会保険庁にあります。

 年金システムは一九八〇年から稼働しています。

 担当するのは社保庁運営部企画課であり、その場所は社会保険業務センター三鷹庁舎です。

 しかし、当時、現在もそうでありますが、社会保険庁には、SE、システムエンジニアが一人もおりません。

 あれだけの巨大コンピューターシステムを扱っているにもかかわらず、SEがいない。
 コンピューター処理の責任者がよくわからないで処理を進めているのも大きな原因だったと考えております。

 では、97年からの一連の統合はシステム的には誰が主導したのか。

 ここに社会保険庁システム担当としてNTTデータや日立製作所の技術者が非常勤職員として就任している事実があります。

 97年当時の資料はネット上確認できませんでしたが、そのことが現在まで続いていることは以下の資料で確認できます。

 ここに「平成十七年一月二十六日提出質問第一〇号 社会保険庁改革に関する質問主意書として国会に取り上げられた資料があります。

 社会保険庁改革推進本部シニアスペシャリスト(システム改革担当)の報酬を受け取る非常勤職員に就任した成生直隆氏は、株式会社 NTTデータ公共システム事業本部シニアスペシャリスト出身である。

 社会保険庁とNTTデータの間には、平成十五年度において「社会保険オンラインシステムデータ通信サービス利用料」など、八二四億八六一六万二千円の随意契約により年金保険料を財源としての取引関係がある。

 また、平成十六年度上半期においても「社会保険庁LANシステム操作説明書CD−ROM作成」など、五〇億七三二一万九千円の随意契約を年金保険料を財源として行っている。更に、社会保険庁のコンピューターオンラインシステムに対しては「契約外業務」に一〇六億円の保険料がNTTデータに支払われてもいた。加えて、NTTデータのグループ会社である株式会社 NTTデータシステムサービスとは、随意契約にて「健康管理手帳」などの購入に年金保険料を財源として、約八億五五五〇万円という取引関係にもある。なお、NTTデータグループと社会保険庁職員との間には監修料授受もある。
 以上のような濃密な関係にあり癒着とも疑われるような随意契約相手先である会社の出身者が、国民から期待される社会保険庁改革の担当者として、真に適切であるといえるか、政府の見解を答弁されたい。

 97年の年金統合時も、技術者不在の社会保険庁がシステムを主導できうるはずもありません。

 システム開発主幹会社としてNTTデータが技術的には主導していたことは間違いありません。

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●一兆近くの予算を投入し、10年という歳月が経過して、その上で5000万件という宙に浮いたデータが残ってしまった

 97年当時のことを振り返ってみましょう。

 それまで全国自治体でばらばらに管理されていた国民年金データと、社会保険事務所で管理されていた厚生年金データを新たに付番する基礎年金番号に統合し、社会保険庁による一元管理が計られました。

 全体でのデータ数は二億九千五百四十七万件、約3億件という膨大な数でした。

 最初のマッチング処理では現在の5000万件どころか実に2億件が宙に浮いた状態になったと言われていますが、正確なところはさだかではありません。

 97年社会保険庁は、基礎年金番号の際の通知、一億百五十六万人に基礎年金番号を、あなた様はこの番号でございます、と通知いたします。

 その際複数の年金番号を持っている人は内容確認の上返信するよう促します。

 ほかに番号はありますというような回答が、九百十六万人だけでありました。

 その後、まだ持ち主のわからない記録に対して、名前、生年月日、性別で突合をしたわけであります。

 そうしましたら、九百二万人の方がヒットしました。

 その方々は、申し出はなかったけれども別にも番号があって、統合漏れの可能性がある方をピックアップしたんです。

 さきのほかの番号がありますと回答した九百十六万人と足し算をした合計一千八百十八万人に履歴を送って再度照会通知をしたわけです。

 あなた様には、こういう加入履歴ですけれども、この中に抜けがありませんでしょうか、そういう照会通知を送り、結果は、五百六十五万人は未回答でした。

 私のではないという方も、私には抜けがないという方も三百六万人おられました。

 このような国民との情報のキャッチボールの後、システム的には何度も名寄せを繰り返すことで結果として、5000万件の名寄せ失敗のデータが残ったのであります。

 10年を経て今残っている5000万件の名寄せ失敗のデータは、生年月日が未入力の32万件などを含めて、姓名や性別など名寄せするためにキーとなる項目に入力ミスがあると思われるたちの悪いデータが当然ですが多いことは容易に想像できます。

 これまで一兆近くの予算を投入し、10年という歳月が経過して、その上で5000万件という宙に浮いたデータが残ってしまったのです。

 参考までに朝日新聞記事を紹介しておきます。

社保庁システム、総額1兆4千億円 委託先に幹部天下り2007年06月14日23時32分
http://www.asahi.com/special/070529/TKY200706140333.html

 柳沢厚労相は「1兆4000億円」の内訳は、NTTデータ関連に1兆632億円、日立関連に3558億円だと説明しています。

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●なぜわずか10億の予算でしかもたった一年で、5000万件の宙に浮いたデータが解決するのか?

 ところがNTTデータは今後一年で年金記録照合を「完了」できるというのです。

年金記録照合「1年内完了」・NTTデータ、自民に説明

 自民党は8日、年金保険料の納付記録漏れ問題で関係者から意見を聴取した。記録照合のプログラムを開発するNTTデータは、対象者が不明な約5000万件の照合に関して、姓名や生年月日などを一致させる作業に4―5カ月、似た姓名の名寄せを含めた作業も1年以内で完了すると説明した。

 ただ、約5000万件の記録には情報の欠損が多いとされる。新たなプログラムを開発しても照合に手間取り時間がかかる事態も想定される。同党は「できる限り速い作業を」と要請した。

 社会保険労務士団体には、年金加入者の相談に関して協力を依頼した。会合では年金問題に関する自民党ビラの第2弾を来週から配布することも決めた。相談窓口の電話番号などを明記。「与党は1年以内に年金番号を照合するが、野党は期間の明示がない」など、民主党との対応の違いを主張した。(22:01)

http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20070609AT3S0801E08062007.html

 しかもプログラム開発費はわずか10億円だというのです。

年金記録漏れ、照合経費は当面90億円・社保庁が試算

 該当者が見つからない公的年金の納付記録約5000万件について、社会保険庁が当面の照合作業などにかかる経費を90億円と試算していることが明らかになった。ただ、最終費用がどこまで膨らむかの見通しは立っておらず、ずさんな行政のツケが重くのしかかる。

 政府の計画では、まず2008年5月までにコンピューター上で番号同士の照合作業をした後、受給者は08年8月まで、被保険者は09年3月までに照合結果の通知・確認作業を終える予定だ。このうち、コンピューター上での照合に必要なプログラムの開発費として10億円、照合結果の通知の費用として受給者分は50億円、被保険者分は同10億円かかると試算した。(20:50)
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20070611AT3S1100J11062007.html

 これはどういうことでしょうか。

 2つの大きな疑問が沸きます。

 まず一点は、わずか10億の予算でしかもたった一年で、5000万件の宙に浮いたデータが記録照合「完了」するのなら、NTTデータはなぜ今まで5000万件という膨大な名寄せ失敗データを放置してきたのか?

 もし本当にこれが一年で記録照合「完了」可能なのだとしたら、今まで年間数百億という予算と10年の歳月を消費しながらこの問題を放置してきたNTTデータの責任は重大です。

 2点目は、逆にですが、10年を経て今残っている5000万件の名寄せ失敗のデータは、今まで懸命に努力してその数を減らしてきた結果なのであり決してNTTデータとして放置してきたわけではないとした場合、残存する5000万件は生年月日が未入力の32万件などを含めて、姓名や性別など名寄せするためにキーとなる項目に入力ミスがあると思われるたちの悪いデータが多いはずであると推測できます。

 そのような専門家が10年掛けてきて努力したにもかかわらず残ってきた5000万件を、なぜわずか1年でNTTデータは照合を「完了」できるといえるのか?

 魔法のような技術を開発したと言うのか?

 前回のエントリーで私が「で、5000万件も「宙に浮いた」データを発生させてしまったシステムの張本人のNTTデータさんが、10年間も放置してきた「宙に浮いた」データを、たった一年間で「完了」させるというのであります。」と表現したのは、まさにこの大きな二つの疑問を持ったからなのであります。

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 今回の年金不明問題は、第一義的には、社会保険庁による「人災」であり、すべての管理責任は社会保険庁自身にあると考えております。

 そのうえで、システム開発主幹会社NTTデータの責任は当然問われてしかるべきであると考えております。



(木走まさみず)



<関係テキスト>
■[社会]不明年金問題社会保険庁による「人災」〜5000万件というとほうもない数の「名寄せ」の失敗を放置してきた社会保険庁
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070526/1180137911
■[社会]原簿を破棄せよというおバカな命令を下したのは社会保険庁自身
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070601/1180687074
■[社会]原簿を完全にきれいに破棄した自治体数は284〜社保庁自体の民間では考えられない杜撰な体質
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070604/1180924449
■[社会]政府に代わって「宙に浮いた年金記録5000万件」不払い金額総額の試算をしてみる
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070606/1181100250
■[社会]年金不明問題:「自爆」発言で労組も政府もだめだこりゃ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070608/1181276510
■[社会]社会保険庁とNTTデータとの「特別の事情」
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070611/1181541308