木走日記

場末の時事評論

社会保険庁とNTTデータとの「特別の事情」

●何やってんだ社保庁!システム障害で年金相談窓口対応できず

 今日(11日)は一般紙が休刊日なのでサンケイスポーツ社会面記事から。

2007年06月11日 更新

何やってんだ社保庁!システム障害で年金相談窓口対応できず

 “消えた年金”問題で10日、相談窓口を設けていた静岡など全国23県の130カ所の社会保険事務所で、始業時から年金記録を照会するコンピューターシステムが作動しない障害が発生、約1時間半にわたり相談に対応できない事態となった。窓口設置は柳沢伯夫厚労相(71)が4日に発表したばかり。度重なるトラブルに、国民の不信感はますます増大しそうだ。

 社保庁などによると、トラブルが判明したのはこの日午前8時半ごろ。各事務所でシステムを始動したところ、年金記録を照会、確認するコンピューターシステムにアクセスすることはできても、個々の加入者の記録を照会することができなくなった。

 このため、始業時間の午前9時半から、年金記録不備問題を受けて相談に訪れた人に対応できない状態に。約1時間半後の午前11時ごろ、ようやく復旧した。

 社保庁によると、障害が発生したのは静岡のほか、神奈川、兵庫、徳島、香川、福岡、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄などの23県の社会保険事務局管内にある社会保険事務所

 障害が発生した福岡県直方市の直方社会保険事務所では、業務開始前から並んでいた約20人に相談に対応できないことを説明。年金番号や職歴を用紙に記入してもらい、照会結果を後日郵送する措置をとった。

 柳沢厚労相が相談窓口設置を公表してから初の週末を迎えた9日には、都内の相談所に約100人の行列ができるなどしていた。社保庁では、年金記録不備問題に関する不安を解消するために、10日の閉庁日も全国309カ所の社会保険事務所などで相談窓口を開設していた。

 また11日から、24時間態勢で相談を受け付けるフリーダイヤルも設置。社保庁は番号をTEL0120・657830(老後悩みゼロ)としたが、そんなごろ合わせをしている場合か!?

★『対応できない』に相談者が不満爆発、職員は疲れた表情

 「こんなときに何やってんだ」。年金記録不備問題で不安や不信が高まる中、休日を返上し相談に訪れた人たちは窓口で待ちぼうけとなり、声を荒らげる人もいた。

 岡山県内では社会保険事務所など7カ所の窓口で、年金記録の確認作業がストップ。担当者が「後日、照会結果を郵送する」などと説得し、少なくとも120人が相談をあきらめて帰った。岡山市の男性(59)は「『対応できない』と言うだけで、再開のめども教えてくれなかった。対応がなってない」と不満をあらわにした。

 横浜市内の社会保険事務所の職員は「多くの方に『こんなときに何をやっているんだ』とおしかりをいただいた。わざわざ来てもらった方に申し訳ない」と疲れた表情を見せていた。
http://www.sanspo.com/shakai/top/sha200706/sha2007061101.html

 「何やってんだ社保庁!」とタイトルからしてずいぶんお怒りのサンスポ記事なのでありますが、苦笑したのはここ。

 また11日から、24時間態勢で相談を受け付けるフリーダイヤルも設置。社保庁は番号をTEL0120・657830(老後悩みゼロ)としたが、そんなごろ合わせをしている場合か!?

 フリーダイヤルの番号が657830(老後悩みゼロ)だって(苦笑

 サンスポ記事じゃないですが、社保庁よ、「そんなごろ合わせをしている場合か!?」。

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 しかしなあ、相談窓口を設けていた全国23県の130カ所の社会保険事務所で、始業時から年金記録を照会するコンピューターシステムが作動しない障害が発生、約1時間半にわたり相談に対応できない事態となったそうでありますが、これはもう苦笑いするしかないですね。

 だってね、社会保険庁では、職員だけでなくシステムも休日出勤が苦手だったんですものね(爆

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 昨日(10日)日曜のTVのコメンテーターの中では「初めての土日で相談が殺到したのかも知れないがシステムダウンとは情けない」などという奇妙なコメントがありましたがそれは誤解ですね。

 記事にあるとおり、トラブルが発覚したのは相談始業時9時30分より約一時間前の午前8時半ごろ、各事務所でシステムを始動した時点であります。

 システム屋として容易に想像が付きますことは、前日まで問題なく稼働している点、9日が休日にシステムを稼働する初日であった点から、「休日に(稼働を)延長させるためのホストコンピューターのプログラムがうまく働かなかったのではないか」(時事通信)というあたりの推測が妥当なところでしょう。

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 しかし、システムも土日残業に備えていなかったとは情けない極みでありますね。

 職員もシステムも土日に働くなんて想定外だったわけです(苦笑

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●年金関係だけで年間で約八百億円の巨額予算を受注しているNTTデータ

 システム屋として私が知る範囲で言わせていただけば、現在社保庁関連で大型システムを開発・保守運用を受注しているメーカーは、NTTデータ、日立、日本ユニシスなどがあるわけです。

 中でも社会保険庁は、NTTデータに基幹システムである「記録管理システム」と「基礎年金番号管理システム」を委託しています。

 両方のソフト、ハードを合わせた予算額は、私は3,4年前の数値しか記憶していませんが、〇三年度に年間で約八百億円程度だったと記憶しています。

 中でも基幹中の基幹である「記録管理システム」(正式名:社会保険(記録管理)オンラインシステム)は年間予算で650億円前後で推移しているわけで、年間1000億超の年金関係IT諸経費の大半を占めるわけであります。

 延べ1兆3000億以上の巨費を投じてきたにもかかわらず、システムがうまく機能せず、5000万件の宙に浮いた名寄せ失敗データが10年に渡り放置されてきたわけで、さらに初めての土日に開いた年金記録を照会するコンピューターシステムがいきなりダウンするという体たらくなわけであります。

 基幹システムに長年携わり巨額予算を受注している、NTTデータさんの責任は極めて重大なのであります。

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 「巨大な旧式(レガシー)システムが長年にわたり非競争環境におかれ、効率性に関する十分な検証がなされないまま、拡充されてきた」――。

 実は4年前の2003年三月二十五日、自民党の「eジャパン重点計画特命委員会」(委員長・麻生太郎政調会長)は、電子政府予算の効率化を目指すガイドラインレガシーシステム改革指針」をまとめ、政府に速やかな履行を申し入れた経緯があります。

 そして、NTTデータが受注している社保庁の基幹中の基幹である「記録管理システム」でありますが、全省庁の大型システムの中でも予算規模で第2位のカネ食いレガシーシステムなのであります。

 レガシーシステム個々の予算規模をみると、第一位が「為替貯金業務総合機械化システム」(総務省)、第二位が「社会保険オンラインシステム」(厚生労働省)、第三位が「登記情報システム」(法務省)、第四位が「国税総合管理システム」(財務省)、というところですが、この上位の全ての開発にNTTデータは関わり、02年時点で七千億〜八千億円程度の総売上を政府・官公庁から計上しているダントツの完全なる「ご用聞き商人」なのであります。

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社会保険庁とNTTデータとの「特別の事情」

 社会保険庁とNTTデータとの「特別の事情」を指摘しておきましょう。

 ここに株式会社NTTデータポップというNTTデータの100%子会社があります。

 この東京都千代田区霞ケ関霞ヶ関ビルにある資本金1億円の「NTTデータポップ」ですが旧社名を「(株)社会情報クリエイト」と称していました。

 NTTデータの公式サイトより。

2005年4月 1日
(株)社会情報クリエイトの社名及び事業内容等の変更について
http://www.nttdata.co.jp/release/2005/040100.html

 この「社会情報クリエイト」という資本金一億円、従業員20名足らずのの奇妙な会社ですが、会社の電話番号を「一〇四」の番号案内にさえ登録せず、秘密主義を貫いているのであります。

 関係者によると、「NTTデータポップ」(旧社名「社会情報クリエイト」)には、厚生労働省社会保険庁からの「天下り」がいるのであります。

 元厚生省大臣官房付きの新飯田昇氏と元社会保険庁運営部保健指導課長だった中田悟氏の二人を含む三人の厚生労働省社会保険庁OBのことであります。

 つまり「社会情報クリエイト」は、厚生労働省からの天下りの受け皿として作られた会社なのであります。

 もちろん旧厚生省は、堂々とNTTデータ本体にも常務取締役として、社会保険庁次長などを歴任した谷口正作氏を送り込んでいるわけです。

 旧厚生省・社会保険庁は、天下り先をNTTデータに確保する一方で、NTTデータに年金システムという「おいしい商売」を与えていたことになります。

 どれぐらい「おいしい」のかは上述の通りであります。

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●照合の「完了」など一年どころか永遠に不可能

 前回エントリーのコメント欄で紹介いただいた9日付け日経新聞記事から。

年金記録照合「1年内完了」・NTTデータ、自民に説明

 自民党は8日、年金保険料の納付記録漏れ問題で関係者から意見を聴取した。記録照合のプログラムを開発するNTTデータは、対象者が不明な約5000万件の照合に関して、姓名や生年月日などを一致させる作業に4―5カ月、似た姓名の名寄せを含めた作業も1年以内で完了すると説明した。

 ただ、約5000万件の記録には情報の欠損が多いとされる。新たなプログラムを開発しても照合に手間取り時間がかかる事態も想定される。同党は「できる限り速い作業を」と要請した。

 社会保険労務士団体には、年金加入者の相談に関して協力を依頼した。会合では年金問題に関する自民党ビラの第2弾を来週から配布することも決めた。相談窓口の電話番号などを明記。「与党は1年以内に年金番号を照合するが、野党は期間の明示がない」など、民主党との対応の違いを主張した。(22:01)
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20070609AT3S0801E08062007.html

 みなさん、この記事は二重の意味で興味深いのであります。

 まず、今回の5000万件の照合システムですが、この超特急案件も見事にNTTデータさんが独占「随意契約」受注成功したようですね。

 さぞや料金も「特急料金」なのでしょう(苦笑)

 で、5000万件も「宙に浮いた」データを発生させてしまったシステムの張本人のNTTデータさんが、10年間も放置してきた「宙に浮いた」データを、たった一年間で「完了」させるというのであります。

「NTTデータは、対象者が不明な約5000万件の照合に関して、姓名や生年月日などを一致させる作業に4―5カ月、似た姓名の名寄せを含めた作業も1年以内で完了すると説明した」

 5000万件のデータを照合するシステム自体を作成し実行することは、確かに一年以内に可能でしょう。

 しかしそのようなシステムを実行した結果、それでも名寄せできないデータが何割になるのかは誰もわかりませんが、それらのデータは原簿と照合するという人海戦術に頼らなければなりません。

 そしてその肝心の手書き原簿は、特に国民年金原簿は実に284もの自治体で完全に破棄されてしまっているのです。

 これでどうやって照合を「完了」させることができるのでしょうか。

 照合の「完了」など一年どころか永遠に不可能なのです。

 NTTデータさんが言っていることは、照合システムを作成しそれを実行するというシステム屋として電子化されている部分の作業だけであります。

 その結果を受けて手書き原簿と手作業で照合するもっとも時間が掛かる部分は我関せずなのであります。

 そこは社保庁側の仕事だからです。

 その作業が一部原簿がないなど照合が「完了」できっこないことは、実はNTTデータさん自身が一番良く知っていることです。



(木走まさみず)



<関係テキスト>
■[社会]不明年金問題社会保険庁による「人災」〜5000万件というとほうもない数の「名寄せ」の失敗を放置してきた社会保険庁
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070526/1180137911
■[社会]原簿を破棄せよというおバカな命令を下したのは社会保険庁自身
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070601/1180687074
■[社会]原簿を完全にきれいに破棄した自治体数は284〜社保庁自体の民間では考えられない杜撰な体質
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070604/1180924449
■[社会]政府に代わって「宙に浮いた年金記録5000万件」不払い金額総額の試算をしてみる
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070606/1181100250
■[社会]年金不明問題:「自爆」発言で労組も政府もだめだこりゃ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070608/1181276510
■[社会]不明年金問題:問われるシステム開発主幹会社NTTデータの責任
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070615/1181876332