木走日記

場末の時事評論

プーチンの「失望」とノムヒョンの「沈黙」〜北朝鮮ミサイル連発ショーで足蹴にされた親北派大統領二人の憂鬱

 北のミサイルショーのせいで、ロシア大統領と韓国大統領がちょっと憂鬱なのであります。



プーチンの「失望」〜自国の防空体制の無力ぶりまで暴かれたロシア大統領の憂鬱

 日経記事から・・・

ロシア大統領、ミサイル発射は「失望」・北朝鮮を批判

 【モスクワ6日共同】ロシアのプーチン大統領は6日、北朝鮮のミサイル発射について「失望した。このような行為は正常とはいえない」と述べ、批判した。クレムリンで行ったインターネットを通じた会見で述べた。

 大統領は「文明国であれば、事前に(ミサイル発射の)実施場所などを通告している」と指摘。「ある国の権利は、他国の権利を侵害する形で実現されてはならない」と述べ、ミサイル発射を自国防衛のための権利だとする北朝鮮の主張に反論した。

 一方で、北朝鮮軍事産業の水準を考慮すれば、射程3500キロ規模の大陸間弾道ミサイルを製造することは不可能だと指摘。北朝鮮への制裁については「感情的に対応するべきではない」と述べ、外交的解決の道をあくまで追求する姿勢を示した。

 大統領はまた、イラン核問題解決に向けた「包括的見返り案」について「イランがもっと早く回答することを望む」と述べ、15日からの主要国首脳会議(サンクトペテルブルク・サミット)までの回答を期待していると述べた。 (00:01)

http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060706STXKE086106072006.html

 ロシアのプーチン大統領北朝鮮のミサイル発射について「失望した。このような行為は正常とはいえない」と批判したようですが、この「失望」の意味はどうも少しばかり複雑なようです。

 まず第一に「文明国であれば、事前に(ミサイル発射の)実施場所などを通告している」とあるとおり、前回と違い今回は事前通告しなかった北朝鮮の態度に「失望」したのは間違いないでしょう。

 事前通告無しにナホトカ近くの自国領海付近に連続してミサイルを着弾されたわけですから、地元のウラジオストクでは、恐怖と怒りの感情から市民が北朝鮮領事館に抗議のため殺到したりしているようです。

North Korean missile splashes near Nakhodka
ウラジオストクニュース
http://vn.vladnews.ru/News/upd06_1.HTM

 この記事によればロシア側はまったくミサイル着弾には無防備であったことがわかります。

The Vladivostok newspaper reported that six ships were in the waters near Nakhodka at about the same time that North Korea's missiles splashed down in the Sea of Japan. Luckily, no tragedies occurred. Passenger planes flying in the area also by chance escaped meetings with the missiles.

 ウラジオストク新聞は、北朝鮮のミサイルが日本海で着弾したほぼ同時期にナホトカ近くの水域に6隻の漁船が操業していたと報道した。 幸いにも、悲劇は全く起こらなかった。 また、たまたま領域を通過中のいくつかの旅客機もミサイルとの接触と言う難からは逃がれた。

 まさに事前通知無しに近海にミサイルを試射されたロシアなのでありまして、プーチン「ある国の権利は、他国の権利を侵害する形で実現されてはならない」という北朝鮮批判も当然でありましょう。

 しかし、このプーチンの「失望」が少しばかり複雑なのは、単に事前通知無しにミサイル試射した北朝鮮に対する「失望」だけではなく、実は自国の国防態勢の体たらくにも向けられている「失望」なのでありました。

 同じプーチン会見記事を読売記事から・・・

プーチン大統領北朝鮮のミサイル発射に「失望」

北朝鮮の核問題
 【モスクワ=金子亨】ロシアのプーチン大統領は6日、北朝鮮によるミサイル発射について「失望した。このような実験は正常とは言えない」と批判した。

 インターネットを通じた会議で、国内外の利用者から寄せられた質問に答えたもの。その上で大統領は、北朝鮮大陸間弾道ミサイルを製造することについて「近い将来には不可能だ」との見通しを示した。

 一方、ミサイルは今回、ロシア近海に着弾したが、大統領は「我々のミサイル追跡用レーダーでは、その情報は確認されていない」と明らかにした。

(2006年7月6日23時27分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20060706i215.htm

 先の日経記事では省略されていましたが、ポイントはこの読売記事結語の「我々のミサイル追跡用レーダーでは、その情報は確認されていない」というプーチンの発言であります。

 プーチン大統領自ら今回の北朝鮮ミサイルの着弾情報がロシア側がまったく探知できなかったことを認めたのであります。

 同じく読売新聞記事から・・・

ロシア軍、北ミサイル探知できず…露紙が無力ぶり指摘
北朝鮮の核問題

 【モスクワ=古本朗】ロシア軍は北朝鮮のミサイル発射を全く探知できなかった――。
 露有力紙コメルサントは6日、露軍防空体制の無力ぶりを暴く特ダネ記事を掲載した。
 同紙によると、発射の情報が世界を駆けめぐった後、露国防省参謀本部の担当者たちはインターネットから情報を集める有り様だった、という。

 醜態をさらす羽目になった理由の一つは、アジア太平洋地域でのミサイル発射を赤外線センサーで探知する露軍の早期警戒衛星は2003年に壊れたまま放置されているため、同地域の監視がガラ空きになっている点だ。

 また、シベリアのイルクーツク州にミサイル追跡用レーダーが設置されているものの、北朝鮮ミサイルの飛行高度が低すぎたために、このレーダーでは捉えられなかった、という。

 セルゲイ・イワノフ国防相やユーリー・バルエフスキー参謀総長は5日、北朝鮮ミサイルの発射を露軍の監視システムで捉えた、と強調したが、コメルサント紙の報道が事実なら、虚勢を張っていたことになる。

(2006年7月6日22時53分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20060706i312.htm

 いやはや、この醜態の原因のひとつが「アジア太平洋地域でのミサイル発射を赤外線センサーで探知する露軍の早期警戒衛星は2003年に壊れたまま放置されているため」とは、なんともなのでありますが「露国防省参謀本部の担当者たちはインターネットから情報を集める有り様だった」のが事実だとすれば、プーチン「失望」もよく理解できるのであります。

 ・・・

 北の将軍様の事前通知無しのミサイル連発ショーによって、自国近海に着弾されなおかつ自国の防空体制の無力ぶりを暴かれてしまって、ロシアのプーチン大統領はいたく「失望」されているのであります。



ノムヒョンの「沈黙」〜無能・無策ぶりを自国メディアから痛罵されている韓国大統領の憂鬱

 今回の将軍様のミサイル連発ショーによって窮地に追い込まれたのはプーチンよりもこの大統領の方が深刻なのかも知れません。

 なにせ将軍様により見事にはしごを外されてしまったノムヒョンなのであります(苦笑

 ミサイル着弾以来連日韓国主要メディアは、盧武鉉ノ・ムヒョン)大統領の無責任・無策ぶりを痛烈に批判し続けています。

 まず朝鮮日報は6日付けの社説から。

【社説】北朝鮮のミサイル発射と大韓民国の奇妙な平穏ぶり
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/07/06/20060706000003.html

 北朝鮮のミサイル発射を予想していた米国と日本は北朝鮮の動きを非常事態と受け止めてきたが、北朝鮮のミサイルが単なる人工衛星だと言い張ってきた大韓民国だけは余裕に満ちていた。金大中(キム・デジュン)と盧武鉉ノ・ムヒョン)という前職と現職の大統領が持つ北朝鮮に対する奇妙な感覚、そしてそれに感染してしまった国民の無感覚さは世界で話題となったのではないか。

 北朝鮮の動きを単なる人工衛星だと言い張ってきたノムヒョンに対して、その「奇妙な感覚」「世界で話題となった」だろうと皮肉ります。

 今回の北朝鮮のミサイル発射は、北朝鮮の動向に対する現政権の予測方式と抑止方式が的はずれで失敗に終わったことを証明した。

 「現政権の予測方式と抑止方式が的はずれで失敗に終わったことを証明した」と痛烈に批判した上で「現政府の勘違い」ぶりを以下のように諷刺していきます。

 当初から米国と北朝鮮との間の仲裁役にでもなったかのように振る舞ってきたこと自体、現政府の勘違いぶりをよく示している。現政権は自らの力量も、北朝鮮の目標も把握できなかったのに加え、米国の意向をも読み取ることができなかった。

 社説の結語はこうです。

 結局北朝鮮の核開発問題に続き、ミサイル発射問題においても南北はともに孤立無援の境遇を辿ることになりそうだ。

 こんなことでは北だけでなく南も国際的に孤立してしまうと結んでいます。

 ・・・

 同じく6日付けの東亜日報社説はタイトルからもっと過激で「「野次馬」盧武鉉政府 」であります(苦笑)

「野次馬」盧武鉉政府
http://japan.donga.com/srv/service.php3?bicode=080000&biid=2006070699218

韓国国民は、日本NHKなどの外信を引用した報道を通じて、北朝鮮のミサイル発射の事実を知った。盧大統領が北朝鮮のミサイル発射について報告を受けたのは午前5時頃で、政府が記者会見を通じて声明を発表したのは午前10時10分頃だ。声明といっても「深刻な遺憾の表明」水準で、「直ちに強硬対応」の方針を明らかにした日米政府とは対照的だ。日本が首相出席の安全保障会議を開いたのは午前7時30分だが、盧大統領が緊急安保関係長官会議を開いたのは午前11時だった。

 「韓国国民は、日本NHKなどの外信を引用した報道を通じて」しか情報をえられなかったとし、韓国政府の対応が万事後手を踏んだことを詳報した上で、以下のように「「北東アジアのバランサー」を自任し、「自主国防」を叫び、戦時作戦権早期還収を主張した結果がこれなのか」と痛烈にノムヒョンを批判します。

政府は、北朝鮮ミサイルに関するすべての情報を米国に依存するほかない状況だが、韓米協力を故障させたことで、情報不在を深めた。「北東アジアのバランサー」を自任し、「自主国防」を叫び、戦時作戦権早期還収を主張した結果がこれなのか。日本に対しても、大統領の不必要な強硬発言で感情の溝だけを深めた。韓米日協力をいかにして回復させ、北朝鮮の脅威に共同で対処するのか、国民は不安だ。だからといって中国にしがみつくつもりなのか。

 社説の結語は「沈黙」を余儀なくされているノムヒョンに対して「今度こそ、盧大統領は明らかな態度を示さなければならない」と訴えております。

盧大統領から、立場を明らかにしなければならない。なぜミサイル問題に対しては沈黙するのか。政府関係者は、「対北朝鮮問題に大統領が出れば、うまくいくこともいかなくなる」と述べたが、これは言い訳に過ぎない。盧大統領が本当に出るべき事と、そうでない事をしっかり分けてきたと言うのであろうか。今度こそ、盧大統領は明らかな態度を示さなければならない。

 ・・・

 最後に同じく6日付けの中央日報社説であります。

【社説】ミサイル危機、韓日米の共助優先
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=77527&servcode=100§code=110

結局「北朝鮮ミサイル危機」は現実化された。発射準備過程と発射後の事態で見る場合、この政府の安保態勢がどれだけお粗末か如実に表れた。米国と日本の対応と比べると、我々政府は他人の家の仕事のように扱っているという印象をぬぐえなかった。

 まず米国と日本に比べて「この政府の安保態勢がどれだけお粗末か如実に表れた」とします。

 そして「ミサイルではなく人工衛星である可能性もある」北朝鮮を代弁までしていたノムヒョン政権を痛烈に批判します。

発射の兆しが捕そくされた5月初めからこの政権は安易に対処してきた。政府の関心は光州(クァンジュ)で開かれた「6.15祝典」だった。外交部長官は「形式的な警告性発言」を1、2回して口をつぐんだ。青瓦台(チョンワデ、大統領府)高位当局者は「北朝鮮が発射しようとしたのは、ミサイルではなく人工衛星である可能性もある」と北朝鮮を代弁までしていた。

 続いて「我々より対北情報力をもつ日米はミサイルだと予測するのに」北朝鮮をかばう発言を続けてきたのは「これが果たしてまともな国か」と痛罵します。

我々より対北情報力をもつ日米はミサイルだと予測するのに、この国の外交安保の責任者は北朝鮮をかばう発言をしたのだ。

これが果たしてまともな国か。いまやミサイルと判明されたのだから何と言い訳するか知りたい。こんな無責任なことを言った当事者たちが安保の責任を担っているから国民が不安がるのだ。

 「いまやミサイルと判明されたのだから何と言い訳するか知りたい」と皮肉った上で、以下のように北朝鮮側の立場を代弁した韓国政府はミサイル発射によって国際社会で体面を失ってしまった」と言い切り「こんな状況でさえも北朝鮮の立場ばかりカバーすれば、結局北朝鮮と一緒にこの国は国際社会で孤立するほかない」と警告します。

韓国政府の立場はもっと弱くなった。北朝鮮を対話に導き出そうと言い、北朝鮮側の立場を代弁した韓国政府はミサイル発射によって国際社会で体面を失ってしまった。これから対北制裁のレベルも高くなるはずで、北朝鮮の孤立化はもっと深くなるだろう。この政府は本当に気を引き締めなければならない。こんな状況でさえも北朝鮮の立場ばかりカバーすれば、結局北朝鮮と一緒にこの国は国際社会で孤立するほかない。これからはきちんと明らかにしなければならない。このような挑発が続く限り、南北経協は不可能だという点を北朝鮮に理解させなければならない。米、肥料など人道的支援も全般的に再検討する必要が生じた。誤った行動に対しては鞭があるという点を明らかに見せなければならない。

 ・・・

 うーん、いやしかしどの社説もきつい文面であります(苦笑

 これではノムヒョン「沈黙」を守らざるをえないのも頷けるのであります。

 北の将軍様の突然のミサイル連発ショーによって、「ミサイルではなく人工衛星である可能性もある」と北朝鮮を代弁までしていた愚策ぶりを徹底的に自国メディアに叩かれてしまって、韓国のノムヒョン大統領は「沈黙」を余儀なくされているのであります。

 ・・・

 ふう。

 なんと罪づくりな将軍様のお戯れなのでしょう。

 かたや、将軍様の配慮の無さで通知無しで打ち込まれ、自国の防空体制の無力ぶりまで暴かれたロシア大統領プーチンの「失望」。

 かたや、北朝鮮の代弁までしていてあげたのに、無能・無策ぶりを自国メディアから痛罵される結果に陥った、韓国大統領ノムヒョンの「沈黙」。

 将軍様の暴走ミサイル連発ショーで足蹴にされた親北派大統領お二人の憂鬱は深まるばかりなのでございます。



(木走まさみず)



<関連テキスト>
■[朝鮮]北朝鮮がロシアにすら事前通告しなかった理由〜金正日中枢部に不気味なある種の軍シフトが起こっている可能性
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060706
■[朝鮮]将軍様アメリ建国記念日を祝しミサイル5連発ス(爆)〜全てをサッパリぶち壊した「暁に向かって打て!!」ミサイル連発ショー
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060705