木走日記

場末の時事評論

深井智朗さんと小保方晴子さん〜自分のついた嘘を真実だと思い込む人たち

東洋英和女学院は深井智朗院長(54)の著書などに捏造(ねつぞう)や盗用があったと認定、深井氏を懲戒解雇とすることを決定しました。

(関連記事)

東洋英和の院長を懲戒解雇に 著書での捏造や盗用を認定
https://www.asahi.com/articles/ASM5B4GVBM5BUCVL00K.html

本件に関して東洋英和側は公式サイトで「研究活動上の不正行為に関する調査結果について」をPDFファイルで公開しています。

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http://www.toyoeiwa.ac.jp/daigaku/news/topics/news_2019051001.html

その公開PDFファイル「東洋英和女学院大学における研究活動上の特定不正行為に関する公表概要」から、本件の概要を検証しておきます。

不正行為の具体的内容。

(3)特定不正行為の具体的内容

①本件著書第 4 章「4 ニーチェキリスト教批判の神学的援用」中に登場する「カール・レーフラー」なる人物は存在せず、当該人物が著したとされる論文「今日の神学にとってのニーチェ」は、被告発者による捏造であると判断する。また、本件著書の197 頁から 198 頁までにおいて、ヴォルフハルト・パネンベルク著『組織神学の根本問題』(近藤勝彦・芳賀力訳 日本基督教団出版局、1984 年)の 277 頁から 278 頁までにおける記述とほぼ同一の記述、同様の表現・内容の記述が、引用注が記されないまま計 10 か所認められたため、被告発者による盗用がなされたものと判断する。

②本件論考中に述べられている「エルンスト・トレルチの家計簿」の根拠資料となる1920-23 年のトレルチ家の借用書や領収書等の資料は実在せず、被告発者による捏造と判断する。

http://www.toyoeiwa.ac.jp/daigaku/news/news_201905100101.pdf

つまり引用されている論文「今日の神学にとってのニーチェ」はその著者「カール・レーフラー」なる人物も含めすべて著者による捏造であったと認定されています、また別ページではヴォルフハルト・パネンベルク著『組織神学の根本問題』から引用注のないまま2頁にわたり文章が盗用されていました。
さらに借用書や領収書等の資料は実在せず著者による捏造と断定されています。

そもそもこの不正問題、日本基督教学会で、昨年9月学会誌において「質問と応答・会員から会員へ」と題し、同学会員である小柳敦史氏(北海学園大学准教授)の深井智朗氏への公開質問がきっかけであります。

週刊誌の取材での小柳准教授の発言。

「深井先生の書籍および論考に関し、問題だと感じている部分が2点あります」

 こう指摘するのは北海学園大学准教授(ドイツ宗教思想史)の小柳敦史氏だ。その問題点は、9月25日発行の神学年報「日本の神学57」に概要が載ったことで表面化した。改めて小柳氏に説明してもらうと、

「1点目は、深井先生の著書『ヴァイマールの聖なる政治的精神―ドイツ・ナショナリズムプロテスタンティズム』に、創作、敢(あ)えて申し上げれば捏造に相当する疑いがあるということ。彼はカール・レーフラーなる人物が書いた『今日の神学にとってのニーチェ』という論文に依拠して、当該書の第4章4節を展開していますが、カール・レーフラーなる人物も『今日の……』という論文の存在も確認できないのです」

 続けて2点目は、

「深井先生が雑誌『図書』の2015年8月号に寄稿した『エルンスト・トレルチの家計簿』という論考で、彼が依拠した資料が存在しているか疑わしいこと。その論考を読むと、深井先生はあたかもドイツにあるトレルチ資料室の管理責任者から資料を入手したように書いていますが、私が確認したところ、そうした事実はなかったのです」


神学の大家「東洋英和女学院長」に浮上  神をも恐れぬ“論文でっちあげ”騒動 より
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181025-00550703-shincho-soci&p=1

私が本件で感じたことは、この人の歴史的真実への不誠実な態度です。
ドイツの宗教上の「人物」とその「人物が著した論文」を完全に捏造してしまいます、こうなると、これは学問ではなく「小説」に近い、しかも自著にて大胆にも堂々と社会に広く公開していたのです。

学者として自己の論説に対する知的誠実さが欠如しています。

興味深いことは、他人の論文を勝手に盗用する行為・剽窃(ひょうせつ)、これはもちろん学術的かつ倫理的に重大なルール違反なのですが、ここにも見られることです。

思い出すのは4年前の小保方晴子氏による「STAP論文」です。

当時工学系教職である当ブログは、徹頭徹尾「STAP論文」を全否定してまいりました。

2014-03-12 学生時代からの剽窃常習犯である小保方晴子さんは完全にアウト
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20140312

以下のエントリーは少なからずネット上で話題をいただきました、お時間のある読者は是非ご一読あれ。

小保方論文は"全否定"しなければならない
https://kibashiri.hatenablog.com/entry/20140410/1397107527

東洋英和女学院の深井智朗院長と「STAP論文」の小保方晴子氏には、共通の資質を見出します。
共にあたかも「小説」を書くようにあるストーリーに執着し、そこには学者として「真実の追求」するという姿勢よりも、自説を補完するためにいかに「真実」を捏造するか、そのためには手段として剽窃もいとわないことです。

そして小保方晴子さんの涙ながらの「STAP細胞はあります」会見や、こたびの深井智朗院長の調査経過(言い訳に終始し最後まで自説に執着)をみるにつけ、言い方は悪いのですが、自分の嘘にいつのまにか自分も騙されている、そんな姿に見えてしまうのです。

自分のついた嘘を真実だと思い込む人たち。

深井智朗さんと小保方晴子さん。

学者よりも小説家にむいていたのかもしれません。


(木走まさみず)