木走日記

場末の時事評論

「悪名高い麻生炭鉱の息子が我が国を脅迫するな」(ハンギョレ社説)〜もはやこれまで、日本政府は内外の不毛な雑音に耳を傾ける必要はなし

さて日本政府要人が対韓国報復措置に正式に言及したのは初めてです。

韓国裁判所が、いわゆる徴用工問題で日本企業の資産の差し押さえを認める決定を出したことに関連して、麻生副総理兼財務大臣は12日の衆議院財務金融委員会で、「送金停止やビザの発給停止などいろいろな報復措置がある」と述べました。

この中で麻生副総理は、「徴用」をめぐる日本企業の資産差し押さえ問題への対抗措置として、「関税に限らず送金停止やビザの発給停止などいろいろな報復措置がある」と述べ具体的な例をあげました。

その一方で、麻生副総理は「これ以上、事態が進んで実害がもっと出てくれば別の段階になるので、そうなれば考えないといけない。いろいろなことを考えている」と述べました。

麻生発言を受けて、菅官房長官は13日午前の記者会見で、あらゆる選択肢を視野に適切に対応していく考えを示しました。

官房長官は「政府として対抗措置も含め、あらゆる選択肢を視野にいれて適切に対応していく考えであると何回も繰り返し述べており、麻生大臣の発言もこのような趣旨を述べたものと認識している」と述べました。

そのうえで「いずれにしろ、日本企業の正当な経済活動の保護の観点から引き続き関係企業と緊密に連絡を取りつつ、日本政府としての一貫した立場に基づいて適切に対応していく考え方に変わりはない」と述べました。

(関連記事)

麻生副総理 韓国に「いろいろな報復措置」具体例あげる
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190312/k10011845741000.html?utm_int=nsearch_contents_search-items_003
「徴用」報復措置「あらゆる選択肢を視野」官房長官
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190313/k10011846591000.html?utm_int=nsearch_contents_search-items_002

日本政府の要人から対韓国報復措置について言及があったのは初めてのことであり、内外に波紋を広げています。

まずは日本の内側の反応から。

国会での麻生大臣の発言を受けて日本経済新聞が初めて本件(対韓国経済報復措置)について、大きく紙面を割いて取り上げています。

(関連記事)

韓国、日本の経済制裁警戒
元徴用工問題、きょう局長級協議 水平分業、双方に打撃
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO42428090T10C19A3FF2000/

 記事は頭で「出口が見えない状況に産業界は不安を募らせている」と経済界の不安を代弁しています。

韓国最高裁が日本企業に賠償判決を下した元徴用工問題を巡り、日本政府内に浮上した経済制裁論に韓国が警戒を強めている。韓国政府は対抗措置の検討を示唆するが、水平分業の関係にある日韓経済への打撃は大きいとの懸念も強い。日韓外務省は14日に局長級協議を開くが、出口が見えない状況に産業界は不安を募らせている。

日経記事は韓国への制裁が日本経済に悪影響を及ぼすことを指摘します、「送金停止は日韓にまたがるビジネスを手掛ける企業にとって重大な障害」となり「ビザの発給停止は2018年に753万人に上った韓国人訪日客を激減させ、インバウンド消費に影響を与える可能性」もあると。

麻生財務相が一例に挙げた送金停止は日韓にまたがるビジネスを手掛ける企業にとって重大な障害となりかねない。ビザの発給停止は2018年に753万人に上った韓国人訪日客を激減させ、インバウンド消費に影響を与える可能性もある。

国会での麻生大臣の発言は「実際にはそこまでやらないだろう」(日韓外交筋)との見通しがあるなかで産業界には「不安材料」となっていると指摘します。

麻生財務相の発言は韓国政府への警告で「実際にはそこまでやらないだろう」(日韓外交筋)との見方も強いが、企業にとっては不安材料だ。

ここから日経記事は「韓国の18年の対日貿易赤字は240億ドル(約2兆6700億円)と、国別で最大」と指摘、「日本企業にとっても韓国は「もうかる国」」と統計資料に基づき主張します。

韓国にとって輸出先としての日本は00年の2位から18年は5位に低下し、代わりに中国が首位に躍り出た。元徴用工問題への韓国政府の対応が鈍い一因に、経済面での日本の存在感低下を指摘する声もある。

ただサムスン電子やSKハイニックスなど韓国を代表する企業が日本に部品・素材を依存する構造は変わらない。韓国の18年の対日貿易赤字は240億ドル(約2兆6700億円)と、国別で最大だ。

日本企業にとっても韓国は「もうかる国」だ。日本貿易振興機構ジェトロ)によると、アジア・オセアニアに進出した日系企業で、18年に営業黒字を見込む企業の割合が最も高いのは韓国で85%に達する。中国は72%、タイは67%だ。

素材メーカー幹部の「日韓の産業は水平分業関係だ」「韓国が傾けば日本も傾く」との発言を引用します。

日本政府が仮に輸出制限や高関税賦課に踏み切れば、火の粉は日韓双方の企業に降りかかる。日本の半導体関連の素材メーカー幹部は「日韓の産業は(互いの得意分野で協力し合う)水平分業関係だ。韓国が傾けば日本も傾く。世界的なサプライチェーン(供給網)にも重大な影響が及ぶ」と懸念する。

記事は在韓日系企業の本音として「ビジネスへの影響は避けたい。両国政府が冷静にうまく問題を解決してほしい」との発言を載せます。

悩ましいのは日本側も同じだ。「元徴用工判決には強い憤りを覚えるが、ビジネスへの影響は避けたい。両国政府が冷静にうまく問題を解決してほしい」というのが在韓日系企業の本音だ。

いよいよ麻生大臣や菅官房長官が対韓国報復措置について公式に言及し始めたことを受け、まあ予想通りといいますか、産業界を代弁して日本経済新聞が本件に関して真面目に記事を起こし始めたというところでしょうか。

この日経記事のいわんとするところは、一言で言えば対韓国経済制裁は記事サブタイトルのとおり「水平分業、双方に打撃」、つまり日本経済も返り血を浴びるぞ、ただですまないぞ、という警告の内容になっております。

うむ、もしも対韓国報復を行えば「韓国が傾けば日本も傾く」ぞと警告する日経記事なのであります。

次に日本の外側の反応から。

韓国左派系メディアの雄ハンギョレは麻生大臣の発言を社説にて痛烈に呼び捨てで批判します、これは「麻生の脅迫」だと。

(関連記事)

[社説] 日本企業資産差し押さえに報復するという麻生の脅迫
http://japan.hani.co.kr/arti/opinion/33011.html

ハンギョレ社説は冒頭から「首相まで経験した日本の要人」の「事実上の脅迫に近い」「日帝強制占領期の過ちを反省する態度はかけらも見られない」態度だと麻生発言を痛罵いたします。

 首相まで経験した日本の要人が、韓国の法によって進められている事案に経済報復まで取りざたして論じたことは、事実上の脅迫に近い。日帝強制占領期の過ちを反省する態度はかけらも見られない居直りの態度だ。

新日鉄住金などは今回の裁判の過程で、当初から弁論に参加した結果敗訴した。それなのに不利な判決が下されると承服できないというのはおかしな話」だと指摘します。

 日本政府は強制徴用賠償問題が1965年の韓日請求権協定で最終解決されたと主張している。しかし韓国の最高裁の判断は、当時の強制徴用は違法であったため請求権協定の対象ではないというものだ。新日鉄住金などは今回の裁判の過程で、当初から弁論に参加した結果敗訴した。それなのに不利な判決が下されると承服できないというのはおかしな話だ。

そもそも麻生副首相は「強制労働させた悪名高い「麻生炭鉱」の社長の息子」じゃないかと因縁を付けます。

 さらに、麻生副首相は日帝強制占領期に朝鮮人1万2千人余りを強制労働させた悪名高い「麻生炭鉱」の社長の息子だ。個人史から見ても自粛しても足りないほどの人物が平気で「報復」を口にするのは理解し難い。

ハンギョレ社説は「副首相たる人物が議会で具体的な「経済報復」まで公けに論じるのは、今の韓日関係を改善するという意志がない」「日本政府はいったいいつまで韓日関係の落ち込みを放置し、あおるつもりなのか」と結ばれています。

 先日も日本政府が報復措置を100種ほど検討しているという日本のマスコミ報道があった。日本が経済力を盾に韓国に「過去の歴史屈従」を強要するというように見える愚かな行いにすぎない。そのうえ、副首相たる人物が議会で具体的な「経済報復」まで公けに論じるのは、今の韓日関係を改善するという意志がないという意味にまで見える。日本政府はいったいいつまで韓日関係の落ち込みを放置し、あおるつもりなのかと尋ねたい。

国会にて韓国に「いろいろな報復措置」を取ることが可能だと具体例を初めて揚げた麻生大臣発言が波紋を広げています。

国内では、予想どおりですが、対韓国経済制裁などをすれば日本経済にも打撃になる、「韓国が傾けば日本も傾く」(日経記事)と、主に経済界から制裁に対し早くも慎重論が出始めています。

日本国内の慎重論も当然情報を得ていましょう、韓国では強気の主張が飛び交っています。

ハンギョレ社説は、よりによって「麻生炭鉱」の社長の息子が日本の国会で韓国を脅迫したとお怒りモード全開です。

「日本政府はいったいいつまで韓日関係をあおるつもりなのか」と被害者意識丸出しの論説です。

まとめます。

国会にて初めて対韓国報復措置について具体的に触れた麻生発言が波紋を広げています。

日本国内からは例によって主に経済界から慎重論がおきています、もしも対韓国報復を行えば「韓国が傾けば日本も傾く」ぞと、日本の打撃も避けられまいと。

一方韓国からはこれも例によって感情的反発が起こっています、「強制労働させた悪名高い「麻生炭鉱」の社長の息子」(ハンギョレ社説)が何様のつもりで韓国を「脅迫」するのだ、とお怒りです。

さてこの状況は想定内です。

日本政府は内外の不毛な雑音に耳を傾ける必要はありません。

もはやこれまでです、日本政府はあくまでも冷静に現状を分析して冷徹に行動すべきです。

あとは制裁のタイミングなのです。

日本政府が、制裁手段を発動するのは、韓国が今回の判決を基に、いよいよ日本企業の資産を差し押さえに掛かり、実害が及んだ後でなければなりません。

まずは相手に手を出させて、日本の民間企業の財産が不当に一方的に没収されるという、最初の一発は韓国に打たせます、日本にとってあくまでも「正当防衛」の構図を保つのです。

日本企業に実害が発生した時が、報復措置のトリガー(引き金)となりましょう。



(木走まさみず)