木走日記

場末の時事評論

世界遺産問題:将来に禍根を残す根拠なき韓国への譲歩は河野談話と酷似〜『強制労働』(forced labor)と『働かされた』(forced to work)の不毛な言葉遊び

 ドイツのボンで開かれている国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会は5日午後(日本時間5日夜)、「明治日本の産業革命遺産」(福岡など8県、23資産)の世界文化遺産への登録を、韓国も含む21委員国の全会一致で決定いたしました。

 「産業革命遺産」の審議は当初4日に予定されていましたが、審議での発言内容などを巡り日韓の対立が続いたため、1日遅れで行われました。

 日韓は5日の審議直前に合意に達しました。

 合意に沿い、日本代表団は登録決定後、構成資産の一部について、「1940年代に、意思に反して連れて来られ、厳しい環境で労働を強いられた」朝鮮半島出身者が多く存在したことへの理解を深めるための措置を講じる方針を表明しました。

「被害者を記憶にとどめるため」の情報センターの設置を検討するとも述べました。

 日本側が事実上、譲歩した形です。

(参考記事)

【読売新聞】
明治の産業革命世界遺産に…日本は韓国に譲歩
http://www.yomiuri.co.jp/culture/20150705-OYT1T50086.html?from=ytop_main6

 声明では、韓国が主張する『強制労働』(forced labor)は認めず、『働かされた』(forced to work)という表現が採用されました。

 日本政府の公式発言です。

世界遺産登録 徴用をめぐる日本政府代表の発言(英文)

Japan is prepared to take measures that allow an understanding that there were a large number of Koreans and others who were brought against their will and forced to work under harsh conditions in the 1940s at some of the sites,and that,during orld War II,the Government of Japan also implemented its policy of requisition.

世界遺産登録 徴用をめぐる日本政府代表の発言(和文

 「日本は、1940年代に幾つかの施設で、その意思に反して連れてこられ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者などがいたこと、第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて、理解できる措置を講じる所存である」

※太字装飾は当ブログ

 さてこの日本政府の公式コメント(英訳)は全世界のニュースでそのまま全文(あるいは主要箇所)が引用され、速報されています。

 いくつかご紹介。

【ABCニュース】
World Heritage Status for The Alamo, Japan Industrial Sites
http://abcnews.go.com/International/wireStory/san-antonio-missions-receive-world-heritage-status-32230481
アルジャジーラ
UNESCO lists controversial Japanese heritage sites
http://www.aljazeera.com/news/2015/07/unesco-lists-controversial-japanese-heritage-sites-150705200847551.html
【韓国・中央日報(英字版)】
Japan will cite forced labor at UN history site
http://koreajoongangdaily.joins.com/news/article/article.aspx?aid=3006234&cloc=etc%7Cjad%7Cgooglenews

 さっそく、上記韓国メディアの中央日報では、タイトルから『働かされた』(forced to work)は『強制労働』(forced labor)に置換されています。

 日本政府は「強制労働を意味するものではない」と躍起です。

 岸田外相は5日夜、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産への登録決定後に演説した日本政府代表が「1940年代にいくつかの施設で、意思に反して連れてこられ、厳しい環境の下で働かされた多くの韓国人らがいたことについて、理解できるような措置を講じていく」と発言したことについて、「強制労働を意味するものではない」と強調しています。

 さらに、岸田外相は「韓国政府は今回の我が国代表の発言を、日韓間の請求権の文脈において、利用する意図はないと理解している」と述べ、朝鮮半島出身の労働者を巡り、新たな財産請求権の問題は発生しないとクギを刺しています。

(参考記事)

【読売新聞】
外相「強制労働を意味するものではない」
2015年7月6日 1時43分 日テレNEWS24
http://news.livedoor.com/article/detail/10312551/

 ・・・

 一方韓国メディアは、「日本がはじめて強制労働を認めた」と「韓国の外交的勝利」を称える報道が盛んです。

 いくつかリンクなしで紹介。

朝鮮日報
世界遺産対立:日本、国際社会で初めて強制労働認める07/06
世界遺産対立:日本の産業革命遺産、全会一致で登録決定07/06
世界遺産対立:強制表記拒否の日本、国際社会の圧力に屈す07/06
世界遺産対立:韓国外相「韓国の正当な懸念を忠実に反映」07/06
世界遺産対立:韓国外相「外交努力が成し遂げた貴重な成果」07/06
世界遺産対立:韓国市民団体「登録は原則的に無効」07/06
中央日報
日本「韓国人の意に反して強制的に働かせた事実ある」
<韓日世界遺産葛藤>韓国、「逆転判定勝ち」?

 ・・・

 日本政府の言い分、『働かされた』は『強制労働』を意味しないは、国際的には成立しません。

 『働かされた』(forced to work)は、(forced)が(強いられた、強制された)ですので『働くことを強いられた』、つまり『強制労働』(forced labor)と少なくとも英語圏では意味上の区別を付けることは困難でしょう。

 これでは言葉遊びに過ぎません。

 韓国政府とは「韓国政府は今回の我が国代表の発言を、日韓間の請求権の文脈において、利用する意図はないと理解している」(岸田外相)の発言もあり、譲歩をして妥協を図ったのでしょうが、この図式は、以後従軍慰安婦問題では韓国政府はことを荒立てないとの内部同意のもと発表された、慰安婦の「強制連行」を認めたと解釈されている、根拠なき河野談話と酷似しています。
 国際的には「強制的」な「労働」を認めたと解釈されても仕方ありません。

 日本政府は、今回の世界遺産登録において、対韓国で、将来に禍根を残す譲歩と妥協をしてしまったのではないのか、と強く危惧いたします。



(木走まさみず)