木走日記

場末の時事評論

「また朝日だな」で片づけられ本件が埋没しそうで残念な件〜防衛省の隠ぺい体質を結果的に隠ぺいしてしまっている朝日暴走取材

 朝日新聞社は、23日付朝刊に「重く受け止め、おわびします」とする石合力・国際報道部長名の記事を掲載しています。

 朝日新聞社は22日、チュニジア博物館襲撃テロで負傷し現地で入院中の結城法子さんが寄せた手記で、同社記者と日本大使館員の取材をめぐるやりとりについて「ショックでした」と述べたことを受け、「重く受け止め、おわびします」とする石合力・国際報道部長の見解をネット上のデジタル版で出しています。

 朝日新聞社によると、同社記者は事件翌日の19日午後、結城さんが入院中の病院を訪問。救急部門責任者の医師の了解を得た上で、病棟の警備担当者の先導で病室前に移動、病室前にいた大使館関係者に、結城さんへの取材を認めるよう繰り返し求めた後、諦めて病棟を退出したといいます。

 このやりとりについて結城さんは手記で「怒鳴っている声が聞こえ、ショックでした」と指摘。石合部長は「記者には大声を出したつもりはありませんでした」とした上で「手記で記されていることを重く受け止め、結城さんにおわびします」と謝罪いたしました。

(参考記事)

朝日新聞
被害の女性が手記 「生きた心地しなかった」 チュニジア襲撃
2015年3月23日05時00分
http://www.asahi.com/articles/DA3S11664859.html

 石合力・国際報道部長名の見解。

■取材の経緯、説明します

 今回の事件で犠牲になられた方々に謹んでお悔やみを申し上げますとともに、結城さんをはじめ負傷された方々の一日も早い快復をお祈りします。

 手記の中で結城法子さんが朝日新聞記者の対応について触れられた部分について経緯を説明します。

 事件取材では、何が起きたかを報じる上で、公的な発表だけでなく、当事者への取材が欠かせません。

 記者は、発生翌日の19日午後(日本時間同日夜)、チュニス市内の病院を訪れました。

 救急部門の責任者の医師に朝日新聞の記者であると告げ、取材したところ、結城さんについて「軽傷なので病室に行くといい。インタビューできると思う」との説明を受けました。結城さんのインタビューがすでにテレビで報じられていたこともあり、取材可能だと受け止めました。

 病室の前までは、病棟の警備担当者の先導を受けました。病室前にいた日本人男性が「大使館です」と答えたため、記者だと名乗った上で「取材をさせてほしい」と伝えましたが、「できない」「だめだ」と断られました。

 「医師からの了解はもらった」と説明しても対応は変わらず、「結城さんご本人やご家族が断るならわかるが、あなたが決める権利はないですよね」と聞いたところ、「私は邦人を保護するのが仕事です」との返答でした。こうした対応が結城さんの意向を受けたものか分からなかったため、「ご本人に聞いてみてほしい」と、しばらくやりとりを繰り返した後、大使館員は結城さんの病室に向かいました。警備担当者に「後にした方がいい」と促されたため、記者はこの時点で取材はできないと判断し、病棟を退出しました。

 今回、記者は医師の了解を得るなどの手続きを踏みました。大使館員とのやりとりについて、記者には大声を出したつもりはありませんでしたが、手記の中で「どなっている声が聞こえ、ショックでした」と記されていることを重く受け止め、結城さんにおわびします。

 当事者への取材にあたっては、十分な配慮をしながら、丁寧な取材をこころがけたいと思います。

 (国際報道部長・石合力)

 ・・・

 結城法子さんの手記からしか断片的な情報が得られないのですが、そこから時系列に結城法子さんへのマスメディアの取材について触れられている部分をまとめておきます。

 まずテロ発生当日の18日、入院先の病院にて複数のメディアの取材を受けます。

(手記)

 その後、部屋に大勢の人々が入ってきました。チュニジアの首相や、政府の方々に、母を見つけて欲しいとお願いしました。その後、NHKやニューヨークタイムスを名のる人々も来て質問に答えるように言われました。そうしなくてはならないのだ、と思い答えましたが、何を話したのか正直なところ覚えていません。

 その後夜10時過ぎに全身麻酔の手術を終えて病室に戻ると日本テレビの取材を受けます。

(手記)

 病室へ帰ると、大使館の方と日本人の現地のコーディネーター、という方がいました。私は1日中泣いていたせいで目が腫れあがってあけることができず、その方の顔は見ていません。大使館の方は母に電話をかけて下さり、母の声を聞いて安心しました。コーディネーターの方は電話をして、日本テレビのインタビューを受けるように言いました。言われるがまま質問に答えましたが、ボーッとしていてはずかしかったので、インタビューをそのままテレビで流していいですか、と言われ断りました。すると、すでにNHKのインタビューがテレビで流れていて、名前も顔もでているからいいでしょう、と言われました。その時初めてそのことを知り、ショックを受けました。

 ここまでで日本のTV局ではNHKが先行して取材、それを日本テレビが後追いして取材していることが理解できます。

 そして翌19日問題の朝日新聞記者とのやり取りが病室の前で起こります。

(手記)

 部屋をうつった後、部屋の前で「取材をさせて下さい。あなたに断る権利はない」と日本語でどなっている声が聞こえ、ショックでしたが、それは私にではなく、大使館の方に言っているようでした。大使館の方は、「朝日新聞の記者の方がインタビューをさせて欲しいと言っているが、受ける必要はない。体調も良くないし、インタビューがどう使われるかわからないし、あなたには断る権利があります」と言われました。今まで、義務だと思いインタビューを受けていたので、涙がでるほどうれしかったです。

 大使館員が「朝日新聞の記者の方がインタビューをさせて欲しいと言っているが、受ける必要はない。体調も良くないし、インタビューがどう使われるかわからないし、あなたには断る権利があります」として、取材拒否を「権利」だと本人に説明しています。

 そして同日、フジテレビの取材に対して、「お断りしようと思いましたが、今の自分の気持ちを伝え、今後の取材をお断りするかわりにこの文章を書いています」とあります。

 昨日、フジテレビの方にも取材を申し込まれました。お断りしようと思いましたが、今の自分の気持ちを伝え、今後の取材をお断りするかわりにこの文章を書いています。母は今日また手術を受け、その結果によっては日本に帰ることができるようです。私も母も無事ですが、体調は悪く、はやく日本に帰りたいです。

 現在、手記では、すべてのメディアからの「今後の取材をお断りする」ことを表明しています。

 ・・・

 さてネットでは朝日新聞の非常識な取材の方法に批判が集中していますが、本件ではもう少し裏読みをしてみたいと思います。

 時系列にまとめてみましたが、ここには「国家機関」とそれに対峙する「マスメディア」の「報道の自由」のこの国における在り様について、その一断面を見ることができるからです。

 まず事件発生当初、つまり当日ですが、NHK、ニューヨークタイムス、日本テレビの取材までは現地にて、関係者は比較的に無防備に取材を受けさせています。

 結城さんも日本国内でNHKにて名前も顔も大きく報じられていることにショックを覚えながらも、それを義務と感じて応じています。

 でここで日本から、結城法子さんについて、防衛省は3等陸佐の医官つまり自衛官であり、自衛官の義務である「結城さんは海外渡航申請を出しておらず」に私的旅行をしていたことが明らかにされます。

(参考記事)

負傷女性は陸自医官=麻酔科勤務、12日から休暇―防衛省
時事通信 3月19日(木)16時6分配信

 防衛省は19日、チュニジアの観光客襲撃事件で負傷した結城法子さん(35)について、自衛隊中央病院(東京都世田谷区)の麻酔科に勤務する3等陸佐の医官であることを明らかにした。
 同省によると、結城さんは12〜24日の日程で休暇を取っていた。本人と連絡が取れておらず、けがの程度は不明という。
 結城さんは海外渡航申請を出しておらず、岩田清文陸上幕僚長は19日の記者会見で、「私的(な渡航)とはいえ、しかるべき措置が必要だ」と述べた。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150319-00000098-jij-pol

 さて防衛省から結城さんが自衛官であり私的とはいえ義務である「渡航申請」を行っていなかったことが発表され、事態は「一変」します。

 この報道を受けて現地では二つの動きが急ぎみられます。

 まず取材を受ける側がガードを固めます、結城さんは日本人のテロの被害を受けた「いち民間人観光客」という位置づけではなくなり、自衛隊という「国家機関の構成員」である事実が判明したからです。

 この段階で、防衛省から外務省に結城さんへのメディアの取材を規制する要請が入ったことは、想像に難くありません。

 以降、外務省はメディアの取材禁止に動きます。

 次に報道する側も新たな反応をします。

 この報道を受け出遅れていた朝日新聞が動きます。

 翌日、本件において取材に出遅れた朝日新聞が結城さんのもとに取材に行ったときには、大使館員は取材拒否の姿勢に一転しています。

 そして同日のフジテレビの取材も拒否し、「手記」を朝日新聞を含めた複数のメディアに公表し、もって「今後の取材をお断りする」ことを公言します。

 ・・・
 
 まとめます。

 一言でいえば「民間人」だと思っていた被害者が「自衛官」だと知ってそれまでニュースバリューは低いと思っていた取材に出遅れていた朝日新聞は気色ばみ、大慌てで翌日単独取材を強行しようとしたわけです。

 本件で朝日新聞はかなりことを急いで配慮の欠いた強行取材を試みたのは事実でしょう。

 で、その強引で非礼な取材は待ち構えていた日本大使館員に「インタビューがどう使われるかわからない」ために跳ね返されたというわけです。

 ただこの問題、朝日新聞がキャラが立ち過ぎて「悪役」として前面に出てしまいがちなのですが、深い問題もありそうです。

 大使館員側の「朝日新聞の記者の方がインタビューをさせて欲しいと言っているが、受ける必要はない。体調も良くないし、インタビューがどう使われるかわからないし、あなたには断る権利があります」との言い分は、前日は、ほぼ無防備にNHKや日本テレビなどの他メディアから取材を受け入れていた事実と、整合性が合いません。

 もし「断る権利」を尊重するならすべてのメディアの取材を拒否するべきです。

 今回の件は朝日だけが突出して病院で非礼な取材をしようとしたわけではありません。

 前日のNHKや日本テレビなども事件発生当日に、かなり強引な取材をしていたわけです。

 ただそのときは彼女は「民間人」と認識されていたし、大使館員も取材に協力的だったわけです。

 一般人なら無防備に取材が許可され、自衛官と判明すると国家機関がその「構成員」をメディア取材から遮断する・隠ぺいする、今回のことの本質は、実は「言論の自由」だけでなく、国家機関の情報隠ぺい体質の側面を、この手記は興味深くも浮かび上がらせているのです。

 私も含めてアンチ朝日新聞側としては、当初は朝日新聞が例によって非常識で乱暴な取材申し込みによって拒否されたという見立てでありましたが、もちろんその側面も否定できませんが、ことはそう単純じゃないようです、取材背景を考慮すると朝日新聞以外だとしてもおそらく今回は「自衛官」と判明した19日以後は、大使館員により取材拒否されていたであろうと思えるからです。

 しかしなあ、朝日新聞の数々のこれまでの罪状を鑑みると、「また朝日だな」で片づけられ本件が埋没しそうで残念なのであります。

 防衛省の隠ぺい体質を結果的に隠ぺいしてしまっている朝日暴走取材なのであります。

 

(木走まさみず)