木走日記

場末の時事評論

「思慮なきネットの世界」(日経コラム)〜日本経済新聞よ、あなたには言われたくない(笑)

 5日付けの日経新聞名物コラム「春秋」が興味深いです。

春秋
2015/2/5付

 悪逆無道。鬼畜の所業。誰もがこういう強い言葉を思い浮かべているだろう。それでも非難しきれぬ狂気というほかない。かの「イスラム国」が、拘束していたヨルダン人パイロット殺害の一部始終をインターネット上で公開した。こんどはあろうことか、焼殺である。

▼巧みな編集で20分以上に及ぶ映像は人間の心に憎悪と恐怖を募らせ、世界を報復の連鎖に引きずり込むプロパガンダだ。人々は映し出された光景に打ちのめされ、それを乗りこえようとさらに激しい言説を繰り出すことになる。言葉では足りず、行動をたのむことになる。これこそがテロ組織のねらい定めたところだろう。

▼「相手が用意した劇場から出なければいけない」と山田英雄・元警察庁長官が本紙で語っている。怒りを持つのは大切なことだ。テロに屈してはならない。けれど狂信者が勝手にこしらえた芝居小屋で高ぶるばかりでは連中の思うつぼではないか。ネット空間には勇ましい極論があふれているが、いま必要なのは冷静さだ。

▼あの映像を共有するな――。思慮なきネットの世界にも、後藤健二さん殺害の動画が拡散されるのを防ごうとする動きがある。相当な宣伝効果を織り込んだに違いない今回の一編も、決して共有することはない。その仕掛けに乗るべきではない。悪逆無道。鬼畜の所業。投げつけたい言葉を胸に、しばし深呼吸をしてみる。

http://www.nikkei.com/article/DGXKZO82825390V00C15A2MM8000/

 「悪逆無道。鬼畜の所業」、「それでも非難しきれぬ狂気」とISILの蛮行に自身は思慮なく罵詈雑言を浴びせながら、ネット言論空間を「思慮なきネットの世界」と、上から目線でボロクソ批判しております。

 狂信者が勝手にこしらえた芝居小屋で高ぶるばかりでは連中の思うつぼ

 ネット空間には勇ましい極論があふれているが、いま必要なのは冷静さ

 思慮なきネットの世界

 なんだかなあ、ネット嫌いのマスメディアお得意のお決まりの悪意あるレッテル貼りなのでありますが、それでは「思慮なきネットの世界」の一住民から、天下のマスメディア様にひとつだけご注進させていただきましょう。

 日経さん。

 このコラムでも「かの「イスラム国」が、拘束していたヨルダン人パイロット殺害の一部始終をインターネット上で公開」って「イスラム国」と表記してますが・・・

 いつまで、ただのテロ犯罪集団に「イスラム国」の呼称で報道するのですか?

 イスラム諸国やイスラム教徒からもクレームがあるし、そもそも「国」として認めていないんだから、ISとかISILに呼称を変えるべきでしょ!

 ネットでは心ある住民はみな別の呼称を使っていますよ。

 自民党も呼称を「ISIL」を使うことを申し合わせたじゃないですか。

イスラム国」呼称「ISIL」に 自民申し合わせ

自民党は26日の役員会で、イスラムスンニ派過激組織「イスラム国」の呼称について、原則として「ISIL(アイシル)(イラク・レバントのイスラム国)」か「いわゆるイスラム国」という表現を使うことを申し合わせた。
 党内から「日本がイスラム国を独立国家として承認しているかのような印象を与えかねない」などという懸念が挙がっていたためだ。「ISIL」は「the Islamic State in Iraq and the Levant」の略称。
 外務省では、報道発表などですでに「ISIL」の表記を使用している。

http://www.sankei.com/affairs/news/150126/afr1501260033-n1.html

 ・・・

 日経は確信犯です。

 6日付けのこの社説。

混迷の中東にどう関与を深めるか
2015/2/6付
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO82895090W5A200C1EA1002/

 イスラム国という呼称が五カ所も出現しています。

 中東の過激派イスラム国」による邦人人質事件は、日本が残虐なテロの標的となる現実を突きつけた。過激な思想に共鳴した組織は互いに結びつき、テロの連鎖は国境を越えて広がる。

 イスラムが拘束していたヨルダン軍のパイロットを殺害する映像を公表した。目をそむけずにはいられない残忍な仕打ちだ。湯川遥菜さん、後藤健二さんの殺害に続く蛮行に、国際社会は怒りを強めている。

 暴力の連鎖はさらに広がるおそれもある。リビアやエジプトでイスラムに呼応したとみられるテロが相次ぎ、米欧やアジアでもテロの危険は増している。

 こうした勢力のネットワークは世界中に広がっている。日本が標的にされる可能性は、排除できない。イスラムが日本への攻撃を宣言したことで、その危険はさらに高まった。

 では、どうするか。まずイスラムをはじめとする過激派の資金源を断ち、戦闘員の流入を止めるため、テロを警戒する世界の国々と協力して監視を強めなければならない。

 ・・・

 読者のみなさん。

 日経などのマスメディアが「イスラム国」の呼称を変更できないのはお金のためだけなんです。

 TVも大新聞も年配の情弱ユーザーを大量に抱えているために、テロ集団をISやISILにいまさら呼称を変えると、報道がわけわかんなくなっちゃって商売にならないという、極めて経営的な判断が働いているわけです。

 自分たちの商売のためなら、単なる犯罪テロ集団が読者に「イスラム」教徒の印象を与えたり「国」として認知されているがごとく誤解を与えても仕方ないと判断しているわけです。

 商売のためなら読者の誤解もいとわない、日本のマスメディアのこの報道姿勢はいかがでしょうか、なんという思慮のなさでしょう。

 「思慮なきネットの世界」ですか。

 日本経済新聞よ、あなたには言われたくないです(笑)ね。


(木走まさみず)