木走日記

場末の時事評論

内田樹氏「歴史の検閲について」記事に反論する〜これは日本政府の正当な抗議活動である!

 BLOGOSにて内田樹氏が「米国の学者たち、日本の『歴史検閲』に抗議」との韓国ヨンハップニュースの記事を訳出しております。

内田樹
2015年02月08日 13:58
歴史の検閲について
http://blogos.com/article/105190/

 氏が訳出された記事の核心部分をご紹介。

(前略)

 歴史家たちがこの問題に目を向けたのは、アメリカの出版社McGraw-Hill発行の教科書『伝統と遭遇:過去についての包括的展望』中の性奴隷問題について、日本が教科書内に重大な誤謬があるとして記述の変更を求めたことに発する。この要請は日本が犯した蛮行を弥縫する企てと見なされた。

日本の安倍晋三首相は今月初めの国会での審議中にMcGraw-Hill社の教科書が性奴隷問題をどのように記述しているかを知って驚愕したと述べ、政府としては記述変更を求め続ける努力をすると誓言した。

「歴史家として、われわれは日本政府が国内および海外の歴史教科書に記載されている、婉曲的に『慰安婦』と呼ばれているところの第二次世界大戦中日本帝国軍のための野蛮な性的搾取システムによって傷つけられた女性たちについての記述を削除させようとする近年の企てに対して失望を覚えている」と共同声明でアメリカの歴史家たちは述べた。

(後略)

 さて当該のアメリカ高校教科書出版社McGraw-Hill発行の『伝統と遭遇:過去についての包括的展望』中の性奴隷問題について、日本が教科書内に重大な誤謬があるとして記述の変更を求めたことに対して、「米国の学者たち、日本の『歴史検閲』に抗議」との韓国メディア記事を訳出された内田樹氏なのであります。

 氏の意図は不明ですが、当該の教科書の内容を検証せずに、日本の批難を『歴史検閲』とレッテル貼りしている韓国報道を一方的にエントリするのは、極めてアンフェアなやり方であり、看過できません。

 今回はこの問題を取り上げましょう。

 問題の教科書、米大手教育出版社「マグロウヒル」(本社・ニューヨーク)が出版した「伝統と交流」について、事実検証しておきましょう。

 「伝統と交流」("Traditions and Encounters")はアマゾンでも購入できるようです。

Traditions & Encounters: A Global Perspective on the Past

Traditions & Encounters: A Global Perspective on the Past

 うむ、この教科書の当該部分の目次は以下のサイトで確認できます。

Traditions and Encounters Book Cover
Traditions and Encounters, 2/e
Jerry H. Bentley, University of Hawai'i
Herbert F. Ziegler, University of Hawai'i
NEW CONFLAGRATIONS: WORLD WAR II

Table of Contents
http://novellaqalive2.mheducation.com/sites/0072424354/student_view0/chapter37/table_of_contents.html

 問題の従軍慰安婦箇所は「戦時の生活」("Life during wartime")の「C:女性と戦争」("C.Women and the war")という個所にある「従軍慰安婦」("3.Comfort women")という節にあります。

 目次より。

Life during wartime
C.Women and the war

3."Comfort women"
a.Japanese armies forcibly recruited three hundred thousand women to serve in military brothels
b.80 percent of comfort women came from Korea
c.A comfort woman had to service between twenty and thirty men each day
d.Many were massacred by Japanese soldiers; survivors experienced deep shame

戦時の生活
C:女性と戦争

3:”従軍慰安婦
a.日本軍は30万人の女性を軍の売春施設で強制的に奉仕させた。
b.慰安婦の80%は朝鮮出身者だった。
c.一人の慰安婦で毎日20〜30人の男の相手を強いられた。
d.多くは日本兵によって虐殺され、生存者は凌辱(りょうじょく)を経験した。

 「戦時の生活」部分の教科書の本文は以下のサイトで確認できます。

LIFE DURING WARTIME
http://dev6.mhhe.com/textflowdev/genhtml/0073385646/36.3.htm

Comfort Women

Women's experiences in war were not always ennobling or empowering. The Japanese army forcibly recruited, conscripted, and dragooned as many as two hundred thousand women age fourteen to twenty to serve in military brothels, called “comfort houses” or “consolation centers.” The army presented the women to the troops as a gift from the emperor, and the women came from Japanese colonies such as Korea, Taiwan, and Manchuria and from occupied territories in the Philippines and elsewhere in southeast Asia. The majority of the women came from Korea and China.

Once forced into this imperial prostitution service, the “comfort women” catered to between twenty and thirty men each day. Stationed in war zones, the women often confronted the same risks as soldiers, and many became casualties of war. Others were killed by Japanese soldiers, especially if they tried to escape or contracted venereal diseases. At the end of the war, soldiers massacred large numbers of comfort women to cover up the operation. The impetus behind the establishment of comfort houses for Japanese soldiers came from the horrors of Nanjing, where the mass rape of Chinese women had taken place. In trying to avoid such atrocities, the Japanese army created another horror of war. Comfort women who survived the war experienced deep shame and hid their past or faced shunning by their families. They found little comfort or peace after the war.

C)上記の日本語訳

慰安婦 女性の戦時体験のなかには、女性の社会的地位の向上や権利の拡張につながらないものもあった。日本軍は14歳から20歳までの20万人もの女性を、強制的に連行し、徴用し、「慰安所」「娯楽センター」などとよばれた軍用売春施設で働かせた。日本軍は慰安婦たちを天皇の贈り物と言いながら兵士に提供した。女性たちは、朝鮮、台湾、満州などの日本の植民地や、フィリピンの日本軍占領地など東南アジアの地域から連れて来られた。女性の多数は朝鮮と中国の出身者だった。
 ひとたび軍用売春施設に入れられると、「慰安婦」は、毎日20人から30人の男性の相手をさせられた。戦闘地域に所在していたので、女性たちはしばしば兵士が直面するのと同じ危険に遭遇し、多数の戦死傷者を出した。他の女性は、特に逃げようとしたり性病にかかったりした者は、日本兵に殺された。戦争が終わるころには、慰安所でやっていたことを隠すために、多数の慰安婦を虐殺した。日本の兵士のために慰安所を設置する動機となったのは、南京の惨事で、そこでは中国人女性への大規模な強姦事件が発生した。そうした暴虐行為の発生を避けようとして、日本軍は別の戦争の惨事をつくりだしてしまったのだった。戦争を生き延びた慰安婦の女性たちは、恥辱のどん底を体験し、自分の過去を隠すか、そうでなければ家族から遠ざけられたりした。戦争が終わっても、彼女たちにはいささかの慰安も平安も訪れなかった。
 <解説>冒頭に女性の社会的地位の向上などのことが書かれているのは、この教材が、「女性と戦争」と題するくくりの記事のなかの二つの教材の一つであり、その一つ目には、米英などで女性の戦時動員によって女性の地位の向上などがもたらされたことの記述があり、それを受けて書かれているからです。対比して、日本軍は悪いことしか残さなかったというわけです。このデタラメ極まりない教科書の文章を逐一批判し、出版社に出典の根拠を要求し、抗議して下さる方々が現れるのを期待いたします。

https://www.facebook.com/nobukatsu.fujioka/posts/730173300401780

 ひどい内容です。

 20万、30万という根拠のない慰安婦の数や「慰安婦の80%は朝鮮出身者」、「戦争が終わるころには、慰安所でやっていたことを隠すために、多数の慰安婦を虐殺」など事実無根の虚偽の記載が満載なのです。

 そして、日本人として一番印象的なトンデモ描写はやはりここでしょう。

The army presented the women to the troops as a gift from the emperor.
「日本軍は慰安婦天皇からの贈り物として軍隊にささげた」

 これは「悪意ある中傷」ともいえる描写でしょう。

 このような根拠なきトンデモ文章が同盟国アメリカの高校の教科書に掲載されていること自体、日本政府は強く抗議し訂正を求めるべきなのです。

 これは「検閲」でも何でもない、不名誉な悪意ある中傷を排して歴史的に正しい記述を求めているだけの、正当な抗議活動です。

 国際社会で何も言わなくては認めたことになります。

 放置していては問題は動かないのです。

 誤解を正すには今回のように事実を言い続け、地道な反論を重ねていくことが重要です。



(木走まさみず)