木走日記

場末の時事評論

保守系なのに報道スタンスが少しチキン(臆病)な読売・産経社説〜「秘密保護法案」と「ヘイトスピーチ訴訟」でメディアの報道姿勢事例検証

 20日付け読売新聞記事から。

秘密保護法案、成立急ぐ考え強調…石破幹事長

政府が今国会に提出する特定秘密保護法案を巡り、与野党の幹事長・書記局長らが20日のNHK番組で討論し、自民党の石破幹事長は「国の安全保障に著しい支障を与える恐れから、秘匿しないといけない情報がある」と述べて法案成立を急ぐ考えを強調した。


 公明党の井上幹事長は、秘匿性の高い「特定秘密」の保護が必要と述べた上で、特定秘密についても情報公開の対象とするため、「情報公開法の改正について政府・与党で結論を出したい」との考えを明らかにした。

 民主党の大畠幹事長は「政権にとって不都合な真実を秘密にすることがあってはならない。明確に国民に分かる基準を作るべきだ」と指摘し、秘密指定の妥当性をチェックするため、同党が今国会に提出予定の情報公開法改正案と併せて審議するよう求めた。日本維新の会松野頼久幹事長代行は「秘密(の範囲)をどこまで広げるのか、ガイドライン(指針)を示すことが必要だ」と述べた。

(2013年10月20日19時20分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20131020-OYT1T00597.htm

 うむ、20日のTV討論番組で、自民党の石破幹事長は「国の安全保障に著しい支障を与える恐れから、秘匿しないといけない情報がある」と述べて法案成立を急ぐ考えを強調いたしました。

 安倍政権が法案成立を急ぐ特定秘密保護法案について現時点での各メディアの報道スタンスを検証いたしましょう。

 まず直近の主要紙では、18日付け朝日新聞、20日付け日経新聞、21日付け毎日新聞の各紙が社説にて本件を取り上げています。

【朝日社説】秘密保護法案―疑問の根源は変わらぬ
http://digital.asahi.com/articles/TKY201310170549.html?_requesturl=articles/TKY201310170549.html
【毎日社説】特定秘密保護 この法案には反対だ
http://mainichi.jp/opinion/news/20131021k0000m070104000c2.html
【日経社説】秘密保護法案はさらに見直しが必要だ
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO61347840Q3A021C1PE8000/

 また読売・産経は、それぞれ9月5日付け、8月18日付けで社説に取り上げて以来沈黙を守っています。

【読売社説】報道の自由への配慮が必要
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20130905-OYT1T01629.htm
【産経社説】秘密保全法案 言論に配慮し情報管理を
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130818/plc13081803200002-n1.htm

 朝日・毎日・日経の主張はそれぞれの社説タイトルで明らかですが、法案に反対もしくは見直しを求めています。

 一方読売・産経の保守系2紙は法案そのものは否定せず「言論に配慮」を求めていますが消極的支持の論説を掲げていますが、ここ2ヶ月ほど沈黙を守っています。

 各紙たいへん興味深い報道スタンスです。

 メディアとして「特定秘密保護法案」の扱いは「報道の自由」に直接関わる重大事ですから、基本的には慎重な態度を取らざるを得ないのです、朝日・毎日・日経の三紙は強い口調で法案に異議を唱えています。

 しかし背景としては法案が対象としている防衛、外交、スパイ活動の防止、テロ防止の4分野は、日本と米国の軍事的協力関係が深まり、機密の共有化が進む中で特に情報を安全に管理することが信頼関係を保つためには欠かせないことから、保守系の読売・産経は一歩引き気味の「言論に配慮」に主張を留めているのが印象的です。

 興味深いのは日経で、こと経済面では経団連の代弁者として極めて大企業よりの保守的論説を掲げるのが常なのですが、経済面以外の、靖国問題従軍慰安婦問題、ヘイトスピーチ問題などイデオロギッシュな事案では、朝日・毎日の左派系メディアの主張と親和性を高めているのが最近の傾向のようです。

 朝日・毎日・日経が強い口調で社説で意思表明し、読売・産経の保守系が様子見をする、この構図は先のヘイトスピーチ訴訟における各紙の報道姿勢を髣髴(ほうふつ)とさせるものです。

 朝日・毎日・日経はヘイトスピーチ訴訟の翌日に司法判断を支持する社説を掲げます。

朝日新聞社説】ヘイトスピーチ―司法からの強い戒め
http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_gnavi
毎日新聞社説】ヘイトスピーチ 差別許さぬ当然の判決
http://mainichi.jp/opinion/news/m20131008k0000m070132000c.html
日経新聞社説】ヘイトスピーチ戒めた判決
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO60781500Y3A001C1EA1000/

 一方、読売・産経の保守2紙は一日様子見をしたうえで9日付けで社説を載せるのです。

読売新聞社説】ヘイトスピーチ 民族差別の言動を戒めた判決
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20131008-OYT1T01414.htm
産経新聞社説】ヘイトスピーチ 正当な批判と侮蔑は別だ
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/131009/trl13100903330000-n1.htm

 当ブログでは、当日の8日、ヘイトスピーチ訴訟に関する新聞社説の報道姿勢をメディアリテラシー的に検証しています。

2013-10-08 違和感を覚えるヘイトスピーチ訴訟に関する新聞社説の報道姿勢
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20131008

 で、保守系2紙が沈黙していることと左派系各紙が中国や韓国における反日デモなどにまったく触れていない論説であることに注目いたしました。

 今検証したとおり、ヘイトスピーチ訴訟に関して主要紙の中で社説で取り上げたのは朝日・毎日・日経・東京の左派系と日経の4紙であり、その主張は判決支持で横並びしております。

 一方、読売と産経、保守系の2紙は社説では沈黙を守ります。

 さてここで各紙社説の内容を角度を変えて検証してみましょう。

 一連の在特会などによる街宣活動は、海外における特に中国や韓国における反日デモなどに触発されている面は否めないのですが、海外のヘイトスピーチに関して各紙社説はどのように触れられているのか。 

 朝日社説がナチスユダヤ人排斥のみ触れていますが、毎日、日経、東京各紙は海外のヘイトスピーチに関しては一切触れていません。

 そしておそらく読売と産経は現在は自説を主張することを控えているが、中国や韓国の激しい反日デモとの関わりについて触れた論説が保守系2紙が社説として掲げる可能性があると、予測していました。

 読売と産経も社説以外では本件を大きく報道していることから、本件の報道価値は認めているものの現時点で社説として自説を主張することを控えています。

 おそらく他紙の主張を見据えた上で論評するかどうかを決めようと様子見しているものと思われます。

 これから、この判決そのものを社説で否定はしづらいのしょうが、左派系各紙が無視した本件の心理的背景で連関していると推測される中国や韓国の激しい反日デモとの関わりについて触れた論説が保守系2紙が社説として掲げる可能性はあるかも知れません。

 一日遅れて読売・産経は社説を掲げますが、このエントリーの予測どおり朝日・毎日・日経が全く触れていない中国や韓国の反日活動について言及し、社説に加えてきました。

 デモ参加者の言動は昨夏ごろから一層過激になったとされる。韓国の指導者が竹島を訪問したり、いわゆる従軍慰安婦問題で日本政府を批判したりして、日韓の緊張が高まった時期に重なる。(読売社説)

 中国や韓国の反日デモでは、多くの日の丸が焼かれた。侮蔑的な言動もあったが、その多くは放置された。日本と日本人は国内で、あらゆる国や民族へのそうした行為を許さない。そういう存在でありたい。(産経社説)

 ・・・

 読売と産経はある種のイデオロギッシュな事案において、極めて分かり易い同様な報道姿勢を取ります。

 それは左派系メディアがあるイデオロギッシュな事案を単純に支持(あるいは批判)する場合で自らの主張と重なるとき、自らのスタンスを守るために様子見をするのです。

 報道の自由は守りたいが日米同盟重視のスタンスから秘密保護法案は支持したいとき、

 ヘイトスピーチ訴訟の結果は支持したいが韓国・中国の反日姿勢が背景にあることも一言ふれたいとき、

 このような微妙な立場のとき、自らの独自色を出すタイミングを様子見をすることがあるようです。

 そして時を見て左派系とほぼ同様な主張なのですが左派系とは少しだけ異なる独自の色を付けてスタンスを確保した社説を掲げることをするのでしょう。

 保守系なのに報道スタンスが少しチキン(臆病)なのが興味深いです。



(木走まさみず)