木走日記

場末の時事評論

実はオマケは長嶋茂雄氏のほうだった国民栄誉賞「師弟W授賞」〜過去データが示す「体育系ヒーローは生きているうちに称えたい」国民気質

 巨人終身名誉監督長嶋茂雄(77)さん、そして巨人とヤンキースで活躍した松井秀喜(38)さん、並びに株式会社読売新聞グループ本社代表取締役会長・主筆にして株式会社読売巨人軍取締役会長である我らがナベツネこと渡邉 恒雄(87)さん、そして読売新聞グループ関係者のみなさま、此度は国民栄誉賞「長嶋&松井」師弟W授賞、まことにおめでとうございます。

 4月1日にこの報を聞いたときには誰しもが「エイプリルフール」の嘘吐きニュースかと思いましたが、その日の午後の官房長官記者会見でどうもどうやら真実であると分かりまして読売新聞は早速夕方に号外を派手に打ち、翌2日の朝刊では、1面トップ記事から名物コラム「編集手帳」、3面全紙面に社説、21面にでっかい関連記事、社会面34、35面で、これでもかとこの国民栄誉賞「長嶋&松井」師弟W授賞関連記事で、紙面を埋め尽くすというはしゃぎよう、うむ、実にめでたい、馬鹿馬鹿しいほどおめでたい読売グループなのであります。

 この時期のこの授賞、もしや読売のドン、ナベツネさんから自民党安倍政権への圧力があったのかしらん、と永田町スズメ達はピーピーうるさいわけですが、どうもどうやら今回はそういうことではなさそうなのであります。

 まず、状況証拠のひとつとして、フジ・サンケイの夕刊フジが抜いていますが、今回の授賞報道では「読売赤っ恥?!」、実は地方紙にスクープされたのであります。

読売赤っ恥?! 「国民栄誉賞」上毛新聞がスクープの怪 永田町で飛び交う観測 (1/3ページ)
2013.04.03

 国民栄誉賞をめぐる、大スクープの背景が注目されている。政府は、プロ野球読売巨人軍終身名誉監督長嶋茂雄氏(77)と、巨人や米大リーグ・ヤンキースなどで活躍した松井秀喜氏(38)のダブル授与を決めたが、これを真っ先に報じたのは2人と関係が深い読売新聞ではなく、なぜか、群馬県の地方紙「上毛新聞」(本社・前橋市)だったのだ。授与を決断した安倍晋三首相のしたたかな戦略や、実現度が高まる松井氏の巨人監督就任説など、衝撃ニュースの全真相に迫った。

 (後略)

http://www.zakzak.co.jp/sports/etc_sports/news/20130402/spo1304021826005-n1.htm

 記事にもあるとおり、二人に近い読売新聞がこの授賞内定の事実を知らないはずはないのであって読売側も報道のタイミングを計っていたのでしょうが、ここから本件では読売側に主導権はなかったことが推測できるわけで、読売幹部・ナベツネ側からの政府への圧力があったとするよりも、安倍さん独自の判断であったと考えたほうが自然でしょうね。

 で、なんで師弟W授賞になったか、その謎解きをしておきましょう。

 どうもどうやら、世間では、長嶋氏の授賞よりも松井氏の受賞のほうが風当たりが強いようですね。

 下のBLOGOS記事でも大関暁夫先生は松井秀喜氏の授賞にお怒りです。

かわいそうな松井秀喜氏と、またも露呈した国民栄誉賞のバカバカしさ
http://blogos.com/article/59294/?axis=t:7554&gi=1

 失礼して記事より当該部分を抜粋。

 松井氏には罪はないのですが、どう考えてもこれまでのスポーツ選手の同賞受賞者からみて見劣り感は否めないところです。同じ日本人大リーガーで比較をしても、日本人の大リーグでの活躍の道を切り拓いた元近鉄バッファローズ→LAドジャース野茂英雄氏を差し置いての選出は「?」マークが5つは軽く付くところでしょう(最右翼はもちろん大リーグで多くの記録を作っているイチロー選手ですが、本人が現役での受賞を固辞しているため、本論からは除外されます)。

 うむ、なるほど、不肖・木走はスポーツ全般にまったく疎いのですが、どうも松井氏の実績では残念だが国民栄誉を授賞するには見劣りする、ということでしょうか。

 「事実は小説より奇なり」と申しますか、実際には今回最初に国民栄誉賞授与の対象に上ったのは松井氏のほうで、日時場所は、関係者によると、安倍首相が昨年12月29日、東京電力福島第1原発視察のための東北新幹線の車中で発案したということであります。

 理由は、安倍首相は当時、民主党政権が壊した日米関係を修復するため、早期訪米を実現させようと動いていて、松井氏は日本球界と米大リーグで活躍して、直前に引退表明(同月27日)したばかりで、授与を土産に、日米友好をアピールしたい狙いがあったと、上記フジサンケイ記事は抜いております、つまりアメリカ様への手土産だった、と。

 で、この後大きく状況が動くことになります、1月中旬、元横綱大鵬納谷幸喜氏が死去したのであります。

 安倍政権は急遽、没後になりますが納谷さんへの国民栄誉賞を2月に授与することになります。

 でここで安倍政権は思いもしない批判を浴びることになるのであります。

 『遅い。生前に授与すべきだった』という声が相次いだのであります。

 ここで読者のみなさんと確認しておきたい事実があります。

 過去20人と一組の国民栄誉賞受賞者一覧を当ブログでまとめましたので、まずはご覧ください。


 21組の中で野球選手や相撲力士など「体育系」の人9組を黄色に色分けして、歌手・俳優や作曲家などの「文科系」の人12組と区別できるようにしてみましたが、何かお気づきのことはありませんか。

 不肖・木走は重要な事実に気付きました、それは「文科系」受賞者の「没後授賞」比率の高さです。

 実に12組中10組が、「没後授賞」つまり死亡してからの受賞者です。
 生前に授賞した2組にしても、藤山一郎(81歳)、森光子(89歳)と、授賞時年齢が失礼ながらすでにいつ往生してもよろしいような齢(よわい)なのであります。
 それに対して大鵬関以前の「体育系」8組の授賞時年齢を確認すれば、「没後授賞」は冒険家である植村直己さんだけです、しかも授賞時は彼が行方不明となってまで2ヶ月しかたっていませんでした(今も遺体は発見されていません)。
 元横綱大鵬納谷幸喜氏が「没後授賞」したことに安倍政権は思いもしない強い批判を国民から浴びたわけなのですが、今検証したとおり、過去データを見る限り、この国の国民は、あたかも「体育系ヒーローは生きているうちに称えたい」という強い願望があるような、「文科系」とは大きく隔たりのある授賞年齢の若さなのであります。
 そこで、安倍さんの周辺で、急遽、長嶋、松井両氏、師弟へのダブル授与のアイデアが浮上したのだといいます。

 言葉は悪いですが、「ミスター」が元気のうちに、という配慮の結果であります。

 今回の国民栄誉賞、「師弟W授賞」になった経緯を取り上げてみました。

 実はオマケは長嶋茂雄氏のほうだったのであります。



(木走まさみず)