木走日記

場末の時事評論

多くの人の眼には不公平に映ったであろうstudygiftの援助スキームについて

 Liverty代表の家入一真氏らが立ち上げたサイトが話題になっています。

studygift〜学費支援プラットフォーム
http://studygift.net/home.php

 成績不良で奨学金を打ち切られた大学生への金銭援助をクラウドファンディングの手法で、ネットを通じて多数の支援者から一口5000円で収集し実現するというわけですが、上記サイトの挨拶(あいさつ)文によれば、主催者側はこのサイトを今後プラットフォーム化しどんどん支援する若者をふやしていく意向です。

studygiftでは、今回の様な企画をプラットフォーム化し、学生の支援や優秀な若い世代のサポートをしていこうと思っています。
もし「学費が払えず退学寸前」「学生のうちに挑戦したい事がある」という方はLivertyチームとプロジェクトをやりましょう。
僕らはこれからも色んな人たちをサポートしていきたい。
Liverty代表 家入一真 / 支援学生募集中!

 ネットで学費援助を呼びかけるという斬新なアイディアに驚きましたが、当然ながらネット上でも賛否両論出ておりまして軽く炎上気味なわけですが、とりあえず目標金額は「\975,000 SUCCESS!!」と、達成されたようであります。

 批判的意見として納得したのがやまもといちろう氏の以下の意見。

家入一真さんの例の件で願うことなど
http://blogos.com/article/39492/

 やまもといちろう氏の論旨はわかりやすいです。

 一言で言うと、就学希望児童に対する助成を、ネット業界の軽いノリで手がけるのはやめて欲しいのです。

 氏自身の寄付経験も交えて「なるだけ公平に、かつその子が助成を受けて良かったと思えるような方法」を丁寧に構築することが必要だと指摘します。

 ただねえ、就学希望児童への資金助成等の事業というのは、デリケートなんですよ。私も、例年薄額ではありますが児童養護施設に寄付をしておりましたが、就学希望の学生の選別や、方針について、不公正とならぬよう、それでいて助成がきちんと実を結ぶよう、関係者一同かなり丁寧に議論を積み重ねて、就学希望者に資するような事業を行っていただいております。金を出す私たちが、もちろん一人ひとり面談をして助成するのが望ましいと思うんですけれども、学業を続けたいが事情によってお金が払えない、というのは人それぞれの人生に向き合うことになります。それが15年なのか、18年なのかの人生で起き得たことを、ひとつひとつ判断して「君にはこれだけ出す」あるいは「君には出せない」とする、この判断の重さというのは常に付きまといます。だからこそ、なるだけ公平に、かつその子が助成を受けて良かったと思えるような方法になるように、丁寧に事業に携わるべきであって、そういう重みを分かち合うためにもNPOや財団法人などきちんと意を受けて是非を判断してくれる事業者に寄付をして、社会貢献のための費用を助成するだけでなく「代行」してもらうわけです。

 ネット上の意見も批判派が多いと見受けられますが、当ブログではここは建設的にこの新しい試みを評価して改善点を提案したいと思います。

 多くの人が危惧されているように、この試みは学生一人ひとりがネット上でプライベートが晒され、それに対し値踏みされることを意味し、そしておそらく人によって集まる金額は多い少ないが発生することはこのスキームでは必然であり、公平性はまったく担保されないといっていいでしょう。

 この点で、特に既存の公平性・平等性を重視している「あしなが育英会」などの団体に寄付行為をした経験のある人たちには強い違和感が生じたのではないでしょうか。

 一般の育英会では援助する側の金額の大小は認めています、それこそポケットマネー数千円の寄付から、遺産全額を寄付する人まで手段を含めていろいろです。しかし、援助を受ける学生の金額等の条件は、それこそしっかりとした規定と制度が厳格に護られています。

 一方、今回の「studygift」のスキームは一般の育英会のそれとは、多くの人の眼には真逆に映ったのではないでしょうか。

 援助する側は個人が1口5000円、法人が10万円と一律(何口も援助した人がいるか未確認ですが)であるのに対し、援助を受ける学生側の公正性・平等性はまったく担保されていない、と。

 今後このサイトで援助される学生の人数が増えていくにつれいくつかの危惧する問題が起こる可能性は排除できないと考えます。

 援助行為が一種の人気投票のようなその学生のお金によるランク付けという負の側面を帯びないか心配になります。

 一方、今回のサイトの既存の育英会等では実現していない機能も公正に評価しなければなりません。

 それは援助対象の可視化を完全に実現できていることです。

 公正性・平等性を配慮した既存の育英会では、援助者は自分の援助したお金で学んでいる実際の学生の姿を見ることはできません。

 学生のプライバシーもありますし、公平性を担保するためには当然のことなのですが、実はこの援助対象者が可視化できないことはこのような団体の悩みの種でもあります。

 援助する実に多くの人々が純粋な気持ちですが、できれば自分が援助した学生の様子を知りたいという願望を持っているからです。

 その点で「studygift」は、援助を検討している人たちに、実際の援助対象者の可視化に完全に成功しているといえるでしょう。

 まとめるとこのような図式でしょうか。
 

 ・・・

 建設的な提案を試みたいと思います。

 可視化に成功しながら公平性・平等性を実現することはある程度可能です。

 過去の成功事例からの提案です。

 実は私はある国際慈善団体の日本支部の事務システムの開発に携わったことがあります。

 国際NGOプラン・ジャパンです。

プラン・ジャパン
http://www.plan-japan.org/

 有名な団体ですのでご存知の人も少なくないと思いますが、プランは世界の先進国20カ国で寄付を募り、50カ国以上の途上国の子どもたちとともに地域開発を進める国際NGO団体です。

 私が事務システムの開発のお手伝いをしていた頃は、プラン・ジャパンではなく、団体名は日本フォスタープラン協会と称されていましたが、システム開発をしていてその丁寧な良く考えられた制度に感嘆したことを覚えています。

 まず援助者は当時フォスターペアレントと呼ばれ一種の「里親」のような存在で扱われます。

 多くの個人や企業が月額定額の援助をしますが、そのお金は事務局を通じて国際本部に送られ、団体が各国で行っている子供達の支援活動に使われます。

 フォスターペアレントは自分の援助金がどの地域の子供達の就学に使われているのか知ることができます。

 で、団体はその地域の援助している子供達の中から丁寧に抽出してフォスターチャイルドとして、フォスターペアレントに紹介いたします。

 チャイルドからの手紙や写真が定期的に事務局を通じてペアレントに送られてきて国際的な文通のような交流が始まるのです、フォスターペアレントは彼・彼女の成長過程を何年も見守ることができます。

 実にすばらしいスキームだなと思ったのは、援助は地域全体になされますから公平性・平等性は完全に担保されていながら、援助する側に援助されている子供達の丁寧な可視化が実現していることです。

 「studygift」にこのスキームを取り入れることはできないでしょうか。

 具体的には援助希望する学生を期間でグループ化して第何期生とまとめます。現状のサイトは学生個人の実名まで載っていますが、しっかりと個人情報に配慮した上で、第何期生(数十人分?)のプロフィールやアピールポイントなどを全員分紹介します。援助を検討している人は個人に援助するのではなく第何期生全体に1口5000円で援助する行為を行います。サイトでは総額だけがアップされ、個人競争はなくなります。援助総額が確定したら学生の人数で平等に割り当てます。学生のほうは定期的にメールで活動報告を援助者に行います。どの学生の活動報告を見たいかは援助者が自由選択可能とします。

 例えば、このような工夫をすれば平等・公平性を担保したうえである程度の可視化も実現できるのではないでしょうか。

 ネットという環境を利用したせっかくの新しい学費援助の試みです。

 成功させるために、現在の慈善団体が何十年もの時間を掛けて色々なナーバスな諸問題を避けるように考えつくされて来たノウハウを、リスペクトしつつ受け入れてみるのも必要ではないかと思いました。



(木走まさみず)