木走日記

場末の時事評論

金は出すがあとは知らんという無責任な政府の除染基本方針案は許されない

 福島県福島市伊達市において、除染作業に関する最近の報道が相次いでされています、その内容は今後の除染作業の問題点など、非常に示唆に富んでいます。

 まず文科省の汚染マップ上で両市の位置を確認しておきます。

 ご覧のとおり、福島市伊達市は、事故を起こした福島第一原発から60km圏のほぼ線上にあり、また「土壌表層への放射性セシウムの沈着状況」では、「300k−600k」と「100k−300k」の境界にあり、汚染状況がある程度近いと想定できます。

 まず、10日付けの産経新聞記事では伊達市の小学校が除染に成功したことを報じています。

IAEA専門家チームが除染後の小学校を視察「ごみ扱えない」と市長訴え
2011.10.10 19:37 [放射能漏れ]

 東京電力福島第1原発事故に伴う除染について、日本政府に助言するため来日中の国際原子力機関IAEA)の専門家チームは10日、福島県伊達市で除染を終えた小学校を視察、仁志田昇司市長から効果の説明を受けた。

 市長は「校庭の表土を削り取ったことで放射線量が約10分の1になった。プールは放射性物質が含まれていたため排水できなかったが、除染して排水できた」と説明。体育館裏に仮置きされた、袋に入った除染ごみを見たチームの一人が「放射線量の低いごみは、通常のごみと同様に回収して処理できないのか」と尋ねると、市長は「放射性物質を含むごみについては法的な枠組みがなく、現時点では扱えない」と訴えた。

 チームは、線量が高く特定避難勧奨地点に指定された世帯がある同市霊山町でのモデル事業や、飯舘村で農地の実証試験の現場も視察した。

http://sankei.jp.msn.com/life/news/111010/trd11101019440014-n1.htm

 うむ、「校庭の表土を削り取ったことで放射線量が約10分の1になった」(市長)そうですが、放射性セシウムの95%は深さ2.5センチまでの土壌にあることがわかっていますから、効率よく10%まで除染に成功したのは吉報であります。

 このケースのように校庭や公園、田畑など平らな表面で「面」すべての表土を削り取ることが可能ならば除染は成功裏にうまくいくことが理解できます。

 一方、除染作業の結果、体育館裏に仮置きされた、袋に入った除染ごみの問題が早くも浮上しています。

 自治体任せでは無く国は早急に、今後の除染作業によって各地で発生すると予想される大量の放射性汚染ごみのその中間置き場、そして最終処分場の確保、これらの方針を確立すべきです。

 さて福島市の除染報道ですが、6日付けの毎日新聞記事では福島市渡利地区の除染作業がかなり苦戦していることを報じています。

セシウム汚染:福島市渡利で30万ベクレル 土壌調査

 市民団体「福島老朽原発を考える会」(阪上武代表)などは5日、都内で記者会見し、東京電力福島第1原発事故の影響で部分的に放射線量が高いとされる福島市渡利地区で独自に土壌を調査した結果、最大で1キロ当たり30万ベクレルを超える高濃度の放射性セシウムを検出したと発表した。

 政府は10万ベクレルを超える汚泥についてはコンクリートなどで遮蔽(しゃへい)して保管することを求めており、それを上回るレベル。

 渡利地区は、放射線量が局所的に高いホットスポットとして政府が避難を支援する「特定避難勧奨地点」に指定されておらず、市民団体は「チェルノブイリ事故で避難を要する地域とされた『特別規制ゾーン』に相当する高い数値。一帯を特定避難勧奨の地区として指定すべきだ」と指摘している。

 同団体などは神戸大の山内知也教授(放射線計測学)に依頼し、9月14日に同地区や周辺の側溝や通学路脇、民家の庭など5カ所の土壌を測定した。その結果、1キロ当たり約3万8000〜30万7000ベクレルのセシウムを検出し、6月に調査した時より数値が高い場所もあったという。

 調査地点の中には既に除染が行われた地域もあるといい、山内教授は「事故前の水準まで戻れば『除染』と言えるが、そのレベルには下がっていない」と話した。

http://mainichi.jp/life/today/news/20111006k0000m040049000c.html

 「周辺の側溝や通学路脇、民家の庭など5カ所の土壌を測定」、調査地点の中には既に除染が行われた地域もあるにもかかわらず、6月に調査した時より数値が高い場所もあったそうです。

 市街地の除染がいかに難航しているか、今回の調査に当たった神戸大の山内知也教授(放射線計測学)のレポートがネット上で公開されています。

放射能汚染レベル調査結果報告書
渡利地域における除染の限界*
http://www.foejapan.org/energy/news/pdf/110921_2.pdf

 11ページのレポートですが、その「まとめ」にはこう記されています。

まとめ

福島市渡利地区の空間線量を計測した。

・6月の調査で見つかった40,000 Bq/kg を超える汚染土壌が堆積していた道路の側溝はそのまま放置されていた。堆積した土壌表面の線量は6月の7.7 μSv/h から22 μSv/h に、11μSv/h から23 μSv/h に上昇していた。降雨と乾燥とによる天然の濃縮作用が継続している。

・住宅の内部で天井に近いところで、あるいは1 階よりも2 階のほうが空間線量の高いケースが認められたが、これらはコンクリート瓦等の屋根材料の表面に放射性セシウムが強く付着し、高圧水洗浄等では取れなくなっていることに起因することが判明した。学童保育が行われているような建物でもこのような屋根の汚染が認められた。

・渡利小学校通学路除染モデル事業が8月24日に実施されたが、報告された測定結果によれば、各地点空間線量は平均して「除染」前の68%にしか下がっていない。除染作業の実態は側溝に溜まった泥を除去したということであって、コンクリートアスファルトの汚染はそのままである。道路に面した住宅のコンクリートブロック塀や土壌の汚染もそのままである。一般に、除染は広い範囲で実施しなければその効果は見込めない。今回の計測において通学路の直ぐ側の地表で20 μSv/h に及ぶ土壌の汚染があった。除染というからには天然のバックグラウンド・レベルである0.05 μSv/h に達するかどうかでその効果が評価されるべきである。「除染」の限界が示されたと見るべきである。

・薬師町内の計測を行ったところ、国が詳細調査を行った地域から外された地点で高い汚染が認められた。ある住宅の庭では1 m 高さで2.7 μSv/h、50 cm 高さで4.8 μSv/h、地表で20 μSv/h の汚染が認められた。これは南相馬市の子ども・妊婦の指定基準(50 cm 高さで2.0 μSv/h)をゆうに超えている。

・渡利地区では、地表1 cm高さでの線量が異常に高い値を示す箇所が随所に見られる。この地区全体の土壌汚染に起因すると思われる。土壌汚染の程度については、特定避難勧奨地点の検討項目になっていないが、チェルノブイリの教訓に学び、空気の汚染にも直接関係する土壌汚染の程度について、避難勧奨の判断に反映させるべきである。

・文字通りの「除染」は全く出来ていない。Cs-134 の半減期は2年、Cs-137 のそれは30年である。したがって、この汚染は容易には消えず、人の人生の長さに相当する。そのような土地に無防備な住民を住まわせてよいとはとうてい考えられない。

 「各地点空間線量は平均して「除染」前の68%にしか下がっていない」、つまり除染が約70%しか進んでいないわけで10%まで成功した伊達市の小学校のケースとはだいぶ違うようです。

 理由は、「コンクリート瓦等の屋根材料の表面に放射性セシウムが強く付着し、高圧水洗浄等では取れなくなっている」、「コンクリートアスファルトの汚染はそのまま」、「道路に面した住宅のコンクリートブロック塀や土壌の汚染もそのまま」、市街地では当然ながら屋根や塀やアスファルトの道路等があり、これらの除染は土壌のようには効率的にはいかないということであります。

 そして結果的には、通学路の側溝を「線」で除染したり、特に線量の多い箇所を「点」で除染しても、地域全体が汚染されている場合、結局のところ除染作業の「面」で行うような効率を実現するのは相当困難であるというわけです。

 市街地の除染作業はことのほか難航する様子がよく理解できますが、やはり地域が広域に汚染されている場合、「点」や「線」での除染作業では効果が出にくいということなのでしょう。

 さらにやっかいなのは、表土ならいれかえればすむのですが、ブロック塀やアスファルト道路やコンクリート瓦などを完全に除染するにはそれこそ町を造りかえるような手間と費用を必要としてしまうだろうことです。

 調査に当たった神戸大の山内知也教授(放射線計測学)はこのレポートを「この汚染は容易には消えず、人の人生の長さに相当する。そのような土地に無防備な住民を住まわせてよいとはとうてい考えられない」と結んでいます。

 ・・・

 文科省の「土壌表層への放射性セシウムの沈着状況」マップでは、福島市伊達市は、事故を起こした福島第一原発から60km圏のほぼ線上にあり、「100k−300k」層にあります。

 この層は福島県以外にも栃木、群馬、宮城と広域に分布しています。

 そこは山間部を中心に、田畑、里山そして市街地が散在しているものと思われます。

 見えてきたのは、学校の校庭のような「面」で画一的作業で除染できるフラットな土地(田畑も含む)は除染効率はよろしいですが、アスファルト道路、ブロック塀、屋根瓦、家屋そのもの、除染対象が多様で複雑でどうしても「点」や「線」の作業を強いられる市街地の除染作業は山内教授の言うとおり「限界」があるということです。

 また下の毎日新聞記事にもありますが、近くに里山のある集落や田畑は、一度除染しても里山が汚染されている限りそこから汚染物質が集落や田畑にそそがれます、したがって繰り返し除染作業をしなくてはならないわけです。

東日本大震災:福島第1原発事故 進まぬ除染、道険し 雨のたび、山から汚染土砂
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20111011dde041040055000c.html

 記事より。

 福島市は7〜8月、市内でも線量が高い大波、渡利地区で除染実験を行い、数日〜1週間程度後に線量を再調査した。すると計885地点中7地点で、除染後の数値が除染前より高いという結果が出た。毎時3・67マイクロシーベルトから同4・63マイクロシーベルトに上がった側溝もあった。市は「山の近くや、山から水や土砂が流れ込んだポイントで数値が上がった」と分析する。

 市街地を除染しても近傍の山林が汚染していれば除染の効果は一時的なものです。

 記事は続けて、福島市としては「国の「20メートル指針」に対し、地権者らの同意を条件に75メートル内部まで腐葉土を取り除く方向」を先行して実施する予定だと報じています。

 森林の汚染実態について調査してきた農水省は9月30日、宅地などとの境から20メートル程度の範囲の森林の落ち葉などの除去が効果的との中間とりまとめを公表した。だが、その中でも、常緑の針葉樹については「葉にも放射性セシウムが蓄積しており、通常3〜4年程度をかけて落葉する」として継続的な落ち葉除去が必要と認めた。

 2年間で全域の生活空間の線量を毎時1マイクロシーベルト以下にする計画を立てた福島市。今月中にも大波地区で本格除染を始める。山林については未定だが、国の「20メートル指針」に対し、地権者らの同意を条件に75メートル内部まで腐葉土を取り除く方向で検討している。除染は繰り返すしかないとみているが、長期的な財政支援が得られるのか、国からの回答はないという。

 このような自治体まちまちの対応でよろしいのでしょうか、そこに国・政府の力強いリーダーシップよる除染作業に対する行動の指針がまったく見えていません。

 ・・・

 政府は10日、放射性物質の除染や汚染廃棄物処理に関する政府の基本方針案をまとめました。

除染:「年1ミリシーベルト以上」政府基本方針案

 環境省は10日、東京電力福島第1原発事故による放射性物質の除染や汚染廃棄物処理に関する政府の基本方針案をまとめた。国が指定する除染対象地域を、事故による追加被ばく線量が「年1ミリシーベルト以上」とし、汚染廃棄物は排出した都道府県内で処理または中間貯蔵することなどを示した。汚染の対処を国の責任で行うことを定めた特別措置法(来年1月全面施行)に基づくもの。11月上旬にも閣議決定する。

 除染について政府は当初、汚染度の高い警戒区域計画的避難区域内は国直轄とする一方、それ以外の地域では被ばく線量が年5ミリシーベルト以上の区域を国が指定し、除染作業は自治体が行うとしていた。これに対し自治体が反発したことから、指定する地域を「年1ミリシーベルト以上」に引き下げた。

 また、国直轄で除染する警戒区域計画的避難区域の中で比較的線量が低い地域については、14年3月末までに除染作業を行うことを目指すとの目標を掲げた。

 この基本方針に基づく除染作業は▽警戒区域計画的避難区域環境相が「除染特別地域」に指定し、国が直接作業を行う▽それ以外で年間被ばく線量が1ミリシーベルト(毎時0・23マイクロシーベルト)以上の地域は環境相が「汚染状況重点調査地域」に指定し、自治体が除染する区域や計画を立てて実施する(除染費用は国が負担)−−となる。

 住民の被ばく低減に向けた目標も明記し、被ばく線量が年20ミリシーベルト以上の地域を「段階的かつ迅速に縮小することを目指す」とした。20ミリシーベルト未満の地域については住民の年間被ばく線量を2年後の13年8月末までに▽一般の人は半減▽学校、公園など子どもが生活する場所では60%減を目指し、長期的には「1ミリシーベルト以下」を目指すとした。

 また、国の責任で処理する「指定廃棄物」について、放射性セシウムの濃度が「1キロ当たり8000ベクレル超」とすることを決めた。

 基本方針案では、指定廃棄物は排出した都道府県内で処理することと併せ、除染後の土壌など汚染廃棄物が「相当量発生している都道府県は中間貯蔵施設を確保する」と明記した。その後の最終処分については「今後の技術開発の状況を踏まえて検討する」とした。【藤野基文】

 ◇除染に関する基本方針案骨子

・国が指定する除染地域は、事故による被ばく線量が年1ミリシーベルト以上とする

・高濃度の汚染廃棄物や除染後の土壌は排出した都道府県で処理または中間貯蔵する

・事故による被ばく線量が年20ミリシーベルト以上の地域を段階的かつ迅速に減らす

・事故による被ばく線量が年20ミリシーベルト未満の地域での住民の被ばく量を2013年8月末までに半減させる

・公園や学校など子供が生活する場所の除染を優先し、被ばく量を2013年8月末までに60%減少させる

毎日新聞 2011年10月11日 11時44分

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20111011k0000e010044000c.html

 政府の方針では、除染作業は▽警戒区域計画的避難区域環境相が「除染特別地域」に指定し、国が直接作業を行い、それ以外で年間被ばく線量が1ミリシーベルト(毎時0・23マイクロシーベルト)以上の地域は環境相が「汚染状況重点調査地域」に指定し、自治体が除染する区域や計画を立てて実施する(除染費用は国が負担)−−とあります。

 つまりこのままでは、ほとんどの汚染地域は自治体任せになります。

 この政府の除染基本方針案は自治体に対して具体的な除染指針も何も無く、また中期に渡るであろう除染作業の情報共有、ノウハウ共有、技術共有など、自治体を支援するスキームもまったく示されていません。

 金は出すがあとは知らんという無責任な方針にさえ思えます。

 しかし、今検証したとおり、学校の校庭などフラットで除染効率のいい場所は実は例外的であり、市街地も里山近くの集落の除染もおそらく繰り返し除染作業を行う中期的な作業になると思われます。

 日本はこれだけの面積の土地が放射能で汚染された経験はもちろんないわけで、除染作業もすべて試行錯誤を繰り返していくしかないとすれば、各地の自治体がてんでばらばらに作業するのでは非効率きわまりありません。

 A市で失敗した作業をB市が繰り返したり、C市の成功事例を他の市が知らされず生かされなかったり、そればかりかこのままでは、除染計画、除染対策そのものが各地でばらばらの基準で行われかねません。

 広域の汚染地域で除染作業そのものを政府が自治体に委ねるのは致し方ないでしょう。

 しかし、せめて政府の指導力で、各自治体の横の連絡がしっかり取られ除染に関するあらゆる情報の共有、ノウハウの共有、技術の共有に努めていかなければなりません。

 そこは中央政府がしっかり責任を持って除染に対する自治体の情報共有を可能にする支援スキームを構築するべきです。

 除染費用の金さえ出せばいいという無責任なスタンスは許されません。



(木走まさみず)