木走日記

場末の時事評論

「1ミリ・シーベルト以上となる地域を国が費用負担」(細野原発相)〜それは技術的にも予算的にも不可能

除染費用、福島県外でも国が責任…原発

 細野原発相は4日午前の閣議後の記者会見で、東京電力福島第一原子力発電所事故で拡散した放射性物質の除染に関し、福島県外で年間被曝(ひばく)線量が1ミリ・シーベルト以上となる地域があれば、国が費用負担に責任を持つ意向を示した。

 細野氏は記者会見で、政府が除染を支援する地域について、「福島に限定的に考えていることではない」と述べた。除染経費については、環境省が2011年度補正予算で執行した分を含め、13年度までに総額1兆円以上を見込んでいることから、「当面これでやれるだろう」と語った。

(2011年10月4日13時19分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20111004-OYT1T00665.htm

 うむ、細野原発相が福島県外で年間被曝(ひばく)線量が1ミリ・シーベルト以上となる地域があれば、除染費用を国が負担する意向を示しました。

 そもそも日本あたりでは大気中に1.4ミリシーベルト/年ほどの自然由来の線量がありますので、大臣の「1ミリ・シーベルト以上となる地域」はこの度の原発事故由来の追加線量を示していると思いますが、そうすると2,4ミリシーベルト以上が対象となるわけですが、それにしてもこの発言は本当に実現可能なのでしょうか。

 2.4ミリシーベルト/年の線量は、1年365日の総線量でありますからこれを1時間当たりに換算すると、

 2.4ミリシーベルト/年=2.4/(24時間 * 365日)=0.000274ミリシーベルト/時

 つまり0.274マイクロシーべルト/時(μSv/h)に相当します。

 ここに文科省の29日に発表した汚染マップのうち「地表面から1m高さの空間線量率の分布状況を示したマップ」があります。

(参考1)
文部科学省による埼玉県及び千葉県の航空機モニタリングの測定結果
について(文部科学省がこれまでに測定してきた範囲及び埼玉県
及び千葉県内における地表面から1m高さの空間線量率)

 これは政府が公式に解析し認めた貴重な資料であり、もし「年間被曝(ひばく)線量が1ミリ・シーベルト以上となる地域」を除染対象地域に含めるならば、どのぐらいの地域が除染対象の可能性を持つか、おおよその推測をすることができるはずです。

 凡例に注目して下さい。

 仮に0.274マイクロシーべルト/時以上を除染対象とすると、凡例によれば下から3層目の水色のレイアー以上が対象となります。

 そこで、0.2マイクロシーべルト/時以上の地域を黄色に画像処理したのが以下の図です。

 この図は0.2マイクロシーべルト/時以上の地域ですので、厳密にはこれよりも対象地域は若干狭くなるはずですが、それにしても広大な領域です。

 細野原発相のいう「年間被曝(ひばく)線量が1ミリ・シーベルト以上となる地域を国が費用負担に責任を持つ意向」ですが、これは、残念ながら、実現性は極めて厳しいと思います。

 上記の仮定で推測してもかなり広大な面積が対象になります。

 今回の除染の対象地域ですが、市街地よりも山林や田畑の面積が多いのが特徴です。

 環境ジャーナリストの小澤祥司氏の以下のレポートにも、森林の除染は困難を極めることが指摘されています。

はたして放射能汚染地域は除染すれば住めるのか? 国は避難期間を明示し、移住による生活・コミュニティの再建を

(前略)

現地は農地と森林が一体となった環境である(写真)。その森林に降った水を灌漑用水に使っている。セシウムを含む落ち葉も舞い込んで来るであろう。除染は農地と森林をセットで行わなければ意味がない。

 森林の除染は農地よりもやっかいだ。セシウムは葉や樹皮に吸着され、地表では厚く積もった落葉落枝や腐葉土に染み込んで、その下の土壌にまで達しているからだ。確実に除染するには樹木を皆伐し、地表をかなり厚く削り取るしかなかろう。この費用は、農地の数倍かかるだろう。さらにこれに除染した土などの処理費用が加わる。これには広大な面積の管理型処分場が必要になる。居住区・建物の除染を含めて、全体の費用が10兆円を超えると見積もっても大げさではあるまい。しかも除染は確実に農地の質を低下させ、広範囲の森林の皆伐、表土除去は地域生態系に壊滅的影響を与える。

(後略)
http://diamond.jp/articles/-/13691

 学校の校庭や田畑などフラットな土地ならば1ヘクタール辺りの除染費用はある程度試算できます(それでも面積により膨大な費用が掛かります)が、市街地、山林、これらの除染費用はそれぞれの地理的条件により左右され、しかもフラットな土地よりもかなりの負担になると思われます。

 そもそも完全なる除染が可能なのか、わが国にはその経験も無く、専門チームもありません。

 除染作業により発生する放射能汚染廃棄物の中間保管場所や最終処分場の確保も大きな問題として浮上しています。

 これらを解決していくには、中長期的課題としてじっくり取り込む以外ないと思われます。

 細野原発相は「1ミリ・シーベルト以上となる地域を国が費用負担」すると明言しました。

 しかし、それは範囲が広大すぎて、おそらく技術的にも予算的にも不可能なことだと思われます。

 除染対象地域はしっかりと優先順位を付けて絞るべきです。

 限られたリソース(予算・人員)を拡散している余裕はありません。

 実現性のある除染計画をしっかり立てていただきたいです。

 

(木走まさみず)