脱原発戦略として長期的に自給可能なエネルギー源開発を目指そう
10日付け朝日新聞記事から。
菅首相「エネルギー計画白紙に戻し議論」 省エネ推進
2011年5月10日20時30分菅直人首相は10日、首相官邸で記者会見を開き、総電力に占める原子力の割合を将来的に50%に高めるという政府のエネルギー計画について、「いったん白紙に戻して議論する必要があるだろうと考えている」と述べた。
首相は、現在54基の原発を2030年までに14基以上増やし、発電時に二酸化炭素を出さない原子力などが総電力に占める割合を約70%に――とする昨年決定の政府の「エネルギー基本計画」に言及。内訳を「原子力が50%以上、再生可能エネルギーが20%」と指摘した上で、「この従来決まっている基本計画は白紙に戻して議論する」と強調し、原発の新増設計画を認めない可能性もあることを示唆した。
さらに、議論の方向性について「原子力と化石燃料は電力では二つの柱だったが、太陽光や風力、バイオマスといった再生可能エネルギーを基幹エネルギーに加える。もう一つは省エネ社会を作ることだ」と述べた。一方、「原子力については一層の安全性を確保する」とも述べた。
ただ、政権は、エネルギー基本計画の見直し議論の場やスケジュールを具体的に示していない。
(後略)
http://www.asahi.com/politics/update/0510/TKY201105100381.html
うむ、我が国のエネルギー計画を「いったん白紙に戻して議論」するとした菅直人首相であります。
今回の福島第一原発事故による放射性物質汚染においては、政府試算で総額4兆円もの賠償金が発生し、また事故原発の廃炉費用にも政府試算で1.5兆円がかかることを鑑みれば、もはや我が国においては原発は決して発電コストが安いとは言えなくなったわけで、計画見直しは極めて妥当な判断でありましょう。
福島第一といえば、文部科学省と米エネルギー省が共同で作製した汚染地図から琵琶湖の1.2倍というチェルノブイリ原発事故級の土壌汚染が広がっていることがわかりました。
福島第一、土壌汚染800平方キロ 琵琶湖の1.2倍
福島第一原発事故で放射能に汚染された地域は、チェルノブイリ原発事故の強制移住対象レベルだけで、約800平方キロに上ることが分かった。東京都の面積の約4割、琵琶湖の約1.2倍に相当する。原子力安全委員会は、避難地域の見直しや住民の帰宅に役立てるため、観測を重点化する地域を設けるなど監視を強化する方針だ。
汚染面積は、日米が共同で作製した汚染地図から分かった。汚染地図は、文部科学省と米エネルギー省が4月に約150〜700メートル上空から、土壌など地表1〜2キロ四方で放射性物質の蓄積量を測って作った。
(後略)
http://www.asahi.com/national/update/0510/TKY201105100522.html
地震国日本では結局原子力は極めて高くついたということだけでなく、今後数十年に渡りチェルノブイリ原発事故同様強制移住が強いられる住民が発生する可能性が残念ながらでてきてしまいました。
福島で起こってしまったことは取り返しがつきません、この教訓を生かすならば狭い島国で地震国である日本にこれ以上の原発を増やすことは国民感情からも無理でしょうし、既存の原発も代替エネルギーの確保が前提でしょうが廃炉する方向で「脱原発」を目指すべきでしょう。
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当面は石炭火力やLPG火力などに頼らざるをえないと思いますが、中長期的には原発に変わる安定供給可能なエネルギーが必要になるのは当然考えなければなりません。
菅首相は「太陽光や風力、バイオマスといった再生可能エネルギー」と述べていますが、もちろん太陽光発電なども普及に努めることは異論はないのですが、日本国としての長期的エネルギー戦略を確立すべきであります。
私は日本国の地政学的ポジションを生かした将来性のあるエネルギー戦略として2つ提案いたします。
ひとつは4月25日にも主張いたしましたが、日本が有する豊富な地熱資源(世界3位)です。
2011-04-25 原発の代わりになる再生可能エネルギーはこの国の地下に眠っている
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20110425
再度の説明になりますが、この度の大地震は日本が活発な火山活動及び地震活動の集中する環太平洋火山帯に属しておりプレート型連動地震でありました。
■図1:環太平洋火山帯(ウィキペディアより)
図に赤く示されたこの太平洋を囲む環状の火山帯では世界の過半数の活火山が集中しております。
日本中いたるところに温泉がわき出ていますが、環太平洋火山帯に属する地域ではマグマ溜まり由来の膨大な地熱が発生しており、その地熱埋蔵量を資源と見なせれば、日本はなんと世界屈指(3位)の資源大国となるのです。
■表1:世界の地熱資源量
国名 活火山数 地熱資源量(万kW) アメリカ合衆国 160 3000 インドネシア 146 2779 日本 119 2347 フィリピン 47 600 メキシコ 39 600 アイスランド 33 580 ニュージーランド 20 365 イタリア 13 327 ■図2:世界の地熱資源量(グラフ)
※データ出自 (独)産業技術総合研究所資料より
http://staff.aist.go.jp/toshi-tosha/geothermal/gate_day/presentation/AIST3-Muraoka.pdf
ご覧いただければ一目瞭然ですが、アメリカ、インドネシア、日本、フィリピン、メキシコと、地下資源量上位5国がすべて環太平洋火山帯に属しており、表にも示しましたが当然ながら地熱資源量と活火山数には強い相関が見られるわけです。
地熱発電はもちろん現状ではコスト面でも問題があり技術的な研究課題も多くあることは承知していますが、石油や石炭・ガスなどの供給はほとんど輸入にたよっている日本において、半永久的に自前で供給できる地熱発電の特性はもっと注目されてしかるべきと思っています。
結果的に原子力の発電コストは高くなってしまったこの国では、長期的に地熱発電の開発を進めることは資源の自給自足の面でも有効なエネルギー戦略だと思っています。
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そしてもうひとつ、長期的な取り組みとしてやはり日本が地政学的に国際優位になりえる資源開発があります。
海洋資源開発です。
日本の領土面積は約38万km²で、世界第61位ですが、領海、排他的経済水域(EEZ)の広さでは約448万km²と世界6位の「大国」となります。
■表2:EEZと領海を合わせた国別順位
順位 国名 領海+EEZ 01 アメリカ 11,351,000 km² 02 フランス 11,035,000 km² 03 オーストラリア 10,648,250 km² 04 ロシア 7,566,673 km² 05 カナダ 5,599,077 km² 06 日本 4,479,358 km² 07 ニュージーランド 4,083,744 km² 08 イギリス 3,973,760 km² 09 ブラジル 3,660,955 km² 10 チリ 2,017,717 km² ■図3:日本の排他的経済水域
海上保安レポート2003 より
http://www.kaiho.mlit.go.jp/info/books/report2003/taisei/01.html
そして海洋資源として今もっとも注目を集めているのがメタンハイドレートです。
天然ガスの原料となるメタンを水の分子が取り囲んだ状態の固体結晶で、永久凍土地帯や大陸縁辺部の海域に高圧低温の条件下で生成され、火をつけると燃えるため「燃える氷」といわれています。燃焼時の二酸化炭素(CO2)排出量は石炭や石油に比べると半分程度で、地球温暖化対策にも効果的な新たなエネルギー源として注目されているわけです。
そして日本にとってうれしいことに、日本列島が属する環太平洋火山帯の海洋には、大陸棚に沿ってメタンハイドレートが大量に眠っていることが確認されているのです。
■図3:日本周辺海域におけるメタンハイドレート起源BSR分布図
日本周辺海域におけるメタンハイドレート起源BSR分布図 より
http://www.mh21japan.gr.jp/pdf/BSR_2009.pdf
「メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム」の説明によれば上の図の赤い部分、東部南海トラフだけで日本の天然ガス年間消費量の13・5年分に相当する約1兆1400億立方メートルの存在が確認されており、現在のガス田の埋蔵量ランキングにあてはめるとこの部分だけで世界20位程度のガス田に匹敵するといいます。
メタンハイドレートの採掘技術は各国でしのぎを削って研究されていますが、現段階ではコスト試算することもかなわない地熱発電と比べても実現段階手前の夢のエネルギーではあります。
しかし力を入れて研究開発するべき、つまりもし実現すれば日本経済にとってエネルギー戦略上、劇的な国際優位性を獲得する可能性を秘めた分野だといっていいでしょう。
この国の長期的なエネルギー戦略として、世界3位の埋蔵量を誇る地熱エネルギーと世界6位の面積を誇る海洋に眠るメタンハイドレートに力を入れないなど、これほどもったいないことはないでしょう。
日本のエネルギー戦略のめざすべき方向性として、戦略的にぜひこの2つのエネルギー開発も重点的に取り込んでいただきたいです。
この2つのエネルギー、その潜在的ポテンシャルは、もしかするとこの国のエネルギー事情を一変するほどの可能性を秘めているのです。
長期的に予算を掛け開発に取り組む、それだけの十分な価値があると思います。
(木走まさみず)