木走日記

場末の時事評論

「ブリッジ法案」とか「毒餃子」とかプチお茶目な産経新聞記事見出し

●新聞3紙がネット上に「あらたにす」〜まあ、ご健闘をお祈り申し上げます。

 日本経済新聞様、朝日新聞様、読売新聞様。

 三紙よみくらべサイト「あらたにす」開局おめでとうございます。

 どうも「あらたにす」とは「新s」つまり「新(new)+s=NEWS」の意味なんだそうであります。

「あらたにす」とは

 「あらたにす」は、「新しくする」の古語です。「新s」というロゴには「新(new)+s=NEWS」の意味があり、日本経済新聞朝日新聞、読売新聞の3紙の叡智を結集し、新しいことを次々生み出していきたいという願いが込められています。

 「あらたにす」の特徴は、3紙が発信するニュースや社説などを「読みくらべ」していただけることです。3紙の一面、社会面の記事、社説などがそれぞれ並んだページ(「くらべる一面」「くらべる社説」など)で見出し部分をクリックすれば、3社のニュース・サイトで全文を読むことができます。朝刊記事は午前7時過ぎ、夕刊は午後4時過ぎにサイトに掲載されます。
 3社のニュース・サイトに載る最新ニュースも、「あらたにす」で同時に一覧できます。
 3紙の報道や社説を対比しつつ、じっくり読むことで、新聞の奥深さ、面白さを再発見してください。

 「あらたにす」には、学者や財界人、文化人、ジャーナリストら様々なジャンルの著名人が「新聞案内人」となって、新聞評やメディアに関するコラムなどを書くページがあります。まずは10人に案内人をお願いしました。独自の視点で3紙を読み、ニュースに対する多様な見方と理解を深めるためのナビゲーター役を務めてもらいます。

 「注目テーマ」のページは、話題のニュース記事をまとめてチェックできるニュースクリップ集です。1つのテーマについて、その日の記事はもちろん、過去を遡ってチェックすることができるので、旬の話題や一連の流れをまとめて知ることもできます。

 このほか、3紙が日曜朝刊などに掲載した書誌情報を並べて読める「書評」のページ、3社が主催するイベント情報や、編集局いち押しの連載企画などを一覧できる「イベント」「おすすめ企画」のページなどがあります。

 3紙の東京本社発行の最終版を中心に編集しております。
 「あらたにす」は、08年春を目処に、各種コンテンツ・機能を増強する予定です。その後も継続的にサービスの改善・拡充を実施していきます。
                    

2008年1月31日
http://allatanys.jp/S001/about.html

 うーん、「3紙の叡智を結集し、新しいことを次々生み出していきたいという願いが込められてい」るこのサイト名「あらたにす」なのでありますが、あくまでもネットでは要約を載せ、詳細は紙面購入でと紙の販促活動の一環なのだそうですが、その発想自体、旧態依然の時代錯誤だと当ブログでは過去に批判してきましたが、サービス内容同様にサイトのネーミングがすでに覚えづらい発音しづらい点でどうにもこうにもなのではあります(苦笑

 ・・・

 紙の発行部数の減少に歯止めがかからない新聞3紙がネット上に「新たに巣」をつくってみたというところでしょうか。

 まあ、ご健闘をお祈り申し上げます。

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 新聞各紙を読み比べるアイディア自体を否定するものではありませんが、私の愛する産経や毎日が比べられないのはちょっと残念なのであります。

 新聞の読み比べという意味では、場末のブログながらもうすぐ開設3年になろうとする『木走日記』のほうが先輩なのであります。

 今回は最近の話題に上っている問題や事件における産経新聞のユニークな記事見出しについて、二つの具体例を検証してプチ興味深いメディアリテラシーをしてみましょう。

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●「つなぎ法案」を「ブリッジ法案」とおしゃれに横文字で表現する産経新聞

 まずは昨日(30日)の朝日新聞記事から。

「つなぎ法案」一転、取り下げで合意 衆院議長あっせん

2008年01月30日15時22分

 3月末に期限切れを迎えるガソリン税暫定税率などを、議員立法で5月末まで延長する「つなぎ法案」について、自民、公明両党は30日午後、取り下げる方針を決めた。当初は同日中に衆院を通過させる方針だったが、河野洋平衆院議長が暫定税率延長を含む歳入法案について、「年度内に一定の結論を得ることで同意が得られた場合、つなぎ法案を取り下げる」という内容のあっせん案を、自民、民主など与野党幹事長に提示し、各党とも受け入れたためだ。

 つなぎ法案は、参院で野党が採決に応じなくても、与党が憲法59条の「60日ルール」を使って衆院の3分の2の再議決で成立させ、暫定税率の期限切れを防ぐのが狙い。野党は「議論する前に結論を出すようなものだ。国会軽視も甚だしい」と批判し、全面対決する姿勢を示していた。

 自公両党は30日、法案が付託された衆院の財務金融、総務両委員会で法案を可決。同日午後にも衆院本会議で可決し、参院に送付する方針だった。河野議長は法案の衆院通過による国会の混乱を避けようと、江田五月参院議長と会談。あっせん案で与野党の歩み寄りを求めた。

 与野党が合意したあっせん案は、(1)総予算及び歳入法案の審査にあたっては、公聴会参考人質疑を含む徹底した審議を行ったうえで年度内に一定の結論を得るものとする(2)国会審議を通し、税法について各党間で合意が得られたものは立法府で修正する(3)両院議長の下で、(1)と(2)について、与野党間で明確な同意が得られた場合、つなぎ法案は取り下げる――との内容。

http://www.asahi.com/politics/update/0130/TKY200801300259.html

 なんだかなあ、まさに迷走する国会の象徴なのであります、午前中に揉めにもめながら衆院の財務金融、総務両委員会で法案を可決したのに、早くも午後には衆院議長あっせんで与野党合意、「つなぎ法案」は取り下げられたのであります。

 で、朝日以外の各紙もこの「つなぎ法案」取り下げのニュースを当然扱っているのではあります。

 毎日新聞

つなぎ法案:議長あっせんで取り下げ 全面対決は当面回避
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20080131k0000m010076000c.html

 日経新聞

暫定税率、つなぎ法案取り下げ・与野党が一転合意
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20080131NT003Y68330012008.html

 で、ここでこの10日ほどのこのつなぎ法案問題が浮上してきてからの産経新聞の記事タイトルが個人的に興味深かったのであります。

 主要紙で産経だけが「つなぎ法案」のことを「ブリッジ法案」とおしゃれに横文字で表現していたからです。

 例えば今日(31日)の産経社説。

【主張】ブリッジ法案 ねじれ国会の原則確立を
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/080131/plc0801310358001-n1.htm

 この社説だけではありません、それ以前の記事から主要紙で産経だけは「つなぎ法案」のことを「ブリッジ法案」とお洒落に形容してきたのであります。

「ブリッジ法案」一転取り下げへ 斡旋案「年度内に一定の結論」で与野党合意
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/080130/stt0801301506010-n1.htm

ブリッジ法案めぐり平行線 民主徹底抗戦の構え
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/080130/stt0801301033002-n1.htm

「中身を承知していない」 福田首相、ブリッジ法案関与せず
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/080129/plc0801291322005-n1.htm

「ブリッジ法案」を可決 衆院財務金融委
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/080130/stt0801301237004-n1.htm

秘策?奇策? 与党内にくすぶるブリッジ法案
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/080125/plc0801251909007-n1.htm

 産経だけでなくときにメディアは記事タイトルにプチレッテル張りをすることがままありますが、産経のこの「ブリッジ」という横文字へのこだわりは、その真意はわかりませんが「つなぎ」という姑息感・軽率感がともなうような日本語よりも、「ブリッジ」と横文字にしたほうが、読者にとって法案の持つ性質がわかりやすく伝わると考えたのでしょう。

 まあ重箱の隅をつつくようで本質的問題ではないのですが、産経はその思惑に従って、法案自体の印象を横文字で「美化」した感は否めないのではあります。

 ・・・



●「餃子中毒」問題から早くも「中」を取って「毒餃子」問題と表現する産経新聞

 一方昨日のニュース社会面は、中国工場製造のギョーザ食中毒事件一色でありましたね。

 読売新聞記事から。

JT「農薬とは思い至らなかった」…ギョーザ食中毒で会見

 ジェイティフーズの親会社のJTと、商品を販売した日本生活協同組合連合会(生協)は30日夕、東京都内で記者会見を開いた。

 冒頭、JTの岩井睦雄取締役が「多大なご迷惑をかけておわび申し上げます」と述べて陳謝。岩井取締役によると、国内に届いた商品のサンプルについて、細菌検査と試食は行っていたものの、農薬について調べる薬品検査は行っていないといい、中断をはさんで4時間以上に及んだ会見で、「農薬とは思い至らなかった」と弁明に終始した。ギョーザの原材料を対象にした薬品検査は中国の工場側が年に1、2回行っていたという。

 兵庫県の食中毒事故の後、回収措置を取れなかったのかと問われると、岩井取締役は5秒ほど沈黙して「(事案の概要を)調べるだけにとどまってしまった」と表情をこわばらせた。

 今後の対応についても「どういう形で防げるかをきちんと検討したい」と答えるにとどまった。

(2008年1月30日23時43分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080130-OYT1T00832.htm

 中断をはさんで4時間以上に及んだ会見で、「農薬とは思い至らなかった」と弁明に終始したJTの岩井睦雄取締役なのでありますが、他紙の関連報道も紹介。

 朝日新聞

「農薬、相当な高濃度」専門家指摘 ギョーザ中毒問題
http://www.asahi.com/national/update/0130/TKY200801300343.html

 毎日新聞

中国産ギョーザ:どこで殺虫剤混入? 中国での包装段階か
http://mainichi.jp/select/today/news/20080131k0000m040176000c.html

 日経新聞

中国製ギョーザに殺虫剤、10人中毒症状・JT子会社立ち入り
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20080131NT003Y67230012008.html

 まあ、各紙とも当然ですが中国産の冷凍食品ギョーザに殺虫剤が混入していたこの食中毒事件を詳細に扱っていますが、記事表現としては、「ギョーザ中毒問題」(朝日)とか「中国産ギョーザ問題」(毎日)とか、「ギョーザ食中毒問題」(読売)とかなのであります。

 いかなる理由があろうとも食品に殺虫剤が混入していたなどは、この国の食の安全を揺るがす大事件なわけであります。

 早急に原因究明をはかるとともに断固たる再発防止策を講じなければなりません。

 中国政府にも調査への協力と再発防止策を強く求めていくべきです。

 ・・・

 さて、本事件における産経新聞の記事見出しがまた興味深いのです。

毒ギョーザの対応におおわらわ 生協は購入者に電話連絡 
2008.1.31 09:02
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080131/crm0801310903008-n1.htm

 「毒ギョーザ」ですか、実にわかりやすい(苦笑

 産経の他の関連記事タイトルもこんな感じ。

毒餃子 JTの食品強化策に暗雲 加ト吉との統合にも影響か
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/080130/biz0801302253024-n1.htm

記者も食べていた! “毒入りギョーザ”に強い憤り
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080130/crm0801301857032-n1.htm

中国「調査中」、製造元「証拠があるのか」 日本、中国側に照会へ 毒餃子
http://sankei.jp.msn.com/world/china/080130/chn0801301812011-n1.htm

【毒ギョーザ会見(1)】「サンプル品には異常なかった」(17:00〜17:10)http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080130/crm0801301747024-n1.htm

 「毒餃子」とか「毒入りギョーザ」とか「毒ギョーザ会見」とか、他紙の報道に先んじて、原因の特定ができていない現段階で主要紙で唯一、産経はこの問題を「ギョーザ中毒」問題としてではなく一歩踏み込んだ表現「毒餃子」問題としているのであります。

 「餃子中毒」問題から早くも「中」を取って「毒餃子」問題としている産経なのであります(苦笑

 産経はよほど中国にお怒りなのでしょう、主要紙で唯一今日(31日)の社説にてこの問題を取り上げています。

【主張】中国製ギョーザ 究明と防止策を徹底せよ
http://sankei.jp.msn.com/column/1521/clm1521-t.htm

 社説ではだいたい中国からの輸入食品はこれまでもその安全性に大きな問題があったと指摘します。

  中国からの輸入食品では、これまでもウナギから抗菌剤が検出されたり、冷凍の枝豆からは除草剤が見つかったり、ホウレンソウから残留農薬が出てきたり−などと、その安全性が大きな問題になってきた。

 米国では中国産の原料を使ったペットフードを食べた犬や猫に異変が起き、パナマではせき止め薬を服用した患者が死亡する事件があった。米国では昨年来、中国産の原料を使用していないという意味の「チャイナフリー」と明記した商品も出ている。

 社説は中国のイメージダウンは計り知れないと結んでいます。

 北京オリンピックを控えた中国のイメージダウンは計り知れないものがあろう。信頼回復は容易ではないことを知るべきである。

 さすがに新聞の論説の看板である社説では、「毒餃子」とか「毒入りギョーザ」とかのセンセーショナルなレッテル付けは使用を避けているのは産経の「良心」なのでしょう、しかしながら中国に対する産経の不信感がよく顕れている産経社説なのであります。

 ・・・

 「つなぎ法案」を「ブリッジ法案」とおしゃれに横文字で表現したり、「餃子中毒」問題から早くも「中」を取って「毒餃子」問題と表現したり、とにかく他紙と比べるとプチお茶目な産経新聞の記事見出しなのであります。

 記事タイトルをプチッと加工して印象をプチ操作することなど、何も産経だけでなく、朝日や読売・毎日・日経だってしばしば行っているわけですが、このように他紙と読み比べてメディアリテラシーするとはじめてそのメディアの報道姿勢が浮き彫りになるのであります。

 そのプチお茶目な記事タイトルの付け方から、私たち読者はそのメディアの当該事件に対するスタンスを見抜くことができるのであります。

 ・・・



(木走まさみず)



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