木走日記

場末の時事評論

ちっともスマートじゃないとってもスイートな安倍外交〜国民への約束はどう説明するおつもりか?

●1年ぶり日朝公式協議、拉致問題で進展なし

 今日(13日)の読売新聞電子版速報記事から・・・

1年ぶり日朝公式協議、拉致問題で進展なし
拉致問題

 【北京=望月公一】6か国協議の日本首席代表を務める佐々江賢一郎外務省アジア大洋州局長は12日夕、北京の釣魚台国賓館で、北朝鮮首席代表の金桂寛外務次官と約1時間会談した。

 日朝が政府間で公式な会談を行うのは、昨年2月の日朝政府間協議以来、約1年ぶり。非公式な対話も含めると約10か月ぶり。拉致問題での具体的進展はなかった。

 対話の詳細は明らかになっていないが、佐々江氏は13日未明、北京市内のホテルで記者団に、「今回の6か国協議で焦点となっている問題と、日朝関係の今後の取り組みについて意見交換した」と語った。拉致、ミサイル、核といった諸問題を包括的に解決すべきだという日本の立場を改めて伝え、拉致問題に関する北朝鮮側の誠意ある対応を強く求めた模様だ。また、拉致問題の進展がなければ日本として直接的なエネルギー支援などはできないものの、間接的な支援は可能だとの立場を伝えたものと見られる。

 外務省筋によると金次官は「拉致問題の担当ではない」として、拉致問題をめぐる踏み込んだ話し合いは行われなかったという。

(2007年2月13日11時22分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20070213it02.htm?from=top

 やはりですね、約1年ぶり日朝公式協議でしたが、拉致問題ではまったく進展なしだったようであります。

 しかしおかしいのは、「拉致、ミサイル、核といった諸問題を包括的に解決すべきだという日本の立場を改めて伝え、拉致問題に関する北朝鮮側の誠意ある対応を強く求めた」のは当然だとして拉致問題の進展がなければ日本として直接的なエネルギー支援などはできないものの、間接的な支援は可能だとの立場を伝えた」とはどういうことでしょうか。

 いつから日本政府は「拉致問題の進展がな」くとも「間接的な支援は可能」などという立場になったのでしょうか。

 そういえば一昨日(11日)あたりから政府高官の発言が微妙な言い回しになってきてはいましたが・・・

 一昨日(11日)の朝日新聞記事から・・・

「核」進展なら間接協力も 麻生外相「やれる部分ある」

2007年02月11日19時03分

 麻生外相は11日、北京で開かれている6者協議で検討中の対北朝鮮エネルギー支援について「日本がやれる部分はある」と語り、核問題で進展があった場合に間接的に協力する可能性があることを認めた。都内で記者団に語った。

 麻生氏は、拉致問題で進展がなければ金銭的な協力には応じない日本政府の方針を改めて強調。エネルギー供給そのものについても「協力することは今の段階ではない」と否定した。

 その一方、「(寧辺(ヨンビョン)の核施設の稼働停止などの見返りとしての重油)50万トンが本当に要るのか。どこかに売ってお金にしていないかなど、調査などで人が足りない部分があるのは確かだ」と述べ、北朝鮮のエネルギー事情を探る調査など、支援の実効性を支える分野に限定した措置に加わる考えを示した。

 また、北朝鮮が200万トンの重油提供を要求しているとの報道については「私たちに来ている数字とは全然違う」と否定した。

 北朝鮮以外の5カ国の足並みの乱れが指摘されていることに対し、麻生氏は11日のテレビ朝日の番組で「孤立しているのは北朝鮮。日本と中国、米国との間で食い違いは全くない」と語った。

http://www.asahi.com/politics/update/0211/007.html

 「麻生氏は、拉致問題で進展がなければ金銭的な協力には応じない日本政府の方針を改めて強調。エネルギー供給そのものについても「協力することは今の段階ではない」と否定した。 」うえで「「調査などで人が足りない部分があるのは確かだ」と述べ、北朝鮮のエネルギー事情を探る調査など、支援の実効性を支える分野に限定した」措置に加わる考えを示したそうですが。

 これってどうなんでしょうか。



●どういうことなんだ?〜北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議で日本全面協調路線に変更か

 私は外交は日本の国益を守るために現実主義者としてしたたかにかつしなやかに振る舞うべきであるという考えを持っていますので、これまでの安倍外交の就任直後の電撃中韓歴訪をして小泉首相時代の靖国参拝問題等で冷え切っていた東アジア外交を一気に回復させた安倍首相の手腕は高く評価いたしております。

 これまでの自説をしまいこんで村山談話まで継承を国会の場で明言したときも、一部保守派から厳しく批判されましたが、私は現実主義者としての安倍首相の態度を強く支持してきました。

 今回の六カ国協議において中国が示した合意文書の最終案に対して、日本政府が受け入れ表明するようですがそれは評価したいと思います。

 私は安倍政権が、結果として拉致問題を後回ししてしまうことになっても、6カ国協議において現実的に国際協調路線を重視する妥協を計ること自体はよく理解しているつもりなのです。

 なぜなら、どこまで北朝鮮から核廃棄の具体的政策を担保できるのか、日本にとって一番重要な点で不安は否めませんが、少なくとも米国が北朝鮮との対話路線に外交方針を変更した時点で、現在の日本にとりよほどの覚悟がない限り一人強硬路線を維持することは選択肢としては難しかったのでありましょうから。

 時々刻々と変わる国際外交の場では時に原則論にとらわれず状況に応じた現実的対処が求められるのは当然のことであります。

 ・・・

 しかしです。

 今回の安倍政権の対北朝鮮外交方針転換は理解はしてますが、日本国総理大臣である安倍晋三という一人の政治家の発言と行動としては、私は保守派ではありませんが、さすがにちょっと格好悪いし、このようなことで保守派からの批判にどのように応えるのか、どうにも政治的読みが少し甘過ぎはしませんでしょうか。


 安倍首相が「拉致進展なければ北朝鮮支援せず」と繰り返し主張してきたのは衆知の事実ですし、首相官邸で記者団に「拉致問題の進展がなければ、日本としては(北朝鮮を)支援するわけにはいかない」と語っていたのも、つい5日前のことです。

拉致進展なければ北朝鮮支援せず…首相が意向
北朝鮮の核実験

 安倍首相は8日昼、6か国協議の再開に関連し、首相官邸で記者団に、「拉致問題の進展がなければ、日本としては(北朝鮮を)支援するわけにはいかない」と述べ、拉致問題で具体的成果がない限り、エネルギー支援などは行わない意向を重ねて強調した。

 塩崎官房長官は8日午前の記者会見で、「(北朝鮮が)非核化に向けて初期段階の行動をどう取るのか、きちんと合意することが大事だ」と語った。

(2007年2月8日13時35分 読売新聞) 
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070208ia02.htm

 舌の根が乾かないうちに、外相を通じて「やれる部分ある」などと詭弁的な軌道修正をほどこし、挙げ句の果ては「支援は他の5カ国による「均等分担」を原則」とした最終中国案を受け入れるというのです。

 今日(13日)の産経新聞電子版速報記事から・・・

中国が合意文書の最終案提示 「ほぼ合意」と韓国側

 【北京=有元隆志】北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議は13日未明、釣魚台迎賓館で各国の首席代表会合を開き、議長国・中国が合意文書の第2次草案を「最終案」として提示した。韓国側の説明によると、北朝鮮が核放棄に向けて取るべき初期段階措置と、見返りとなるエネルギー支援の規模でほぼ合意に達したという。支援は他の5カ国による「均等分担」を原則としている。13日午前の会合で各国が正式に合意すれば、合意文書は「共同声明」として発表される。

 12日は中国を中心に、各国の調整が行われ、協議は13日未明まで続いた。北朝鮮が13日午前の会合で、正式に提案を受け入れて合意文書が採択されれば、北朝鮮の核放棄をうたった2005年9月の共同声明の実現に向け、具体的な第一歩を踏みだすことになる。 

 北朝鮮は200万キロワットの電力など大規模な支援を要求したが、韓国の聯合ニュースによると、各国は重油50万トンを提供し、北朝鮮が核解体に向け追加措置を講じれば、支援規模を増やすことで調整している。

 最終案について、ヒル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は「問題ないと思う」と賛意の意向を示した。佐々江賢一郎外務省アジア大洋州局長は「すべてに満足することはあり得ない。真摯(しんし)に検討したい」と述べた。

 議長を務める武大偉中国外務次官は12日、自民党額賀福志郎・前防衛長官との会談で、北朝鮮寧辺の核施設の閉鎖と他の核施設のリスト提供に同意していることを明らかにした。武次官は(1)朝鮮半島の非核化(2)エネルギー・経済支援(3)北東アジアの安全保障(4)米朝国交正常化(5)日朝国交正常化−に関する5つの作業部会の設置でも合意したと説明した。

(2007/02/13 10:11)
http://www.sankei.co.jp/kokusai/china/070213/chn070213002.htm

 「見返りとなるエネルギー支援の規模でほぼ合意に達したという。支援は他の5カ国による「均等分担」を原則」としているそうですが、佐々江賢一郎外務省アジア大洋州局長は「すべてに満足することはあり得ない。真摯(しんし)に検討したい」と述べたそうですが、どうなんでしょうか。

 ・・・



●国民への約束はどう説明するおつもりか?〜ちっともスマートじゃないとってもスイートな安倍外交

 日本国政府の外交施策としてはこれでもやむを得ないということでしょう。

 しかし、拉致問題で原理原則を踏まえて妥協を許さない姿勢で保守派から評価されてきた日本国総理大臣安倍首相にとって、5日前までの強行論者から北朝鮮に妥協することへの自らの方針転換を国民に説明したと言えるのでしょうか。

 ・・・

 外交交渉は先に手の内を見せるなど愚の骨頂であります。

 その意味でポーズとして最後まで強硬路線を示しておきながら最終的に妥協を計るという外交戦略は有りでありましょう。

 だとすれば、少なくとも外交官や外相に代弁させるのではなく、自らの言葉でその責任で国民に説明すべきでしょう。

 自分の言葉で語らないからちっともスマートじゃないのです。

 とってもスイートな安倍外交なのです。

 これで今まで拉致問題解決のために彼を信じてきた人々が納得すると考えているとしたら、日本国総理大臣としていや一人の政治家として、世論を甘く見すぎてはいないでしょうか。

 これでは国民の目には、北朝鮮は核実験やり得で日本は馬鹿みたいに妥協しただけだと映りかねません。

 国民への約束はどう説明するおつもりか?


 ここのところの安倍首相は自らの言葉で国民に説明することを避けてばかりです。

 こんなことでは世論はますます安倍政権から離れていくことでしょう。



(木走まさみず)