小泉政権官邸HP10億円運用費問題:IT業者から見て疑問が残る随意契約の妥当性〜本当に一社しか有していない特別な技術が使用されていたのか?
不肖・木走の本業はIT関連業でございます。
事業の中でホームページの構築及び運用業務も大切なお仕事でありまして、いくつかの企業のネットビジネスサイトや団体ホームページの運用をお手伝いしております。
私のクライアントの中には、ご迷惑になるので政党名・個人名は伏せますが国会議員の方もいらっしゃいます。
一般に国会議員のサイトを運用(ホスティングサービスと言います)させていただくときには、業者として一番神経を使うのはやはりセキュリティ管理であり、二番目が公職選挙法に触れないように文面を整えることでありますね。
悪意ある第三者からの誹謗中傷やハッキング行為からサイトを守らなければなりませんし、不用意に選挙関連の応援テキストなどを載せると公選法に触れてしまうので更新されるコンテンツの内容にも十分に配慮しなければならないのです。
まあ失礼な言い方になりますが政治家のサイト運営はビジネス的には手間ばかり食ってしまってあまりオイシイ仕事ではない、というのが私の正直な感想であります(苦笑
さて、そんな感じでいちおうWebサイト構築と運用を本業としている木走にとって、今日はとっても気になるニュースが飛び込んで参りました。
●小泉政権官邸HP、5年の経費10億円・メルマガ8億円〜朝日新聞紙面記事から
今日(20日)の朝日新聞紙面記事から。
小泉政権官邸HP、5年の経費10億円・メルマガ8億円
2006年12月19日小泉政権の5年間で運営された首相官邸ホームページに約10億円、メールマガジンに約8億円の経費がそれぞれ支払われていたことが19日、政府が閣議決定した政府答弁書でわかった。タウンミーティング(TM)をめぐっても1回2000万円を超える法外な経費支出が指摘されており、政府の広報予算全般のあり方が問われそうだ。
社民党の保坂展人氏の質問主意書に答えた。それによると、官邸HPの制作・運営は「既に使用している設備やアプリケーション類との互換性を確保できるものが1社」しかないなどの理由で、01年度から05年度までほぼすべてが随意契約。支出額は01年度1億5000万円、02年度2億2000万円、03年度2億円、04年度1億9000万円、05年度2億3000万円。
小泉内閣メールマガジンも、多数の登録者に配信するためのソフトウエアの使用権を設定できる社が1社しかなかったとして、制作・運営を随意契約。01〜05年度の支出額はそれぞれ2億円、1億4000万円、1億5000万円、1億5000万円、1億4000万円だった。
http://www.asahi.com/digital/internet/TKY200612190408.html
社民党の保坂展人氏の質問主意書はご本人のブログにて確認できます。
失礼して抜粋。
「聖域なき構造改革」を掲げて五年五ヶ月、高支持率を誇った小泉内閣は「タウンミーティング」や「メールマガジン」などの手法で、国民との直接対話を重視する姿勢を打ち出した。ところが、衆議院教育基本法特別委員会で明らかになった内閣府と広告代理店との高額契約と請求明細の内容は、あまりに「代理店言い値通りの大盤振る舞い」であり、到底国民の納得を得るものではない。
はたして、タウンミーティングだけが「コスト意識」のかけらもない無軌道な運営がなされていたのか。この際、年間百億円を超える内閣官房・内閣広報室ならびに内閣府・政府広報室の契約・支出を中心に検証がなされる必要がある。「聖域なき構造改革」「改革政権」のイメージを流布した内閣官房・内閣府の広報予算が、「改革の対象外」「聖域」となっていたのではないかと疑い、国民の血税を預かる内閣・政府に真摯な答弁を求めたい。1、 公開されている落札者等の公示情報によると、「官邸ホームページの制作・運営」は、株式会社インターネットイニシアティブが随意契約で受注している。平成十三年度からの五年間、「官邸ホームページの政策・運営」のために、各年度ごとに同社への支払いはいくらだったのか。五年間で累計の支払い金額を示されたい。契約のすべてが、随意契約だったのか。公開入札を導入しない理由は何か。
二、「官邸ホームページの制作・運営」に費やされた経費は、前出のイ社以外に、セキュリティ・設備関係など他社への支払いも生じていると聞いている。平成十三年度から五年間のそれぞれの業者に各年度ごとにどれだけ支払ったのか。各業者との契約形態ならびに、その理由も示されたい。イ社以外の費用と、前出のイ社への支払いを合算すると、「官邸ホームページの制作・運営」にかかった総費用(過去五年間)はいくらだったのか。
三、「小泉内閣のメールマガジン制作・運営」についての経費についても伺いたい。落札者等の公示情報によると、株式会社ぷららネットワークスに随意契約で委託している。平成十三年度以降五年間、「メールマガジン制作・運営」に内閣は各年度ごとにいくら支払ったのか。五年間の総額経費はいくらか。また、随意契約となった理由、公開入札を導入しない理由を示されたい。
四、 政府広報室の手がける「新聞・雑誌広告」の平成十三年度から五年間の支出総額はいくらになるのか。過去五年間の支払額を見て、政府広報室と契約をした広告代理店の取扱額を上位三社のみ示されたい。また、広告出稿の場合は、ほとんどが入札による最低価格落札と聞いているが、随意契約となるのはどのような場合か。過去五年間の具体例と金額も明らかにされたい。
五、政府広報室の「政府広報オンラインの制作・運営」について、平成十三年度以降の各年度別費用・委託業者・契約形態を伺いたい。動画配信やモバイル携帯端末サイトへの広告配信など平成十七年度でこれら「事業雑費」として約五億円が支出されている。これらの各年度別費用・委託業者・契約形態を示されたい。政府広報室が出費した「政府広報オンライン」「動画配信」「モバイル携帯端末サービス」など IT広報費は平成十三年度以降、総額いくらだったか。
六、公開されている落札者等の公示を閲覧していると、平成十八年一月二十七日一億三八三三万七四四八円、同年二月十日一億二八五九万二九七五円、二月十四日二億五五六五万四二九四円、二月二四日一億二五二九万七五〇八円と多額の費用が『「構造改革の成果と挑戦」をテーマとする総合的かつ有機的な広報実施一式』を株式会社オリコムに、いずれも随意契約で委託している。「構造改革の成果と挑戦」と名づけられた総額六億四七八八万二二二五円の発注は、いったい何に費消されたのか明らかにされたい。
七、タウンミーティングの予算と執行のずさんさに批判が集中している。政府は、同事業の予算や開催のあり方を見直すのか。見直すのなら平成十四年度以降の入札時の予定価格と落札率を開示するべきだが、どうか。また、代理店への支払いが過大だと認められるとき、過払い請求をするのか。
八、以上、内閣官房広報室と政府広報室の公示された支出を検証してみた。安倍総理は就任後、公邸に入るにあたって邸内の手入れを行ったと伝えられているが、どのような内容の工事・作業を、いかなる契約形態と費用で行ったのか明らかにされたい。
右、質問する。
保坂展人のどこどこ日記
聖域なき「構造改革」の聖域は内閣・政府広報費 より抜粋
http://blog.goo.ne.jp/hosakanobuto/e/36c99b217fef54cf354548d387564fb8
それに対する政府の回答書は以下のPDFファイルにて確認できます。
内閣衆質一六五第二二三号
http://www.kiyomi.gr.jp/photo/toubensho.pdf
うーん、朝日新聞記事では「HP経費10億円・メルマガ8億円」となっていますが、政府回答書を読み解く限り、その他の諸経費を合わせると、ホームページ。メルマガ関連で5年間の総額は24億円強という数字になりますね。
・・・
単純計算すると、5年間で24億強の費用と言うことは、小泉首相時代の官邸HPとメルマガの年間保守・維持費用は1年当たり5億円弱と試算できましょう。
イニシャルコスト(初期投資)とランニングコスト(維持管理費)を含めての費用なのは承知していますが、単純に12ヶ月で割ると月当たり費用が4000万円ですか。
・・・
同業者としてどう評価するかって?
一言で言えば、うらやましいぞ株式会社インターネットイニシアティブ、て感じですか(苦笑)。
なかなかのオイシイ仕事だったんじゃないかな・・・
まあしかし、この金額をどう評価するのか、どのようなハード構成を構築しセキュリティ対策にどのような処置をとっているのかなど詳細を知らなければ同業者として無責任な評価はできませんが、感覚としては飛び抜けて高い運用費だとは一概に言えないのも事実です。
もっとお金を掛けてネットサイトを運用している民間会社もごろごろしていますし、問題はその金額に見合ったハード環境・ソフト環境がセキュリティ対策も含めて提供されていたのかどうかでしょう。
・・・
●疑問が残る随意契約の妥当性〜本当に一社しか有していない特別な技術が使用されていたのか?
しかしながら上記の政府回答書を読み解く限り、費用金額以外に気になる箇所があったのも事実ではあります。
それはこれらの決して安くはない公費を使った費用の大半が一般入札ではなく一社に絞った随意契約であったことです。
政府の回答書によればまずHPを委託したIIJ社と随意契約した理由はこうです。
首相官邸ホームページ用に既に使用している設備、アプリケーション類との互換性を確保することができる者が一社であり、会計法(昭和22年法律第35号)第29条の3第4項に規定する「契約の性質又は目的が競争を許さない場合」に該当するためである。
また、メールマガジンに関して株式会社ぷららネットワークスと随意契約した理由はこう記されています。
この契約を締結する際には、大規模な登録者数を想定したメールマガジンの配信等を可能とするソフトウエアの使用権を設定することができる者が一社であり、会計法第29条の3第4項に規定する「契約の性質又は目的が競争を許さない場合」に該当するためである。
この説明は一般の人が読んでもたいへん解りづらいと思いますが、私のようなホスティング業務を専門としている者が読んでも、実はよく意味がわからないのです(苦笑
まず、最初のIIJ社との契約ですが、「既に使用している設備、アプリケーション類との互換性を確保することができる者が一社」だけである理由がまったく解りません。
おそらくは既存のシステムの開発にIIJ社が絡んでいたことを指すのでしょうが、一般論で言わせていただければ、既存システムの開発業者がそれに絡む新システムの開発業者に指定される確率が高いのは当然であり納得なのです(当然仕様を良く理解しているので開発効率が新参者より良いでしょうから)が、だからといって「互換性を確保することができる者が一社」だけと言い切るのはよっぽどの独自技術を有してなければ使えない表現です。
そこのところの詳細がこの回答書だけではわからないですが、なぜ随意契約にしたのか理由説明がまったくなされていないのは残念なことです。
次にぷららネットワークスとの契約ですが、「大規模な登録者数を想定したメールマガジンの配信等を可能とするソフトウエアの使用権を設定することができる者が一社」だけと決めつけていますが、ここも理解できません。
たしかに小泉メルマガはピーク時に100万人を越えていたユーザーに配信していたわけで、実績からいってメルマガ配信では「ぷらら」が一番評価を得やすかったのでしょうし、それ自体は認めるのですが、「大規模な登録者数を想定したメールマガジンの配信等を可能とするソフトウエアの使用権を設定することができる者が一社」だけと言い切る根拠が私には見えてきません。
・・・
まさか業者側の「それが可能なのは弊社だけです」とかの説明をそのまま鵜呑みにして一社に絞っての随意契約にしたのではないでしょうが、それぞれの会社を一社に絞った評価を下したのははたして官邸側のIT専門スタッフなのでしょうか。
それぞれの契約した各社と随時契約した理由にはしっかりとした技術的理由があるのかも知れませんが、政府回答書を読み解く限り一社に限定した随時契約にした理由が見えてきません。
官邸HPを見ても小泉メルマガ(私もユーザーの一人でした(苦笑))を見ても、私には特に一社しか有していないような特別な技術が使用されているとは、少なくとも表面上はまったく見えてこないのです。
業者を競合させ金額を競わせる一般入札ならば、金額と内容を比較検討できますが、一般に一社に絞る随意契約する場合、その業者が提示してきた見積もり金額の妥当性・正当性を専門的に評価する能力を有する技術スタッフのチェックが不可欠であります。
残念ながらこの政府回答書からは、これらの契約を随意契約にした技術的妥当性と、さらに各費用金額を政府側がしっかり検証・評価したうえで契約したのかどうかが、見えてきません。
・・・
5年間で24億強という金額そのものの技術的妥当性と、なぜ随意契約だったのかは、真摯に情報開示していただきたいですね。
(木走まさみず)