木走日記

場末の時事評論

テポドンの大発射とともに日本の専守防衛は一気呵成(かせい)に沈んでいくんだ!(爆)〜ここはひとつクールダウンして冷静にいきましょう

●敵基地攻撃能力は必要〜額賀防衛庁長官・麻生外相・安倍官房長官武部幹事長、相次ぎ発言

 9日の産経記事から。

額賀・麻生両氏、敵基地攻撃能力は必要との立場

 額賀福志郎防衛庁長官は9日、記者団に対し、北朝鮮弾道ミサイル連続発射を踏まえ、現在自衛隊保有していない発射基地などへの敵基地攻撃能力について「独立国家として、一定の枠組みの中で、最低限のものを持つという考え方は当然だ」と述べ、憲法の範囲内で可能な装備を検討すべきだとの考えを示した。
 ただ「自民党、与党内での合意が必要だ」とも述べ、当面は自民、公明両党内の議論の進展を待つ意向を明らかにした。

 これに関連し麻生太郎外相は同日のNHK番組で「(核が)ミサイルにくっついて日本に向けられているのであれば、被害を受けるまで何もしないわけにいかない」と述べ、一定の条件の下で北朝鮮のミサイル基地攻撃は自衛権行使の範囲内との見解を示した。

 額賀氏は同日のフジテレビ番組で敵基地攻撃に関し「敵国が確実に日本を狙って攻撃的手段を持ち、ピストルの引き金に手をかけたようなときは、日本を守るため(攻撃の)判断が許されると解釈される」と述べた。

 敵基地攻撃に関しては最近では2003年1月の衆院予算委員会で、石破茂防衛庁長官(当時)が、日本攻撃の意思表明と準備行為があれば攻撃可能との認識を示している。

 また額賀氏は北朝鮮が5日に発射したのは、長距離弾道ミサイルテポドン2号」のほか、中距離の「ノドン」3発、短距離の「スカッド」3発だったとし、この中に新型スカッドも含まれていたとの見方を示した。

 (後略)

(07/09 15:45)
http://www.sankei.co.jp/news/060709/sei060.htm

 10日の朝日記事から。

安倍長官、敵基地攻撃「検討研究必要」
2006年07月10日12時30分

 安倍官房長官は10日の記者会見で、北朝鮮のミサイル発射を受けて議論されている敵基地攻撃について「誘導弾等による攻撃を防ぐために他に手段がないと認められる限りにおいて誘導弾等の基地をたたくことも法律上の問題としては自衛権の範囲内として可能との(国会)答弁がある。日本国民と国家を守るために何をすべきかという観点から、つねに検討研究を行うことは必要ではないか」と述べた。

 一方、麻生外相は9日のテレビ番組で、「向こう(北朝鮮)は『核は持っている』と言う。ミサイルは(核弾頭が)くっつく(=搭載できる)。(そのミサイルが)日本に向けられる場合、被害を受けるまで何もしないわけにはいかない」と述べた。明らかに日本を攻撃する意図があり、他に手段がないと認められる限り、敵基地攻撃は可能とする従来の政府見解を繰り返した。

http://www.asahi.com/politics/update/0710/004.html

 10日の産経記事から。

敵地攻撃能力「法整備あれば積極的に検討」 自民幹事長

 自民党武部勤幹事長は10日の記者会見で、額賀福志郎防衛庁長官がミサイル発射基地などへの敵基地攻撃能力保有を検討すべきだと発言したことについて「能力を持つにはさまざまな問題がある。国民によく説明責任を果たして、法整備などがあれば積極的に取り組むべきだ」と述べた。
 敵基地攻撃能力に関して「ミサイルを撃ち込まれるのが分かっていて、なすすべがないというのは許されない」と強調する一方、北朝鮮の軍事的な行動には「国際社会が自制を呼び掛ける必要がある」と指摘。「現実問題として日米安保が機能するようにしなければならない」と述べた。

 公明党神崎武法代表は敵基地攻撃能力の保有について、首相官邸で記者団に「基地を攻撃することになれば、全面戦争になる。慎重に検討すべきだ」と否定的な考えを示した。

(07/10 19:14)
http://www.sankei.co.jp/news/060710/sei063.htm

 敵基地攻撃能力は必要であり積極的に検討すべきであるという意見がこの一両日で、額賀防衛庁長官、麻生外相、安倍官房長官武部幹事長と一気呵成(かせい)に相次ぎ発言され出しました。

 少し用語を整理しておくと最初に取り上げた産経記事から。

【用語解説】敵基地攻撃能力

 弾道ミサイルの発射基地など敵基地を攻撃する装備能力。(1)敵基地の所在確認情報(2)敵の防空能力の無力化(3)十分な打撃力―が必要。日本は現在、専守防衛の立場から米軍の敵基地攻撃に依存している。政府は1956年、誘導弾攻撃など急迫不正の侵害で他に防御手段がない場合、「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは考えられない」として、必要最小限度で「誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ可能だ」との見解を出している。

 北朝鮮のミサイル連続発射という暴挙を受けて、日米政府は北朝鮮の六ヶ国協議復帰と国連制裁決議案の採決へと外交努力をしているわけですが、一方的な北のミサイル連射ショーを見せられて日本中が危機意識を強める中で、自衛隊のMD(ミサイル防衛)構想前倒し強化論とともに、敵基地攻撃能力は必要であり積極的に検討すべきであるという意見が出てくることも十分に予想されていたことではあります。

 そもそも自衛隊の米軍と連携したMD(ミサイル防衛)構想とは、イージス艦に搭載予定のSM3ミサイルと地上基地に配備予定のPAC3いわゆるパトリオットミサイルの2段階で敵弾道ミサイルを迎撃しようという構想なのでありますが、現時点では日本のイージス艦には一発のSM3ミサイルも配備されていないし、日本列島内の自衛隊基地には一発のパトリオットミサイルも配備されていないのであります。

 この点でTVの報道番組などで軍事評論家などが「残念ながら現時点ではノドンに対し日本は迎撃する手段を持たない」と発言したりしているのは、間違いはないでしょう。

 そもそもこのMD(ミサイル防衛)構想が完備(何を持って完備とするかはまた議論のあるところですが)されたところで現在の技術では飛来するミサイルの100%の迎撃を保証するモノでは全くないのです。

 費用対効果から言えばどこに跳んでくるかわからない弾道ミサイルを広範囲で高い費用を掛けて、しかも完璧に迎撃できる保証はない迎撃システムを用意するよりも、発射される前のミサイルをランチャーごと攻撃してしまえば話は早いわけです。

 ・・・

 しかしこの敵基地攻撃能力を自衛隊に付加するためには、当然ですが多くの法的・技術的・外交的問題をクリアしなければならないために、自衛隊制服組の間でも消極派が大半なのも有名な話であります。

 今日(10日)の毎日記事から。

北朝鮮ミサイル:「敵地攻撃能力」持つべきか…議論浮上

 (前略)

 政府は「専守防衛」を国是に防衛力整備を進め、自衛隊は「盾」であることに専念し、「矛」となる攻撃能力については米軍に頼ることを防衛政策の基本としてきた。自衛隊が敵地攻撃能力を持てば、この役割分担が見直される可能性もある。

 ただ、防衛庁内は「まずはミサイル防衛(MD)の対処能力を高めることに専念すべきだ」(幹部)などと慎重論が大勢だ。これまでも、水面下で巡航ミサイル「トマホーク」の導入など敵地攻撃能力の研究はしたが、実現は困難と判断してきた。04年に中期防衛力整備計画を策定した際には、長射程の精密誘導ミサイルの研究を始めることを提案したが、公明党を中心に強い反発を受け、断念した経緯がある。

 さらに、法律面の課題も残る。政府は56年、当時の鳩山一郎内閣が(1)我が国に対する急迫不正の侵害(2)他に手段がない場合(3)必要最小限度の措置−−の自衛権の発動要件を満たせば、「(敵国の)基地をたたくことは自衛の範囲で可能」との政府見解を出している。

 03年には石破茂防衛庁長官(当時)が衆院予算委員会で、北朝鮮のミサイル基地を念頭に「東京を火の海にしてやるという表明があり、(ミサイルに)燃料注入し始めたら(攻撃)着手」と答弁し、武力攻撃と見なす判断基準を示した。

 (後略)

毎日新聞 2006年7月10日 20時24分
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20060711k0000m010091000c.html

 何を持って武力攻撃と見なすのか判断基準ですが「東京を火の海にしてやるという表明があり、(ミサイルに)燃料注入し始めたら(攻撃)着手」(石破茂防衛庁長官(当時))だそうであります(苦笑)が、それはさておき「専守防衛」をモットーに国土防衛体制を主目的として兵器や組織を備えてきた自衛隊制服組にとって、この「敵地攻撃能力」は慎重論が大勢なのも事実なのであります。

 ・・・

 実は今不肖・木走はMD構想を中心に自衛隊制服組に取材中であります。

 私はMD構想に関してもこの敵地攻撃能力についての研究・議論も、神学論争に陥ることなく現実問題として国民的議論をすることには大賛成なのでありますが、今このように国民全体が熱くなって冷静さにかけるきらいがある時点でこの話題を一気呵成(かせい)に持ち出すのは賛成できません。

 クールダウンして冷戦に議論する必要があると思っています。

 この機をとらえて額賀福志郎防衛庁長官が敵地攻撃能力について発言するのは、まあ立場上理解はできますが、他の閣僚、特に不肖・木走の個人的には「偉大なるイエスマン」こと武部勤幹事長あたりが敵地攻撃能力の必要性をしったかぶって発言するのを聞くとムシズが走るのであります(苦笑



●「富士山の大噴火とともに日本は一気呵成(かせい)に沈んでいくんだ」〜「日本沈没」が33年ぶりにリメーク

 話は変わりますが・・・

日本沈没」リメーク 阪神大震災など踏まえ防災問いかけ
2006年07月10日

 70年代に650万人を動員したヒット作「日本沈没」が33年ぶりにリメークされ、15日から東宝系で上映される。阪神大震災スマトラ沖地震の脅威をもとに、最新の学説で日本沈没へのシナリオを描いた。「今、大地震が起こったら。防災は一人ひとりのイマジネーションから始まります」。製作者のメッセージが込められている。

 異変は駿河湾の大地震から始まる。被災地で少女を助けるハイパーレスキュー隊員(柴咲コウ)は、阪神大震災で両親を亡くしたとの設定だ。中高層ビルが途中の階で壊れる「中層破壊」も阪神の経験を踏まえた。全国各地を襲う地震や火山噴火のメカニズムは、最近の学説を引用した。

 作品を科学的に監修した一人は東大地震研究所の山岡耕春教授(47)。中学時代に旧作を見て科学への関心を持った。「100万年単位で起こる動きを1年の設定にしたのは大きなうそだが、細かいところでリアリティーを持たせた。阪神大震災をへて、災害が人に与える影響にも作品は焦点を当てている」という。

 「富士山の大噴火とともに日本は一気呵成(かせい)に沈んでいくんだ」。映画で研究者(豊川悦司)が予測する富士山。そのふもとの山梨県富士吉田市は5月、噴火に備えた避難マップを全戸配布した。

 80年代、気象庁の元職員が「富士山大爆発」の本を出し、観光業に風評被害が広がった。「あのころは『噴火』を口にすることはタブーだった」。同市防災対策課の真田喜久雄さんはそう振り返る。

 製作委員会の浜名一哉・TBSテレビ映像事業担当部長は「33年前に比べ、近年の国内外の自然災害を見れば、災害は明日起こるかもしれないと思える。国も我々一人ひとりも、いかに備えるかの警鐘の意味もこめた」と話している。

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200607100011.html

 おお小松左京原作の「日本沈没」が20億円の巨費を投じて33年ぶりにリメイクされるそうであります。

 ううむ、「全国各地を襲う地震や火山噴火のメカニズムは、最近の学説を引用した」そうでありまして、作品を科学的に監修した東大地震研究所の山岡耕春教授曰く「100万年単位で起こる動きを1年の設定にしたのは大きなうそだが、細かいところでリアリティーを持たせた」そうなのであります。

 映画の中で日本沈没を予言する研究者のセリフがまた決まっていますよね。

 「富士山の大噴火とともに日本は一気呵成(かせい)に沈んでいくんだ」

 映画製作者側の「今、大地震が起こったら。防災は一人ひとりのイマジネーションから始まります」というメッセージが込められた映画なのだそうです。

 製作委員会の浜名一哉・TBSテレビ映像事業担当部長の「33年前に比べ、近年の国内外の自然災害を見れば、災害は明日起こるかもしれないと思える。国も我々一人ひとりも、いかに備えるかの警鐘の意味もこめた」そうであります。

 ・・・

 「富士山の大噴火とともに日本は一気呵成(かせい)に沈んでいくんだ」

 「今、大地震が起こったら。防災は一人ひとりのイマジネーションから始まります」

 「33年前に比べ、近年の国内外の自然災害を見れば、災害は明日起こるかもしれないと思える。国も我々一人ひとりも、いかに備えるかの警鐘の意味もこめた」

 ・・・

  なんだかなあ、なんてタイムリーなキャッチコピーなんでしょうねえ(苦笑)

 ・・・

 「富士山」をちょっと「テポドン」に置き換えてみましょうか(爆)

 「テポドンの大発射とともに日本の専守防衛は一気呵成(かせい)に沈んでいくんだ」

 「今、大ミサイル攻撃が起こったら。防衛は一人ひとりのイマジネーションから始まります」

 「近年の北朝鮮のミサイル試射を見れば、攻撃は明日起こるかもしれないと思える。国も我々一人ひとりも、いかに備えるかの警鐘の意味もこめた」

 ね、今の雰囲気にぴったりでしょう(苦笑

 ・・・

 ここはひとつクールダウンして冷静にいきましょう。

 特に武部勤君はよく知りもしないことをえらそうに口に出さないようにしましょうね(爆)



(木走まさみず)