木走日記

場末の時事評論

アムネスティが名指しで批判した4国から米国だけ伏せて報道する読売記事の不思議

kibashiri2006-04-20




●昨年の死刑執行、世界で2148人…8割は中国

 今日の読売新聞から・・・

昨年の死刑執行、世界で2148人…8割は中国

 【ロンドン支局】国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(本部・ロンドン)は20日、2005年に世界22か国で計2148人の死刑が執行され、その約8割にあたる約1770人の死刑が中国で執行されたとの調査結果を発表した。

 中国では脱税など68の罪で最高刑が死刑となっており、比較的軽微な罪でも死刑が適用されることがある、と指摘している。

 中国に次いで多かったのはイランの94人、サウジアラビアの86人などとなっている。

(2006年4月20日13時32分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20060420i306.htm

 うーん、いかに世界最多の人口13億人を有しているとはいえ、昨年だけで約1770人の死刑が中国一国で執行されたわけですが、数字自体もすごいですが世界の死刑執行の8割が中国が占めているとは驚きました

 なんでこんなに中国が突出しているのでしょうか。

 また「中国に次いで多かったのはイランの94人、サウジアラビアの86人などとなっている」そうですが、それ以外の諸外国はどのような状況なのでしょうか。

 このニュースとても関心を持ちました。

 今日はこのアムネスティ・インターナショナルのリポートを徹底検証してみましょう。



●中国、サウジアラビア、イラン、アメリカの4国を繰り返し批判するアムネスティ・インターナショナルリポート

 アムネスティ・インターナショナルのサイトはこちらです。

amnesty international
http://www.amnesty.org/

 読売新聞に取り上げられたレポートはこの"The Death Penalty in 2005"であります。

The Death Penalty in 2005
http://web.amnesty.org/pages/deathpenalty-stats2005-eng#

 ご紹介しておきましょう。

The Death Penalty in 2005

2005年の死刑

In 2005
at least 2,148 people were executed in 22 countries
94% of them were killed in China,, Iran, Saudi Arabia and the USA
An additional 5,186 people were sentenced to death
However, despite the shocking figures, the trend towards abolition continues to grow: the number of countries carrying out executions has dropped for a fourth consecutive year; over the last twenty years, numbers have halved. Mexico and Liberia have most recently abolished the death penalty.

 2005年に
 少なくとも2,148人の人々が22ヶ国で処刑された。
 彼等の94%は中国、イラン、サウジアラビア、および米国で殺された。
 新たに5,186人の人々に死刑が宣告された。
 とわいえ、ショッキングな数字にもかかわらず、撤廃に向かった傾向は以下の通り勢いを増し続けている。
 処刑を実行する国の数は4年連続で低下し、この20年間で、この数は半減した。メキシコとリベリアはごく最近、死刑を撤廃した。

"As the world continues to turn away from the use of the death penalty, it is a glaring anomaly that China, Saudi Arabia, Iran and the USA stand out for their extreme use of this form of punishment as the 'top' executioners in the world." - Irene Khan, AI Secretary General.

 「全世界が死刑執行を取りやめ続けている間、中国、サウジアラビア、イラン、アメリカが、世界の中の『トップ』の死刑執行人達としてこの刑罰形式(死刑)を乱用して目立っていることは、まったくもって異常なことです。」(アイリーンカーンAI(アムネスティ・インターナショナル)事務総長談)

There are also more than 20,000 people on death row waiting to be killed by their own governments.

また、2万人以上の彼等の政府によって殺されるのを監房で待っている死刑囚がる。

The figures we have are approximate: many governments, like China, refuse to publish full official statistics on executions, while Viet Nam has even classified statistics and reporting on the death penalty as a ‘state secret’.

私たちが持っている数字はおおよその数である。中国のように多くの政府が、死刑執行における正確な公式の統計を発表するのを拒否している、ベトナムなどは死刑の統計と報告を『国家機密』に分類してさえいるのだ。

The death penalty is the ultimate, irreversible denial of human rights. It is often applied in a discriminatory manner, follows unfair trials or is applied for political reasons. It can be an irreversible error when there is miscarriage of justice. AI will continue to campaign until the death penalty is abolished worldwide.

死刑は人権に対する究極かつ取り返しのつかない否定行為である。 それは、差別としてしばしば適用されたり、不公平な裁判に依ったり、または政治上の理由でも適用されている。 誤審があるならば、それは取り返しのつかない誤りであるかもしれない。AI(アムネスティ・インターナショナル)は、死刑が世界中で撤廃されるまで運動し続けるであろう。

(訳:木走まさみず)

 さらに細かく検証するために、このレポートから各国の死刑執行数と宣告数をワースト順に表にしてみました。

【2005年の国別死刑執行数と宣告数(ワースト順)】

  国名 執行数 宣告数
01 China 1770 3900
02 Iran 94 21
03 Saudi Arabia 86 1
04 USA 60 106
05 Pakistan 31 241
06 Yemen 24 0
07 Viet Nam 21 65
08 Jordan 11 11
09 Mongolia 8 27
10 Singapore 8 0
11 Kuwait 7 15
12 Libya 6 0
13 Palestinian Authority 5 0
14 Bangladesh 3 218
15 Iraq 3 50
16 Taiwan 3 17
17 Indonesia 2 10
18 Uzbekistan 2 7
19 Japan 1 11
20 Somalia 1 10
21 North Korea 1 1
22 Belarus 1 0

 うーん、やはり上位4国の執行数は多いですね、この4国だけで94%を占めるわけです。

 中でも突出している中国に関してはサイドレポートがありますので合わせてご紹介いたしましょう。

The Death Penalty in 2005: China
In China - the country that accounts for around 80% of all executions - a person can be sentenced and executed for as many as 68 crimes, including non-violent crimes such as tax fraud, embezzlement and drug offences. 1,770 executions were reportedly carried out in China during 2005. However, a Chinese legal expert was recently quoted as stating the true figure for executions is more like 8,000.

2005年の死刑: 中国
中国(すべての死刑執行のおよそ80%を占める国)では、68の犯罪で最高刑として死刑が可能であり、税金詐欺や公金着服や麻薬取引などの非暴力の犯罪が含まれている。 伝えられるところによれば、1,770の死刑が2005年に中国で執行された。 とはいえ、正確な死刑執行の数字はさらに8,000に近いかもしれないと中国人の法律専門家は、最近、言及している。

 読売記事が「中国では脱税など68の罪で最高刑が死刑となっており、比較的軽微な罪でも死刑が適用されることがある、と指摘している。」と説明していた箇所です。

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アムネスティレポートが名指しで批判した4国から米国だけ伏せて報道する読売記事

 それにしてもこれらの国は死刑制度でもって治安を維持する必要があるほど、国内の治安に問題を抱えているわけですが、興味深いのは、中国の突出した数字にも驚かされますが、中国や中近東のサウジアラビアやイランに並んで、先進国アメリカの名前が上がっていることです。

 ワースト4の中国、サウジアラビア、イラン、アメリカに対しては、アムネスティレポートでは名指しで「この4国で94%を占めている」とし、繰り返し「世界の中の『トップ』の死刑執行人達」と批判しているのであります。

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 ところで、何故読売記事ではアメリカの国名が載っていないのでしょうか。

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 細かい指摘かも知れませんが、日本のマスメディアの欠点の一つは、今回の記事のように海外のレポートの要約報道するときに意味不明の偏向意訳がなされることであります。
 アメリカの国名を記事に入れても、別に中国の突出した割合には何もそのインパクトの大きさには変わりもないでしょうに・・・

 これも読売お得意のプチ親米報道ということなのでしょうか(苦笑

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 不思議な報道ですネ。



(木走まさみず)