木走日記

場末の時事評論

問ひたまうこそこひしけれ〜産経が朝日を想いて詠める詩(うた)

問題:以下のA、S、Kに適当に固有名詞を入れて会話を味わいなさい(爆笑)

Aくん「事実を踏まえ論じようよ」

左側の聴衆(パチパチパチ、まったくだ、そのとおり!)

Sくん「Aくん、論点すり替えはやめようよ」

右側の聴衆(パチパチパチ、異議なーし、すり替えちゃだめでしょ!)

Kくん「どうでもいいけどSくんって本当はAくんのこと好きなんでしょ?」

全聴衆(ドヨメキ)

ある聴衆(おい、Kくん、そういうお前こそ、実はSくんのこと好きなんじゃないのか?)

全聴衆(爆笑)

Kくん「・・・(大汗」

●侵略と進出 事実を踏まえ論じよう〜朝日社説

 昨日(4日)の朝日社説から・・・

侵略と進出 事実を踏まえ論じよう

 中国との外交などをテーマにした日曜日のテレビ番組で、安倍官房長官が82年の「教科書書き換え問題」について発言した。次のような趣旨である。

 教科書検定によって「侵略」を「進出」に改めたと報じられ、中国や韓国から抗議された。日本は官房長官談話で事実上それを認め、謝罪した。しかし、「進出」と書き換えられた事実はなかった。ちゃんと調べて説明すればよかった。結果として大変な誤りを犯してしまった――。

 政府のスポークスマンの発言である。検定で「侵略」という言葉を書き換えさせたことはまったくなかったと受けとめた人が多いのではないか。

 また当時の政府は事実を調べもしないまま、官房長官談話を出して中国などに謝った。そう思った人もいるだろう。

 しかし、いずれも事実とは異なる。

 教科書の書き換えが問題になったのは24年前だ。若い人は知らないし、記憶が薄れた人も多いだろう。そんな中で、事実の一部だけを取り上げ、当時の政府判断を誤りと決めつけるような発言がそのまま独り歩きしては困る。これを機に、事実のおさらいをしておきたい。

 82年6月、高校の教科書について検定結果が報道された。朝日新聞を含め多くの新聞や放送が、「華北を侵略」という記述が検定によって「華北に進出」に変えられたなどと伝えた。

 ところが、その後、「華北に進出」という表現は検定前から書かれていたことがわかった。その限りでは、安倍氏の指摘した事実はある。当時のずさんな取材を率直に反省したい。

 では、「侵略」という言葉がすんなり検定を通るような状況だったかといえば、そうではない。中国との関係に限っても「侵略」の言葉を削られたり、「侵入」に変えさせられたりする変更が計4カ所あった。東南アジアについては「侵略」を「進出」に変えた例もあった。

 それ以前の検定では、中国との関係で「侵略」を「進出」に書き換えさせられたこともあった。

 82年の検定では、韓国も独立運動などの記述をめぐって訂正を求めた。

 文部省幹部らが中国へ派遣され、自民党三塚博森喜朗両氏は韓国を訪れて説明した。この後、宮沢喜一官房長官が検定のあり方を改める談話を出した。

 「華北に進出」と書き換えられた事実はなかったが、ほかの例や過去の検定を見れば、同じような問題がある。そう判断したからこそ、政府は官房長官談話を出したのだろう。

 これを受けて、検定基準に「近隣諸国条項」が加えられた。アジア諸国との歴史的な関係に配慮するというものだ。

 歴史への反省を踏まえた当時の官房長官談話を否定するかのような、現在の官房長官の発言は、政府の姿勢に疑念を抱かせかねない。テレビでの発言が意を尽くしていないのならば、改めて言葉を補った方がよくはないか。

http://www.asahi.com/paper/editorial20060404.html

 ・・・



●安倍発言批判 論点すり替えはやめよう〜産経社説

 本日(5日)の産経社説から・・・

■【主張】安倍発言批判 論点すり替えはやめよう

 安倍晋三官房長官は二日の民放テレビ番組で、対中外交に関連し、二十四年前の教科書検定問題に言及した。この発言を一部マスコミが問題視している。

 安倍氏の発言は「検定によって華北への『侵略』が『進出』に書き換えられたと報道され、中韓両国から抗議を受けた。当時の官房長官談話で謝罪したが、そのような書き換えの事実はなく、結果として、大変な誤りを犯した」という趣旨だ。

 あえて補足すれば、これは日本の全マスコミが一斉に誤報した事件で、産経以外のマスコミは今もって、きちんと訂正していない。また、当時の官房長官宮沢喜一氏で、この宮沢談話に基づく「近隣諸国条項」が検定基準に加えられ、中韓両国に過度に配慮した記述が増える一因になっている。

 安倍氏が指摘した教科書書き換え問題は、政府やマスコミがこれからの近隣外交を考えるうえで、多くの反省点を含んでいる。そもそも、宮沢談話は誤報に基づいて発表されたもので、見直しは当然だ。この問題を改めて提起した安倍氏の発言を評価したい。

 これに対し、朝日新聞は四日付社説「事実を踏まえ論じよう」で、安倍氏の発言を取り上げ、「当時のずさんな取材を率直に反省したい」としつつ、一方で「事実の一部だけを取り上げ、当時の政府判断を誤りと決めつけるような発言がそのまま独り歩きしては困る」と安倍氏を批判した。

 朝日はその理由として、「東南アジアについては『侵略』を『進出』に変えた例もあった」「それ以前の検定では、中国との関係で『侵略』を『進出』に書き換えさせられた」などの事例を挙げ、「ほかの例や過去の検定を見れば、同じような問題がある」「現在の官房長官の発言は、政府の姿勢に疑念を抱かせかねない」とした。

 しかし、これでは、せっかくの朝日の反省を帳消しにしてしまいかねないほどの論点のすり替えである。当時、問題にされたのは日本の中国への「侵略」が「進出」に書き換えられたとする報道であり、東南アジアについての記述やそれ以前の検定は、問題になっていない。

 安倍氏も対中外交の問題として、この教科書誤報事件を取り上げた。朝日こそ事実を踏まえて論じるべきだ。

http://www.sankei.co.jp/news/editoria.htm

 ・・・

 ふう。

 この朝日と産経の掛け合い漫才のような仲のいい(?)社説の応酬、いったい今までに何回当ブログで取り上げましたかねえ?

 どうにもこうにも、この社説の掛け合い、読者のみなさんももういいかげん見飽きちゃったんじゃないでしょうか。

 掛け合いのパターンもだいたい毎回おんなじで、まず朝日が社説でボケをかましてそれをすぐさま産経が社説で「なんでやねん!」ってツッコミを入れるわけですね(苦笑)

 今回だって朝日社説タイトルの「事実を踏まえ論じよう」という呼びかけに、勝手に産経社説がタイトルでこたえちゃって「論点すり替えはやめよう」と呼びかけ返しちゃうんですよね(爆

 しかしなあ、どんなに上手な漫才でも毎回同じパターンだと観客に飽きられてしまうわけでして、ましてや朝日にしろ産経にしろお世辞にもおもしろい社説とは言えないのであって、そろそろパターンを変えてみたらどうでしょうかねえ。

 ・・・

 しかしなあ、朝日も産経もほんとに仲がいいというか、この手の話題が好きなんですねえ。

 特に産経は朝日の発言が気になってしょうがないみたいなのですが、昔から好きな子に心とは裏腹についいじわるしちゃうのは純粋な幼子によく見られる行動なのですよね。

 うん、わかりますよ、わかる、わかる。

 不肖・木走もマスメディアが気になって気になってしょうがないから、いつもとんちんかんなメディア批判しては物議をかもしちゃったりしてるわけなんです。

 これはもう、ひとつのプラトニックな恋心に近いのかも知れませんね(苦笑

 ・・・



島崎藤村の「初恋」〜「若菜集」より

 幼子の恋心を唱った詩と言えば、やっぱり島崎藤村の「初恋」が秀逸ですよね。

  初恋


まだあげ初めし前髪の

林檎のもとに見えしとき

前にさしたる花櫛(はなぐし)の

花ある君と思ひけり



やさしく白き手をのべて

林檎をわれにあたへしは

薄 紅の秋の実に

人こひ初めしはじめなり



わがこゝろなきためいきの

その髪の毛にかゝるとき

たのしき恋の盃を

君が情に酌みしかな



林檎畠の樹の下に

おのづからなる細道は

誰が踏みそめしかたみぞと

問ひたまうこそこひしけれ



島崎藤村 「若菜集」より

 何度読み返してもいい詩だなあ、不肖・木走は個人的には詩心のカケラもない無粋な男(え?そんなこたあ百も承知だ?失礼しました(苦笑))ですが、この「初恋」は、なんというかとっても、恋する心のせつなさ、そして初めての恋に対するいとおしさみたいなものが感じられていいですよねえ・・・

 私が特に気に入ってるのは最後の結びのところ

林檎畠の樹の下に

おのづからなる細道は

誰が踏みそめしかたみぞと

問ひたまうこそこひしけれ

 リンコ畑の細道を見ていれば、昔この道を歩いていた「君」のことを思い出してしまい「この道はかつて誰が歩いていたのか」と考えるだけで、せつなく恋しくなっちゃうってことですよね。

 うーん、ここ絶妙ですねえ、さすが藤村ってかんじです。



●木走まさみずの「初恋」〜「ばかな集」より

 よーし、産経に成り代わり朝日を思って恋心を詩(うた)にしてみましょう。

産経が朝日を想いて詠める詩(うた)

  初恋

また書き上げし「侵略」の

文字を朝日に読みしとき

前にしくじる誤報取材

ミスある君と思ひけり



うるさく論点すり替えて

詭弁をわれにあたへしは

電波まじりの論説に

人こひ初めしはじめなり



わがこゝろなき反論の

その論説をよめるとき

たのしき社説の掛け合いを

君が情に酌みしかな



言論自由の樹の下に

おのづからなる「侵略」は

誰が書きそめし社説ぞと

問ひたまうこそこひしけれ



木走まさみず 「ばかな集」より

 おそまつ様でした(汗



(木走まさみず)



<関連テキスト>
●朝日社説と産経社説〜君たちは実は好き合ってるんじゃないのか?
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051028/1130469975