木走日記

場末の時事評論

恐怖のミッドナイト・バトル〜体も精神も弛緩仕切っている時にヤツが来た

●恐怖のミッドナイト・バトル

 体も精神も弛緩仕切っている時にヤツが来た。

 それは完全に不意打ちであった。

 ◇

 私は自他共に認める仕事熱心な男である。

 東京近郊の私鉄沿線の駅近くの雑居ビルの5階に事務所を構えている。

 仕事はIT関連だ。朝から晩までパソコンの前でキーボードを叩いている。

 納期が迫っているときなど一週間連続で徹夜することもある。

 事務所の隅にはちょっとしたパーテーションで仕切ったサーバー室(部屋になっていないが私はそう呼んでいる)があり、そこに簡易ベッドと毛布があり、事務所で寝込むときの私の寝床になっている。

 ◇

 一週間ほど前のことである。

 いつものように午前2時すぎまでパソコンの前でキーボードを叩いていた私は、時計を見てそろそろ今日は寝ておいた方がいいなと考えた。

 明日は久しぶりに某学校の講師として朝9時から講義が待っていた。夏休み明けの講義というものは学生もつらいモノだが、教える方もつらいのだ。

 なんせ、7月の最後の講義内容などすっかり忘れてしまっているのである。

 さあ、講義ノートを読み返し少し明日の講義準備でもしながら、寝酒がてら寝るとしよう。

 私はいつものように給湯室の冷蔵庫から缶ビールを2本取り出し、事務所のサーバー室にある簡易ベッドに体を横たえた。

 枕元にあるポータブルTVのスウィッチを入れチャンネルをNHK教育に切り替え(これはもう完全にBGM代わりである)、、

缶ビールのセンを抜き、いっきに半分ぐらいまで飲み干す・・・

 ふう。

 心も体も弛緩していくのがわかる。

 私は汚い字でぐちゃぐちゃに書かれている大学ノートを取り出し、明日講義する予定の内容について目で追いながら、缶ビールをちびりちびりと飲む。

 二本目の缶ビールを飲み干す前に私は眠りこけてしまったようだ。

 ◇

 カサカサカサという音でふいに目が覚める。

 何時かわからない、窓の外はまだ真っ暗だから、3時か4時か・・・

 番組が終わったポータブルTVからはザーというノイズだけ聞こえてくる。

 カサカサ

 また、聞こえた。

 何の音?

 私は我に返り、ベッドから上半身だけ身を起こし、耳をそばだてる。

 カサ

 私の左耳がその音をキャッチした!

 かなり近くだ。

 おそらくこのベッドの上・・・

 私は音のする方、私の枕元左側を凝視した。

 そこには寝る前まで私が読んでいた汚い大学ノートが開いていた。

 そして、その上にヤツがいた。

 ◇

 私が寝る前に飲んでいた缶ビールが大学ノートのそばにたおれており、大した量ではないが大学ノートにこぼれていた。

 ヤツはそのこぼれたビールを飲んでいた。

 ・・・

 私は体から血の気が引くのを感じていた。

 「ウウギャーッ」

 大声を上げ私はベッドから飛び退いた。

 なぜ、この事務所にヤツがいるのだ?

 何か武器になるものはないか、私は回りを見回した。

 サーバ関係のリファレンス本とかが煩雑に積まれているだけでこれといって武器になりそうなモノはない。

 ヤツも私の動揺を見据えたかのようにこちらの様子をうかがっている。

 ヤバイ

 飛ばれたらマズイ

 私は混乱する頭で危機を感じていた。

 ◇

 ヤツから少し引き下がりながら身構えていると、私の足が何かにさわった。

 寝る前に私が脱いでいた靴だ。

 ・・・

 よし、これしかない。

 私は私のよれよれの黒い革靴を手にすると、ヤツとのまわいを少しづづ

 つめていく。

 全身から滝のように汗が出ている。

 勝機は一回だけだ。

 飛ばれたら負けだ。

 ・・・

 十分に距離を詰めた私は、渾身の力で私の靴をヤツにたたきつけた。

 どうだ、しとめたか?

 ヤツは胴体を強打したらしいが、死んではいなかった。

 カサカサと嫌な音をたて、ぐるぐる左旋回を繰り返していた。

 私は再度靴を持ち直し、トドメの一撃をくらわせた。

 ・・・

 ヤツの足先が小刻みに痙攣している。

 今度は致命傷を負わせることができた。

 こうして、恐怖のミッドナイト・バトルは終わったのである。

(おしまい)



●今思い出してもブルブルブルブル

 お楽しみいただけましたでしょうか?
 はい、お察しの通りヤツとはゴキブリさんでございます。
 体長6〜7センチはあろうかという黒光りした大物でございました。
 いや、今思い出してもブルブルブルブルでございます。

 読者のみなさまもこういう恐怖経験ありますでしょう。

 人間不意を襲われると本当に小さなゴキちゃんでも心臓が止まるぐらい驚かされるのですよね。(苦笑)

 余談ですが、講義ノートのそのページは気持ち悪いのでやぶいて捨ててしまいました。

 しかしなあ、この事務所に移転してきて2年になりますが、一匹も見かけたこともなかったのにどこから来たのか、いまだに不明なのです。

 それ以来、不肖・木走の簡易ベッドの四隅にはゴキブリホイホイがしっかりと設置されたのでございます。
 さらに枕元にはゴキジェットをいつでも手に届くようにしております。

 サマーワ自衛隊もビックリの厳重装備であります。(爆笑)

 今日はサスペンスタッチの与太話でございました。



(木走まさみず)