木走日記

場末の時事評論

ネットと公職選挙法報道に見る日本メディアの閉鎖的体質

 以下のエントリーの追記です。

ライブドアのバカなブログ言論統制について、みなさま教えて下さい。
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050830/1125401873
●ブログと文春と公職選挙法報道の自由について考察する
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050903/1125744723

 総選挙報道一色でマスメディアにほとんど扱われていないこの問題でありますが、当ブログとしては、徹底的に検証・考察したいと思います。



●ネット利用で神経戦 自民、民主両党

 9月2日付け毎日新聞から・・・

衆院選:ネット利用で神経戦 自民、民主両党

 衆院選の公示後、自民、民主両党がインターネットを使ったライバルの動きに神経質になっている。自民党が「民主党は公示後もメールマガジンの発行を続けている」とクレームを付けると、民主党も「自民党だって補選や東京都議選中に選挙記事を載せていた」と反論するという具合だ。双方ともネットの影響力を重視しているためで、選挙後は「ネット選挙」の解禁を求める声が一層強まりそうだ。

 8月30日以降、各政党や候補者のホームページ(HP)、メールマガジン、ブログ(日記風サイト)はほぼ停止している。現行の公職選挙法が公示後のHP更新やメルマガの配信を「文書図画」の頒布と同様に禁じているためだ。

 自民党もネットの力を無視できなくなってきた。公示前の8月25日、同党の武部勤幹事長は党本部でメルマガやブログの作者と懇談会を開き、「今回はブログが普及して初の選挙だ。皆さんと連携してやっていきたい」とラブコールを送った。

 その一方でライバルの動きに目を光らせる。同党の世耕弘成幹事長補佐は1日、記者会見で「民主党は公示後もHPを更新したり、メルマガを配信している。公選法に抵触する」と批判。実際に民主党は公示当日に岡田克也代表の第一声などを党HPに掲載したが、総務省の指摘で削除した。ただ、民主党は「総務省は過去の選挙で同様の行為に何も指摘してこなかった」と反発し、同省に公開質問状を送りつけた。

 ブログ専門の検索サービス会社「テクノラティジャパン」(東京)によると、「郵政民営化」という言葉を含む発言は8月15〜31日の半月だけで2万件以上増えて累計5万5000件に。公示後も更新ペースは衰えず、利用者の選挙への関心の高さをうかがわせている。【松尾良】

毎日新聞 2005年9月2日 12時33分
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/senkyo/news/20050902k0000e010068000c.html

 衆院選が公示された8月30日夕方、民主党のWebサイトの更新内容が突如削除されました。「公職選挙法に抵触する疑いがある」と総務省に指摘されたためです。
 自民党は、民主党が公示日以降もサイト更新やメルマガ配信していたことが公選法違反だと批判します。民主党も負けじと、過去の選挙で自民党がサイトを更新していた、などと指摘し、上記記事のような泥仕合となったわけです。

 公職選挙法に振り回されているのは、政党サイトだけではありません。
 社長が衆院選に出馬したライブドアは、同社ニュースで選挙関連ニュースの扱いを縮小し、かつ、立候補決定後は、名物の社長ブログも更新を停止しました。。

 「livedoor Blog」は、一般ユーザーに対しても「選挙運動に当たる書き込みは削除する可能性がある」とトップページで告知しました。ブログ各社も選挙運動の禁止を規約に盛り込んでいます。

初の「ブログ選挙」とライブドアの言論規制
http://www.janjan.jp/media/0508/0508251463/1.php

 つまり一般ブログユーザーも、選挙運動に当たる書き込みは禁止されているわけで、
上記記事に「公示前の8月25日、自民党武部勤幹事長は党本部でメルマガやブログの作者と懇談会を開き、「今回はブログが普及して初の選挙だ。皆さんと連携してやっていきたい」とラブコールを送った」とありますが、「皆さんと連携してやっていきたい」など、現在の日本の法律上はまったく不可能なわけであります。



●一般ユーザーも巻き込む公職選挙法の制限

 ネットで選挙運動ができない根拠は、公選法142条にあります。「選挙運動のために使用する文書図画は、はがきやビラ以外頒布できない」と規定されているのです。総務省は、Webサイトやメールが「文書図画」にあたると解釈してきました。サイトやメールを使った「選挙運動」は、候補者も第3者も行ってはいけないことになっているわけです。

 ここで問題になるのは「選挙運動」とは何を指すのだろうか、また、どこまでの対象者を法の適用範囲とするのか、という2点です。

 東京都選挙管理委員会によると、「選挙運動」とは「特定の選挙で、特定の候補者を当選させることや落選させることを目的に、投票行為を勧めること」であるとしています。 そうすると、その行為者は全て違法とされるわけで、候補者本人や政党サイトだけでなく、第三者のホームページやブログにも公職選挙法の対象となってしまうわけです。

東京都選挙管理委員会
選挙Q&A(目次)> 選挙Q&A(選挙運動と政治活動 )
http://www.senkyo.metro.tokyo.jp/qa/qa03.html

 私が東京都選挙管理委員会で電話で確認した限り、担当者からたとえ第三者であろうとも話題として取り上げるだけでも選挙活動として見なされる可能性があるという説明をもらっています。

 政党や候補者の場合は、投票行動を直接促す記述がなくても、選挙期間中にサイトを更新したりメールマガジンを配信するだけで選挙運動ととらえられる可能性もあるため、各党や候補者は、期間中の更新を止めているのが実情です。

 そして、私も含めてネットの一般ユーザー達は、このインターネットなど全く想定していなかった古びた公職選挙法に振り回されて、どこまで選挙関連の話題を扱って良いのか、指針すらない混乱状態となっているのです。



●10年前からあった改正議論〜消極的だった日本の保守政治家達

何でダメなの? ネットを使った選挙運動
http://www.yomiuri.co.jp/net/itmedia/20050905nt09.htm

 上記記事によれば、ネット選挙運動を解禁しようという動きは、10年も前からあったわけです。国会で初めて取り上げられたのは1995年の参議院決算委員会であります。1998年には民主党議員らが中心となり、Webサイトを使った選挙運動を解禁するための公職選挙法改正案を提出しました。同様な法案は2001にも再度提出されています。また2002年には総務省が「IT時代の選挙運動に関する研究会」を発足し、ネット利用の問題点や実現性を議論、最終的にはネット利用を解禁すべきだと結論づけています。解禁法案は2004年にも提出されています。

IT時代の選挙運動に関する研究会について
http://www.soumu.go.jp/singi/it_senkyo.html

 何度も法案が提出されながら、そして総務省の研究会まで解禁すべきと結論を出しているのに、法改正には至っていないのはなぜでしょうか。

 ひとつには保守政治家達がインターネットに対し、消極的になっている可能性であります。

 韓国大統領選におけるインターネットの役割や、米大統領選で威力を発揮した、インターネットの活用による選挙資金集めと激しい中傷合戦を目の当たりにして、既存秩序の破壊者として、日本の保守政治家達が及び腰になっていたのかも知れません。

 米大統領選でインターネットが注目されるようになったのは、民主党の候補者指名をケリー上院議員と争ったディーン前バーモント州知事の序盤戦での躍進でありました。有力な支持母体を持たないディーン氏は、インターネット上のブログを通じて全米でミニ支持集会を開催、勝手連的に広がった草の根の支持拡大で選挙資金を集めることに成功したわけです。

 以来、ブッシュ、ケリー両陣営もインターネットを重要な柱にした選挙戦を展開したのはご承知の通りです。

 日本の保守政治家達が、インターネット選挙を、自分の立場を危うくする可能性があると感じ、法律を作る議員自身が後ろ向きであった可能性は否定できないでしょう。

 しかし、これほどの重要な問題を日本のマスメディアはいっこうに真正面から取り上げようとしないのは何故なんでしょうか?



●メディアは触れない公職選挙法に守られている既存メディアの特権

 日本の既存メディアが全く報道しない事実として、このインターネット時代にそぐわない旧態依然とした公職選挙法に守られているのは、、じつは、他ならぬ既存メディアだけであり、唯一、選挙期間中の報道の自由が保障されているのであります。

(新聞紙、雑誌の報道及び評論等の自由)
第148条 この法律に定めるところの選挙運動の制限に関する規定(第138条の3(人気投票の公表の禁止)の規定を除く。)は、新聞紙(これに類する通信類を含む。以下同じ。)又は雑誌が、選挙に関し、報道及び評論を掲載するの自由を妨げるものではない。但し、虚偽の事項を記載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない。

2 新聞紙又は雑誌の販売を業とする者は、前項に規定する新聞紙又は雑誌を、通常の方法(選挙運動の期間中及び選挙の当日において、定期購読者以外の者に対して頒布する新聞紙又は雑誌については、有償でする場合に限る。)で頒布し又は都道府県の選挙管理委員会の指定する場所に掲示することができる。

3 前2項の規定の適用について新聞紙又は雑誌とは、選挙運動の期間中及び選挙の当日に限り、次に掲げるものをいう。ただし、点字新聞紙については、第1号ロの規定(同号ハ及び第2号中第1号ロに係る部分を含む。)は、適用しない。

1.次の条件を具備する新聞紙又は雑誌

イ 新聞紙にあつては毎月3回以上、雑誌にあつては毎月1回以上、号を逐つて定期に有償頒布するものであること。

ロ 第3種郵便物の承認のあるものであること。

ハ 当該選挙の選挙期日の公示又は告示の日前1年(時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙にあつては、6月)以来、イ及びロに該当し、引き続き発行するものであること。

2.前号に該当する新聞紙又は雑誌を発行する者が発行する新聞紙又は雑誌で同号イ及びロの条件を具備するもの

公職選挙法
http://www.houko.com/00/01/S25/100C.HTM#s16

 つまり、インターネット選挙解禁問題は、メディア論的側面として捉え直してみると、今まで選挙期間中に、ほぼ独占して特権を有してきた既存メディアの選挙報道の権利を不特定多数のネットメディアに解放するという側面があるのです。



●またしても既得権益にすがる日本の既存メディアの閉鎖的体質

 たとえば、現在の公職選挙法でインターネットで禁止しているのは、選挙運動だけではありません。予測市場の仕組みで政権獲得政党を予測する「総選挙はてな」も、公選法違反に当たる可能性があるとユーザーから指摘を受けています。根拠は138条の「人気投票の公表の禁止」です。選挙で当選する人や、政党別の得票数を予想して公表してはいけないという規定であります。

 しかし、既知の通り、選挙予測など既存メディアはときに面白おかしく無責任に垂れ流しているのであります。
 そればかりではありません。決して公平とは思えないTVの報道姿勢にも、報道の自由の名のもとに、事実上何のおとがめもないのです。

 記者クラブなどという閉鎖的制度で既得権益を守ってきた新聞社や、免許制度などという競争もないぬるま湯業界であぐらをかいてきた放送局、これら日本の既存マスメディアが、自らの既得権益にはすこぶる執着し醜態をさらしてしまった先のライブドアニッポン放送株買収騒動を思い出してみて下さい。

 今回のインターネット上の公職選挙法問題で、真正面からこの問題を取り上げようともしない日本の大新聞やTVの振る舞いが、自分たちの保身のためであると考えるのは穿ちすぎでありましょうか?

 選挙期間中の「報道の自由」の権利を、既得権益などと大げさに捉えるかどうかは、異論のあるところかも知れません。

 しかし、「秩序破壊者」としてインターネット選挙、いや、インターネットメディアを毛嫌いしているのは、なにも自民党政治家だけではないのは事実でありましょう。



(木走まさみず)