木走日記

場末の時事評論

マクロ統計検証〜最も人が少なく最も金が高く最も赤字な日本の公務員

 郵政民営化法案に関して、そのひとつの本質的問題・公務員人件費問題について読者の皆様と共に大局的にかつ徹底的に考察してみたいと思います。
 もちろん、考察するに当たっては、出来うる限り正確な情報に基づき徹底した事実検証をしていきたいと思います。



●「日本の公務員の数は多すぎる」のまやかし

 今回の選挙の焦点が「郵政民営化法案」であるかどうかは議論のあるところでしょうが、 自民党から共産党まで各党がマニフェストに歳出削減を盛り込み、しかも、自民党を含むすべての党が公共事業の削減を打ち出したのは、日本の財政が危機的状況にあることの表れでもあるわけで、広い意味で「小さな政府」を目指すことに各党間で大きな差異はありません。

 でひとつの争点に成りうるのが公務員人件費削減問題であります。郵政事業改革を公共事業削減の側面から考えた場合、自民党が主張する民営化すれば26万人という公務員数削減効果があるとすれば、そしてそれが行財政改革に効果的な影響を与えるとするならば、民営化するべきなのでしょう。

 まず、日本の国家・地方公務員数及び特殊法人を含めた職員数の正確な数字を総務省発表資料で押さえておきます。

A 国家公務員数(昭和55年度--平成14年度) http://www.stat.go.jp/data/nenkan/zuhyou/y2401a00.xls
B 地方公務員数(昭和55年--平成14年)
http://www.stat.go.jp/data/nenkan/zuhyou/y2401b00.xls
6-2 経営組織別事業所数及び従業者数(昭和47年--平成13年)
http://www.stat.go.jp/data/nenkan/zuhyou/y0602000.xls

 統計資料から、平成14年度で、国家公務員数79万3千人(内郵政事業関連27万8千人)、地方公務員数314万1千人、合計公務員総数393万4千人とういう数値であります。特殊法人を含めた数字としては523万人となります。
 
 さてこの394万人(特殊法人を含めた数字としては523万人)という公務員の数が多いのか少ないのか、ひとつのものさしとして先進諸国の公務員数を参考にしてみましょう。

 この点で、以下にご紹介する中村圭介氏のレポートは情報ソースの信頼性が高く大変参考になります。

多すぎるのか,それとも効率的か 日本の公務員
中村圭介
http://www.jil.go.jp/institute/zassi/200404/200404e.PDF

 このレポートが示唆しているとおり、既知の読者も多いでしょうが、人口千人当たりの公務員数の国際比較では、日本の公務員数は決して国際的に見て多すぎるとは言えないのです。

 レポートで指摘とおり、総務庁の資料によれば,日本の人口千人当たりの公務員数は38人であり、イギリス81人、フランス97人、アメリカ75人、ドイツ65人に比べても非常に少ないという事実があります。
 もちろん、国際比較で注意すべきは,同じものを比較しているのかどうか、定義,資料出所にまで注意を払わねばならないでしょう。
 なぜならば例えば日本のデータには特殊法人が含まれていませんが、本来は特殊法人職員も含めて政府が税金で雇用する者の数を出さなければなりません。
 しかし、このレポートは比較的情報ソースがしっかりしており、各国政府が雇用する者が雇用者全体に占める割合も示されています。これによれば,イギリス19.1%,フランス22.6%,アメリカ15.5%,ドイツ15.2%に対して, 日本は7.9 % であり、調査年度は少し古いですが、これらの数値は、先進諸国比較において日本の公務部門雇用者は明らかに少ないことを示しています。

 以上、統計資料を読み解いた限りの事実としては、マクロ的数値として日本の公務員人数は国際的に見て多すぎるということは言えないわけです。そしてそれは特殊法人等の準公共機関職員数を含めてもです。
 つまり、重要な事実として押さえておきますが、一部で主張されている「日本の公務員の数は多すぎる」という論説は、国際比較においてはまったくのまやかしであるといえるのです。



●「日本の公務員は効率的なのか」への仮説

 前項で検討したレポートや政府統計資料に基づいても、日本は、アメリカやイギリス、フランスなどの先進諸国の中で実際には突出して公務員数が少ないのです。

 では、日本の公務員は他の先進諸国より少ない人数で効率的なサービスを提供しているといえるのでしょうか。
 もし、そうならば何故、国と地方合わせて1000兆円にも及ぶとされる財政赤字が生じているのでしょうか。

 この点に関して前述のレポートで中村圭介氏は次のような仮説を立てています。

 (前略)
一歩議論を進めれば新しい芽がみえてくるように思える。「下請け取引関係」「下請け分業構造」あるいは「サプライヤー・システム」という専門用語から何が連想されるであろうか。自動車産業を例にとると,日本の自動車企業の外製比率(製20No. 525/April 2004造費用にしめる部品・材料・外注費用の割合)は平均して70%以上で,アメリカの企業よりも高い傾向にある1)(藤本1997:168)。日本企業はすべてを自分で生産するのではなく関連企業を活用することが多い。関連企業は重層構造をなす。下層にいくほど,企業規模が小さくなり,企業数も増える。これがピラミッド型の下請け分業構造と呼ばれるものである。同じようなことが行政分野でも生じているのではないか。新しい芽とはこのことである。欧米諸国では行政が行っている業務を,日本では外注しているのではないか。その結果,公務員数は少なくてすむ。
 (後略)

 つまり、「欧米諸国では行政が行っている業務を,日本では外注しているのではないか」という仮説であります。
 公共事業においても「ピラミッド型の下請け分業構造」ができあがっているのが、日本の公務員数が先進諸国の中でずば抜けて少ない原因なのではないのか、というのです。



●興味深い国土交通省OBの内部告発〜雑誌『オフレコ』より

 橋梁談合事件において、雑誌『オフレコ』にて、とても興味深い国土交通省OBの内部告発があります。
 本来ならば、国が橋やトンネルを設計して予算を決め、予算価格を知らないはずの複数の業者に入札に参加させ公正に入札価格を比較し業者選定をするはずなのが、入札価格が談合により事前に業者に漏れていたとされるこの問題ですが、国土交通省OB氏の内部告発によれば、起こっていることはより深刻であり、実は入札以前に、そもそも国が橋やトンネルを設計する段階で情報は民間に完全に流出しているというのです。
 なぜならば設計自体を民間企業に委託しているというのです。

 (前略)
「なぜ、業(民)に設計をまかせるかといえば、国土交通省という官に、その能力がないから。昭和30年代以降、建設省は直轄工事をやめて、トンカチ官庁から政策官庁への脱皮を図った。その後も長く三流官庁だのキン肉マン官庁だのといわれたが、政策立案能力、行政能力をなんとか高めようとしてきた。その結果、予算だけは握っているものの、設計・施工管理能力がどんどん低下していった。国土交通省には多くの技術官僚(技官)がいるが、民間企業の技術者のほうが数も多いし質も高い。官に能力が無いから民に丸投げするしかないのですよ」(国土交通省OB)
 (後略)
雑誌『オフレコ』「談合はなぜ、なくならないのか?」121頁より抜粋

 この告発話は、道路公団が特定のファミリー企業に膨大な予算額の業務委託をしていた問題と合わせて考えると、日本の公共事業の深刻な状況を顕わしてる象徴的な事象であります。



●本質的問題は公務員人数ではない〜その公務員の質だ

 ここまで検証・考察してきた内容から、私・木走の仮説を導いてみます。

 日本の公務員人数は国際的に見て多すぎるわけではなくむしろ少なすぎるほどであります。しかしながら人数が少ないのは、公共事業においても「ピラミッド型の下請け分業構造」ができあがっているからであり、決して効率的であるとはいえないのです。
 さらに公共事業予算は欧米に比べて、決して日本が少ないわけではない。そして先進諸国ダントツの財政赤字を垂れ流しているわけです。

 私は、この検証事実から次の重要な2つの問題点を指摘しておきます。

 問題点1.「ピラミッド型の下請け分業構造」により膨大な無駄なお金が垂れ流されている可能性がある。
 問題点2.日本の公務員人件費の問題は、その人数ではなく、質の低さそのものがマクロ的に見て非生産的要因となっている。

 一個人ブログの見解であり、異論・反論もあるかも知れませんが、問題点1に関しては、多くのメディアでも同様な議論がされています(ここでは検証を割愛します)が、問題点2.の「公務員の質」のマクロ的課題は、余り議論されていないようです。

 マクロ的に「日本の公務員の質」を捉えなければ、この問題の本質は見えてこないと思うのです。

 日本では「一人一人の公務員は優秀でまじめである」とか情緒的に「公務員給与や待遇の問題は問題のすり替えである」といった、非論理的なあいまいな議論に終始して、マクロ的に「日本の公務員の質」を事実に基づいて冷静に評価・検証する姿勢が極めて少ないと感じられます。
 ここは冷静にマクロ的統計検証に基づき、「日本の公務員の質」を数字で評価していきましょう。



●先進国中最も高い日本の公務員給与〜日本総合研究所のリポート試算

 三井住友ファイナンシャルグループの日本総合研究所が「小さくて効率的な政府の実現に向けて」というリポートを7月21日に公表しています。

 このレポートはほとんどメディアが取り上げていませんが、日本の公務員給与に関する驚くべき検証が為されており、たいへん貴重なレポートであります。

「小さくて効率的な政府の実現に向けて」
http://www.jri.co.jp/press/2005/jri_050721-2.pdf

 このレポートでは各国公務員の量と質を多角的に評価しているのですが、その中で公務員の年収を興味深い方法で国際比較しています。

 それぞれの国の1 人当たり国民所得は当然違いますので、「1 人当たり国民所得に対する公務員1 人当たり年収倍率」というものさしで計測してます。

 もし、1 人当たり国民所得に対する公務員1 人当たり年収倍率が1.00ならば、国民所得と公務員所得は一致していることになります。

 それによれば、諸外国では、最大がカナダの1.48 倍、最小がドイツの0.95 倍で、6 カ国を単純平均すると1.26 倍であるのに対して、わが国だけが倍率が2倍を超えているというのです。驚くべきことに2.15 倍であるわけです。

 もちろん、根拠ある正確な数字に基づく比較でなければなりません。以下説明箇所を抜粋してみます。

 (前略)
(ニ)まず、1 人当たり国民所得に対する公務員1 人当たり年収倍率をみると、諸外国では、最大がカナダの1.48 倍、最小がドイツの0.95 倍で、6 カ国を単純平均すると1.26 倍であるのに対して、わが国は2.15 倍である。次に、この年収倍率をもとに公務員の1 人当たり平均年収を試算してみると、わが国の46,213 ドルに対して、諸外国では、最大がアメリカの44,633 ドル、最小がドイツの26,917 ドルで、6 カ国を単純平均すると34,530 ドルとなる。もっとも、1 人当たり国民所得の水準をみると、日米2 カ国が3 万ドル台であるのに対して、独仏英3 カ国は2 万ドル台半ば、さらに伊加2 カ国はほぼ2 万ドルと、国によって大きく異なっている。そのため、実質購買力ベースでも名目金額通りの差異があるか否かについて直ちに結論を出すことは難しいし、上記の通り、給与制度や雇用実態の違いなど、様々な要因を勘案して初めて正確に国際比較が行われ得る。しかし、少なくとも名目金額から、わが国公務員の給与が先進各国のなかで相対的に高水準となっている可能性を指摘することは出来ようなお、市場為替レートベースで対比すると、わが国と各国との給与格差はさらに拡大する。
(ホ)加えて、日米2 カ国では地方公務員給与について時系列推移をみることができるため、日米両国を対比してみた。もっとも、所得金額ベースでみると、物価変動、とりわけ、70 年代半ばから80 年代初頭にかけて石油危機を契機に物価が大幅に騰貴した結果、全体として特徴を検出しにくい。そのため、ここでは、1 人当たり国民所得に対する地方公務員1 人当たり年収倍率に着目した。なお、アメリカでは、連邦政府統計で地方公務員の平均月収がパートタイム職員ではなく、フルタイム職員のベースで調査されているため、それを12 倍して年収換算値としている。なお、この計算、すなわち、平均月収を単に12 倍した金額を年収とする手法に対して、それだけではボーナスなど、特別支給分が脱落しているのではないか、との指摘が想定されよう。しかし、わが国のように月収の6 カ月分に相当するような特別支給は諸外国では一般に行われていない。逆に、わが国公務員制度に定着している退職金給付に相当するような離職時給付制度は諸外国に見当たらず、これを上乗せすると、日米の公務員給与の格差は一段と拡大する公算が大きい。
 (後略)

 つまり、日本だけにある「退職金給付制度」や「賞与」を含めれば、「これを上乗せすると、日米の公務員給与の格差は一段と拡大する公算が大きい」とすら、指摘しているわけです。



●先進諸国の中で最も人数が少なく最も給与が高く最も赤字を垂れ流してる日本公務員

 ここまで検証・考察してマクロ数字から見えてくることは、「先進諸国の中で最も人数が少なく最も給与が高く最も赤字を垂れ流してる日本公務員」像です。

 むろん、これは公務員個々の能力や資質を評価しているモノではありませんし、あくまでもマクロ統計数字に基づいた試算であることを留意すべきであります。

 重要なことは赤字を垂れ流している日本の公共事業システムの持つ構造上の欠陥の一端として、マクロ的に見て日本の「公務員の質」が、生産性の面で著しく劣化しているということです。



(木走まさみず)