木走日記

場末の時事評論

量産される中国アスベストを警戒せよ〜恐怖の大王が日本に舞い降りる? 

 今日はアスベスト問題と東アジアの切迫した環境問題を取り上げてみたいと思います。



●あまりにも後手を踏んだ日本政府の対応〜条約採択から19年経過後批准は遅すぎる

 今日の毎日の速報から・・・

アスベスト:政府、「使用条約」批准を閣議決定
 政府は5日午前の閣議で、「石綿アスベスト)の使用における安全に関する条約」を批准することを閣議決定した。同条約は、86年に国際労働機関(ILO)が採択。現在27カ国が批准している。

毎日新聞 2005年8月5日 11時11分
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20050805k0000e010038000c.html

 遅いのです。遅すぎるのです。今頃大騒ぎしてもその20年から50年と呼ばれる発ガン潜伏期間を考えれば、当の昔に全面禁止しなければならなかったのでしょう。
 各国際機関や医療機関、研究機関から過去30年、その危険性をさいさん指摘されていながら、業界や時に労働組合からの圧力で対策を遅らせてきたこのツケは、これから数十年間、私達は払わされることになるのでしょう。

 昨日の読売新聞から・・・

アスベスト全面禁止 厚労相、遅れ認める
 アスベスト石綿)による健康被害問題について、尾辻厚生労働相は3日の参院厚生労働委員会で、「(アスベスト使用の)全面禁止をもっと早くすべきだった」と述べ、厚労省の対応の遅れを認めた。社民党の福島党首の質問に答えた。

 福島党首から全面禁止の遅れを指摘された尾辻厚労相は「全面禁止をもっと早くすべきだったということについては、私も率直にそう思う。しっかりと検証して、早い機会に結果を発表したい」と答えた。

 厚労省は1995年、アスベストの中でも発がん性の高い青石綿、茶石綿を禁止し、昨年10月以降、一部の製品を除いて原則禁止とした。全面禁止については当初、2008年としていたが、健康被害が相次いで表面化したため、前倒しする方針を打ち出している。

(2005年8月4日 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/features/asbestos/200508/as20050804_01.htm

 やれやれです。

 ひさしぶりに社民党福島党首がメディアに登場されておりますが、いまさら厚労省に対策の遅れを認めてもらっても、すでに肺の中に吸い込んでしまっていたらもはや発症しないことを祈るだけなのでありますよね。



アスベストは「静かな時限爆弾」

 そもそもアスベストってなんなのか簡単にまとめておきましょう。

 アスベストは天然の鉱物繊維です。火山から噴き出た溶岩が水で冷やされるとき、特殊な条件のもとで、アスベストの結晶が繊維状に成長していくのです。寒い冬の夜、土の中の水分がこおって、霜柱がどんどん伸びていくのと似ています。こうしてできたアスベストを、石炭と同じように掘り出して使ってきたのです。だから、アスベストは非常に安いのです。 

 石綿という名前のとおり、綿のように柔らかな繊維ですが、鉱物の一種で、火にくべても燃えません。アスベストという言葉は、「消すことができない」あるいは「永遠不滅の」という意味のギリシャ語に由来しています

 アスベストは非常に細い繊維です。1本の繊維の太さは、髪の毛の5000分の1くらいです。熱や薬品に強く、磨耗に耐え、「ピアノ線より強い」と言われるほど切れにくく、紡いで織ることもでき、しかも安い・・・こんな便利な繊維はほかにありません。一時は「奇跡の鉱物」とか「天然の贈り物」と呼ばれ、さまざまな用途に使われてきました。私達の身の回りにも、あちこちにアスベスト製品があるはずです。

 ところが、この便利なアスベストの繊維を肺に吸い込むと、20年から50年後にがんになるおそれがあるのです。「奇跡の鉱物」は、同時に「静かな時限爆弾」だったのです。 
 火にくべても燃えない「永遠不滅の」「奇跡の鉱物」は、まさにその性質、髪の毛の5000分の1くらいの細さなのに磨耗に耐えてしまうがゆえに、認知が遅れた発ガン性物質なのであり、日本でも、いまや、「静かな時限爆弾」の爆発予定時刻が、刻一刻と近づいているのです。

 ・・・

 大きく遅れをとってしまいましたが、それでも今回のアスベスト騒動でようやく日本政府が本腰を入れて対策を講じ始めたこと自体は、評価いたしましょう。

 しかし、このアスベスト被害でもっとも怖いのは空中飛散なのであり、阪神・淡路大震災のあと、ビル解体でアスベストが飛散していると報道されていましたが、目に見えないだけに厄介なのです。

 実は、微細で軽量なアスベストは風に乗ればかなりの広範囲に飛散されることが確認されており、ヨーロッパなのでは一国だけの対応ではダメで世界規模で禁止せよという、学説が主流なわけでありますが・・・

 ・・・

 日本にはとってもやっかいな隣人もおるのですよねえ。



●中国の遅れるアスベスト対策〜後手に回る、中国政府の対応

 一昨日の中国情報局の気になるニュースから・・・

遅れるアスベスト対策〜発展と安全のはざまで
2005/08/03(水) 19:49:24更新

  日本で大きな波紋を呼んでいる「アスベスト石綿)」問題だが、中国では今のところ、危険性が広く認識されているとは言い難い状況だ。専門紙などは2004年から安全性に疑問の声を上げたが、業界団体からの反発で議論は低調なまま。中国政府は1980年代初期から危険を認識していたが、国民的な関心を呼ぶ事態にまでは至っていない。


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◆日本の情報も関心を呼び起こさず
  最近の日本における被害情報に関して、中国ではあたかも「対岸の火事」を眺めているような状態が続いている。大手全国的メディアとして日本情報を比較的多く扱っている人民日報、新華社中国新聞社なども取り上げていない。かろうじて、7月20日付の環球時報と7月29日付の北京晩報が問題の経過や日本における法的規制の流れを概略的に伝えているが中国国内の状況と関連して報じることはしていない。

  中国における「アスベスト問題」をさかのぼると、他の国と同様に「ロッテルダム条約」に行き着くことになる。1998年にオランダ・ロッテルダムで開かれた国際会議で採択された条約で、有害化学物質の貿易に関する事前同意手続きについて定めている。会議ではアスベストを有害化学物質に含めるかどうかで紛糾。クロシドライトというアスベストの1種類を該当物質に入れたにとどまった。

  2004年9月にはジュネーブで締約国会議が開かれ、アスベストのうち、アクチノライト、アンソフィライト、アモサイト、トレモライトの4種類を該当物質に加えることになった。しかし、クリソタイルというアスベスト製品の主流を占める物質については「毒性が弱い」ということで、判断が先送りされた。また、中国政府の批准・発効も遅れた。

◆環境紙と業界の意見が対立
  このジュネーブにおける締約国会議が発端で、中国でもアスベスト論争がはじまった。アスベストの安全性に疑問を投げかけたのは環境問題を扱う専門紙と地方紙。例としては「オーストラリアではアスベスト建材が健康に重大な影響」(中国質量報2004年9月11日付)「アスベストは国際的に発がん性物質と認知されているのに、中国では誰も心配していない」(中国質量報2004年11月19日付)「中国政府の禁止令は空文で、アスベストは自動車のブレーキにいまだ使用されている」(新快報2005年1月27日付)「部屋の内装で使用されているアスベストが悪性腫瘍を誘発する」(深セン商報2005年3月13日付)「アスベスト発がん性物質なので建材に使うな」(医院在線2005年3月22日付)などがある。

  これらに対して、業界団体である中国非金属鉱工業協会が反発。「アスベストのほとんどを占めるクリソタイルは無害」(新浪房産2004年8月27日付)「クリソタイルは速やかに人体から排出されるので安全」(2004年9月17日付の焦点装修家居)「雇用に重大な影響があるので、政府は公正な対応を」(新華社青海版2005年2月25日付)といった報道がみられる。

  業界紙が全面的なアスベストの使用・製造禁止を求めているのに対して、業界団体は製品の大多数を占める物質であるクリソタイルは禁止しないよう主張している。

◆後手に回る、中国政府の対応
  中国政府はアスベストが人体に有害であることを、1980年代早期にすでに認識していたようだ。国務院が1981年にまとめた「手紡ぎアスベスト糸の危険状況と問題解決に関する意見書」によると、中国の農村でアスベスト糸の手紡ぎは貴重な収入源で、各世帯で作業が行われてきた。

  さらに「意見書」では、「天津市浙江省江蘇省山東省、河南省などでアスベスト糸の手紡ぎに従事している3万人の農民を調べたところ、1681人が肺病に感染していることが分かった」「天津市武清県では1万2300人余のうち、1200人ほどが肺病に感染、219人が死亡した」とある。「農民にはマスク1枚と毎月1元の医療費が与えられているだけ」「農民に身体検査・治療を公費で受けさせるように」「被害が甚大で防御策をとっていない企業は生産停止に」などと述べられている。

  2004年11月に開かれたシンポジウムでは、浙江省慈渓市で1960年代から80年代にかけて手紡ぎアスベスト糸に従事した農村女性に深刻な健康被害が出たことが報告されている。

  2001年には、国家品質監督検験検疫総局(AQSIQ、質検総局)が自動車のブレーキに使用することを禁止、また、当時の中国国家経済貿易委員会がクロシドライトを取り締まり対象にしたという。しかし、2005年1月27日付の新快報は「広州市の自動車修理工場にいって聞いてみたが、『今でもブレーキに使われているよ』という回答だった」など、中国政府の対応が「かけ声倒れ」に終始している実態を告発している。

  北京市が定める「建設工程で使用する材料に対するガイドライン」では2004年10月にアスベストが建材の禁止項目に入っているが、マスコミを通じた啓発活動は目立たない。

  中国政府は「ロッテルダム条約」を批准、2005年6月に発効させた。しかし、6月21日付と22日付の中国新聞社の報道では、条約の批准・発効が遅れたことや条約自体にクリソタイルが含まれておらず骨抜きになっていることなどは伝えていない。また批准の目的を「有害農薬が中国に輸入されるのを防ぐため」としてアスベストに関しては触れられていない。

◆曖昧さ残るルールづくり
  アスベスト製品生産工場に対するルールも曖昧さが残る。操業に必要な生産許可証の発行審査については、工場への監督業務を行う「全国工業産品生産証事務室」がまとめた「アスベスト生産許可証のための審査方法」に明文化されている。

  審査項目は44にのぼり、アスベストを想定したと思われる「防塵防毒設備の完備の有無」という項目も含まれている。各項目ごとに「適格」「少々不適格」「極めて不適格」に割り振られ、「少々不適格」が10個以上、もしくは「極めて不適格」が1個と「少々不適格」が8個以上になると、許可証は発行されない。

  この「審査方法」に基づくと、仮に防塵防毒設備が不備で「極めて不適格」と判断された工場であっても、他の条件がクリアされていれば、生産許可証は発行されてしまうことになる。

  中国では、さまざまな分野で「法治主義」の必要性が叫ばれており、ルールの作成及び開示という面では、かなりの進捗がみられる。アスベスト製品生産工場に関する「生産許可証のための審査方法」でも、44の審査項目を設けるなど、ルールづくりへの意欲は感じられるが、「危険性の徹底排除」という観点からみれば、曖昧な部分を残している格好になっている。

◆失業問題なども、アスベスト禁止の足かせ
  中国ならではの複雑な事情もある。雇用や地域経済に与える影響だ。アスベストの埋蔵量はカナダ、ロシアに次ぐ世界第3位の9061.5万トン。アスベスト鉱山が主に位置しているのは甘粛省青海省新疆ウイグル自治区といった、経済開発の遅れている地域だ。アスベストの採掘に従事している人は12万人、アスベスト製品の加工に従事している人は100万人。そのため、マスコミからも「アスベストを禁止したら、経済的に干上がってしまう」「むやみにアスベストを禁止して困るのは中国自身」(新華社青海版2005年2月25日付)といった声が聞こえてくる。

  中国で、アスベストの危険性に対する認識が広まっていないのは、インターネットを見ても一目瞭然だ。現在も、さまざまな業者による販売用のホームページには、アスベスト製品の紹介が掲載されている。それらのサイトに、アスベスト健康被害に対する注意書きは見当たらない。(編集担当:菅原大輔)

中国情報局ニュース 8月3日
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2005&d=0803&f=column_0803_003.shtml

 なんともはや、やれやれなのですが、日本が中国の環境汚染に人ごとでは済まないのは、酸性雨問題でもさかんに学者が調査しておりますが、中国の大気汚染がすでに偏西風に乗って西日本だけでなく東日本にまで及ぶ広範囲で日本列島に届き始めていることです。
 西日本各地で中国の黄砂問題もよく取り上げられていますが、黄砂よりも微細軽量のアスベストが他の大気汚染物質とともに日本に飛来してくることは十分に可能性があるわけです。

(参考サイト)
環境goo 第2回 酸性雨と越境大気汚染
http://eco.goo.ne.jp/business/csr/navi/sanseiu03.html
国立環境研究所ホームページ−研究概要-酸性雨
http://www.nies.go.jp/gaiyo/bunya/sanseiu.html

 近い将来、「恐怖の大王」として中国の汚染された大気が日本国内で大きな問題になることは科学的予測としてほぼ間違いないことでしょう。



●日本政府は日本国民のために中国の環境対策を支援せよ

 上述したとおり、中国のアスベストの埋蔵量はカナダ、ロシアに次ぐ世界第3位の9061.5万トンであります。また統計数字はありませんがおそらくアスベスト加工商品の生産量は各国政府が禁止に踏み切る中で、中国が世界一位なのではないでしょうか。

 環境対策では日本は中国に先んじて各種技術を有しているのですから、今問題となっている対中国ODA問題をにらみながらでしょうが、日本政府は本腰を入れて対中国環境対策技術支援を検討すべきであります。

 今回のアスベスト騒動をよい機会と捉え、21世紀の環境問題は国境のない人類全体で取り組まなければならない問題であることを今一度私達は認識すべきであると思います。
 中国の環境問題は、偏西風に乗り日本にも被害が及ぶ事実を十分に踏まえ、嫌中派親中派も大局的な判断が求められると思います。

 日本政府は日本国内のアスベスト対策を迅速に処置すべきことを第一に優先すべきなのは論を待ちません。その上で、日本国民のためにも中国の環境対策を支援すべきであります。

 この問題に対する読者の皆様の考察の一助となれば幸いです。



(木走まさみず)