木走日記

場末の時事評論

朝日新聞の真の大罪〜エールを込めて

 以下のエントリーの追記です。

マスメディアの無能と憂鬱〜朝日のNHK番組改変問題報告の「傲慢不遜」
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050726/1122348060
マスメディアの無能と憂鬱〜朝日は証拠として録音テープを提示せよ!
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050728/1122522706
月刊現代スクープ記事を逆スクープする〜これは朝日の出来レースだ!
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050802/1122961309

●インターネット新聞JANJANに記事掲載されました。

 昨日エントリーした内容を元に記事として投稿したところ、本日のインターネット新聞JANJANにて、トップ記事として掲載いただきました。

これは朝日の出来レースではないのか? 2005/08/03
http://www.janjan.jp/media/0508/0508020308/1.php

●「朝日新聞社自身が取材資料流出に深く関与しているのではないか」に反論する朝日

 8月1日の朝日新聞の記事『自民役員、本社への取材対応自粛 NHK巡る月刊誌問題』によれば、「NHKの番組改変を巡って、朝日新聞社の取材記録だとされる資料が月刊誌に掲載された問題で、自民党武部幹事長は1日、党役員会後の記者会見で、事実関係が明らかになるまで、党役員が本社への取材対応を公式の記者会見を除いて自粛することを明らかにした」とのことだそうだ。

 調査プロジェクトチーム(佐田玄一郎座長)の通知書の中で、「あたかも取材のやりとりを記録した取材資料があるということを世間に強調したかっただけの『やらせ』ではないのか」「貴社自身が資料流出に深く関与しているのではないか」などと指摘。「取材被害を受けることがないように」との理由で自粛を決めたとしている。

 これに対し朝日新聞は同じ記事の中で以下のように強く反論している。

 〈朝日新聞広報部の話〉 朝日新聞社は、社内資料の一部が何らかの形で外部に流出した疑いがあると考え、現在調査中です。調査結果については、公表するとともに、松尾氏、中川氏、安倍氏にも速やかに伝えます。なお、自民党の「調査プロジェクトチーム」の通知書で、朝日新聞社の記者会見の目的は「やらせ」ではないのか、朝日新聞社自身が取材資料流出に深く関与しているのではないか、などとしている点は事実に反しています。朝日新聞社は取材過程を明らかにしないという原則を堅持しており、今回のような党役員による取材対応自粛の必要はないと考えており、今後とも取材を続けます。

 問題となった月刊誌とは8月1日発売の月刊現代9月号である。

●『衝撃スクープ「政治介入」の決定的証拠』(月刊現代9月号)を検証する

 8月1日発売の月刊現代9月号で、話題になっているスクープ記事とは、『「政治介入」の決定的証拠〜中川昭一安倍晋三、松尾武元放送総局長はこれでもシラを切るのか』である。

 ジャーナリスト魚住昭氏の手による21ページに渡る膨大な記事であるが、いろいろなことがはっきりと見えてきて実に興味深い記事である。

 そして、この現代の記事は興味深い3つのことを教えてくれている。

 (1)記事タイトルとは裏腹に新事実などは一切なかった

 はっきり言って、目新しい新事実は一切ない。すでにメディアで報道されている内容を裏付けるものばかりで、読み解いた限り衝撃的な新事実などはなく、当記事のなかでも魚住氏自身が「朝日が想定した直接的で露骨な圧力」はなかったことを認めている。

 47ページからそこのくだりを抜粋する。

 番組改編問題の最大のナゾは政治的な圧力があったかどうか、ということだった。松尾氏の証言記録などを読めば、その答えは明らかだ。そういう意味では朝日の報道は間違っていない。しかし実際に圧力がかかった経緯となると、朝日が想定した、直接的で露骨な圧力というより、もう少し複雑な構図があったのではないかと私は考えている。

 (2)やはり録音テープは存在していた!

 このスクープ記事には、理由は不明だが興味深いことに「証言記録」を入手とあり21ページに渡る記事文章の中で、「テープ」とは一切書かれてはいない。 おそらくリークした朝日側との約束事でもあったのかもしれないが、魚住氏は完璧に「録音」とか「テープ」という言葉を慎重に避けている。

 しかしながら、魚住氏は1カ所だけ朝日幹部の発言を引用する形で言及している。

 46ページからそこの下りを抜粋する。

 だが、取材記録を読んでおわかりのように、彼が安倍氏の言うようなひどい取材をした形跡はまったくない。
 この件で社内調査に携わった朝日新聞の幹部はこう語っている。
 「安倍さんの発言は事実に反することだらけです。まず、本田記者の取材が『夜遅』かったというのは嘘です。実際には6時すぎで、これは取材に使った車の運行記録でも確認されています。それに取材経過を録音したものを聞くと、安倍夫人が『主人は風邪で寝込んでいます』と言った事実はありません。」『ちょっとお待ちを』とごく普通に取り次いでもらっています。もちろん本田記者も『会ってもらえなければ取材拒否』だとか『右翼団体と関係あるんですね』『街宣車を回すように指示したんですか』なんてことは一切言ってません」

 朝日新聞の幹部の発言の中で、「取材経過を録音したものを聞く」という表現がされて「取材テープ」の存在を裏付けてしまっている。「テープ」の存在を示しいるのは膨大な記事の中でここだけである。これは魚住氏のミスなのか意図的なものなのか興味深いところだ。

 (3)朝日新聞幹部が取材に協力していた

 これは驚くべきことなのであるが、上述したとおり、この魚住氏のスクープ記事の取材自体に、朝日新聞の幹部が全面的に協力しているのである。

 これは実に重大な事実である。なぜならば、取材した本田記者以外のそれもかなり詳細に渡り取材経緯を把握しているしかるべき立場の人がこのスクープ記事に協力しているという事実は、この幹部が取材記録をリークした当人かは不明だが、少なくとも朝日新聞中枢部の人間がこのスクープ記事の掲載を知っていたことの証しとなるからだ。

●この記事は朝日の出来レースではないのか?

 まず、あれほど問題となった取材テープが実在していることが証明されたわけで、この事実は松尾氏が取材協力時に「メモを取るな」という要望に対して本人無許可で録音していたことを示している。

 これは松尾氏本人と朝日読者を二重に欺くもので、この一点からだけでも朝日は謝罪しなければならないだろう。

 また、「朝日新聞社は取材過程を明らかにしないという原則を堅持」などとお行儀のいいことを主張しているが、記事検証したとおり、本田記者以外に朝日新聞幹部もこのリーク記事に協力しているのは明らかであり、騒動後半年たってからの例の朝日の報告記事(7月25日朝刊)から一週間後の月刊誌スクープ記事発売はタイミングも良すぎるのである。

 はっきり疑えるのは、朝日は自分のところで記事にできないネタを別のメディアである講談社にリークして故意に記事にさせる手法をとったのではないのか、ということだ。

 朝日新聞社自身が関与しているかは現段階ではわからない。しかし担当記者以外の幹部も関与しているのは明白である。

 これは冷静に現代の記事を検証すれば、誰もが持つ疑問だと思われる。

 これは朝日の出来レースじゃないのか!

(木走まさみず)

 不肖木走の朝日批判記事を即日トップ記事として掲載するとは、JANJAN編集部はエライ!(爆笑)
 何がエライかと言って、いつもは掲載までは数日要する編集部のちんたらした(失礼)記事校正作業が今回は異様に早かったこともそうですが、元鎌倉市長でもあるJANJAN編集部の竹内編集長は、知る人ゾ知る朝日記者出身であり、またJANJANの編集方針も知る人ゾ知る市民派・リベラル派・親朝日派の牙城なわけでありまして、JANJAN屈指の問題児記者である木走の朝日批判記事を即日トップ掲載するとは、大英断なのであります。

 エライ! 感動した!(爆笑) ネットメディアの鑑である!



●ありがたいリベラル派読者からのご批判の数々

 さて、昨日のエントリーですが、内容が内容なだけにコメント欄他から、主にリベラル派と思われるみなさまよりいろいろなご批判を頂戴しております。ありがたいことに一方的なご批判と言うよりも、時に論理的な時に指導的(?)なご意見ばかりであり、とても勉強になるのですが、そんな中で直接メールでご意見いただいたAさん(仮名)のご意見をご本人の了解を得ましたのでご紹介いたしましょう。

 木走正水 様

 前略、いつも楽しくブログを拝見しております。木走氏の冷静な中立的なスタンスはとても好感が持てるものであり、ネット上にはびこる無責任で軽薄な他者を一方的に罵るような論調とは一線をきしている貴兄のブログは、そのコメント欄での質の高い議論と共に一服の清涼剤のような存在なのだと思います。
 さて、本日のエントリーで取り上げた内容ですが、正直言って木走さんらしからぬ、推測に基づく断定が入り交じった根拠の薄い主張だと違和感を持ちました。
 朝日新聞の取材方法に問題があったのは事実でしょうが、社会の木鐸たるメディアの使命である権力者批判の観点から考えれば朝日新聞の一連の報道姿勢は肯定的に捉えるべきではないでしょうか?
 朝日の揚げ足取りのような批判は、最終的には権力者に対する報道の自由を抑制しようとしている自民党政治家や一部保守派を援護する利敵行為になりかねません。
 差し出がましいとは思いましたが、コメント欄を汚すのもはばかれるのでメールさせていただきました。
 これからも素晴らしいエントリーを期待しております。

 (木走宛にいただいたAさんのメールより全文コピー)

 うーん、考えさせられました。元々浅はかな性格で深い考察より行動が先走ってしまう私は、日々これ反省の毎日なのでありますが、このような真摯なご意見をいただくとJANJANに記事投稿までしまった自分の軽さに恥じ入ってしまいます。(汗



●「これは朝日の出来レースではないのか?」を批判的に対峙し自己検証してみる。

 そもそも私が投稿したこの記事を批判的に対峙し自己検証してみましょう。

 いうまでもなく記事構成上の最大のポイントは、安倍・中川・松尾等の証言内容を全く不問にしており、本件に関わった政治家側、NHK側に一切批判の矛先を向けていないことであります。

 実際、現代の記事を詳しく読み解けば、本人の勘違いもあったかも知れませんが中川氏の「向こう(NHK)は教育テレビでやりますからとかわけわからんことを言う。あそこを直します、ここを直しますからやりたいと。それでダメだと」という発言などもはっきり記述されており、事後の中川氏の釈明と決定的に矛盾する証拠となる部分もあるわけです。また、安倍氏の各報道機関に対する説明の不確かさも個別具体的に明らかにされてもいます。

 そのような現代の記事の内容のより重要と思われる記述を無視して、テープが存在していたことや朝日幹部が取材協力していたことを、それこそ重箱の隅をつつくように指摘して「朝日の出来レース」という結論を導き出す手法は強引と言えば強引な論法であるわけです。

 たしかに片側からの視点だけで記事は構成されており、記事報道の中立性と結論に至る実証性に問題がある記事といえましょう。

 ただ私が朝日批判に絞り記事をおこした狙いは、仮にも政治家やNHKを批判する記事を新聞に載せるならば、徹底的に理論武装し実証裏付けを取り後から当然反論されるであろうポイントをしっかりとした徹底的な取材で補強した上で記事を起こすべきであり、中途半端な報道の結果、反論にまともに言論でもって反証できず(本日を持ってしても朝日はNHKの公開質問状18項目にいっさい個別具体的な回答をしていません)、別雑誌に情報をリークするような姑息な手段を取ってしまっては、権力を批判するメディアの尊い報道姿勢そのものに泥を塗る行為ではないのか、という強い憤りを感じたからなのです。
 このようなあいまいなはじめに結論ありきで事実の実証を軽視する報道姿勢を認めるわけにはいかないのであり、ならば、少し推測を混ぜたはじめに結論ありきの批判記事でもって朝日の報道に警鐘を鳴らしたいと思い立ったわけです。

 つまり、確信犯的にミイラ取りがミイラになってしまっている記事であります。(苦笑
 さすがにJANJANに記事として投稿するのに、昨日のエントリータイトルの「これは朝日の出来レースだ!」という決め付けではなく「これは朝日の出来レースではないのか?」と疑問文にしたのは、不肖・木走の良心からなのでした(苦笑



朝日新聞の真の大罪

 JANJAN誌上でも安曇信太郎記者が「ウェブばとる(10)虚報対決2」と言う記事で真摯にこの問題を取り上げています。

 その記事のコメント欄で私が書いたコメントが、今の私の朝日に対する偽らざる心情なのです。

[9299] 朝日新聞の真の大罪
名前:木走まさみず
日時:2005/07/27 19:49
安曇信太郎様

 記事の主旨に全く同感です。

 朝日新聞はいったいこの半年間で何をどう事後検証してきたのか。

朝日記事より引用=====
 両立しない証言が存在し、報道から半年にわたる取材を積み上げてもなお、真相を解明できない部分が残っています。このことも、今回の報道をあいまいなまま放置しないために紙面に盛り込みました。ぎりぎりの状況で行われた報道の実情を率直にお伝えし、併せて、私たち自身としてしっかり総括したいと考えたからです。
=========引用終了

 あれほど物議をかもした自社の記者の取材した記事に対する事後検証が、あっさりと「真相を解明できない」で総括されてしまっては見もふたもないでしょう。

 「第三者機関「NHK報道」委員会を作って、審議の結果などについては、読者の皆様に改めて紙面でお伝えするとともに朝日新聞として謙虚に耳を傾け今後に生かしたい」などと、低姿勢な謙虚なスタンスを述べていますが、はっきりいってメディアとしては、傲慢なそして不遜な態度だと思います。

 まず第一に自社の記事の実証性について、「真相を解明できな」かったことを認めるならば、ここは素直に謝罪記事を掲載すべきでしょう。

 第二に、NHKが朝日新聞に回答を求めた「1月21日朝日新聞社への公開質問状」および、「4月20日朝日新聞社への催告書」に対し具体的な回答をすべきでしょう。

 メディアとして求められるのはあくまでも言論には言論で立ち向かうという姿勢であります。他のメディアから公式に18に及ぶ具体的な質問が突きつけられているのに対し、なんら具体的な反証をできず、実証できないのならば、当然、謝罪文を掲載すべきです。
 真実の検証をしNHKに対し堂々と反論するわけでもなく、さりとて、非を認めて記事の訂正も謝罪もせず、第三者機関「NHK報道」委員会を作って、専門家や読者の意見を謙虚に聞くなどというお茶の濁し方で収めようとするならば、メディアとしての検証能力の無さを天下にさらけ出しながらただ開き直っているとしか思えません。

 いうまでもなく、メディアの持つ一つの重要な使命として国家権力側・為政者側の権力乱用チェックがあるわけです。もし、全て体制迎合的なメディアばかりだと、逆にとても危険なわけであり、ただしい報道姿勢でしっかりと裏付けを取って記事を興しているのならば朝日の1月12日の記事もそのねらいを私は肯定的に評価したでしょう。

 しかるに、十分な検証もせずこのようなおそまつな事後対応で自身の検証能力の無さをさらけ出し、事実検証を放棄したかのごとき報告でお茶を濁すとするならば、メディアの持つ尊い使命である為政者側の権力乱用チェックそのものの姿勢にまで、泥を塗ってしまいかねないことになります。

 朝日新聞の真の大罪はそこにあります。



「ウェブばとる(10)虚報対決2」コメント欄より
http://www.janjan.jp/link/0507/0507250004/1.php

 まあ、これはエールを込めての朝日に対する木走個人の今の考え方であります。当ブログの読者のみなさまにはいろいろなご意見があると思われますし、当然ですがご意見には謙虚にかつ真摯に耳を傾けていきたいと思っております。

 これからも読者の皆様と共に熱い8月にアツク議論して参りたいのでした。



(木走まさみず)



<関連テキスト>
●マスメディアの無能と憂鬱〜朝日のNHK番組改変問題報告の「傲慢不遜」
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050726/1122348060
●マスメディアの無能と憂鬱〜朝日は証拠として録音テープを提示せよ!
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050728/1122522706
●月刊現代スクープ記事を逆スクープする〜これは朝日の出来レースだ!
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050802/1122961309